バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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ゴミ捨て場の宇宙少年-3 【本】

 

「初めまして、ジャンクマン。わたくしはプライド。このクリームランドの王女です」

『ジャ……ジャンクマン、ダ』

 

 PETを持ってくれば、プライド様とジャンクマンはそんな感じで出会った。

 まだジャンクマンについての話は殆どしていない。

 名前だけは告げていたものの、その出自や、どうやって出会ったかについても、プライド様は知らない。

 そんな中での挨拶は、当然ながら誰かと話すことに慣れていないジャンクマンよりも、公務で見ず知らずの相手とも関わる機会の多いプライド様が一歩勝った。

 

「貴方がエールのナビとして、戦ってくださるのですね」

『ア、アア……ソノタメニ、オデ、直シテモラッタ。壊レル、バカリダッタ、体ガ、頑丈ニナッタ』

 

 頑丈にするのはこれからだがな。

 まだジャンクマンは、欠陥だらけだった体からその欠陥を取り払っただけだ。

 大会を戦うナビたちに比べれば、“脆い”と言って差し支えないレベルだろう。

 

「壊れるばかり……? エール、何があったんですか?」

「アジーナのゴミ捨て場に廃棄されていた、大量のジャンクデータから生まれたナビです。アジーナのシステムに侵入して代表となろうとしていたところを保護し、致命的な不具合を一通り直した後に協力を持ちかけました」

「……それは、また」

 

 ――また国を跨いで色々と厄介なことをしていますね。

 言いかけて飲み込んだ言葉は多分、そんなところだろう。

 返す言葉もない。ファラン氏があの場で彼を預かることを許可してくれたからまだしも、下手すればプライド様にも迷惑が掛かる事態だったし。

 というか、ナビとの出会いの中でもだいぶ特異な類だろう。

 自立ナビと出会ってパートナーになるということは時々あるが、ナビの生まれそのものが偶然の、先天的な自立ナビと組むのは例が無いだろう。

 

「……いいえ。貴女がたが合意の上で決めたことであれば、構いません。ジャンクマン、エールをよろしくお願いします。彼女は、ナビのオペレートには不慣れですから」

『オ、オデモ、ナビトシテ、ヤルベキコトヲ……知ラナイ。不慣レナノハ、同ジダ』

「共に歩んでいくのは、理想的なパートナーと言えましょう」

「世界規模の大会の、約一週間前の段階とは思えませんけどね」

 

 まあ、正直なところまともな連携も出来るようになるとは思えないが。

 ロールを鍛え上げるよりも難しいのではないか? 相手は世界だぞ。

 勝つことは目的としていないとはいえ――何も出来ずに負けるというのは、ジャンクマンとしては望んではいまい。

 私なりに努力するつもりではあるが……。

 

「では、エール――改めて話しますが。貴女とジャンクマンには、クリームランド代表として、レッドサントーナメントに出場していただきます。試合はアメロッパで行われますので、数日前から現地入りをすることになります」

「この両大会、どちらもアメロッパで行われるんですね」

「はい。ブルームーントーナメントはコロッセオ、レッドサントーナメントはアメロッパ城が会場となります」

 

 アメロッパ城か。中庭にネットバトルマシンでも設置するのだろうか。

 そうすれば、城の各所を観客席とすることが出来るだろうし。

 コロッセオは、古代に戦士たちの闘技場として使われていた施設だったと思う。

 アメロッパ城からそう離れている場所でもない。観客は観ようと思えば行き来して好きな試合を観戦することも可能な距離だ。

 

「代表選手については、全員決定され次第、トーナメント表と共に発表されます」

「直前に発表しないで良いんですか? 選手同士の接触などがあると思いますが」

「ええ。試合前の交流も許可されています。出来ればそちらについても、積極的に行ってほしいのですが……」

 

 ……ますます、意味が分からないな。

 ようは、各国のネットバトラー同士の交流が目的だということか?

 それであればプライド様が私を推薦する理由もないか。……分からん、何が目的なのだろうか。

 

「……まだ、大会の本当の目的については秘密なのですか?」

「……すみません。わたくしも、少なくとも選手たちには早く伝えるべきではあると思うのですが」

 

 恐らくではあるが、相当厄介な事情が関わっているのではないか。

 ゴスペルのようにプライド様だけが背負っているということはないだけ、マシではあるが。

 

「分かりました……大会が終わったあとに頭痛で倒れないことを祈ります」

「……」

 

 いや、何か言ってほしいのだが。

 冗談のつもりだったのに、沈痛な面持ちで俯かれたら私も何も言いようがなくなってしまう。

 余計に不安になってきたぞ。WWWではなくネビュラが関わっていたりしないか?

