ポケモンと私   作:祐。

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VSジムリーダー・ニュアージュ その4

 二足歩行という立ち上がった姿で、よりたくましく佇む一つの大きな背中。四足であった時の見下ろしていたアタシの視線は、見上げるように“それ”の顔を眺めていく。

 

 サイホーンの進化系である、『サイドン』。ユキメノコのふぶきに呑み込まれたことで進化を果たしたアタシのエースは、こちらに振り返るクールな様相を再びとユキメノコへと向けていき、二足の足で姿勢を低くするような構えで戦闘態勢へと移っていくのだ。

 

 突如の進化によって、スタジアム中がざわつく事態となったこの現象。実況と解説も大いに盛り上がる驚愕と歓喜の音声がガンガンと響いており、これには審判もサイドンにばかり注目してしまって注目の的となるその雄姿。

 

 だが、状況で言えば現在もまさに試合の途中であり、戦闘中の進化も多くはないにしても珍しいことではないだろう。

 とは言え、絶望的な状況からの進化というドラマ性が、少なからずの心を揺さぶったとも言えるのかもしれない。この時にもサイドンへと投げ掛けられた熱狂的な声援がスタジアムに響き渡りはじめ、会場のボルテージも最高潮へと昂った勢いのままに、アタシらは快進撃へと乗り出していく――!!

 

「サイドン!! ロックブラスト!!」

 

 今、アタシとサイドンには会場のみんながついていてくれている。

 この背を押す、団結したサイドンコールの声援と共に指示したそのわざで、サイドンは手元に生成したロックブラストの岩石を投げつけるべく振りかぶっていくのだ。

 

 だが、ニュアージュさんも会場の熱意に圧倒されない。観戦する多くの者達から放たれる熱狂的な興奮が、こおりタイプさえも溶かすんじゃないかという勢いでガンガンと響き渡るこの空間にて、ニュアージュさんは冷静さを保ちながらユキメノコへと命令を下す。

 

「ユキメノコ! ふぶきでサイドンのロックブラストを相殺なさってください!」

 

 ユキメノコの背後から押し寄せる巨大な寒波。暴風雪が束となってサイドンへと襲い掛かるが、これを前にしても一向に怯まないサイドンは、生成した岩石をサイドスローのように投げつけることでロックブラストを繰り出していったのだ。

 

 しかも、速い――!! サイホーンの時のロックブラストとは桁違いとなる速度から放たれた、剛速球の一撃。それはふぶきがユキメノコを覆う前にも本体に到達する勢いであり、弱点となる攻撃を食らったユキメノコが怯んでよろけていく。

 そこへ、サイドンは両手を前へと突き出して、その中心から次々とロックブラストの岩石を連射し始めていくのだ。

 

 重戦車のような素の機動力に対して、やっていることが連射のできる大砲か何かか。むしろ、今までの姿がこの子本来のポテンシャルを閉じ込めてしまっていたとでも言えるのかもしれない。

 次々と繰り出されるロックブラストを数発と受けたユキメノコは、その仰け反りを利用してふぶきの中へと紛れると、先のグレイシアの如く姿を消してふぶきの波へと逃げ延びていく。

 

 ユキメノコ、最初に見た時からふゆうだと思っていたけれど、あの様子を見るにグレイシアと同じ特性の、ゆきがくれってやつっぽいな――

 

「――ってことが分かれば! サイドン!! ドリルライナーで接近して距離を詰めて!!」

 

 無効化にされないことが分かったじめんタイプで特攻を指示すると、アタシのそれをトリガーにして回転力をまとっていくサイドン。

 周囲に渦巻くじめんタイプの技エネルギーを蓄えつつ、前屈みとなるサイドンの姿勢。移動を命じたけれど、今から何をするつもりなんだろう。アタシが不思議に思いながらもそれを見ていること数秒後、その瞬間にもサイドンは低空のジャンプと共にドリルのように回転をしながら、技エネルギーの勢いで地面擦れ擦れを飛ぶことで、一直線の軌道を描きながらユキメノコへと接近を始めたのだ。

 

 うわ! 豪快!!

 見ているだけでもワクワクしてくる、破壊と機動の両方を身につけた動ける重戦車! 真っ直ぐにしか行けないのだろう単調な動きこそは、まだまだその図体にサイドン自身が慣れていない様子をうかがわせる。だが、進化したことで爆上げとなった戦闘力から繰り出される突撃は、たとえジムリーダーのエースポケモンであろうとも、止められまい……!!

