ポケモンと私   作:祐。

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悪霊共

 バッグの中が、震えている……?

 

 昨日にもママタジムの場所を下見に行き、その先で急に号泣を始めたユノさんを慰めて早一日。あの後にも落ち着きを取り戻したユノさんに、アタシはどうしたのかを問い掛けてみたものだが、その答えは「何でもないわ」の一点張りでアタシは助けになれそうになかった。

 

 かと思えば、宿屋に戻るなり姿を消して、今や正午のママタシティ。オマケにレイジさんも忽然と姿を消すというユノさん消失現象と同じようなのを感じ取り、アタシはアダルティなお二人のことは深く考えずにママタシティを散策していた。

 ……のだが、人通りの少ない田舎の風景の一本道を歩いていると、ふとバッグの中で何かが震動する感覚を覚える。

 

 何だろう。抱えたラルトスを下ろしてアタシはバッグを開けていくと、そこでは確かにわずかながらと震えている一つの物体を目にしていく。

 この前、クルミ君から貰った石だ。ひび割れたプリンのような形をした、何かの台座みたいなとても不思議な石。アタシはこれをとても気に入ったものだから、めざめいしに続くお守りとして持ち歩いていたものだったが……。

 

 いや、さすがにちょっと怖かった。今までにこんな勝手に動き出すことなんてなかったものだから、今も震えが止まらない石の様子にアタシはちょっと動揺しながらも、それを取り出して眺めていってみる。

 目のようにくり貫かれた穴の部分。それも何だか人の顔のようにも思えてくることで一種の不気味ささえも感じさせる一品。だからこそ惹かれるものもあって、アタシはクルミ君からもらうなり大事に手入れも施してきた。

 

 しかし、さすがにこうしてひとりでに震え始めたとなると、薄気味悪ささえも感じてしまうというもの。それも、この石は震えながらも何かに引っ張られるように、アタシの手の中で若干とぐいぐいそちらへと寄っていく。

 アタシは、その先を見遣った。……でも、特に何も無い。いや確かに、道端で遊んでいたのだろう子供が遊びで積み上げていったらしい、石でできた窪んだ塔のようなものがそこにあったものだが――

 

 ――と、その瞬間にもアタシの両手が上空へと引っ張られた!

 

「うぁ!? なにっ!!?」

 

 咄嗟に離していく手。こうして手放したというハズなのに、むしろ上空で浮遊を始めたアタシの石。

 う、浮いている……!? 超常現象なんてエスパータイプのポケモンなんかで既に見慣れてしまっていたものだったが、この周辺にはそれらしきポケモンの姿が全くと言っていいほどうかがえない。

 

 いや、なんかもう忘れてしまってさえいたものだけど、そう言えばラルトスもエスパータイプだったね!?

 もしかして、ラルトスはとうとう攻撃できるわざを覚えたというの!? ふと思い出したラルトスのタイプに、巡ってきた希望のままアタシは視線を向けていってその小さな身体を確認していく。

 

 キャッキャ! 浮いている石を見て面白がり、とても大喜びな様子で笑顔を見せていくラルトス。

 いや絶対に違うわ!! それを確信したアタシは、じゃあやっぱりこの石が勝手に浮き出してんの!? なんて思った瞬間にもその石は紫色に光りだす――

 

「鎮まれッ!! 怨嗟の悪霊共ッ!!」

 

 どこからか聞こえてきた、女の人の声。それと同時にして溢れ出してきた怪しい光は瞬時に消え去り、共にしてフッと事切れたかのように石がコトンッと地面に転がっていく。

 ……そして、一切もの震えもうかがえなくなった。急に動き出したかと思えばひとりでに浮かび上がり始めた不思議な現象。アタシは、結局これは何だったんだろうと思いながらも転がった石を眺めていると、その視界の外からも歩み寄ってくる一つの足音にアタシは気が付いた。

 

「危なかった! あなた、危うくあの石にとり憑かれるところだったんだよ。導きの声が聞こえたものだから半信半疑で寄ってみたけれど、それに従ってホントよかった……」

 

 ハキハキとした、快活な喋りを行ってくる女の人。その言葉の意味こそはよく分からなかったものだが、アタシがその人と目が合うと、相手もまた左目の下にあるホクロというチャームポイントで、吊り上げたような口で笑んでみせていく。

 

 ベレー帽のような黒色のツバ付き帽子をかぶる、アッシュのボブヘアー。肩を出した黒色のぶかぶかなパーカーに、脇と胸の谷間を大胆に露出したへそ出しの黒色シャツと、青色のホットパンツ。靴もくすんだ黄色の大胆な穴あきロングブーツでピアスをじゃらじゃらと付けた、ザ・ヤングな若い子という印象を抱くヤンチャな外見の女の子。

 

 その見た目通りとも言うべき、悪戯っぽくありながらも爽やかな表情でその子がアタシを見遣ってくると、次にもハキハキとした調子でその言葉を続けてくる。

 

「そこにある、石がいっぱい積み上げられた不思議なヤツが、“みたまのとう”。そして、今こうして道端に転がっている石が、膨大な怨嗟が集いし呪いのどうぐ、“かなめいし”。はぁ、ようやくと見つけた。一時期とママタシティで流行り出した、流行型の悪霊憑依事件。その犯人となる元凶をずっと探していたものだけど、まさかトレーナーのバッグの中に潜んでいただなんて」

 

 ふぅっと深いため息をついてくるその女の子。そして、やれやれといった調子で転がっているアタシの石へと手を伸ばしていく……。

 