 また決勝戦を前にディレクターが正体を明かして云々などという展開は勘弁してほしい。

 ――話が分からないとばかりに、ジャンクマンが首を傾げる。……一応、彼にも注意を促しておこう。何があっても問題ないように。

 

 

 

 プライド様が帰った後、私はジャンクマンの補強を行っていた。

 大会を戦うナビとするには、今のジャンクマンは貧弱に過ぎる。

 大会までに、今よりも強くなりたいか――そう問えば、ジャンクマンはすぐに頷いた。意欲的なことで結構である。

 さて、ナビを強くするためのカスタマイズの手段は多岐にわたる。

 ナビカスの使用は当然だ。勿論、ジャンクマンにも使う予定である。

 

 そして、それ以上に手頃な方法であればパワーアップデータの適用がある。

 HPメモリをはじめとした、ナビに宛がうだけで強化が可能となるパーツだ。

 これは私にとって、まったく不要だったものだ。

 エールハーフには適用できない。レヴィアは私からのそれは求めておらず、勝手に何処かから回収してくるし、アイリスもまた必要ないとのこと。

 よって私は自分から集めるようなこともしていない。

 とはいえ――医者(デバッガー)などやっていれば何かと手元にやってくるものである。

 それに、レヴィアがライブで回収してきた代金に混じっていることもある。使えないのに。

 よってその内、ウラにおいてあるバグピーストレーダーにでも突っ込もうとか思っていたのだが――まさか使い道が生まれるとは思っていなかった。

 

 あのような特殊な出会いで、打算的にパートナーとなった。

 そうだとしても――初めてのナビが出来たという状況で、どう接すれば良いのか分からなかった。

 ああ――認めよう。

 私は不器用なのだ。ある程度の距離感を開けない人付き合いは、苦手なのだ。

 否応にも近しくなるオペレーターとナビという関係。

 であればこれで良いのだろうと――私は持っていたパワーアップデータをありったけ、ジャンクマンに注いだ。

 

『エール。もう少し慎みというものを持ったら?』

「……うむ」

 

 結果としてジャンクマンはデータ適用の負荷でダウンし、復旧に時間を掛けることになった。

 普通はパワーアップデータを適用させてもこれほどの負荷が掛かることはない。普通は。

 この手のデータは数を集めようとすると笑えない金額が掛かる。

 よって同時に適用する機会がそもそも少ないのだ。

 例外といえば、今回のように、現状並のナビ以下の処理能力であるジャンクマンに、同時に大量のパワーアップデータを突っ込んだ場合くらい。

 

『私じゃあるまいし、そんなに一度に適用したら落ちるに決まってるじゃない。馬鹿でも分かることよ』

「……うむ」

 

 レヴィアの苦言はあまりにも正論だった。

 確かにジャンクマンは強くなった。だが、時間を掛ければこうなることもなかった。

 やり過ぎだ。落ち着け。いつも通りで良いのだ。

 なにも、パートナーとなったからといってあれこれと過度にカスタマイズする必要もない。

 彼には彼の意向があるだろう。それを聞きつつ、適度に――あくまでも適度にカスタマイズしていけば良いのだ。

 あと、使い道が出来たからといって今まで腐っていたものを一気に使うようなことは禁止。そう、自分の中に刻み付ける。

 ナビが――プログラムがデリケートなのを、私はよく知っているのだ。だからこそ、徹底的に気を遣うべきなのだ。

 

『……ジャンクマン、気が付いた?』

『……ゥ? ナ、何ガアッタンダ? 急ニ意識ガ……』

『貴方の考えなしなオペレーターが、貴方にいっぺんにパワーアップデータを注いだおかげでパンクしかけてたのよ』

「……申し訳ない」

 

 目覚めたジャンクマンにプログラムの破損がないか確認する。

 問題はない――そして、パワーアップデータの効果は正常に適用されていた。

 

