ポケモンと私   作:祐。

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邂逅との直面

 ママタシティを歩き進めること一日。目的としていた地域であるママタシティという場所には到達していたものの、そこに存在するママタジムまでの道のりというものがまた遠く、アタシは思っていた以上もの時間を費やすことでこの広大な街の中を少しずつ進んでいたことにようやくと気が付いていく。

 

 正直、ユノさんや旅に慣れたみんながついていてくれているから、今回の道のりも余裕だろうと高を括っていた。いや別に、その道中は決して険しかったり命懸けだったりといった、切羽詰まった状況の中を冒険していたというわけではないのだが、それにしては人混みでごった返した平坦な街を一日中歩き続けるというのも、それはそれでしんどいものでアタシの体力がとても持たなかったものだ。

 

 で、またしてもアタシが足を引っ張ることで、ママタジムに到着するまでの時間を余計に掛けてしまっていた。これに対しても皆からはあれやこれやと言われることもなく、むしろユノさんは「ヒイロちゃんのペースに合わせていきましょう」と提案してくれたり、グレン君も「ヒイロはジムチャレンジの参加者っつーだけだしよ、長期の旅に慣れてねェんだから気にすんな」と声を掛けてくれたりと温かくしてもらえたことに、ただただ感謝の極みしかない。

 

 で、クルミ君はと言うと、「じゃあ! ヒイロの休憩ついでにここでキャンプしようぜーーー!!」と思い付きで提案したことで今晩の方向性が決まったアタシら御一行。しかも、現在位置がちょうどママタジムまで続く近道という山の中にいたものだったから、あのごった返したママタシティの人波を上から一望できるというくらいの高さのここで、平坦な街からはかけ離れた自然の緑に染まる平原の一角で、アタシらはテントを張ってキャンプを行うことにしたのだ。

 

 ユノさんとグレン君がテントを取り出してそれを組み立てていく間、クルミ君とカナタさんはキャンプで作るカレーの準備を任されて、あらほらさっさと周囲から木の実を集めたりと具材を探していくその様子。

 で、アタシは何をしていたかというと、野生のポケモンがこのキャンプ周辺に寄ってこないようにと、この一角だけを守るようにむしよけスプレーを振り撒いていくという雑用をこなしていた。

 

 ヘトヘトでバテバテだったアタシは、みんなに簡単な作業だけでいいよと言ってもらえたことから、そのご厚意に甘えつつもそれでも何かやろうと思い立っての雑用係。この環境に悪影響とならない程度の狭い範囲にスプレーの液を撒くことを意識して、難なくとこなしていったアタシの仕事は一旦手を止めることにしていく。

 

 ふぅ……。ちょっと動いただけで、すぐ汗だく。服をはたはたとさせて身体に風を送っていると、抱えたラルトスがそれを手伝ってくれるのかアタシの服を掴んでその真似をしていくのだ。

 あぁ、イイ……。椅子に座った状態で、膝の上に乗せたラルトスがアタシの服をはたはたするこの状況。送られてくる風がより一層と心地良く感じられて、しかも他の人ないしポケモンにやってもらっているということもあってか、なんだかクセになりそうな気持ち良さにアタシは「あぁぁ~~ーー」と疲れを癒していく。

 

 と、そうして休憩をしている最中にも後ろから駆け寄ってくるドタバタとした足音。見なくてもその主がまるで分かり切ってしまうそれにアタシは振り返っていくと、その最中にもクルミ君がニッコニコな笑みでその言葉を掛けてきたのだ。

 

「ヒイローーーー!!! カレーに入れる具材を探しに山入ろうぜーーー!!!」

 

「えぇ、まだ具材探すの!? なんか既にいっぱいきのみ採ってきてなかった?」

 

「んーーー、だってオレもグレンもよく食うし?? それに、オレ達以上にユノがめっちゃ食べるじゃん!! だからアレじゃあ少ないし、山でもっともっと食べ甲斐のあるでけェ食いモン探しに行こうぜ!!!」

 

「あーー……確かにユノさん、モデルのような羨ましいくらいのプロポーションしてるのにホントよく食べるもんね。……しゃあない、アタシも行こっか。クルミ君やカナタさんばかりを働かせるわけにもいかないし」

 

「やったーーー!!! じゃあほらほら、行こーぜ行こーぜ!!!」

 

「や、だからって。ま、待って待って! 手を引っ張らないで!! 走らないで!! てか速いってーーー!! あぁぁーー!!!!」

 

