ポケモンと私   作:祐。

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VSジムリーダー・ニュアージュ その3

「グレイシアのひんしを確認!! グレイシア、戦闘不能!!」

 

 審判の判断によって、アタシはリーチをかけることができた。

 これには思わずと、アタシは喜びのままにロコンの下へと駆け出してしまった。ロコンはロコンで、褒めて褒めてという物欲しそうな顔をしながら、尻尾を振ってアタシへと振り向いてくる。

 

 だから、アタシはロコンを抱き上げてめちゃくちゃ褒めてあげた!

 

「すごいよロコン!!! あぁぁあ、本当にありがと!!! よくやったね!! よしよしよしよし!!!」

 

 情熱的に撫でまくるアタシのそれに、ロコンはものすごく大喜びでこちらの顔をベロベロと舐めてきた。

 うぉ、でろでろ……。中継が繋がっているカメラにしっかりと収められたアタシのでろでろな顔は、たぶん今もシナノ地方全域に放映されているのかもしれない。

 

 そんなアタシらの様子とは裏腹に、ニュアージュさんは壁まで歩いていってグレイシアを慰めるように撫でていってから、ふぶきによってボロボロになった身体をモンスターボールに収めてあげ、アタシへと向き直ってくる。

 

 そして、自身の立ち位置へと戻る足取りの最中に、ニュアージュさんはアタシへとその言葉を掛けてきたのだ。

 

「お見事でございます。こちらのグレイシアを突破されることは滅多にございませんので、わたくし自身、今は驚きに満ち溢れておりますし、何よりも、こおりタイプのポケモンの実力をこれほどまでに引き出すことができるヒイロ様の、トレーナーとしての素質にわたくしは大変驚かされました。……もしや、実はご実家がこおりタイプのポケモンを調教していたりしますー?」

 

「ん、いやいや! んーでも、実家はポケモン研究所だし、パパはジョウダシティのポケモン博士だから、まぁ……DNAかなんかで、ポケモンのことが何となく分かるのかな。たぶん」

 

「まぁ! ご実家はポケモン研究所! わたくしも何度かそちらに顔を出しに赴いたことがあるのですが、ジョウダポケモン研究所は研究員の皆さまがとても朗らかで、ちょっと堅苦しい雰囲気のある研究所とは思えないほどの、すごく親しみを持てる皆さんのお人柄に好感を持てていたんですー! なるほどですね」

 

 なにが、なるほどなんだろう。ニュアージュさんの独特なペースに、アタシは呑み込まれかけたものだ。

 だが、そんな話をしていると審判から、「チャレンジャー、ジムリーダー。両者、位置に戻って」と冷静に言われてしまったため、アタシとニュアージュさんは慌てて走り出して自身らの立ち位置へと急いでいく。

 

 と、その途中にもアタシは、ついでと言わんばかりに審判へ申告した。

 

「審判さん。アタシ、このままポケモン交代していい?」

 

「ポケモンの交代は、各選手につき一度のみ可能というルールがある。チャレンジャーはその権利を未使用であることが確認されているので、この試合におけるポケモンの交代は、チャレンジャーの自由なタイミングで行うことができる。――今ここで交代をすれば、チャレンジャーはこの試合における交代の権利を失うことになるが、それでもいいのか?」

 

「うん、大丈夫」

 

「では、手持ちのポケモンをモンスターボールにしまって、立ち位置に戻るように。なお、ジムチャレンジの公式ルールにも書いてあるが、今回の試合における使用ポケモンは合計で三体までであり、チャレンジャーはこれで合計三体目となるポケモンを出すことになる。その際の注意点として、次に繰り出すポケモンがひんしとなった場合、チャレンジャーはそのロコン以外となる、交代をした際に引っ込めたポケモン以外の、合計四体目にあたる新しいポケモンを繰り出した時点で、合計三体までというルールの違反に該当してしまうからな。これが確認されたら即失格となるため、厳重な注意を払うように」

 

「おっけー。……ロコン、ありがとね。次の出番に備えて、今は身体をゆっくり休めていってね」

 

 アタシはそう言ってモンスターボールをかざし、抱き抱えたロコンをボールに戻して立ち位置へと向かっていった。

 

