ポケモンと私   作:祐。

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ニュー・アダルティ

 やば、寝坊した!

 ユノさんのテントの中で、ラルトスがアタシの目覚めを待ちながら傍でちょこんと座っていた視界の光景。同時に入ってきた時計を見るなりガバッと起き上がったアタシは、一瞬にして意識を覚醒させてから人のテントの中でドタドタと動き始めていく。

 

 時計の針が示す時刻が、出発予定をだいぶ過ぎてしまっていた。こりゃみんなを待ちぼうけにさせているなと思い、謝罪の言葉を考えながらあたふたと着替えていくアタシ。

 くそー、昨晩はアタシがユノさんを抱き枕にしてやろうかと企んでいたのに。昨日にも、テントを共有するユノさんを抱き枕化計画という、疲れから来たよく分からない考えでその夜を過ごそうとしていたアタシ。しかしいざその夜を迎えたとなると、こうしてテントに入る前にもアタシが出くわしたある人物との邂逅に、ユノさんは意識を一気に持っていかれることとなったのだ。

 

 ギラティナを探し求める男。名前も聞いていない高身長の冒険者である彼という存在に、アタシは少なからずの何かを感じていたものだ。その不明瞭なところが一番肝心なところであるけれど、少なくともこの感覚は、初めてユノさんと出会った時の、「この人を、このまま一人で行かせてはいけない気がする」という根拠も理由も無い直感に近しいものが働きかけてきたとでも言えるかもしれない。

 

 とにかく、その夜のユノさんは、ただでさえ謎である素性をさらに謎とする言葉でギラティナの説明をすると、あれからというもの彼と少し話をしたいということで、二人にしてほしいと言ったユノさんの意図を尊重し、アタシとグレン君はその場を後にした。

 

 もー。てかあの男の人もそうだけど、まずユノさんってほんと何なの。もっと謎が深まってきて、何だかよく分からない人って次元を越えて、そこに存在していることすら奇跡な人という認識になってきたアタシの思考。慌てながら余計なことを考えるアタシは、脱ぎ捨てていく寝間着やインナーを人のテントの中にばら撒いていっては、ラルトスがそれらを回収してアタシのバッグの中にテレポートでグシャッと移してくれる。

 

 そんな連係プレイによって、即座に着替えを完了したアタシ。テントの中も綺麗にしてラルトスを抱え、みんなを待たせてしまった謝罪の言葉を思い浮かべながらアタシは日差しへと身を乗り出していく。

 ガバッ! と飛び出すように姿を現すと、その瞬間にも目の前から感じ取れた大きな存在感。――あ、ユノさん、ちょうど起こしに来たのかな。それを思ってアタシは「ユノさ――」という言葉と共に顔を上げていくと、そこで目が合ったのは王冠のようなクチバシの端が目立つ、体格の良いペンギンのような背の高いポケモンがアタシを見下ろしてくる光景……。

 

 …………え。あの、どちらさま――――?

 

 

 

 キャンプ地にしたママタシティの平原を出発するアタシら御一行。アタシが寝坊したことでその出発が大いに遅れた……かと言われればそうではなく、むしろアタシが早起きしていたところでこの出発時刻はそれほど変わらなかったとも言えたかもしれない。

 

 というのも、平原という広大な土地を利用して、みんなが朝からポケモンバトルに勤しんでいたからという至ってシンプルな答えがあったからだった。アタシが外の騒音に全く気付くことなく熟睡している間にも、クルミ君を始めとしたポケモントレーナーの面々がドタバタとわざをぶつけ合ってガチンコの戦いを繰り広げていたということをアタシは後から聞いたものだ。

 

 でも、それじゃあどうして今になって長時間とポケモンバトルに勤しみ始めたのか。アタシはその要因となるものが気になったものだが、その答えとも言えるだろう一つの存在感が、ママタジムとママタシティの海を目指すこの旅路にさり気無く混ざり込んでいたものだったから、アタシは想像に容易くすぐに納得することができていた。

 

 厳つい目に、男らしさを兼ね揃えた美形の顔。オレンジ色のヘアバンドで束ねられた、肩まで伸びる藍色の髪。それは束となった毛先で一本の髪の毛を演出していく、毛先が尖ったドレッドヘアーみたいになっていた。また、オレンジ色のシャツに、ショート丈の青色の上着。身動きの取りやすそうな青色のトラベラーパンツと、焦げ茶の靴というその風貌。

 

 長身の彼がトラベラーパンツのポケットに手を突っ込みながら歩いていると、ふとアタシを見下ろしながらその言葉を口にしてくる。

 

「あんたらはほんとに何気無く旅を再開したもんだが、そこのあんたは寝てただろうから、おれが何故ここに交じってんのかよく分かってねぇだろ」

 

