集合場所へと向かう足取りは、坂道を前にしてもなお軽やかだった。
タイチさんとニュアージュさんに話をした翌日。昨日にもマサクル団と遭遇した当時のことを余すことなく全てを伝えたアタシは、連中と対峙したアタシを労うように二人からお礼を言われ、その日は解散となった。
それからアタシは、労わりでニュアージュさんから、オウロウビレッジで使えるお食事券を頂いた。それで美味しいものを食べてくださいとのことだったので、アタシはそれを片手に村の中をウロウロしていたその時にも、”あの彼”に声を掛けられて、そこでとある約束をしたのだった。
人やポケモンの足跡が刻まれた、出入りがうかがえるその山道。険しくもなく、かと言って息切れはするちょうどいい運動になるそれを上っていくと、次第と開けてきたこの視界と、朝早くという時刻であることから気配が少ない広大なグラウンドの光景が、アタシの前に現れる。
射し込む朝日がとても気持ち良かった。生い茂る森林の天井に日光がチラチラとしていると、この時にも初めて訪れた、試練の地とは思えないほどの豊かな自然に溢れたオンタケ山のとある区域。ここは、オウロウビレッジからそれほど遠くない位置にある、ジムチャレンジに勤しむポケモントレーナー達が気楽に踏み入れることができる、安全地帯として区分けされた運動場だ。
抱えたラルトスも、食い意地を張るかのように新鮮な空気を食べるように吸っていた。それに対してアタシはよしよしと頭を撫でながら歩いていくと、今も白熱とした勝負を繰り広げる二人のポケモントレーナーが、そこでポケモン勝負を行っていたのだ。
「インテレオン、みずのはどう。そこから、ねらいうち!」
「カナタ!! それを読んでいたぜーーー!!! シビルドン!! アクロバットの機動力で、ワイルドボルト!!!」
昨日にも見た、賢そうなカメレオンのようなポケモン。カナタさんの手持ちであり相棒でもあるというクールな佇まいのそれが、繰り出したみずのはどうへと指を向けていくと、その指先から、弾丸の如く発出された鋭い一直線。
自身が生成したみずのはどうにそれを通していくと、瞬間、みずのはどうをくぐった水の弾丸はより加速し、さらには、みずのはどうもその輪っかを拡大させていくと、そこに生じていた技エネルギーが水の弾丸へと集束する様子を見せていき、弾丸がさらなる急加速でクルミ君の相棒へと飛んでいくのだ。
一方、クルミ君のポケモンもまた、オレの相棒なんだー!! という声が脳裏に響く、なんだか聞き覚えのある名前でそれへと呼び掛けていく。
シビルドン。ウナギのような魚の形に手を生やしたような、地面から離れるように宙を浮いている初見のポケモン。見た感じ、みずタイプとでんきタイプ……? そんなことを思いながらアタシは眺めていると、次の時にもシビルドンはアクロバットの身軽な動作で宙を泳ぎ、左右に反復する目に見えない速さで水の弾丸へと迫っていった。
その様子は、まるでこいのぼりのように空を優雅に泳いでいるようだった。中身は空洞なんじゃないかとも思わせる動きで水の弾丸を擦れ擦れで回避していくと、その一直線に沿うよう水の軌道を囲うようにぐるぐると高速で回転しながらシビルドンはインテレオンへと迫っていき、そして――
――爆発するような電気を身に纏ったシビルドン。ぐるぐると回りながら、まるでこの動作で摩擦を十分と身に付けたように瞬く間と身体を光らせ始めたそれは、インテレオンに回避の隙を与えることなく、自身ごと発出させることで相手へと突っ込んでいった渾身の一撃。
こうかはばつぐんだ。アクロバットというひこうタイプの技エネルギーをエンジンとした、鮮やかかつ力強いシビルドンの突撃。魚っぽい姿がまた宙を移動する際に有効に働くのだろうか、ワイルドボルトによって手痛い反動を受けながらも、その衝撃でクルミ君の前まで戻ってきたシビルドンが、宙に浮いたまま上半身を起こすように起き上がっていった。
……倒れたインテレオン。完全に戦闘不能である様子が目に見えており、審判をしていたグレン君が、「インテレオン、戦闘不能! クルミの勝ちだ!」と手を伸ばしていく。
カナタさんは、やり切ったという顔をしていた。これといって負けに悔いる様子ではないと共に、相手がクルミ君だっただけで、もう満足といった、とても清々しいものであったものだ。
……まぁ、アタシの存在に気が付くまでは。
「みんな、おはよ。すごい戦いだった。やっぱジムバッジいっぱい持ってると、バトルが迫力だね」
三人へと声を掛けていくアタシ。周囲にも四名ほどといるポケモントレーナーとポケモン達を通り過ぎながら掛けたその言葉に、クルミ君はシビルドンを撫でながらこちらを見遣ってくるのだ。
「ヒイローーー!!! おっはーー!! これからオレとグレンが試合すっけど、ヒイロも最後まで見ていけよーー!!! グレンもカナタみたいに、めっちゃ強いんだぜ!!!」
「おいクルミ、ハードルを上げるな。オレはバッジ五個で、六個持ってるクルミとカナタほどでもねェんだよ。もっと気楽にバトルをやらせてくれ」
