ポケモンと私   作:祐。

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ジムチャレンジ オウロウビレッジ

 早朝の時刻に響かせる、観客席から賑わう多くの声達。この日のチャレンジャーとして多くの注目選手達が集っていたという宣伝効果も相まった今日のオウロウビレッジジムは、現地を中継で見守るオーディエンス達をも期待させる最高の熱気を醸し出していた。

 

 だからこそ、この二人は自身らの仕事により一層もの気合いと期待を込めていくのだ。

 いつもの足取りで実況と解説席に腰を落ち着けるメガネの男性二人組。マイクをつける前にも軽い談笑なんかを交わしていき、彼らのマネージャーであるストライクが、鎌のような手で器用に今日の資料や台本となる紙を渡していくその光景。

 

 それから二人は咳払い。喉の調子を確信し、互いにこの日の準備が万端であることを交わした目線で、共にマイク付きのヘッドセットを装着していくのだ。

 

「あー、あー。聞こえますでしょうか、聞こえますでしょうか。マイク、テス、マイク、テス、ラランテス。――おっけーですね! はいどうも皆さん、おはようございまーす!!  こんな朝早くからも、窓越しから伝わってくるムンムンとした熱気。いいですねー! 皆さんも早起きをしたり、中には興奮で眠れない夜をお過ごしになった方もいらっしゃるとは思われます。えー、今日は特に期待度の高いチャレンジャーがですね、ドッと押し寄せる形で午前中に集中しておられるスケジュールでございますがね、今日はその、我々としても個人個人で注目をしているチャレンジャーが数名と午前中に詰め込まれているものですから、この気持ちは、中継も通してお集まりになった方々とほぼ同じ、と言ってもいんじゃないでしょうか。ね、サカシロさん」

 

「そうですねー。こう、だからと言って別にひいきをしているというわけではありませんし、もちろん、我々も全てのチャレンジャーの名前と見た目を、できる限りに記憶をして実況と解説をしていたりもしますから、決して、話題には上がらなかった他のチャレンジャーを蔑ろにしているというわけではございません。ただ! やはりその中でも、なにか輝くものを放つ存在であったり、特徴的な戦闘や外見をしている人やポケモンなんかですと、我々という試合を眺める側の人間としても強い衝撃を受けたりして、記憶に残ったりするもんです。で、ですね。今回も皆さんには、推し、とも言えるチャレンジャーがいらっしゃったりするかと思われますが、我々、実況解説の席から見た推しの面々も数名と、この午前の部にいたりして、こう、気持ちが昂っているというわけですね」

 

「えー、サカシロさんの言う通りでございまして、我々もね、こちらの席で多くの試合の行方を見守ってきた経験がございますから。やはり、その中でも特に面白い場面であったり、笑いあり、涙ありの感動的な場面であったりと、様々なドラマをこの目に焼き付けてきたということですねー、はい。――おっと、スタジアムの整備の方はだいぶ準備が整ったようでございますね! こう、オウロウビレッジジムは、ジムリーダーのニュアージュ様がこおりタイプを扱うというだけあってか、きもーち肌が冷えてくる感覚がありますが、皆さんもね、羽織る物を持ってきているのであれば、寒さを我慢せずに温かくしていってくださいね。これからにも試合が始まれば皆さんの熱気でだいぶ気温が高まるとは思いますけどね! だからと言って、寒さやお手洗いの方を我慢してはいけませんからね!! はい! というわけで、チャレンジャーとジムリーダー両方の入場口から人影が見えて参りました!! 大変長らくお待たせいたしました!! ただいまを持って、ジムチャレンジ、オウロウビレッジジムの午前の部を開始にしたいと思います!!! 皆さん、今日も張り切って参りましょーーーーー!!!!!」

 

「よろしくお願いしまーす!!」

 

 

 

 

 

 ボールにしまったラルトスも、アタシ達のことを応援してくれている。

 次第と強くなる胸の鼓動。慣れたようで、やっぱり慣れていない、スタジアムから降りかかる重圧なプレッシャー。

 

 しかも、今日は特に人が多かった。なぜかは分からないし、そんなことを実況解説の席でも話していたように感じられていたものだけれど、アタシはそれさえも聞き取れないほどに緊張してしまっていて、前へと進める足も、どこか覚束なかったりしたものだ……。

 

 と、緊張に支配されて表情が強張っていただろうアタシの前から、同じようにスタジアムの中央を目指して優雅に歩く、一人の淑女の姿。

 ……今日も、その高貴なドレスが似合っているな。ついこの前にも個人で会話を交わしたニュアージュさんと目が合うと、その時にも柔らかく微笑んできた、ニュアージュさんの和やかなご尊顔。

 

 あ、可愛い。同性に抱く感情としてはあまりにもピュアなものだったから、これによって緊張という緊張が洗い流されていったアタシは、すぐにも開始となるジム戦に対する気持ちとは思えないほどの軽やかな足取りで彼女の前まで移動していった。

