バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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騎士と医者ってどっかの辿る巡るな外科医を思い出す組み合わせ。
多分エールはシュークリームとかをナイフで綺麗に切ったりはしない。


一人で二人の、-4 【本】

 

 ネットバトルにおいて、自身の有利な状況に運ぶため、エリアそのものを変化させるチップ。

 草むらを広げれば、木属性であればそこから発生するエネルギーを取り込んで傷を回復させることが出来るし、火属性であれば己の攻撃で草を巻き込み火力を引き上げることが出来る。

 床一帯に氷を張れば、自由に歩くこともままならない戦場で行動の有利を取れるのは水属性だが、電気属性の攻撃はより通りやすくなる。

 そうした、フィールドの特性を操作するチップの中には、相手のみならず自分をも追い込むものが存在する。

 

 ――『デスマッチ』。

 

 そう、名を付けられたチップは三つのバージョンが存在し、それぞれ戦場に齎す効果が異なる。

 そのうち、場の全体に立っているだけで身を侵していく毒をばら撒く『デスマッチ3』であれば洒落になっていないが、今回プライド様が使ったのは『デスマッチ2』。

 効果は、味方と相手の、現在立っている場所以外を破壊し、回避もままならない戦場へと変えること。

 これを使えば、殴り合いを余儀なくされる。

 単調な攻撃さえ避けることが出来なくなり、勝敗を決するのは攻撃力と耐久力という単純明快な二つのみとなる。

 もしも私が一人の時に、相手に使われれば六割詰む。追撃を受ける前にエリアを修復してどうにか活路を開くことを考える。

 だが、今回それを使ったのは味方であるプライド様だ。

 傍にはナイトマンがいる。隣り合った私の前に立って攻撃を防ぐくらいのスペースならばある。

 

『くっ……これじゃあ鉄球を避けられない!』

「ええ、それで追い詰めるのも良いですが……せっかくの場に相応しいチップがありますわ」

 

 この状態ならば鉄球を放るキングダムクラッシャーで押し勝てる可能性も高い。

 だが、プライド様は万全を期してか、今の戦場で最も効果を発揮するチップでの攻撃を選んだ。

 

 ――今、彼女が使っているのは私がプライド様に渡したフォルダだ。

 元々強力な攻撃力を有するナイトマンをオペレートすることを前提としているため、このフォルダは主に移動と防御を重視している。

 攻撃チップは一般的なフォルダ構築論と比較すると、少ない。

 その中の一つは何も考えずに使用しても何も起きないし、中途半端に使ってもそこらで手に入るチップの方がマシという威力しか発揮しない。

 ナイトマンがその力で広範囲を打ち砕いたり、それこそ『デスマッチ2』を使った時、このチップは並のプログラムアドバンスを寄せ付けない威力を発揮する。

 それは私が初めて自作したチップ。

 大した攻撃力を持たない私が、緊急時に一矢報いるために用意したチップ。

 

「行きなさい、『カモンスネーク』!」

 

 ふわり、と破壊されたエリアの下から姿を現した、小さな紫色の蛇。

 頭のてっぺんに小さな角の生えたそれは、一匹だけならば誰もが異口同音に可愛いと言うだろう。

 だが、それは単体ではない。

 蛇の群れ。わらわらと浮き上がってくる無数のそれは、全てがロックマンとブルースを見据えている。

 破壊されたエリアが多ければ多いほど、大量の蛇を召喚し、敵を襲わせるチップ。

 蛇は全員が本来の威力よりも強化されている。『アタック+30』を併用したのだ。

 

「では、私も」

 

 その手を使うならばと、私も続く。同じく『カモンスネーク』を使用。

 蛇の数はあっという間に倍になる。さながら蛇の軍隊だ。

 

「さあ、終わりです!」

「炎山!」

「迎撃に全力を尽くせ光! ここを凌いで一気に決める!」

「ッ、ああ!」

 

 ほう、一気に決める、ときたか。

 不可能とは思わない。それならばこちらも、相応に気を引き締めて掛かるまで。

 

「やれるものなら、やってみせなさい!」

 

 『トップウ』の風吹き荒れる中、蛇たちが一斉に襲い掛かる。

 対するロックマンとブルースは――確かに、全力だった。

 

『オメガキャノン!』

『ゼータバリアブル!』

 