 ――再び向き合った、ニュアージュさんとの対峙。つい先ほどまで他愛のない会話をしていたとは思えないほどの緊張感が巡ってくると、アタシはこの温度差に重苦しくさえ思えてきてしまえる。

 だが、ここでそう易々と負けるわけにはいかない。何せ、アタシが最初に勝利へのリーチをかけることができた上に、ロコンはまだまだ体力が十分有り余った状態でスタンバイしている。勝てる可能性が大いに見込めるこの場面だからこそ、アタシはそれに近付くべく気を引き締めて、ニュアージュさんの最後のポケモンへと臨んでいかなければ……!

 

 ……あと、アタシは勝利をより自分の物にするべく、ある思惑を以てしてポケモンの交代を行っていた。

 確かに、ロコンを休ませる目的としても、この交代には十分な効果があったかもしれない。だが、本質はそれと異なっていたことも事実だったし、これはれっきとした、戦術的な意味合いでの交代だったからこそ、アタシはこうして自分に自信を持つことができていたというもの。

 

 パラパラと振り続けるあられの天候。それでいて、現在も未だアタシの目の前で鮮やかに迸る、白色と赤緑色の綺麗なオーロラ……。

 オーロラベールは、ロコンがいなくなっても残り続けるわざだ。つまり、オーロラベールが残ってくれている限りは、もし弱点となる攻撃を受けたとしても、そのダメージを少し軽減させながら戦うことができる。

 

 だからこそ、この交代はすごく重要なことだった。

 アタシのサイホーンは、こおりタイプのポケモンの弱点を突くことができる。でもって、じめんタイプを有するサイホーンと、こおりタイプのポケモンという組み合わせは、互いに有利と不利を抱え込んだ、どちらが先に弱点を突いて倒すかの真っ向勝負となる相性でもあった。

 

 ニュアージュさんというこおりタイプのスペシャリスト相手に、真正面から殴り合っても勝機は薄い。むしろ、それが負けに繋がる可能性の方が大いにあり得る。そう考えたアタシは前日にも、ロコンのオーロラベールをサイホーンへと託す戦術を思い付いて、今に至るというわけだった。

 

 とは言っても、オーロラの防護壁があろうとも決して安心はできない。これは所謂、オーロラベールが消えるまでの勝負でもあったから。

 だから、この戦いをサイホーンで制する場合は、何としてでもオーロラベールの効果時間内で決着をつけないといけない――!!

 

「両者、ポケモンを!!」

 

 審判からの合図。残るは一体のみというニュアージュさんがモンスターボールを取り出していくと、アタシもまた握り締めたモンスターボールを構えいく。

 そして、ほぼ同じタイミングでそれらが投げつけられると、次にも互いのエースとなるポケモン達が、勝利への意気込みのままにスタジアムへと降り立つのだ――

 

「サイホーン!! お願いッ!!」

 

「わたくしと共に、最後の最後まで参りましょう! お願いいたします、ユキメノコ!」

 

 スタジアムに着地するなり、あられが降るフィールドに砂埃を巻き上げていくサイホーン。その紅の瞳が闘志を燃やして、目の前の相手を捉えていく。だが、サイホーンが向けた視線の先にて、あられと同化するようボウッと浮いていた一つの存在感がこちらを優雅に見遣っていた。

 

 白い振袖のような腕が頭部に生えた、雪女を想起させる人型に近しいニュアージュさんのポケモン。三体目として繰り出してきたユキメノコというそれは、女々しい笑みを見せてく可憐な様とは裏腹に、この世ならざる不可思議な魅力さえも感じられて、雪山であれにいざなわれてしまえば最後だろうとさえ思えてきてしまう。

 

 見るからに、こおりタイプとゴーストタイプの複合タイプ持ちだろうか。それに、浮いているから多分、特性はふゆう……?

