ポケモンと私   作:祐。

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明後日に向けて

 エントリーが完了した。明後日にも控えたジム戦に、アタシは気分の昂りを覚えながらも、オウロウビレッジジムの受付のお姉さんに一礼してから、そのまま走って外に出て行く。

 

 ジムに挑むことが決まった以上、じっとしてなんかいられない! ジムの自動ドアを越えると視界に入り込んでくる朝日を浴びながら、アタシは抱えたラルトスとロコンに「早くユノさんとランヴェールさんのとこに行って、さっそく練習相手になってもらわなきゃね!」と声を掛けながら坂を下っていくのだ。

 

 昨日にも、新メンバーとして加わった新たな仲間の、アローラロコン。タイプはこおり単タイプという、凍てつく冷気を操る能力を得意としながらも、相性では打たれ弱い一面が目立つことから上級者向けとして、トレーナーズスクールでは所有することをあまり推奨されなかったその属性。

 でも、ニュアージュさんもまた、その上級者向けのタイプでジムリーダーへとのし上がった実力者なのだ。であって、人間にそのような偉業を成し遂げられる以上、同じ人間であるアタシにもこおりタイプを上手く扱える可能性が十分にある! と、アタシにしてはやけにポジティブな思考を持ちながらも試しにロコンを戦わせてみた昨日の試合。

 

 相手もまた、ジムチャレンジに臨む若々しいポケモントレーナーだったからなのかどうなのか。その真相はよく分からないままに、ほんの軽い気持ちでロコンを戦わせたその試合において、相手のトレーナーも、指揮するアタシ自身も思わず驚くほどの光景が繰り広げられることとなった。

 

 なんと、三匹繰り出してきた相手の手持ち全てを、ロコンが一匹で倒してしまったのだ。

 相手もまた自信満々に勝負を挑んできたものだったから、少なからずのバッジ所有者であることも分かっていた状況での、ロコンの無双っぷり。ロコンは生まれた地に恵まれなかったとニュアージュさんは言っていたものだったが、その環境がロコンの力強さを生んだのか、はたまた生まれながらにしての才を持っていたのだろうか。特性のゆきふらしから繰り出していくふぶきが特に猛威を振るい、アローラロコンという珍しさもあってか練習場ではみんながロコンに注目するという現象にまで発展していく。

 

 他にも覚えているわざが実に豊富であり、まず、みずタイプの弱点を突くことができるという特殊な効果を持つ攻撃技の、フリーズドライ。それから、フェアリータイプのわざの中でも特に強力かつ圧倒的な汎用性を誇る攻撃技の、ムーンフォース。しかも、あられという天候の中で発揮するとされる、オーロラベールという防御寄りのわざも習得していたことから、相手を終始、圧倒していく試合展開。

 

 なんだか、覚えているわざの全てに隙が無いというか、まるでプロが育成したポケモンから生まれてきたのかとでも言うくらいの輝く才能を放つ、真白な期待の星。軽い気持ちで臨んだ練習試合で、所有するトレーナーさえも圧巻な試合を披露してくれたロコンの実力を知ることができたため、アタシはサイホーンとマホミルという主戦力に並ぶ、新たな戦闘員を迎え入れることができたと確信した。

 

 ただ、唯一の弱点として、ロコンはアタシの指示が無い限り自分から動かないという点を持っていた。アタシが指揮さえすれば、主様の期待を上回る活躍で相手を圧倒してくれるその活躍ぶり。だが、心に傷を負うに至った経緯が関係するのかどうか、ロコンはあまり自分に自信を持つことができないらしく、自分の意思で相手を攻撃しようとしたり、逆に相手の攻撃も自身の判断で避けようとしない辺りが、今後の課題となるのかもしれない。

 

 ロコンに最優先と取り掛かるべき事柄は、心のケアだろう。そのためにも、まずはアタシやパートナー達との輪に馴染むことで、自分にも自信を持ってもらう!

 

「ロコン! 今から、アタシの旅についてきてくれてる二人の大人達を紹介するからね! きっとロコンも大好きになっちゃう人達だから、存分に甘えちゃって!」

 

 ラルトスと一緒に抱えられたロコンが、尻尾を振ってご機嫌といった顔を見せていく。その顔を上げてアタシへとすんすん鼻を鳴らしていくと、今もアタシの顔を舐めようと舌を出してくるのだ。

 

 そんなロコンの頭を、ラルトスが撫でていく。……なんだなんだ、やけに可愛い絵面じゃんか。めっちゃスマートフォンで撮影したいなおい。まるで親バカのようなことを内心で呟きながら悶えていくアタシ。この間にも坂を下りていくことで、ユノさんとランヴェールさんの二人と待ち合わせしている場所へと直行していくと、次第と見えてきたオンタケ山のバトル用グラウンドで二人の姿が見えてくるなり、アタシは呼び掛けるように声を上げていった。

 

「ユノさーん!! ランヴェールさーん!! お待たせー! ジムの順番取れたから、アタシの特訓に付き合って――――」

 

 ドス黒い、破壊の限りを尽くした邪悪な波動。ゾロアークから繰り出されたナイトバーストが、今も相手をしているのだろうシビルドンに直撃すると、この瞬間にも確定した勝敗に相手が頭を抱えていく。

 

「やーーーー!!! 完敗だこれはーーー!! アッハッハッハ!! オレのシビルドンが何もできずに終わったよーーーっ!!! なんだなんだオマエ! スゲー強ぇじゃん!! え、ここにいるってことはやっぱ、オマエもジムチャレンジしてるチャレンジャーなんだよなーー!!?」

