「ヒイローーーー!!! ヒイロって、どうぐ何とかとかいう、よく分かんないけどとにかくどうぐを集めてる人なんだよな!!? だったら、コレやるよーーー!!!」
「どうぐコレクターね。で、クルミ君どうしたの?」
夕食を終えた、ママタシティの宿の中。屋内で楽しめるビュッフェスタイルのお洒落なディナーにアタシは大満足し、それの余韻に浸ったまま、ポケモンを解放してやれる宿内のコートで手持ちのパートナーを遊ばせていた時のことだった。
照明に照らされた、人間が球を使った競技かなんかで使用するのだろう広々としたコート。整備が行き届いていて、ポケモン達も存分に走ることができるスペースが確保されていることから、今もアタシのロコンやマホミルが走ったり宙を高速で動き回ったりして、モンスターボールの中での運動不足を解消させていくこの光景。
それを見守っていると、アタシはクルミ君に声を掛けられた。突然なんだろうと思って振り向いてみると、彼はすごくニコニコとした笑顔で、身体の後ろにやった手に、何か持っているんだろうなということがすぐに分かる。
で、クルミ君の後ろから歩いてきたグレン君とカナタさん。グレン君が特に止めに入らないことから変なことではないことを察することができるし、カナタさんがアタシにすごい睨みを利かせていることから、あぁ、クルミ君はアタシに何かイイ物をプレゼントしようとしてるんだということが、容易く分かってしまえる……。
「へっへへへ!!! さっき商店街をウロウロしてたときによ!! なんか入り口とか中身がすげーーー怪しいお店があって!! でさ! そこがどうぐを扱ってる小物店だったから、そこに寄ってヒイロが気に入りそうなものを買ってきたんだぜーーー!!!」
「へぇ。クルミ君、真っ先にアタシらとはぐれてたけど、そういうとこに行ってたんだ。……って、怪しいお店って、よくそんなとこ簡単に入れるね……」
「そういうことだからさ!!! ヒイロ! コレやるよ!!!」
「いやアタシ、クルミ君がなんでよりにもよってそういうお店を――まぁいいや。ありがと」
相変わらずだなぁ……。
そんなことを思いながらアタシは手を出していくと、クルミ君はニシシと笑いながら身体の後ろに回していた手を前にやっていく。
で、アタシの手に乗せられたのは、プリンにヒビ割れが入ったような、何とも言えないそれなりな大きさの石だった。
「……なにこれ?」
「んー、分かんね!!!!」
おっけー。分かんないのね。アタシは反応に困ってしまい、ただただそれを眺めることしかできずにいた。
……とは言っても、そんな表面での困惑とは裏腹に、アタシは手に置かれた石を見るなり非常に惹かれるものを感じ始めていて、反応に困っていたというよりはむしろ、この石に見惚れていた、という表現の方が正しかったかもしれない。
まず、どういった過程でこんなヒビ割れが入っているんだろう。それが第一に不思議と思ったこの石は、よくよく見てみると何かの台座のような雰囲気を感じ取ることができる。それでいて、この石に入っているヒビ割れの両側には、何かの目のような点が二つ空いていることにも違和感ばかりが募ってくるもので、それなりの大きさであるにも関わらずに重さはそんなに重くないという、見た目よりもだいぶ軽量な感触にも、アタシは魅入られるようなものを感じていく。
――確かにこれは、アタシが気に入りそうなものだ。
クルミ君、ナイスじゃん。内心でウキウキとしてきたこの気持ちに、感情を読み取ることができるというラルトスがサイドンから下りてきてアタシへと駆け寄ってくる。
「サイドン、ラルトスを遊ばせてくれてありがと。――こら、マホミル! ミツハニー! よそ様のポケモンにちょっかいかけるなー! ……ラルトス見て。これ、今クルミ君から貰ったの。何だと思う?」
手に持った石を、ラルトスに見せていくアタシ。
そうやってアタシが色々と考えを巡らせたりパートナー達を気に掛けている間にも、アタシの脇では唐突のプレゼントをしたクルミ君に対する会話が展開されていた。
「おいクルミ。で、結局その石は何なんだってんだよ。お前さんを見つけた時には既に購入していたようだが、あの店の雰囲気も雰囲気だ。もしかしてお前さん、店主にぼったくられたりしてねェだろうな?」
「ぼったくり? いやいや!! コレ、店主のオッチャンにタダで貰ったんだ!! コレってヒイロ好きそうだなーーってオレ見てたんだけどさ! なんか急に声を掛けられてさ。コレ置いていても売れないから、欲しいんならそれやるよって言ってくれたんだ!!! ホント、ラッキーって感じだよな!!!」
「は? お前さん、買ったって言っただろうが。っつーか、こいつがタダ? おいおいおいおい、だったら尚更怪しいじゃねェか。明日でも遅くねェ。ヒイロ、そいつは何かの技エネルギーによる呪いがかかっていてもおかしくねェ代物だ。たまにあんだよ、そういう怪しい骨とう品かなんかにポケモンの呪いが掛けられて販売されている事例がよ。そいつで運気を吸い取られた持ち主が不運な事故に見舞われることも少なくねェから、クルミに責任を取らせて本人に返却してやった方が身のためだ」