 アタシは、またしても初めて見るポケモンに若干と気持ちで押されてしまいながらも、自分の直感を信じてこの場と向き合っていく。

 

 そして、勝利へとリーチをかけたアタシの、ニュアージュさん最後のポケモンとのバトルが開始となる。

 審判が振り上げた再開の合図。これと同時にしてアタシとニュアージュさんが指示を繰り出していくと、次にも展開されたのは、こおりタイプのエキスパートであるニュアージュさんの鮮やかな戦術であった。

 

「サイホーン!! ロックブラスト!!」

 

「ユキメノコ。ふぶきと、たたりめです。ヒイロ様はオーロラベールをサイホーンへと託して参りました。このままではわたくし達が不利でありますから、オーロラベールの効果時間が切れるまで、ヒイロ様達を惑わして時間を稼ぐといたしましょう」

 

 優雅なるユキメノコへと指示するニュアージュさんもまた、その主に相応しき高貴な余裕を以てして命令を下していくその様子。

 アタシのサイホーンが複数もの岩石をユキメノコへと飛ばしていく中で、ユキメノコは自身の足元から、上空へ向けてふぶきを放っていく。その威力はロコンのゆきふらしによるあられの天候で強化されており、突如として巻き起こった暴風雪の壁がユキメノコを覆うことでロックブラストを打ち消してしまうのだ。

 

 グレイシアの時にもされた、ふぶきの防護壁……! サイホーンのわざのレパートリーでは、あれを打ち破るのは至難の業とも言えるかもしれない……!

 さらに、そのふぶきに浮き上がり始めた、雪山に住み着いた亡霊の如き巨大な影。ユキメノコの振袖らしき両腕がふぶきに広まると、それはスタジアムを覆い被さるようにサイホーンへと襲い掛かってきたのだ。

 

「ドリルライナーの機動力で避けて!!」

 

「ユキメノコ、ウェザーボールで妨害してください」

 

 ニュアージュさんの指示と同時にして、たたりめの影が立体となって両手を合わせていく。

 そこから生成された、天候あられによって属性を変化させたこおりタイプの球体。巨大なたたりめの影から生み出されたという影響もあってか、ウェザーボールのそれもたたりめの影に見劣りしないほどの大きなエネルギー弾となって現れると、ドリルライナーの回転力を帯びたサイホーンへと発出するように放って攻撃を仕掛けてくるのだ。

 

 剛速球とも言えるその速度。サイホーンはそれを紙一重でなんとか避けていくのだが、こうしてウェザーボールに気を取られていた間にも、迫る影が両腕を振りかぶるなり、サイホーンを叩き潰そうと力強く振り下ろしてくる。

 陰りに染まるサイホーン。間に合わないと言わんばかりに顔を上げたサイホーンがたたりめに叩き潰されると、その衝撃が地鳴りとなってスタジアム全体を揺るがしてくるのだ。

 

「サイホーンっ!!」

 

 あれは、ただのゴーストタイプのわざじゃない。たたりめというゴーストタイプの技エネルギーを、ふぶきという水分を含んだ質量をまとうことで、実体となった影そのもので殴りに来ている超広範囲攻撃……!!

 オーロラベールをまとうサイホーンは、鮮やかな輝きに守られながらも衝撃で吹き飛ばされてしまい、フィールドの壁にぶつかって叩き付けられていく。それを目で追ったアタシが心配をかけていく間にも、ユキメノコの巨大な影の後ろでは、ニュアージュさんが氷のような冷徹な目を向けながらそれを口にしてきた。

 

「ヒイロ様。わたくしとしましては、わたくしの家族を救ってくださった御恩から、貴女様を勝たせたいお気持ちで胸がいっぱいなのでございます。しかし、わたくしには、わたくしの立場というものがございまして。――恩を仇で返すようで、たいへん心苦しくはありますが、わたくしは現在、本気でヒイロ様を負かすべくこの決闘に臨んでおります。……お覚悟は、よろしいですね?」

 

 差し伸べられる、ニュアージュさんの手。それと共にユキメノコがふぶきで自身をさらに巨大化させていくと、たたりめの影もまた更なる大きさへと膨れ上がっていって、両腕を掲げてからサイホーンめがけてそれを振り下ろしていく。

 

「ウェザーボール」

 