『イヤ、大丈夫ダ……強クナッタノガ、分カル。キ、気ニシナクテイイ……』

『ジャンクマン、エールは甘やかすと調子に乗るわよ』

「乗らないよ」

 

 私はミスは反省する性質だぞ。

 理由も分かっているのであれば同じことを繰り返すなどあり得ない。

 

『オデハ、問題ナイ。ソレヨリ、続ケヨウ。ジ、時間ガ、ナインダロウ?』

「……ああ。次は戦闘の試験だ。私のオペレートに合わせてみてほしい」

『ワ、分カッタ』

 

 バトルオペレーションで、私はオペレーターとして、彼はナビとしての感覚を掴み、経験を積む。

 大会はネットナビとの戦いとなる。

 当然、ウイルスバスティングとは感覚が異なるのだが――まずはウイルスとの戦いからだ。

 そもそも、ここでナビとの経験を積もうにも、相手となるのはレヴィアしかいない訳だし。

 ……後々、プライド様とナイトマンに助力を頼むことは出来るようだが、それまではウラの連中に協力を依頼するしかないか。

 むう――あまり気が進まないな。

 やむを得ないことではあるが、ウラの連中に未熟を晒すというのは……こう、複雑だ。

 

 そんなことを考えつつも、訓練のためのウイルスの用意を始める。

 まずはメットールなどの、初歩の初歩たるウイルスからだな。

 それくらいであればジャンクマン単独でも問題ないだろう。だが、まずは彼自身の持つ武装は封じた上で、チップを使った戦闘を。

 ……ネットバトラーとして、スタート地点も良いところだ。

 残る期間は一週間強。そして、辿り着くべき場所は桜井嬢とロールのそれよりも先にあるとは。

 

「よし……ウイルスを展開する。レヴィア、アイリスを守るのと、万が一が起きた場合の片付けを頼めるかい?」

『世界大会とやらのレベルは知らないけど、これで万が一が起きるくらいなら諦めた方が良いと思うのだけど』

 

 現れたのはメットールやキャノーダム、ラビリーといった、比較的安全と言われるインターネットエリアでも頻繁に見られるようなウイルスたち。

 それこそ、子供でも問題なく対峙できるくらいのラインナップだ。

 レヴィアの言葉は辛辣なものではあるが、正しくもある。

 これに苦戦するくらいでは、一週間強でまともに動けるようになるのは難しい。

 ……いや、問題ない。大丈夫だ。

 オペレーションが上手くいかなくても、補う手段は用意できる。

 碌に戦えない身を補強するために用意したものなど山ほどあるのだ。

 あまり事態を重く見る必要はない――そう自分に言い聞かせて、気を楽にする。

 初めてのオペレートだ。だからこそ、必要以上に気を張らずにいくべきなのだ。

 

 

 ――その後、低級のチップ一枚でデリートできる程度のウイルス十体。

 恐らく光少年であれば数十秒もあれば片付けられるようなトレーニングを、七分かけて終わらせた。

 PETに表示される『バスティングレベル:1』の文字を見て、流石に危機感を覚え、冷や汗を流すのだった。




エールが他のナビと組むルートその2
ナイトマン:
実はナビの用意なく承諾だけしていたら彼を提案する予定だったプライド様。
ただし攻撃を躱さず受ける前提の能力のためオペレートには苦戦していたと思われる。
コピーマン:
もしも生きていれば、
「まったくもって不本意だが仕方ないから組んでやってもいい。別に他意なんてないぞ」
みたいなことをエールが長々と遠回しに言って普通に断られていたと思う。
シェードマン:
エールハーフにユーモアセンスを装備し、Lボタンを押すと「今日からはワタシがお前のナビになってやるのだ……」って特殊なイベントが始まり仲間になる。
セレナード:
大会の裏で動いている事情を分かっていれば頼みに行っているかもしれない。
この場合エールはお荷物になるのでウラの王の途轍もないワンマンプレーが見られる。


エールとジャンクマンの一歩目。はじめてのウイルスバスティング(大会約一週間前)。
コンビ成立はしましたが、大会自体はもう少し先になります。
実際、大会当日が地球最後の日みたいな感じなので、サブイベント込みだと多分関係者一同が発狂します。
大会当日、原作だと熱斗くんが各国を飛び回ってますけど誰がなんと言おうと地球最後の日みたいな感じなので流石に原作沿いの進行は無理です。
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