「えぇーーーー!!! せっかくヒイロが気に入ってくれてるのにーーー!!!」
「気に入るって、どっからどう見ても困惑してるだろうが。まずなクルミ、いくらヒイロがどうぐコレクターだからと言ってもよ、そんなワケも分からねェ石をくれるような、ロマンスの欠片も無ェことをよく軽々とできるな。ヒイロは女子なんだからよ。もっとこう、俺らと同じ歳の女の人が欲しがりそうな、そうだな……アロマベールの芳香剤とかを選んでだな――」
「アタシ、これすっごく気に入っちゃった」
「え」
グレン君が、ぎょっと目を丸くしてひどくショックを受けるその様子。
こんな顔、初めて見たかも。本心から驚いたという形相でグレン君はアタシを見遣ってくると、それとは一方にクルミ君は後頭部に手を回しながらケラケラと笑い出す。
「だろーーーー!!? だろーーーーー!!? な! グレン!! やっぱヒイロってこういうの好きなんだ!!! オレの目に狂いは無かったんだ!!!」
「ナイスだよクルミ君。こんなにも、どういった意図を以てして生まれてきたのかがまるで分からないどうぐは初めて見るかも。――どのどうぐにも、戦闘中に分泌される興奮の成分かなんかに反応を示す効果があったりとか、特定のポケモンが持つことでその本能をより強く引き出したりとか、あとはポケモンの進化を促す作用を持つ特殊なエネルギーが秘められたどうぐなんかも存在していてさ。代表的なもので言うと、かみなりのいしとか、かたいいしとか。どうぐってのは、その成分や効果を必要とするポケモンが存在するからこそ自然発生する、ポケモンの生態と深い繋がりを持つ神秘の恵みでもあるからさ。どんなどうぐにも、必ずと言っていいほどその存在意義ってのが定められているの。だから、どうぐとして扱われている以上は何かしらのポケモンがそれを欲していることが確かであって、アタシはそれを手に取るだけで何となく理解することができる経験とかがあるもんなんだけど。でも、この石はアタシがさっき言った存在意義というものをまるで――」
「おいヒイロ。待ってくれ。分かった。とにかく、お前さんが気に入ったことはよく分かった!! ――だがよ、クルミ。これでもしヒイロに不幸が被ったとなれば、まず真っ先に疑われるのはお前さんだからな。本人がこれを手放さない以上は、常にその責任が付き纏うと思えよ。ったく、返事からして能天気な野郎だな。……なんだ、カナタ。何か言ったか?」
「……のままクルミの前から消え……ボソボソ」
とにかく、めちゃくちゃ情報量の多い空間が展開されていた。
アタシはアタシで、この石に魅了され続けてしばらくボーッと座り込んでいたものだったが、気付けば時刻も深夜ということでユノさんから「そろそろ寝ましょー?」とお呼びがかかり、アタシ達同い年ーズはカナタさんを除いて「はーい」と素直に返事して部屋に戻っていく。
この日、アタシは個室でひとり眠っていた。
傍にはラルトスとロコンがアタシにくっ付くように寝転がっており、そんなベッドの上には更にマホミルとミツハニーが乗っかりながらスヤスヤと眠りについている。
サイドンも部屋の出口付近で身を休めており、アタシらみんなをいつでも守れるような姿勢で睡眠をとっていたものだから、アタシはサイドンに感謝の言葉を掛けながらこのベッドに横になってボーッとしていたものだ。
……パートナー達みんなの寝息が聞こえてくる。これを聞きながら眠るのがアタシの日課とも言えて、かつ最愛のパートナー達に囲まれている感じがして、すごく落ち着けるものだから少しばかり起き続けてしまうものだ。
この時もアタシは、寝相の悪いロコンに尻尾で顔を殴られながらも、真っ暗な部屋で目を覚ましていた。――明日はどんな一日になるんだろうとか、このペースなら明日中にも海を拝むことができるのかなとか、そんな些細なことをずっと脳内に巡らせ続けていたものだから。
だが、今だけはどうしても、どこか落ち着くことができなかったのだ。
……やっぱり、そうだよね。確実にそうではないと思いながらも、しかし感覚では肌にひしひしと感じ取れてしまえるこの違和感。
――アタシ、誰かに見られてる?
やだ、怖くなってきた。急にゾッとしてきたアタシは布団の中でブルブルと震えてしまい、ちょうど頭のすぐ脇にいたラルトスにぴとっと顔をくっ付けて、この温もりで全て忘れてしまおうと考えながらアタシはその晩を過ごしていったものだ。
で、最終的には眠れることができたから、一安心といったところだった。
結局、昨晩のあれは何だったんだろう。未だによく分からない、でも確かに初めて感じられた不思議な違和感にアタシは頭を傾げながら、女を忘れたかのような無造作な手際で寝間着から外出着に着替えていく部屋の中。
ま、いっか。スカートをパンパンと手で叩いて、「よしっ!」と気を引き締めていくアタシ。そしてベッドの上のラルトスが手を伸ばしてくるのでこの子を抱え、バッグを引っ提げてからアタシは宿屋の個室を後にした。
……今もバッグの中にある“それ”が、僅かながらの存在感を静かに放ってくる気配に気が付くことのないままに――