 

 そして、スタジアムの中央で向き合うアタシとニュアージュさん。その脇から審判が旗を持ちながら歩いてくるこの間にも、ニュアージュさんは、添えるように両手を前にやっているおしとやかな調子でそれを口にしてくるのだ。

 

「おはようございますー。今日も快晴で、絶好のジムチャレンジ日和でございますねー。今日も午前の部から多くのチャレンジャーをお相手する予定でございますが、わたくしとしましては、今にもわざを交わし合うヒイロ様との対戦を、心から待ち遠しく思っておりましたー。……とは言いましても、ヒイロ様だけを特別扱いしているというわけではなくてですね。――わたくしの家族達を生還へと導いてくださったその采配を、この目で拝見したくこの時を待ち遠しく思っていたものでございますから。ウフフフフ……」

 

 美麗な顔から零れてくる、笑っていないその瞳。

 ……今、目の前にいるニュアージュさんは、ついこの間にもあの一軒家で出会ったような彼女ではない。

 

 ニュアージュさんはすでに、ジムリーダーとしての気持ちでこの場に臨んできている。

 私情に染まり切らず、シナノ地方の伝統を継ぐ者としての自覚を持ってチャレンジャーと向き合う、ジムリーダーのニュアージュさん。掛けられた言葉にもプレッシャーとして圧し掛かるような重みを感じられたことから、アタシは振り払われたはずだった緊張の念を、再び抱え込むこととなった。

 

 そして、審判から握手を促された。アタシはそれに従ってニュアージュさんと握手を交わしていくと、次に自身の立ち位置へと向かうよう指示されて、アタシとニュアージュさんは背を向けてそのポジションへと歩いていく。

 

 ……レミトリさんの時にも、テュリプさんの時にだって感じられた、こうして自身の立ち位置へと向かっていく時の、もう、今すぐにもでもジムバトルが始まるんだという、身体の内側からビリビリと流れ出す痛み。

 でも、だからと言ってアタシは勝ちを譲るつもりは毛頭ない。負けようだなんて一切と思わないし、勝つためであれば、お嬢様であるニュアージュさんだって、ぶっ潰す意気込みでこの試合に臨んでいく……!!

 

 立ち位置で振り返ると、ニュアージュさんと目が合った。

 そして、それと共に審判が、いつものように試合前のルールを詠唱していくのだ。

 

「ルールは三体選出のシングルバトル! ただし事情がある場合、一匹のみ又は二匹のみの選出も可能とする! キズぐすりといったどうぐの使用は不可。使用が認められた場合、使用者を失格と見なす! ポケモンにどうぐを持たせることも不可とする。こちらも発覚した場合には失格と見なすが、事情がある場合のみ持ち込み可能とする! なお、ポケモンの交代は各選手につき一度のみ可能とする! ——では、両者、モンスターボールを!!」

 

 審判が厳ついその声を上げていくと、アタシはバッグからモンスターボールを、ニュアージュさんはどこからともなくモンスターボールを取り出していく。

 

「構え!!」

 

 審判の手に持つ旗が前に掲げられる。これを合図としてアタシとニュアージュさんはいつでもモンスターボールを投げられるようにして、次の合図を待ち続けていく。

 

「両者、ポケモンを!!」

 

 天へと振り上げられた、審判の旗。朝方の快晴を指していくそれと共にして、アタシとニュアージュさんは漲る闘志のままにモンスターボールを投げつけていくのだ。

 

「先手はお願いね!! マホミル!!」

 

「冷静に参りましょう。フリージオ!」

 

 モンスターボールから飛び出してくる二つの存在。アタシのボールから出てきたマホミルは、いつものやる気に満ちた表情に加えての、周囲のオーディエンスが非常に多い今回の環境にさらなる気合いが出てきたのか、液状には強気の顔を浮かべてその場をぐるぐると回っていく。

 

 一方、ニュアージュさんから繰り出されたポケモンは、ふわっと浮くなりこちらを静かに眺めてくる。

 人の顔みたいな模様をした、雪の結晶とも見て取れる不思議なポケモン。例年通りに降ってくる雪でよく見るそれを、そのまま巨大化させたかのような。それでいて、人の顔のような表面に一種の恐怖さえも少し感じられたアタシは、しかし気後れしてられないと冷静さを保ちながらそれと向き合っていく。

 

 向かい合うマホミルとフリージオ。二人のポケモンが場に出たことを確認すると、審判は試合開始を合図すると共にして、オウロウビレッジジムでの戦いの火蓋が切られた。

 

「これより、オウロウビレッジのジムバトルを開始する!! 互いに能力を発揮し合い、正々堂々のバトルを行うように!! ——では、ジムバトル……始めェ!!!!」

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