 本来相手を確実に仕留めるための切り札として扱うことが多いプログラムアドバンス。

 それをこの局面において、迎撃に使うか。

 ロックマンが放つ射撃の嵐が蛇を相殺していく。

 ブルースの変幻自在の刃は斬撃を放ち、蛇を斬り裂いていく。

 一発ではない。プログラムアドバンスの中でも、“ゼータ”や“オメガ”とつく系列のものは、共通した効果を持つ。

 その効果時間の間、元となったチップを無制限に使用すること。

 

 キャノン自体は単調な攻撃だ。隙は少なく速度も上々な射撃チップで使いやすいが、相手を攻撃するとなると威力にやや不安がある、子供でも手が出せるような入門フォルダにさえ最大数が入っているほどのお手軽チップという印象が強い。

 だがそれが一発限りではなく無制限に放てるようになれば、ナビさえ追い込めるほどの総合火力を生む。

 バリアブルソードを十全に使うには、豊富な知識、判断力、記憶力――そういったオペレーターの高い能力が必要になる。

 何も知らずにそのまま使えば、威力が高いだけの『ソード』と変わりない。

 しかしチップデータを実行する際、予め定められたコマンドを引数として渡すことで、ソードの性質を変化させ範囲を広げたり属性を付与したりできる。

 完全に使いこなせれば、これ一枚で多くの局面に対応できる強力なチップ――それを使い放題になる、贅沢を極めたプログラムアドバンスと言えよう。

 チラ、と伊集院少年を見れば、忙しなく手を動かしひたすらにコマンドを打ち込んでいる。“ゼータ”ともなればあのような集中力さえ要求されるのか。

 

 正確に蛇を撃ち抜く射撃と、変幻自在のソードが生み出すソニックブーム。

 砲と剣、二つが即興のコンビネーションで織り成す芸術は、蛇の弾幕を完全に受け止めている。

 これは――足りないな。そう判断し、私は現在選択できる『カモンスネーク』残り二枚を遠慮なく使用する。

 相手が何も出来ない状況だとしたらいじめもいいところだが、生憎こうしなければプログラムアドバンスの効果時間内に蛇が全滅し、此方にまで飛んでくる。

 ――二つの攻撃が激突することによって起こる爆発はやがて向こうの姿を覆い隠す。

 『トップウ』の風は蛇の残骸データを此方にまで運んでくる。決して少なくないそれがある分、余計に向こうが視認しにくい。

 次のチップ選択は勝敗を分ける――そんな事を僅かに考えた瞬間、状況が動いた。

 

『フッ――!』

 

 爆発が生む煙を突き破り、風に乗って突っ込んでくる、鋭い刃。

 エリアスチールを可能とするほどの面積もないこの場所に、動きを鈍らせたブルースが、それでも最大限の速度でやってくる手段。

 私たちを牽制していた“風”に乗る――それによりブルースはここまで跳躍した。

 

『甘い!』

 

 それに素早く対応したナイトマン。

 大振りに鉄球で辺りを薙ぎ払う、ナイトマンの代名詞、ロイヤルレッキングボールでブルースを迎撃する。

 直撃、だが――

 

『グ、ゥ……これ、で……っ!』

 

 一撃ならば耐えられる――そう確信していたのだろう。

 ゆえにブルースは、“重くなっていただけ”の腕で鉄球を受けた。

 ダメージの許容量を超え、散っていく腕。だがダメージをそこだけで抑えたブルースは健在――!

 

『ようやく、軽くなった!』

 

 そして鉄球の勢いに負けて吹き飛ぶ前に、それを蹴ってナイトマンに接近。

 ソードをその胴体に突き立てる。

 

『ッ、なんの、これしきの傷……!』

「ブルース! プログラムアドバンスだ!」

『ハッ!』

『――――――――!』

「ナイトマンッ!」

 

 突き刺さったソードが輝きを増す。

 それは、振り払えば近接攻撃らしからぬ範囲を消し飛ばす、ソード系プログラムアドバンスの代名詞。

 『ソード』、『ワイドソード』、『ロングソード』――基本となる三種のチップを組み合わせることによる、強力無比な一斬――

 

