自転車のカゴに入って一緒に揺られていたラルトスが、アッチ、アッチと手を伸ばして一軒の建物を指していく。看板にはパフェと書いてあり、それを確認したアタシはラルトスに「おっけー!」と言ってから、自転車を一気に飛ばして颯爽と道を駆け抜けた。
ジョウダシティを中心にあちこちへと伸びる道路、ジョウダ道路。実家のポケモン研究所を出発してから数日と経過したこの道のりは、寄り道がほとんどで思ったようにジョウダシティ付近から離れられずにいたものだ。
旅をしてみると、意外と楽しかった。あらゆるものから解放された気分となり、アタシは旅というよりは、旅行を経験しているような感覚で周辺をうろうろと巡っていたものだ。
元々の目的としては、このシナノ地方の各地に眠る、未だ見ぬ『どうぐ』を求めた冒険だ。その目的の趣旨自体からは決して外れてはおらず、今まで行かなかったような場所やお店に立ち寄って、いろんなポケモンの『どうぐ』をラルトスと共に眺めてきた。
けれど、どれもイマイチ、ピンと来ない。もっとこう、『どうぐ』をコレクションしていたアタシの、欲しい! と欲求に訴え掛けてくるようなロマン溢れし代物と巡り会うための旅なのだ。さすがにこんな近場じゃあ、新鮮味も無いというもの。
立ち寄った建物は、旅人の休憩所とも言える、憩いの場。この世界で言うサービスエリアのようなものだろう。そこではポケモンの乳を使ったパフェが名物らしく、アタシはその甘い響きにつられてラルトスと二人で食べることにした。
一つのパフェを二人で分け合っていく。ラルトスにはスプーンですくったパフェを与えていたものだが、ラルトスは意外と食いしん坊で、パフェにそのまま顔を突っ込み始めて食べ始めた。
マジかよ。思いもよらない行動に呆気に取られたアタシだったが、そんなことで意識が外へと向いたことから、先ほどから正面でポケモンの技と技をぶつけ合っている落ち着かない光景へと見遣った。
ポケモンバトル。トレーナーズスクールで学んだことだが、やはりポケモンバトルというのは、トレーナーのお互いのポケモンをぶつけ合うことで勝敗を決める、決闘、という認識で間違ってはいなかった。
ただし、決闘というには少々と語弊を招く。もっと適切な言葉に置き換えるとしたら、これはポケモントレーナー同士によるコミュニケーション、と言えるだろう。
今までは、可愛がっているペットをどうして傷付けるようなことをするのだろうと、そんなことばかり思っていた。しかし、スクールで実践もあり、アタシもポケモンバトルというものを肌身で感じてきた。
言ってしまえば、楽しかった。ポケモンを戦いのための道具として使っている、という認識は間違っていたのだ。
この楽しかったという言葉の意味はもちろん、競い合うことで勝利を目指すような、闘争の根本的な部分にもあるかもしれない。けれど、ポケモンバトルの本質はここに非ず。この行いによって誰が一番喜んでいるのかと言うと、それは、戦っているポケモン本人であることが分かったのだ。
ポケモンバトルで動き回るポケモンは、すごく活き活きとしていて、とても楽しそうだった。アタシが使った、ピカチュウというポケモンは、解放感とも例えられる清々しいほどの走りっぷりでフィールドを駆け回り、こちらが技を指示すると、ピカチュウはそれに応えた鳴き声と共に、全てを解き放つかのような力いっぱいの10まんボルトを相手に浴びせていった。
攻撃を食らった相手は、ヒトカゲというポケモンだった。そのヒトカゲも、痛みなど意に介さず真剣な眼差しでピカチュウを捉えて、反撃のひのこを食らわせてきたのだ。
そのやり取りからアタシが感じ取れたものは、ポケモンという生物は、元々からこうして戦うことを想定されたつくりなんだろうな、ということだった。個体によっては、名誉のため、プライドのため、などなど色々あるのかもしれない。それらを含めて、ポケモンには戦いを好む習性が根付いていて、それによってポケモン同士もまた、時には力試しのため、時には友情のため、そして、時には食うか食われるかの命懸けの生存競争のために、自ら戦いを望むのだろう。
今、目の前で繰り広げられているポケモンバトルも、アタシが体験したそれと全く同じものだった。男の子二人が競い合っていて、それぞれ、あれはフシギダネ、それと、あっちは……子ザルのような炎のポケモンを従わせている。
見るからに、この時期ポケモントレーナーになった新米同士といった感じ。アタシが出発する前日に相棒を受け取った子達なんだろうなと、微笑ましさも感じられてアタシはついつい食い入るようにその光景を眺めていた。
……ちょい、ちょい。袖が引っ張られる。振り向くと、ラルトスがアタシのことをじっと見つめていた。
口にパフェをいっぱい付けて、アタシが他のポケモンを見ていたことを気にしている様子。気持ちは分かるよ、ラルトス。
「分かってるよ。アタシにとっては、あなたが一番なんだから」
わしゃわしゃーっと髪のような緑色の頭部を撫でていく。するとラルトスはじっとして、アタシに撫でられ続けるのだ。
ポケモンのことはまだまだ怖いと感じる場面が多いけれど、この子がついていてくれるだけで、見える世界がだいぶ変わった。ラルトスとしてもアタシなんかについてきて、このポケモントレーナーらしからぬ動機で旅立つアタシの相棒になってくれた。
……ポケモントレーナーらしからぬ、か。そう言えば、ラルトスって戦えるのかな。
「ラルトス。あとであなたの覚えている技を確認させてよ。パパが見てくれた感じだと、テレポートってやつは使えるもんね。あとはよく分かんないし、この際だからあなたのことをもっと教えてよ」
と、アタシがそんなことを言ってる間にも、ラルトスは空っぽになったパフェの入れ物をアタシに渡して期待の眼差しを向けていた。
紅の瞳を、キラキラと輝かせている。
……あー、はい。りょうかい。おかわりね。どうやらアタシのラルトスは、戦うことよりも食べることが好きらしい。こういった点も、他と違って生まれてきてしまったアタシと通じ合えた共通点、とも言うべきか――