「んだよーー!! グレンだってオレらとほぼ同じくらい強ぇじゃん!!! オレがポケモンバトルを始めたのも、グレンの誘いがあったからだし!? ま! ヒイロもいるんだし、バッジの数とか関係無しにバトルを楽しもうぜ!!!」
「ったく……。おら、さっさと始めるぞ。カナタ、審判を頼む」
「いちいち言わなくても、クルミのために審判するから余計なお世話」
「あぁ、話が早くて助かるぜ。――ヒイロ。お前さんは細かいことなんか気にしねェで、俺達のバトルをただ眺めているだけでいい。まだポケモントレーナーになったっつーばかりなら、分からねェことも多いだろ。審判とかルールとかは俺らに任せっきりでいいから、お前さんは目の前のバトルから吸収できるもんは吸収しておけ。いいな」
わぁ、めっちゃ気遣ってくれる。グレン君のそれに「うん、分かった。ありがと」と返事してアタシはラルトスと一緒にポケモンバトルを観戦することにした。
――クルミ君とグレン君の戦いも、中々に白熱としたぶつかり合いだったものだ。
クルミ君はでんきタイプのポケモンを扱うことに長けているようで、グレン君はいわタイプのポケモンを専門とする、お互いにこだわり抜いたメンバーの選出。二対二で行われたその練習試合も、クルミ君は先発にライボルトという稲妻の化身のようなポケモンを繰り出していき、グレン君はルガルガンという夕日のような毛並みを持つポケモンを選出して、激しい攻防が繰り広げられていった。
この戦いの結果は、ライボルトがルガルガンを制する形で終わりを告げる。ルガルガンはオオカミポケモンというだけあって、見た目通りの速さと賢さで最初こそはライボルトを押していたものだ。だが、不利を背負いながらも常にかみなりを張り巡らせておく立ち回りが功を奏し、自身に突撃してきたルガルガンに対して、ライボルトはひらいしんという特性を持つことを利用して、張り巡らせていたかみなりを即座に自分へと誘導して落としていくという戦法でルガルガンを返り討ちにしてしまったのだ。
これにはクルミ君も、「っしゃーーー!!! 昨日これずっと考えてたんだよね!! これならニュアージュの素早いマニューラを倒せるんじゃないかなって!!!」と、自身の作戦が上手くいったことに大満足な様子だった。
……てか、クルミ君、バッジ六個持ってるだけあって、ああ見えてけっこう考えているんだ。そこに驚いてしまったアタシが呆然としている間にも、ライボルトとルガルガンを引っ込めていく双方。続けて繰り出されたのは、エレキブルという縞模様が目立つ厳ついポケモンと、セキタンザンという山ほどの石炭を乗せた二足歩行のポケモンの二匹。
と、グレン君のセキタンザンを見たクルミ君は、「え!!! グレン、ガチじゃん!? 相棒で来るんなら、オレもシビルドン出したかった!!!」と驚いた様子だった。それに対してグレン君も「戦う前に、手の内を晒すヤツなんかいねェよ! っつーか、シビルドンを休ませてやれ!」とツッコミを入れていくものの、そうした二人のやり取りも、なんか微笑ましく思えてきてアタシはついつい楽しんでしまう。
二人の戦いに決着がついたのは、エレキブルを倒してライボルトを引き摺り出してきたセキタンザンの奮闘も虚しく、大量に積んであった石炭を周囲にぶち撒けながら地面に倒れ込んだセキタンザンの姿で、フィニッシュを迎えた。
クルミ君はいつもの調子に冷や汗を流しながら、「あっぶねーーー……!!! グレンのセキタンザン、ホントおっかないんだよなー!!」と余裕が無いことを全面的に出していくのだが、グレン君はどことなく悔しそうにしながら、「やっぱ、クルミには敵わねェか」と、やり切れない思いを醸し出しながら頭を掻いたりしていた。
……すごかったな。ジムバッジをたくさん持っている人達のバトルなんて、今まで興味も無かったから見てこなかったものだけど……。
アタシは、自分が直面している目の前のことしか見えていなかったことを自覚する。だからこそ、こうして強い人達のプレイングだとかをビデオで見たりしていなかったため、これまで目にしたことが無いような、圧巻のバトルを生で目撃したことで、アタシはこういうのも必要なんだと自分に足りないものに気付けたような気がした。
そして、こんなにも強いクルミ君が、今はオウロウビレッジのジムリーダー、ニュアージュさんに三回も負けているのだ。
七個目のジムバッジをかけた戦い。そこにはジムリーダーからの情けや容赦は一切無いようであり、これほどまでの実力を持ったクルミ君やグレン君、カナタさんであっても、現在進行形で、ジムリーダーに苦戦を強いられているということを知る。
「……アタシも、頑張らないと」
ラルトスをぎゅっと抱きしめていくアタシ。
――ジムチャレンジは、これから更なる熾烈を極めていく。目の当たりにした熱気と現実にアタシはじっとしていられなくなって、今すぐにでもユノさんやランヴェールさんともポケモンバトルをしたいなんて思いも強くなってくると同時に、気がつけば自分から、「アタシも、ポケモンバトルしたい!」とか言い出しながら三人の下へと駆け寄ってしまっていたものだ。