 

「ユキメノコ、ウェザーボールで食い止めてください!!」

 

 ニュアージュさんの指示によって、ふぶきから放たれる無数ものウェザーボール。未だあられが降る天候の中で、サイドンの弱点となる効果を以てして発射されたウェザーボールだったが、回転する巨体に直撃するなりそれは粉々に粉砕され、サイドンはその直進を止めることなく突き進み続けていく。

 

 弱点で攻撃したのに、それを弾かれるだなんて。少し驚いたという顔をしたニュアージュさんが、すぐさま次の攻撃を命令した。

 

「でしたら、ふぶきにたたりめを行い、巨大な影となってサイドンを押さえ付けてください!」

 

「ロックブラストで阻止してッ!!!」

 

 たたりめの技エネルギーを、ふぶきの中に浸透させていくユキメノコ。だが直後にも、回転しながらもサイドンはツノの先端に岩石を生成し、一直線と飛んでいく現在の体勢で、さらに真っ直ぐと飛ぶ複数からなる剛速球をふぶきへとかましていくのだ。

 

 ロックブラストの一撃一撃で、ふぶきが粉々となって飛散していく。これがユキメノコに当たることは無かったものだが、少なくともたたりめの影による巨大化を食い止めるキッカケとなって、ユキメノコは思うようにサイドンの行動を阻止することができずにいた様子だった。

 

 そこへ、アタシはさらなる追撃をかます。

 

「10まんボルトでふぶきの中を探って!!」

 

「サイドンに、特殊技を……!? 想定外ですね! ユキメノコ、まもる!」

 

 回転するサイドンはピタリと止まり、着地で地面を滑りながら首を思い切り振って、ツノの先から10まんボルトを繰り出していく。

 想定していないサイドンからの攻撃に、ニュアージュさんは守りの一手で対抗してきた。この電流はすぐにもユキメノコの位置を断定することができ、まもるの透明な結界で攻撃を防いでいく様子がしっかりとうかがえる。

 

 ……ついさっきまでは、あのふぶきの防護壁さえも突破することができなかった。でも、今であればそれも容易い――!!

 

「サイドン!! ロックブラスト!!」

 

「ユキメノコ、かなしばりでロックブラストを封じてくださいませ!」

 

 次は、アタシが想定外だった。

 今まで隠していた、かなしばりというわざ。ユキメノコが目を光らせると同時にして、ツノから生成しようとしていたサイドンが動きを止めていく。

 

 かなしばりは、対象のわざを封じ込める効果を持つ変化技。ロックブラストといういわタイプのわざをかなしばりで封じられてしまったことで、アタシはニュアージュさんへの有効打を失ったに等しい。

 

 そして、ニュアージュさんが次なる一手を繰り出してくるのだ。

 

「ウェザーボールをサイドンの周囲に設置して、ふぶきで爆破を狙いましょう! ユキメノコはふぶきの中に身を隠して、安全圏から着実に! 大丈夫でございます! サイドンはロックブラストを失った以上、あとはメタルバーストの反撃にさえ気を付ければこの戦いは勝利できま――」

 

 この時にも、ニュアージュさんは言葉を失った。

 

 封じたはずのいわ技が、ユキメノコの足元から生えるように突如と突き出してきたからだ。

 刺々しくも、力強くスタジアムの大地から現れたそれ。アタシもこれには、更なる想定外として唖然となっていた。

 

 だが、視界に広がる光景の中には今も、ユキメノコへと手をかざしたサイドンの姿がしっかりと映っている。

 そして、これを見たニュアージュさんが、この刺々しい岩に突き上げられたユキメノコを見遣りながらそのセリフを口にしてくるのだ。

 

「ストーンエッジ!! ヒイロ様も指示をなされていないこちらの強力な攻撃は、おそらく進化を介したことで本能的に使い方を理解なされたのでしょう!!」

 

 ストーンエッジ……!