「仰る通りです……」

 

 ラルトスを抱えながら歩くアタシは、顔と目を合わせるべく見上げながら苦笑いしていく。

 ……背が高くて、目を合わせて話していると首が疲れてくるよ。やっぱり高身長の男の人というのはそれだけでも見惚れるものがあったものだから、アタシに彼氏ができた時の理想としてこれを所望していたものだ。が、こうしていざ近い距離で話すとなると、あまりにも身長差があるもんだと、それはそれでちょっと大変かも……。

 

「アタシら、自己紹介もしてないよね。アタシは、ヒイロっていうの。で、こっちはアタシのパートナーのラルトス。まだまだポケモントレーナーになったばかりなのに、ノリでジムチャレンジに参加しちゃった十五歳だから、まぁ取り敢えずよろしくね、お兄さん」

 

「あんたのことは、ユノからざっと聞いている。彼女がやけに気に掛けている少女とか言うもんで、おれらにも関係のあるトリガーかと思っていたもんだが、本当にただ普通にポケモントレーナーをしているだけなんだもんな。――あぁ悪ぃ、こっちの話だ」

 

 よく分かんないことを口走っている感じ、どうやらユノさんと何かしらの関係を持つ人間であるとアタシは見た。

 ママタシティの街道に入った一同。人混みが段々と視界に映り始めてきた情報量の多さと、そんな中でもひときわ目立っていた野生のプテラが飛行するその様子に、いつものように騒ぎながら駆け付けていくクルミ君と、それがいわタイプということもあってかやけにテンションの高いグレン君が、クルミ君と一緒に駆け出すようにそちらへと向かっていく。

 

 で、そうして走り出した二人を追いかけるように、カナタさんもまた物静かに足を走らせて三人組は離れていったものだ。

 ……いつも通りの光景を眺めながら、アタシは気付けば二人のアダルティに挟まれていたことに気が付く。そして、それを好都合だと思ったのか、ユノさんはアタシと彼に歩み寄りながらそのセリフをしゃべり始めるのだ。

 

「この子自身は、本当に私達と関係の無いごく一般的なポケモントレーナーとして旅を共にしているものだけど、最近は段々と、そうとは言い切れない領域にまで足を踏み入れてきているものだから、ある程度の話であればこの子との共有も許されるわ」

 

「ほう。具体的には、どんな話をこの嬢ちゃんとできんだ」

 

「……マサクル団の存在。それと、もしかしたらこの子も“適応”する体質を持っているかもしれない」

 

「そら、興味深いねぇ。まだまだ未成年というのに、大層な気質の持ち主なこった」

 

 …………。

 

 分かんない。話についていけない。

 

「アタシに分かる話をしてほしいな。二人だけで話されちゃうと、アタシ気まずいんだけど……」

 

「あら、ごめんなさい。私と彼、少し通じ合うものがったものだから、つい」

 

「嬢ちゃん、この様子から見るに本当に知らねぇな。んじゃ、嬢ちゃんにもよく分かる話をおれからするとでもしようかね」

 

 ふぅっと息をついていく男性。二人のアダルティに挟まれたアタシは、心寂しい気持ちで若干と頬を膨らませていくと、そんなアタシの頭をユノさんは撫でていき、一方でアタシへと視線を投げ続けてくるその男の人からは、自己紹介とも言える何とも分かりやすい話をアタシにしてくれた。

 

「あんたは、ヒイロって言ったな。まぁ記憶に残っているかぎりはその名前を覚えているつもりだ。どうせ今だけの関係だろうからな。――で、そんな嬢ちゃんにもよく分かる話と言ったら、そりゃもうおれの名前くらいしかねぇか。……こうして名前を広めることはあまり気乗りしないもんだが。おれは『レイジ』とかいう名前を付けられたもんだからよ。ま、短い期間だろうがよろしく頼むよ、嬢ちゃん」

 

「レイジさんね。レイジ、レイジ……。うん、覚えた。はいじゃあ、よろしくね。レイジさん」

 

 んっ。アタシは、ラルトスを左手に抱えて、もう片方の右手をレイジさんへと差し出して握手を求めていった。

 ……それに対して、レイジさんは黙々とそれを見遣ってくるのみ。しかもハテナマークも見えてしまえるくらいの首の傾げようだったものだから、最終的にはユノさんに「それは挨拶の握手だから、ちゃんと応えてあげて」と唆されることによって、レイジさんは気乗りじゃない調子で仕方なくポケットから右手を出してくる。

 

 その手をレイジさん自身の服で拭っていき、こちらとの握手を交わしてアタシは満足した。それがきっと表情に出ていたのだろうか。ふふーんというアタシの顔にレイジさんは若干面倒に思うような様相を見せていったものだったが、改めて「ま、よろしく頼むよ」と一言を付け加えてきたことで、アタシはレイジさんという新しい出会いを歓迎することができた。