 

「いいえ。私は単なる付き添いで、ここにいるだけなの。――それにしても貴方、希有な頭脳の持ち主ね。一手一手に掛かる相手への負担が凄まじく重圧で、こんなにも力強いプレイングを見せてくれるトレーナーさんは滅多にいない。私も時折、この試合で敗北を覚悟したくらいの力業……。その真正面から当たっていく姿勢と意気込みが織り成す怒涛の攻めは、貴方にしかない強烈な武器なのかもしれないわね。私としても、とてもいい経験になった。相手をしてくれてありがとね」

 

「おお!!! おぉーー!!! オマエも、オレの相手をしてくれてありがとなー!!! ニッシシシ! シビルドン!! こうもなりゃあオレ達、もっと腕を磨かないといけないな!!! なぁオマエ! また相手してくれよなーー!!!」

 

「えぇ、巡り会いがあれば歓迎するわ」

 

「巡り会いとかよくわかんねぇけど、またオレの方から勝負を挑みにくるから!!! じゃあなーー!!!」

 

 ……すごく見覚えのある男の子。

 遠目からでも分かるハツラツな様で、奥へと駆け出していくその背。バトルに負けたにも関わらずニッコニコなそれにアタシは「相変わらずだなぁー……」なんて思いながらユノさんへと近付いていくと、アタシの足音に勘付いた彼女が振り返ってくるのだ。

 

「おかえりなさい、ヒイロちゃん。ジムの方はどうだった?」

 

「バッチリ! 明後日に挑戦するから、アタシの練習相手にもなってよ。――もちろん、ランヴェールさんもね!!」

 

 アタシは、彼がいる方へと向いていった。

 ――人を惑わす、道化師のような喋り方。独特な言葉遣いを操りながら、危険な香りを匂わせてお近づきになってくるミステリアスなイケメンに、彼に話し掛けられたのだろう女性二人組は魅了されたような表情でぞっこんとなっている。

 

 ……お取込み中のようだった。

 ランヴェールさん、女の人が大好きだってよく言ってるけど、だからといって一緒に行動しているプリンセスを差し置いて周りの女を口説くのは、なんか、それってホントにアタシのナイトなんですかーーーー??? ってカンジ……。

 

 ムスッとするアタシ。そんなアタシに気が付いたランヴェールさんは、ウィンクを一つ投げ掛けるなり女性二人組と別れを告げてこちらへと歩み寄ってくる。

 

「これはこれは、我らが可憐なるプリンセスが、かの闘技場から帰還されていたとはね。ボクとしたことが、ヒイロちゃんをお迎えに上がらないばかりか、待ち合わせ場所であるここまでエスコートすることができなかった不手際も相まって、不覚に思うばかりなものさ」

 

「不覚って、それ道草食ってナンパしてた紳士が口にするセリフー? ま、いいけど。その分これから、アタシに付き合ってもらうから」

 

「おお! なんて熱烈なアプローチだ! 姫君からの命令であるならば、ボクは周囲の女神を諦めざるを得ないというものさ」

 

「ランヴェールさんの言ってること、よく分かんない。――ユノさん、見て! 昨日、仲間になったロコン! 可愛いでしょ! でも、実はめっちゃ強いんだから! だから、さっそく相手になって! ランヴェールさん、審判お願いね!」

 

 そう言って、アタシはさっさとトレーナーの立ち位置へと走り出していった。そんなこちらの背を見ながら「おっけー、ヒイロちゃん。私が、貴女達の新しいコンビネーションを見てあげる」と言いながら、腹部辺りで軽く腕を組んだクールな足取りで立ち位置へと歩き出していく。

 

 ……その間にも、近くにいたランヴェールさんと目が合うなり、彼の押さえられた中折れハットから覗く瞳に表情を渋らせる、なんだか複雑な雰囲気を醸し出していたものだ――

 

 

 

 

 

 ……気分が休まらない。まさか、アタシがこの日のトップバッターだったなんて。

 多くのチャレンジャーが熱気を放つ、オウロウビレッジジムの控え室。未だ整備中であるスタジアムの様子をテレビの中継で眺めるアタシが不安そうにしていると、抱えていたラルトスがアタシへと向いてきて、ニコッと笑みを見せてきてくれるのだ。

 

 ありがと、ラルトス。アタシはラルトスの頭を撫でていく。

 そして、名簿を持ったスタッフからアタシの名前が呼び掛かった。「チャレンジャー、ヒイロ! こちらへ!」という男性スタッフさんの下へアタシは歩き出していって、この足を、一歩、また一歩へと決闘の地へと運んでいく。

 

 ……心なしか、スタジアムに続く一本道はひんやりとした空気に包まれている気がした。

 これも、ニュアージュさんから掛かるプレッシャーなのかどうか。何せ、今回から使用ポケモンが三体となるため、今までのような短期決戦とはならない、一味違うジム戦が今にも始まろうとしていたものだったから――

 

「――落ち着け、アタシ。今回は、ミツハニーとロコンの二人が仲間になってくれた。ミツハニーはボールの中で応援してくれているし、ロコンだって、やる気は十分。サイホーンとマホミルのコンディションもばっちり。……うしっ」

 

 フッ、と息を吐いていくアタシ。これで四回目ともなるこの足取りに若干と緊張を交えながらも、両肩を上げるように気合いを入れたアタシは、次第とこの視界に入ってきた朝日の照明で前方を照らしていき、スタジアムへの一歩を今、踏み出していったのだ――

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