 もう慣れてきたわ。内心の諦めと共に引っ張られる手のままに駆け出されるアタシは、ラルトスを抱える腕に力が入る感覚を覚えながらクルミ君と周辺を巡っていったものだ……。

 

 

 

 ご馳走様でした。みんなで手を合わせて食後の挨拶を口にしていく夕方キャンプ。

 四人分のテントが張られた緑の平原は、次第と地平線に姿を隠していく太陽によって暗がりを展開し始めていた。ここら辺はママタシティの街とは違って照明もそれほど取り付けられていなかったため、灯りが少ない芝生の平坦というコケようは無いものの照明の少なさがネックとなる一帯だった。

 

 で、完全に夜となってしまう前に、食べ終わったカレーのお片付けをしようと言う事でアタシ達はきびきびと動いていた。

 まずは、アタシがマホミルを繰り出していく。ちょっとした思い付きでパッとモンスターボールを投げて繰り出していったものだが、その姿が現れた瞬間にも周囲に漂い出した、このお腹いっぱいな状態じゃあむしろ胃もたれしてしまいそうなほどの、嗅ぐだけで蕩ける甘い匂い。

 

 カレーのニオイを打ち消す消臭の役として、マホミルにはここでみんなを応援してもらうことにした。でもマホミルは血気盛んで動き回っていないと落ち着かない、とても元気な子。だから――

 

「ユノさん! マホミルをお願いね!」

 

「えぇ、任せて。さぁマホミル、私と一緒にいましょうか」

 

 ぎゅっ。ユノさんの胸に抱かれたマホミルは、液状の身体を真っ赤にしながら、まるで血の気しかないとしか思えなかったあまりもの暴れん坊具合が想像できないほどの、とても落ち着いた様子で彼女に収まっていく。

 こいつ、ユノさんの前となると、途端にイイ子になりやがる。マホミルがオスであることはこれをキッカケに知ったものだったが、それにしてもあれだけよそ様のポケモンに勝負を挑みまくる決闘好きが、好みである人間の女性に抱かれるなり素直にしっぽりと言う事を聞くようになる辺りが、さすが人間と共存する生き物なだけはあるなと逆に関心してしまったり……。

 

 ということで、ユノさんが制御してくれる形で消臭係のマホミルを残して、アタシはグレン君と共に汚れた食器を、近くの浅瀬で洗うことにした。

 クルミ君は、ユノさんに強さの秘密なんかをガンガン訊ね掛けながらも、調理で使ったもろもろを片付けていくその様子。それでいて、彼にくっ付いて行動するカナタさんもまたその手伝いとして残っていき、彼がお熱である最強美人トレーナーに対して殺伐としたオーラを放っていく。

 

 そんな感じでキャンプに人が足りていたアタシは、グレン君と一緒にお盆に乗せた食器を浅瀬まで運んできた。

 ……食器、流されないようにしないと。見た目に反して意外と水流が強いものだから、オンタケ山でも一見して水の流れが無さそうな湖の激流に吸い込まれた経験から、とても警戒しながらその浅瀬を目指していく。……てか、アタシの旅路って、普通に死んでいてもおかしくないこと、それなりに多いよねー―

 

 ――なんて思っていた矢先に、グレン君はふと目にした一つの人影に対して、足を止めていった。

 

「っ、おい。……背のでけェ男だな」

 

 アタシは、グレン君が向ける視線を追い掛けた。

 

 暗がりに染まり始めた周囲に溶け込むその男。遠目からでも分かるくらいに高身長な彼は、のっぽと言うにはその服越しからでも分かる程度に筋肉質である、その背中を見ただけでも密度の濃い冒険をしてきました感を漂わせた、あらゆる戦場を見てきた歴戦の猛者的な雰囲気を醸し出す特殊なオーラを纏っていた。

 

 で、アタシらが足を止めてそれをうかがっていく間にも、男は股辺りをゴソゴソとやっては「ふぅ……」と、アタシでもまぁ気持ちはよく分かる解放感に満たされた様子でチロチロと……。

 

 ……って、アタシ達、あの水で食器を洗おうとしてたんだけど――

 

「おれの背後に誰かいるんだろう? ……足音の数と、横に広がって縦にはまぁまぁ小さいその気配。人数は二人ってとこの、子供たちってところか」

 

 ゴソゴソ。浅瀬にチロチロしながら、多分アタシらに掛けてきたのだろうその言葉を口にしてくる、腹から込められた滾る闘志をうかがわせる低い声。

 わぁ、ランヴェールさんとはまた違う方向性の、ザ・戦う男ってカンジのイイ声。アタシはそれに聞き惚れてぼうっとしてしまうのだが、それでも彼のやっていることがやっていることなんで、グレン君はお盆を持って両手が塞がっていることから、気まずそうにしながらアタシを気遣っていく。