 広げられた影の両手に生成される、こおりタイプの球体。それが大量に現れると、弾幕となってサイホーンへと降り注がれる。

 アタシは、サイホーンにドリルライナーを命じてその場からの退避を指示していった。サイホーンもアタシの指示通りに、回転力で重戦車らしからぬ高速の移動で動き出していくのだが、降り注ぐウェザーボールを回避しながら突き進むその先に、振り下ろされた影の両手が襲い掛かる――

 

「ふぶきでサイホーンを閉じ込めてください」

 

 サイホーンの目の前で叩き付けられた、たたりめの影。この衝撃がまたしても地面を伝ってスタジアムを揺るがしていくと、その手からブワッと広がるように一気に拡散したふぶきの技エネルギーが、サイホーンの周囲を巡るように吹き荒れ始めていく。

 

 逃げられない……!!

 猛吹雪の渦に閉じ込められたサイホーン。アタシは「ロックブラストとすてみタックルで突破して!!」と指示していくのだが、そうして繰り出されたサイホーンのわざの数々は、ふぶきを打ち破ることすらもかなわない。

 

 オーロラベールの効果時間が無くなってしまう――!

 アタシは必死になっていた。「ロックブラストの技エネルギーをまといながら、ドリルライナー!!」というサイホーンが成せる限りの高威力をそのふぶきへとぶつけていくのだが、しかし、あられの天候で強力なエネルギーを有していたふぶきの層を突破することができず、このままでは何もできずにサイホーンがやられてしまうと危惧していた。

 

 そして、そんなアタシらに無慈悲な追撃を命令してくるニュアージュさん――

 

「どうやら、サイホーンに成す術が無いようですね。でしたら、ここで早期の決着をつけてしまいましょう。ユキメノコ、ウェザーボール」

 

 閉じ込められたサイホーンの上空に添えられる、たたりめの影。両手を広げるようにその闇のエネルギーがパッと開かれると、そこから生成されては、塊となってボトボトと落とされる大量のウェザーボールがサイホーンへと降りかかる。

 

 塊というにも大きすぎる、あまりにも強大な力を注がれた巨大な雪玉。それを一発食らっただけでもタダでは済まないだろうそれを、サイホーンを閉じ込めるふぶきの囲いを埋め尽くす量で放出してくる慈悲の無い攻撃。

 

「サイホーン!!! 抜け出して!!! あれに押し潰されたら、いくらあなたでも――!!!」

 

 アタシの悲痛な叫びは、巨大なウェザーボールが大地を打ち付ける音で掻き消されていく。

 ――まるで雪崩の如くドカドカと轟音を立てていく、ふぶきの囲いの中。音だけ聞けば、オンタケ山の一部で土砂崩れでも起きたんじゃないかとでも錯覚するほどの勢いと音に、アタシは自分の無力さをも痛感しながら、ただ、サイホーンのいた場所へと手を伸ばすことしかできずにいた。

 

 ……アタシのサイホーンには、周囲のポケモンを圧倒することができる程度のポテンシャルが秘められていると、自負できる。

 でも、アタシはそんなサイホーンのことを、上手く活かすことができていないとも思えていた。

 

 ごめんなさい、サイホーン。アタシが未熟なばかりに、あなたの力を上手く引き出すことができなくて――!!

 

「サイホーン…………っ」

 

 成す術が無かった。アタシは、巨大なウェザーボールで押し潰されたサイホーンの姿へと、手を伸ばすことしかできない。

 オーロラベールをまとったその身で受けた大ダメージ。弱点であるエネルギーを、大きな力で何度も何度も打ち付けられたその傷は、おそらく命に関わる致命傷ともなり得たかもしれない。

 

 ……だが、それでも雪玉を押し退けてモゾッと起き上がるその雄姿。

 ボロボロとなった身体で、何とか起き上がるサイホーン。今にも倒れてしまいそうな震える足でひんしじゃないことを審判にアピールしていき、大ダメージによる痛々しい表情を見せながらも、未だふぶきとたたりめによる巨大化したユキメノコへと向いていくのだ。

 