「……アタシ、あなたの言ってることはよく分かんないけど。でも、その石は仲間から貰った大切な物なの! ……さり気無く人の物を盗ろうとしないでくれる?」

 

 訝しい。じろーっとした目で女の子を見遣るアタシの視線。

 手を伸ばした状態でこちらへと向いてきた彼女の目は、ちょっと意外そうにしていながらも、とても柔軟な思考の持ち主であったのだろうかすぐにも手を引っ込めていく。

 

「あぁ、あぁーそっかそっか! いやーそれはごめんね! 別にあなたの物を盗もうとか思ってたんじゃないんだけど、この石はちょっと特殊な代物でさ。ほら、いわくつきって言うでしょ! これは、そういうものなの」

 

「どんな物であろうとも、アタシはそのどうぐを気に入ってるの! しかも仲間から貰ったものだから、なおさら誰にもあげないんだから!」

 

「へぇ、そのお仲間さんがどこでこれを入手してきたのかは分からないけど、少なくとも今のまま所有し続けていたら、あなた、悪霊に憑依されてこの石の中に閉じ込められちゃうよ?」

 

「……どういうこと?」

 

 そりゃあ、まぁ、確かに勝手に浮いたりしてたけど……。

 初対面の女の子の言葉も、先ほどにも目にした事象を前にしてしまっては、まだまだ信用できなさそうな素性の女の子の言葉であろうとも、アタシは少しばかりか石に対して慎重になってしまう。

 

 そうしてアタシが未だに訝しげな目線を送る中で、その女の子はアタシの石を拾い上げながら説明を始めてくるのだ。

 

「かなめいし。この石の名前ね。このかなめいしってどうぐは、百八個の魂を封じ込めることができるという特殊な性質を持つ聖なる石なんだけど、その魂を封じ込めるって性質がまた厄介でね。この石ってさ、生きている人間の魂が大好物なの。だから、生きている人間の新鮮な生命エネルギーを感じ取ると、このかなめいしはそれを吸引するべく活性化して、その者の魂に憑依を始め、そして、この石の中に連れ去ってしまう」

 

「……待って待って待って! アタシ、怪談話とかそういう怖い話って苦手なんだけど……!」

 

「この石は、その怪談話を実現してしまう、いわくつきの代物。だから、その魂の吸引を防ぐべく、ウチはみたまのとうというものをつくり上げた」

 

 彼女が向けた視線を、アタシは追い掛ける。

 そこには、先ほどにも子供が遊びで積み上げていったような、と言っていた小さな石の塔が存在していた。そこには窪みもあるとは思っていたものだが、こうしてよくよく見てみると、その窪みはかなめいしとなる石が、ちょうど入り切ることができる大きさをしていたものだ。

 

「そもそもとしてね、かなめいしによって人が生きたまま殺される事例が昔から起こっていたんだよね。でも、その事象はあまりにも現実的じゃなかったことから、本当に起きた事件であると外部の人間には信じてもらえなくって。それで、昔に起こった出来事を、怪談話として後世に継いでいってるってわけ。ウチはそういった事例の取り扱いを専門としているもんだから、こうして色々と知ってるってワケだけど。そりゃあウチのように詳しくなけりゃ、ただの石が急に浮き出して、わお、不思議! としか思わないよねー」

 

「……じゃあ、もしもあなたが来なかったら、アタシはどうなっていたの?」

 

「……知りたい?」

 

 ニヤァ。悪戯ながらも軽快だった女の子の表情が、途端に意地悪なものへと変化していく。

 

「あなたは、その魂を抜き取られて石の中に閉じ込められてた。もちろん中身の魂を抜き取られるわけだから、その身体は抜け殻となってこの道端で倒れてたでしょうね。だから、あなたは小さなパートナーを永遠にここに置き去りにして、あなた自身はこの石の中に潜む悪いワルーイ魂達にずっとずーっと凌辱され続けていたかもしれないねー?」

 

「りょ――――う、うぇー……こわー……」

 

 アタシはラルトスを抱きしめる腕に力を入れながら、女の子の話に「おえー」と舌を出していく。

 そんなこちらの反応に、ケタケタと薄ら笑いを見せていく女の子。その様子からしてこの話も半分は嘘なんだろうけれども、もう半分がもし本当なのだとしたら、アタシは取り返しのつかない事態に巻き込まれていたのかもしれない。

 

「特に、ママタシティで有名になったこのかなめいしには、多くの大罪人の悪い魂がたくさん込められているって聞いてる。何せ、その怪談話にあった抜き取られた魂ってのが、その被害に遭ったのだろう被害者のほとんどが過去や現在で罪を犯してきた前科有りの人達だったものだから。――いいや。だからこそ、だったのかもね。このかなめいしはきっと、そういった非道的な思想が大好物だったのかもしれない。今ではただ単に無差別に魂を吸引するようになったみたいだけど、もしも極悪な大罪人がたくさん潜む個室に閉じ込められてみ? ……ね? ヤバかったでしょ!!」

 

「うん……アタシまじでヤバかったかも。ありがとね、助けてくれて。……ところで、あなたは誰?」

 

 ほんと急に巡ってきた、唐突な疑問。

 それを聞いた女の子はハッとするように気付くと、次にもかなめいしをみたまのとうの窪みに嵌めていきながら、そのセリフを口にしてきたのだ。

 

「立ち話もなんだからさ、街のカフェで甘いものを食べながら話しない? ウチとしても、なんかあなたのことをもっと知っておきたい気分だし!」

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