 

「おいヒイロ。あまり見てやるな。年頃の女子がまじまじと見るもんじゃねェし、俺らとしてもヒイロのようなやつに見られてりゃぁ、出るもんも引っ込むってもんだ……」

 

「二つの気配は、男女の子供たちか。悪ぃな、品性の無い大人でよ。だが、ちょいとこれだけは済まさせてくれねぇだろうか。何せ、一日ぶりなもんでな……」

 

 身体に悪……。率直な感想を抱いたアタシが、ボーンとした空気でそんなことを思っていく間にも彼が用を済ませていく。

 股辺りをごそごそとして、近くの浅瀬で手を洗うその男性。そうして一連の用事を終わらせると、彼は道行くみんなが見上げるだろう長身でこちらへと振り向いてきたのだ。

 

 厳つい目に、男らしさを兼ね揃えた美形の顔。オレンジ色のヘアバンドで束ねられた、肩まで伸びる藍色の髪。それは束となった毛先で一本の髪の毛を演出していく、毛先が尖ったドレッドヘアーみたいになっていた。また、オレンジ色のシャツに、ショート丈の青色の上着。身動きの取りやすそうな青色のトラベラーパンツと、焦げ茶の靴というその風貌。

 

 気に食わないヤツはぶん殴るという雰囲気とは裏腹に、厳つい目元で穏やかな表情を見せていた彼。そうしてアタシとグレン君の姿を自身の目で確認していくと、申し訳なさそうに首に手を回しながら、後ろの川を背にしてそれを言ってくる。

 

「おっと……手に持つそれは、もっと上流で洗った方がいいかもな。あんたらには下品な所を見せちまった。悪いな」

 

 アタシらを横切ろうと歩いてくるその男性。

 ……うわ、近くに来るともっと大きいな。本当にのっぽである彼の存在感に、アタシとグレン君が数歩と退きながら彼に道を譲っていく。

 

 トラベラーパンツのポケットに手を入れて歩く男性。自然と開かれたその道を堂々と進んでいくその姿も勇ましく思えてきて、もう見ただけで熟練の冒険者であることが伝わってくる、まるでユノさんのような人……。

 

 ……と思っていると、彼はふと足を止め、思い立ったようにアタシらにその言葉を投げ掛けてきたのだ。

 

「……わずかな可能性にも、すがっていかねぇとダメ、か。――なぁ、嬢ちゃんと坊や。こんな暗がりに大の大人から訊ね掛けられるのは怖ぇことだと百の承知であるもんだが、この写真に写るポケモンのことについて、あんたらは何か知らねぇか」

 

 と言いながら、右手を上着のポケットに入れては一枚の写真を取り出して、アタシとグレン君に見えるよう膝に手をついた屈んだ姿勢でそれを見せていく。

 頭上に灯る、僅かながらの照明に照らされたこの空間。アタシとグレン君は、彼の顔もよく見えるくらいの明かりの中で、彼が言うままに差し出されたその写真を二人で覗いていった。

 

 それを見た感想と言えば、見た瞬間にも理解することを拒否するような、この世のものとは思えないほどの異質な歪みを感じさせる、まるで映画に登場するモンスターのCGのような神々しい姿を持つ生き物が写されていた。とでも言えただろうか。

 合金のような金色と、脚のような羽らしき背中のそれ。一目でそれが竜であることは理解できるのだが、写されたそれが向けてくる血のような眼光が、アタシに対して、それ以上のことを知ってはならないと訴え掛けてくる、このアタシの本能が全身でそれを見るなという警告を発してくる、一目だけで鳥肌が止まらなくなる不気味な写真……。

 

 アタシは、グレン君を見遣った。

 ……グレン君もまた、アタシと同じ感想を持ったのかもしれない。バンギラス並にコワイ顔をする彼でさえ、あまりにもおぞましく思うが故にショッキングを受けた目をアタシへと向けてこの視線が合っていく。

 

 そういうアタシらの様子を見て、男性は「やっぱりか」と言わんばかりのため息を一つついてから、それを説明してくれたのだ。

 

「まぁ、無理にこいつを理解しろとは言わない。見ているだけでも気分が悪くなるだろう。この、人間が理解を拒む外見をした謎の生物の正体は、『ギラティナ』という名を持つポケモンであることだけは明かしておくとするよ。その『ギラティナ』というヤツについては、各々で調べてくれればそれでいい――」