 地面から刺々しく現れた、雄大なる大地のパワーを具現化したかのような強力な攻撃……。

 

 閃いた。感覚的に下りてきた何かによって、アタシの脳内に一瞬ばかりと迸った無我からの信号。

 次第にも降り止んだあられが、最後の一粒をスタジアムの地面へと落としていったこの瞬間。カラン、コロンと固くも綺麗なそれが立てていく小さな音も聞き取れるほどにまで研ぎ澄まされた、眼前の光景へと全てを注いだアタシの全神経達――

 

「ユキメノコ、ふぶきでございます!! ……え? あられが、止んだ――っ?」

 

 ユキメノコがふぶきを繰り出す直前にも見舞われた、実に不運なタイミング。ニュアージュさんが目を丸くしていくその間にも吹き出した猛吹雪も、それまでの威力とまではいかない勢いとなってサイドンへと襲い掛かっていく。

 

 ――アタシの左腕が、勝手に動き出した。

 この感覚には覚えがある。そう思ったすぐにも、これはマサクル団との戦いの際に降臨してきた、野生ポケモンへと指示を繰り出していく時にも巡っていたのだろう一種のゾーン状態に入ったことを無意識で理解する。

 

「ストーンエッジを、鎧のようにして自分に纏って!!! ――そして、ストーンエッジの技エネルギーを纏った状態で、ドリルライナーでユキメノコへ突っ込んでッッ!!!!」

 

 サイドンが高らかに鳴き声を上げると、自身の足元からこの巨体を埋め尽くす巨大な岩石を生み出していく。

 遥か遠くの快晴を指し示す尖り。そこから両腕とツノが貫くように現れると、次に足でその場から動き出し、ストーンエッジの岩石を粉々に砕くと共にいわタイプの技エネルギーである大地の濃い茶色を表面に纏ったサイドンが、ドリルライナーを繰り出していった。

 

 剛速の一直線。一ミリたりもの揺らぎも無い真っ直ぐな突撃が襲い掛かる光景に、ユキメノコはニュアージュさんの指示を受けることなく動き出すと、ウェザーボールとたたりめで目の前のそれへと迎え撃っていくのだ。

 

 こおりタイプという属性を持たなくなってしまった無数ものウェザーボールは、サイドンの勢いによって容易に弾かれてしまってまともに食い止めることができない。次に繰り出したたたりめが、ちょうど自身を追い越したふぶきに巡ることで実体を得た影となり、その水分を含んだ質量のある影の両腕を以てして、迫るサイドンを押さえ込んでいく。

 

 これにはさすがに、サイドンも少しばかりと速度を弱めていった。

 だが、必死な思いで押さえ続けるユキメノコの両腕を、ドリルライナーによる回転力はむしろそれをズタズタに砕き切ることで敢え無く突破。

 

「――ノコ! ユキメノコ!! 聞いていますか!? まもる、をしてくださいませ――!!!」

 

 ニュアージュさんの呼び掛けに、ようやくと気が付いたらしい。

 きっと、相対した強力な存在によってパニックを引き起こしていたのだろうか。彼女の声が届いたのだろうユキメノコは急ぎでまもるを張り巡らせ、サイドンの攻撃に備えていく――

 

 ――には、遅すぎた。

 

「いっけぇぇぇえええええええッッッ!!!! サイドンーーーーーー!!!」

 

 サイドンの突き進む先にあった、観客の身を守るための透明な防壁。スタジアムで飛び交うエネルギーのそれらを遮断する高性能のバリアが、サイドンの攻撃が炸裂した瞬間にも波紋を伝わらせ始める。

 

 ユキメノコに直撃したこの衝撃が、広範囲に渡って観客席まで届いていた。

 回転を続けるサイドンの一直線に巻き込まれたユキメノコ。これがニュアージュさんへとまっしぐらに向かっていき、彼女の目の前に巡らされていたバリアにサイドンごと衝突するなり、砂煙のような特大級の爆発を引き起こしてスタジアムを揺るがしていくのだ。

 

 ……岩のように立派な力強さを感じさせる熱が、遠くにいるアタシの下まで届いてくる。

 先ほどまでの、サイドンを応援する歓声が一気に消え失せた。そういったオーディエンスらをも黙らせる強力な一撃。サイドンが繰り広げた勇猛なる突撃によって訪れた静寂の中、大量の砂煙から起き上がってきた、勇ましい二足の背中――

 

 サイドンは、アタシへと向かってクールに歩き出した。

 そして、サイドンが背を向けた先には、ニュアージュさんの目の前で倒れ込むユキメノコの姿…………。

 

「ユキメノコのひんしを確認!! ユキメノコ、戦闘不能!! ――ゲームセット!! 勝者、チャレンジャー!!!!」

 

 審判の厳つい声が響き渡り、それと共に振り上げられた旗が、アタシへと向けられる。

 ……まるで何事も無かったかのような様相で、サイドンがスタジアムを歩くその光景。ここで下された最終的な判断を目と耳で理解すると、当の本人であるアタシよりも先に、観客席が大盛り上がりとなってスタンディングオベーションを始めていったのだ――――

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