 でもって、その身体が鋼の色に光り出す。

 メタルバースト……!! 攻撃を食らうことを予期して、直前にも仕込んでおいたのだろう反撃の一撃。それを体内から放ち始めていくと、サイホーンは今ある限りの力を振り絞るように、暴風雪を身に纏うユキメノコへとそれを放出していったのだ。

 

 目に見えない速度。加えられたダメージでよりエネルギーが増した、回避不可能の鋼の彗星。

 それがユキメノコの暴風雪に直撃すると、その着弾点から一気に拡散するよう鋼が広がり始め、そして、甲高い金属の音と共に、弾けるように巨大化したユキメノコを散り散りに吹き飛ばしていく。

 

 やった…………!!! あの一撃を食らえば、ユキメノコは絶対に倒れる!

 確信と共に小さくガッツポーズをしたアタシ。絶望から一転とした僅かながらの希望の到来に、アタシは低迷した気分による表情を晴れやかとした――

 

 ――のだったが、その次にも見た光景によって、アタシは再度と絶望へと叩き落されることとなったのだ。

 

 メタルバーストによって、跡形も無く吹き飛んだふぶきの壁。鋼の色と共にスタジアムの中を舞う雪の白色が幻想的に降り注ぐ中、そこから優雅に舞い降りたユキメノコの姿……。

 あのメタルバーストが炸裂した部分は、あくまでユキメノコが纏っていただけのふぶきの層に過ぎなかったということか――!!!

 

「ユキメノコ、ふぶき」

 

 ニュアージュさんの冷酷な命令。伸ばされた彼女の手と共に、ユキメノコは自身の後方からすべてを呑み込むふぶきを生成して、サイホーンへと繰り出していく。

 アタシはサイホーンに、ドリルライナーでそれを突っ切るよう指示していった。だが、すでに身体がボロボロとなったサイホーンは、ドリルライナーを繰り出そうと一歩足を踏み込んだ時にもよろけてしまう。

 

 痛々しい顔を見せ、己の限界をアタシへと知らせてくるサイホーンの最後の姿。

 同時にして、サイホーンの身体を覆うオーロラベールが、効果時間を過ぎたことで消え失せていくその様子。

 

 あらゆる絶望を含んだ眼前の光景に、アタシは絶句した。

 ――塗り潰された目の前の白色と、粉のような白い粒が力強く打ち付けてくるこの衝撃。自身の全身でもそれをひしひしと受けながら、あの背を見遣るこの視界はふぶきによって満たされる。

 

 少しして、真白へと染まった猛吹雪の中に迸る、一つの眩い光。奥底に秘めし無限なるパワーさえも感じ取ることができたそれをふぶきの中で見出すと、これ以上もの攻撃は生死に関わるだろうという考えだろうか、ふぶきの威力を弱めてきたユキメノコのそれが薄れていくと共に明かされる大きなシルエット――

 

 ――サイホーンのいた場所には、縦に伸びた大きな背が存在していた。

 その体色もサイホーンと酷似しており、しかしトゲトゲであった全身の様子から一転、より頑丈な体格となった二足歩行という形で立ち上がる、様変わりしたその風貌……。

 

 いや、違う。様変わりとか、そんな次元の変化じゃない――!

 

「サイ、ホーン…………?」

 

 アタシは、おそるおそると訊ねるように声を掛けていった。

 

 前方では、驚きで口元を押さえていたニュアージュさんの姿。ユキメノコもまた意外そうな顔をして“それ”を見遣っていたものであり、アタシもまた、覗き込むように様子をうかがっていく。

 

 と、こちらの声に反応するように、“それ”は振り返るように顔を見せてきた。

 

「…………ッ」

 

 ……身体の構造の問題で、今まではこんなに早く振り向くことができなかったのに。

 成長したね。母性本能なのかどうか分からないけれど、ようやくと追い付いた理解とリンクするように“それ”の頼れる背中を見るなり、アタシはボロボロと涙を零しながらその言葉を口にしていったのだ。

 

「……なにさ、急にもっとたくましくなっちゃって。こんな大事な場面でさ、『もうダメだ』ってアタシの気持ちを裏切るような形で進化なんかしちゃって……っ!!! ――おめでとう。これからは、あなたのことを『サイドン』って呼ばなきゃね……!!!」

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