 ナイトマンの行動は早かった。

 この状態であの一撃が実行されれば、剣光はナイトマンを貫き私にも届く。

 咄嗟に彼は私を放り投げた。その先を考えている暇はない、ただ、必殺の一撃から私を逃がすための緊急の一手。

 その先――煙で視認しにくいが、ロックマンたちが先程まで立っていた位置ではない。つまり、『デスマッチ2』によって破壊されていた場所。

 よって、その時私が選んだチップはそうした場所で浮遊し短時間の移動を可能とする『エアシューズ』。

 足元を風が覆い、速度が緩くなる。そして煙の向こうへと飛び込み――

 

「よっしゃ、ビンゴ!」

『っ――』

 

 ――破壊など最初からなかったように修復された床を見て、失策を悟った。

 『パネルリターン』。周囲の床の状態を平常のものに戻し、態勢を立て直すためのチップ。

 蛇の対処を終え、『オメガキャノン』の使用を終了したロックマンは、周囲のパネルを修復し移動を可能としていた。

 使ったチップは最早効果を成さない。そして新たなチップを選ぶ暇もなく、待ち受けるロックマンに向かっていくことしか出来ない、一秒間。

 やってくることが予想できる衝撃に、歯を食い縛る。

 

『ガッツ――パンチ!』

 

 巨大化したロックマンの拳が叩き込まれ、ナイトマンに投げられた勢いが殺される。

 痛打に霞む視界の中で――体を貫く剣光についに膝をつくナイトマンが見えた。

 吹き飛ばされ、転がって、修復されていない奈落の寸前でようやく止まる。

 

「よし! 追い込むぞロックマン!」

『了か――』

「ストップ」

 

 追加のチップを送ろうとする光少年を、手を叩いて制止する。

 

「な、なんだよ!?」

「ここまでだ。私たちの負けだよ」

「エールっ! 大丈夫、ナイトマンはまだ……」

 

 プライド様だけではない。光少年も、伊集院少年も終わったとは思っていないのか、怪訝な表情をしている。

 

「終わりです。このままナイトマンが戦い続けても、巻き返すことは出来ません。そうだろう? ナイトマン」

『ム、ゥ……』

「ちょっと待てよ、お前のナビだってまだ一発受けただけだろ?」

「ああ。だから終わりだ。罠を停止しよう。私にまともに戦う力は残ってない」

 

 ロックマンは、自分で攻撃したにもかかわらず、混乱している様子だった。

 先のチップの威力は低くはないが、ナビを一撃で倒すには不足――そういうイメージを持っていたのだろう。

 だが、それを受けた(エールハーフ)は、構成データをパラパラと散らしながら、どうにか立ち上がることが精一杯。

 それさえ、レギュラーチップとして最初に利用していた『アンダーシャツ』で致死量のダメージを抑えていたからこそ叶っていること。

 ナイトマンはまだ戦うことは可能だろうが、ロックマンとブルースという二人のナビを相手取るには、今の傷はあまりにも重い。

 ここまで来れば、わざわざデリートされるまでもない。されたら色々面倒だ。

 プライド様は納得していない様子だが、これで全ての工程は完了。

 肉体労働はこれで終わり。さあ、ゴスペルの整えた盤上を引っ繰り返す時間――

 

「くっ……いいですわ。それならば、わたくし一人でも!」

「えっ」

 

 事の全てを話そうと、一歩踏み出すのと、プライド様がメインコンピュータのコンソールを操作し始めたのは、同時だった。

 素早く打ち込まれる命令。停止した罠の再起動と強制実行は、ここからでも十分に行える。

 

「――ナイトマン、そっちで停止を――!」

 

 ガコン、と音が響き、プライド様の姿が下にスライドしていく。

 不覚にも動揺していた私はそれをただ見届けることしか出来ず。

 

「きゃあああああああああ!」

「――――――――――――プライド様!?」

 

 状況を脳が理解したその時には、悲鳴を上げるプライド様は既に手の届かないところにいたのだった。




・カモンスネーク
3で初登場したチップ。オーバーテクノロジーである。
自エリアの穴から蛇を呼び出して攻撃する。
エリアスチールなどでエリアを奪い、穴を増やしてから使うと効果的。
2では登場していないが、スネークマンのチップが類似の効果を持つ。

・ガッツパンチ
後半だとウイルスも一撃では倒せないがコマンドを打つとかっ飛んでく。
勿論2最初のボスであるエアーマンも一撃では倒せない。
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