「ラルトス! 見えてきた! あれが『センギョクタウン』だよ!!」
山の国シナノ地方。その名にふさわしい山なりの道を自転車で走っていると、前方には平たく広がった建物の密集地帯がアタシの視界に広がり出す。
雲の無い快晴だが、その青色はジョウダシティと比べてより濃い色合い。遥か彼方へと続くにつれて白く変化する空の模様が、新たな地に訪れたという高揚感をより高めていく。
道中、古びた里のような空間を通り抜けていった。枯れ葉のような香りが漂うこの一帯を突っ切ると、次にアタシらを迎えたのは大きな橋。その下には幅の広い川が流れており、そこで釣りを行う者や、川を泳ぐポケモンが見受けられた。
橋を自転車で突っ切るその最中にも、多くの人々とすれ違った。その多くが自分のポケモンと共に流れる川を眺めていて、談笑を交わしたり触れ合ったりして楽しげにやっていたものだ。
橋を越えると、アタシは本格的に新たな地に到着した。外から来た客を迎え入れる、大きな門。そこにはでかでかとした字で、『センギョクタウン』と書かれている。
センギョクタウンは、アタシの住んでいたジョウダシティとほぼ隣接した地域だ。この二つの間にも名前のついた地域が存在するものだが、今回は足を踏み入れることがなかった。また次の機会にでも訪れようと思ったから。
で、今回訪れたこのセンギョクタウンは、ほぼ隣接していながらも初めて来る場所だった。アタシはそんなアクティブな人間ではなかったため、基本、ジョウダシティから一歩も外に出ていない。だからか、こうして割と近場な地域でもすごく新鮮に感じられる。
自転車のカゴに入っているラルトスは、センギョクタウンの景色に見惚れていた。ここはここで活気があふれていながらも、ジョウダシティほどわちゃわちゃしていない。ジョウダシティは人とポケモンの交流を意識しているところがあるが、このセンギョクタウンはどちらかというと、自然を意識した町並みをしている。初見のアタシからみたら、そんな印象を抱く地域だった。
ラルトスが、アッチ、アッチと手を伸ばしていく。どうやらセンギョクタウンの中を見て回りたいみたいだ。アタシはラルトスの指す方へと歩きながら、自分は自分で、隣接する川から流れてくるマイナスイオンの新鮮な空気を堪能しながら、この足を進めていったものだ。
空は相変わらず、青色が濃くて途方を感じさせる。それがまた神秘的に思えて、時々見上げて眺めてしまうのだ。
神秘的な魅力は、空だけではない、センギョクタウンの中もジョウダシティとは異なる造りとなっていて、あちらは塗装された道路や街灯があちこちと、あとは人工的に整えられた植生の道やらフェンスの数々。そんな空間が広がっていた。一方でこちらは、地面がまっ平。どうやら元々の平面な地形をそのまま町に活かしているらしく、この足に広がっているのも地面で、車のタイヤや人の靴、ポケモンの足跡などがしっかりと残っている。
ここは、空気が美味しい。マイナスイオンも相まって、センギョクタウンに住むだけで何だか健康になれそうな気がする。そんな感想を抱きながら歩いていくアタシのその先では、広場の中に集る大勢の人々が、歓声をあげながらこちらに背を向けているのだ。
何をしているんだろう。小さな子供から大の大人まで、老若男女の様々な人々とポケモンが皆こぞって集まって一点へと向いている。その歓声もただならぬもので、なにやら白熱としたポケモンバトルでも繰り広げられているんだろうなと、そんなことを思った。
ラルトスも、ちょい、ちょいと手を伸ばしてアタシに促していた。この子、結構いろんなものに興味を持つんだな。そう思いながらアタシも自転車を押しながら人だかりに近付き、けれど自転車があるから邪魔になると思って距離をとりながら、人と人の隙間から覗くように目を凝らしてみた。
すぐに見えたのは、カメラマンだった。大きなカメラとマイクも見えたことから、どうやら中継か何かをしているのだろうといった感じ。で、そのカメラとマイクのセットがいくつもあり、それぞれ異なるテレビ局のものかなと感じ取る。
そして、それらが映す本命を見て、アタシは思わず「あー」と声を出してしまったのだ。
長身の青年。傍には、水色の体色と紅の羽を持つ、四足のドラゴンポケモン。それに手を添えながらインタビューに答えていく彼の姿は、純白のショートヘアーと、黄色のボタンと純白のジャケット、純白のパンツに白色の洒落た靴という、放つオーラから伝わる最強の美貌をまといし超絶イケメン。
さながら、白馬の王子様とも言える彼のことは、ポケモンに無頓着であったアタシでさえも知っているポケモン界のレジェンド。
テレビや雑誌でもよく見かけたその姿。世間ではその名前と存在を知らぬ者などいないに等しい知名度。一言一言から発せられる甘美の声音で全ての女を堕としていき、その紳士的な立ち振る舞いから多くの男性諸君にも憧れられる。
ある意味で罪深い、圧巻の存在感。スーパースターの名に恥じぬ、煌びやかな一つの概念。アタシはそんな彼のことを、よく知っていた。それも、ポケモントレーナーになる前から、アタシは彼のことをテレビや雑誌で何度も何度も見てきたものだから。
彼の名は、『タイチ』。“シナノチャンピオン”の最強ポケモントレーナーだ――
「ラルトス。見える? あの人、すごくスゴイ人だよ。アタシもこの目で見るのは初めて。今の内に見ておいた方がいいよ。あのご尊顔、きっとイイ事あるから」
カゴの中から覗くラルトスと目の高さを合わせながら、二人で一緒に人だかりの間から必死になって覗いていく。
んー、見えにくいな。そんなこんなでアタシとラルトスはしばらく挙動不審な動きをしていたのかもしれない。
と、その時にも彼と目が合った。一瞬だったものだが、確かにアタシとラルトスのことを見てくれたと思う。
その後というものの、彼へのインタビューが終わったみたいで、パックリと割れた人だかりから煌びやかな存在感と共にどこかへ退場していくタイチ様。その後ろ姿をラルトスと二人で見送り、メインがいなくなったこの広場からは人々が退散していく。
……結局、何のインタビューだったんだろ。てか、なにかのイベント? タイチ様はメディアの前によく姿を現す人らしく、たまに、スクープを狙って彼の後をつける記者を背後から驚かせるといった、言葉のままのサプライズを好んだりもする、ある意味でサービス精神の強いスーパースター。
そんなことだから、今回のこれも地域のポケモンバトルのイベントに呼ばれていないながらも参戦したとか、そんなことだろう。そういう話を、割とよく見かけるものだから。そんなことを思いながら、アタシはシナノチャンピオンの存在に全てを持っていかれてしまったセンギョクタウンのことを思い出し、宿を探すためにこの自転車を押して歩き出したのだった。
……明日、そんなスーパースターのタイチ様と、個人で会話する機会が巡ってくることも知らずに――