 

「はんこつポケモンであるギラティナは、生まれとなる出生地から生息域までのありとあらゆる面において、未だ不明とされている謎多きポケモンよ。まるで亡者の国を統治しているかのような、死を連想するその見た目は、ヒイロちゃんやグレンくんにはまだまだ刺激が強すぎるかもしれないわね。――ただ、その正体が『伝説のポケモン』であると知れば、きっとその死霊のような見た目も幾らか受け入れやすくなるかも。だって、伝説のポケモンだなんて、普通に生きているだけではまず絶対にお目に掛かれないもの。そんな、希少の中の希少な価値を持つポケモンであると知ってしまえばきっと、その写真に写るポケモンの見る目が変わると思うわ」

 

 男性の背後から、流暢な説明で歩み寄ってくるユノさんの姿。

 軽く腕を組みながら、慣れた調子ですらすらとそれを喋る彼女に驚きを隠せない様子の男の人。口をあんぐりとさせて、目を見開いた表情をただ呆然とユノさんに向けていくばかりであったものだが、この説明を聞いてからのアタシとグレン君は、男性の様子なんて気にしている場合ではなかったものだ。

 

「ユノさん? どうしてここに来てるの? ……伝説の、ポケモン……? ……え??」

 

「ユノさん、っ、そいつは一体、どういう……?? ――いやいや。そんな。いくらユノさんでも、そんな。……は。マジで……??」

 

 食い入るように見るアタシとグレン君。男性が未だ見せてくれていたその写真を改めて眺めていくと、これが、伝説のポケモン……? なんていう信じられない思いが先行する気持ちの中で、アタシらは心を無にしたままこれを目に焼き付けていたものだ。

 

 で、男性に向けられた視線を浴びるユノさんもまた、その説明を続けていく。

 

「一概に伝説のポケモンと言っても、それを裏付ける根拠となる古くからの伝承にも、その名前はほとんど載っていないわ。それもそのはずで、ギラティナというポケモンは、この世の禁忌とでも言えるくらいの使命を持って生み出されたポケモンでね。このポケモンを語る上で欠かせない類似性のある神話を持ち出して説明をするとなれば、シンオウ地方という地方で伝わる、世界創造の伝承と密接な関係を持っているとされている。詳しく言うと、時間の神であるディアルガ。空間の神であるパルキアの誕生と共に、ギラティナという存在もまた一緒に生まれてきたとされているけれど、その真相は、この世界の創造主であるアルセ――神様のみぞ知る、といったところかしらね」

 

 どや。全てを代弁してあげたわと言わんばかりのユノさんの表情が、今も呆然とする男性へと向けられる。

 ……男性の鼓動が凄まじく速くなっていたことは、写真を持つこの手を見るだけでも何となく理解できた。――小刻みに震えていた、現在も必死になって抑えているのだろう強い感情。彼もまたユノさんと似たような何かを感じられたアタシは、写真を興味深そうに見ているグレン君を脇に顔を上げていった。

 

 向き合うユノさんと男性。男性が何か口にしようとパクパクさせていく間にも、ユノさんはユノさんで、若干と冷や汗らしきものを流しながら、悠々とした様を繕った様子で佇んでいくこの光景……。

 

「どうかしら。貴方の欲しい情報は手に入った?」

 

「…………とんでもねぇさ。開いた口が塞がらねぇ。だがよ、おれが欲している情報は何もそいつじゃねえことは、あんたも分かって言ってんだろ。なぁ、どうなんだよ……!!」

 

「さぁ? 仮にも私は貴方とは初対面のはずだから、これ以上のことは何も知らないとでも言っておくわ。――ただ、私もまさか“此処”で、『ミュウツー』とギラティナの両方を持ち出されるだなんて思っていなかったものだから。ちょっと今、内心でかなり動揺してる」

 

「……やっと、アタリを引けたか。これでようやく、おれは一歩進めたんだな……!!」

 

 フフフ……ッ。フッハハハ……ッ。

 互いに零し合う、双方の表情をうかがう異質な空気。アタシにはまったくもって理解できない、二人だけの世界が繰り広げられている。

 

 ……なに、この。何なの、一体。

 関係無い立場にいるはずのアタシでさえ、この二人が出くわした今において不思議と心臓を強く打ち鳴らしていた。――分からない。分からないけど、アタシの目の前では何かが起きている。食器を乗せたお盆を手に持つ今の状況において、言葉にし得ない何かの予感に身を震わせてしまいながらも、アタシはただただ、この場に佇むことしかできずにいたものだ…………。

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