 

 でもって、アタシが朝にも出くわした初見のポケモン。王冠のようなクチバシの端が目立つ、体格の良いペンギンのような背の高いそれは、どうやらレイジさんの古くからの相棒である、エンペルトというポケモンであることが分かった。

 エンペルトは、みずタイプとはがねタイプの複合タイプを併せ持つ、とても珍しいタイプの持ち主。それでいてレイジさん自身がポケモントレーナーとして非常に腕が立つというユノさん情報を聞いたクルミ君が、じゃあポケモンバトルしようぜ!!! と半ば強引に事を進めたことによって、彼らのバトルをキッカケにみんながローテーションで試合を行っていたということだ。

 

 その結果は、ユノさんとレイジさんが圧倒的な差を見せて勝利を収めるという形でひとまず終焉。絶賛ジムチャレンジ中であるメンツは二人にコテンパンにされたことで、めちゃつよ大人コンビがいつでも自分らを鍛えてくれる! とかクルミ君がすごく期待してしまったことから、レイジさんは現在、アタシらと行動を共にしたことを若干後悔していると愚痴を零していく。

 

 とは言っても、あのユノさんとほぼ同じ実力と言っても過言ではない辺りに、やはりただならぬものを感じさせたものだ。

 で、そんなレイジさんがどうして、アタシらと行動を共にしているのか。というのが一番気になるところかもしれない。それをアタシが訊ね掛けていったところ、レイジさんは面倒そうな表情を見せながらもそれを答えてくれる。

 

「なぜかって、まぁ、そういう成り行きだったからってしか言えねぇな。……って答えに納得しないだろうから、もう少し詳しく説明でもするか。まぁ、おれは元々ワケあって各地を飛び回っていたもんだったが、そのワケありな事情というもんが、ユノもまた進行形で直面している一つの懸念事項とよく似ていたんだよな。そんなワケで、じゃあ二人で情報をシェアしようという話から、一時的にあんたらの中に加わったってことなだけだ。――おれとしては、別にわざわざジムチャレンジに勤しむ連中ん中に入らなくともと思っていたもんだが、ユノとの情報共有においては、彼女からいつでも話を聞けるようにしておいた方が、何かと都合が良かった。ってなわけで、まぁ、そんなとこか」

 

 うーん。見事に重要なところをうやむやにされている気がする。

 アタシは、「レイジさんの言ってること、よく分かんない」と言葉で蹴りつけるように言った。これに対してもレイジさんは面倒くさそうに視線を逸らしてきた辺り、まー、ユノさんが認めたんなら別に気にする要素は無いかと思考停止して、アタシは考えることを止めた。

 

 で、一時的とは言えども、要はレイジさんもアタシらの御一行に入ったという認識で良さそうだ。

 

 つまり、アタシ達の仲間にあたる存在でもある――

 

「レイジさん。あとで手持ちポケモンとか教えてよ! アタシまだまだレイジさんのことよく知らないから、今日はアタシからの質問攻めに耐えてもらうんでよろしくね」

 

「……悪ぃが、慣れ合いは求めない性質だからな。嬢ちゃんの興味に対して、おれは微塵にも興味が湧かない。すまないが、そういうのは同年代の仲間達にしてくれると助かる」

 

「ヤだ。アタシの質問攻めを受けてくれないんなら、ユノさんから引き離すよ」

 

「あー……そいつは参ったな……」

 

「あら、ヒイロちゃん。この旅の中で成長したわね、フフフッ」

 

 見上げるアタシに参るレイジさん。面倒くさそうでありながらも他人との慣れ合いをそれほど拒絶まではしていない様子のレイジさんは、でもやっぱり面倒くさそうな表情を見せながらアタシとやり取りを交わしていく。

 

 そんなやり取りを見てユノさんが笑っていくと、アタシは調子に乗って「じゃ、まずはレイジさんの好きな食べ物から知るとこからね! ほら、あっちにクレープ屋があるから、ほら! ゴーゴー!!」と、アタシは彼の高い高い背を無理やり押して強引に連れていった。

 

 何だかんだで、関わりやすい人だな。第一印象が悪くなかったものだから、この時にもレイジさんの「ま、待てって! クレープ屋で好物をリサーチって言ってもだな、おれはまず甘い物自体が得意じゃねぇんだよ……!!」という言葉に、アタシはもっと気分を良くしていく。

 

 ふっははは! 慣れないノリに困惑してるでこの人! アタシの特性いたずらごころが発動することでレイジさんは困り出し、そんなアタシらをユノさんは後ろから眺めていっては、なんだか見守るような、それでいて安堵するような微笑みと共にゆっくりと後をついてきたものだ――

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