バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー 作:けっぺん
■月■日
ジャンクマンとのトレーニング開始二日目。
彼の戦いを見て、このままではバトルに支障が出ると思しきプログラムを補強し、そしてまた戦闘の繰り返し。
それにより、彼はみるみるうちに動きがマシになっていくのが分かる。
だが、問題は私の方だ。
やはりオペレートのコツが掴めない。
これまで、自分自身が電脳世界で行動していたからか。
その空間での他者を私の指示をもとにして動かず感覚がどうにも分からない。
デバッグ行為を任せることが最初から無理であるということは分かっている。だが、バトルオペレーションまでこの始末とは、自分自身思っていなかった。
恐らく、私の知る凄腕のオペレーターと違うのは、ナビを動かす上でのイメージ。
皆がナビをオペレートする時は、ナビの能力を前提として、“電脳世界ではこう動くしかない”と自然と覚えていくのだろう。
しかしその点、私は己が電脳世界で動けることから、異なる動き方を知ってしまっているのだ。
複数のナビを持つことが難しいとされている理由の一つである。
一つ動き方を知っていると、他のナビにもそれを適用しようとして指示をミスすることが多いという。
それと似たようなものだ。エールハーフでの動きを、ジャンクマンは出来ない。それをまず理解すべきだ。
■月■日
(辛うじて文字ということだけは分かる線が波打っている)
■月■日
ジャンクマンの動きの訓練をレヴィアに任せ、昨日一日をネットナビのオペレート訓練プログラムでの訓練に使用した。
オフィシャルの副長殿に頼み込んで手に入れた、オフィシャルメンバー御用達のものである。
まず私に足りていないのは基礎だ。
ジャンクマンは普通のナビと違うオペレートを必要とするナビである。
だからこそ、基礎を固めておかなければ彼を使いこなすことも出来ない。
演算能力を拡張した結果、みるみるうちに自分の独特の能力を活かせるようになってきたジャンクマンの足を引っ張る訳にも行くまい。
結果として、訓練プログラムのレベル十段階のうち、レベル三までクリアすることが出来た。
ネットバトラーのライセンスで言えば、Bランク相当。
つまるところ、市民ネットバトラーとしてはある程度認められる段階までは詰め込むことが出来た訳だ。
……分かっている。あまりにも成長が遅い。
このままでは不味いことが分かっている。本日もこのプログラムで訓練をしつつ、ジャンクマンのオペレートを固めていく。
覚えることが多すぎるぞ。せめて一ヶ月とか、そのくらいは猶予が欲しかったのだが。
明日の午後にはもうアメロッパである。既に大会までは一週間を切っている。ある意味、ウラが関わる厄介な依頼より無茶振りだ、これ。
■月■日
アメロッパ行きの日。
今回は一週間もないのだが、レヴィアもアイリスもアメロッパで合流することになった。
アイリスは最初から気に掛けていたが、レヴィアも何だかんだでジャンクマンを気にしているらしい。
なんか、ロールを鍛えた時のビーストマンみたいだな。
己が関わった特訓を途中で切り上げることは出来ないとのことだ。
アメロッパに着いてからは、宿泊するホテルでプライド様に手伝っていただきより実践的な訓練。
その様子だが……まあ、酷い有様となった。
問題はやはり私の方だ。ジャンクマンの戦闘センスはだいぶまともになっているのだが、私がそれに追いつく指示を出せていない。
プライド様が絞り出した感想が「…………まあ、頑張りましょうね」だったことが全てを物語っている。
これ、今からでも別のオペレーターを宛がった方がまだマシではないだろうか。
+
アメロッパにやってきた次の日。
訓練の休憩に、私はホテルの外に出て、近くのカフェで一息ついていた。
――あまりに進歩が遅すぎる。悩みはその一点に尽きた。
それでいて、睡眠時間を削ることもあまり出来ないのが痛い。プライド様が同行している手前、あまり翌日に支障が出ているとすぐに分かってしまうためだ。
プライド様は今日は大会に関連した公務があるようで、朝から出掛けている。
どうやら、代表は一通り揃ったようで、私の方にもレッドサントーナメントの組み合わせが来ていた。
それが、私の頭痛を加速させていた。
第二試合
アッフリク代表:名人&ケンドーマン
VS
クリームランド代表:エール・ヴァグリース&ジャンクマン
詰んだ。ああ――諦めるつもりなどないのだが、詰んだという言葉がこれほど相応しい状況もあるまい。
このトーナメント表が発表された後、プライド様が至極複雑そうな表情で、だいぶ苦しい声援を送ってきたのが印象的だった。
凄腕のネットバトラーというのは世界中に存在する。
その中でも、“最も有名な存在”を一人挙げるとなれば、大抵の人がこう答えるだろう。
――名人、と。
ネットバトル六十九連勝の記録を持つ、誰もが知るネットバトラー、名人氏。
多くのナビを持っており、それら全てを見事に操る技術は、世界でも最高峰と言っても過言ではない。
そんなオペレーターこそ、私の一回戦の相手である。虐めだろうか。
世界有数のネットバトラーと戦っても決して劣りはしない、このレッドサントーナメントでもぶっちぎりの優勝候補である。
「……」
パルストランスミッションでダメージを受けた時とはまた違う、考えることが積もり過ぎたための頭痛。
休憩のために外に出てきたのだが、やはり考えるのは戦いに関することだ。
ただでさえ考えることが多いのに、こんな追加分がやってくるとは。
これなら当日にトーナメント表が発表された方がマシだったのではないか。
「お客様、此方のテーブル、相席はよろしいですか?」
「ああ、構わないよ」
店員殿に掛けられた言葉に適当に返す。
……まずはジャンクマンのオペレートをまともに出来るようになることが最優先か。
相手を気にするのはそれからだ。最悪、対策ならば直前でも出来る。
ジャンクマンは相手の妨害や、戦場の配置物の操作。
それからチップの特殊な操作など、単純に戦闘を得意とするナビとは一風異なる能力を持つ。
それはオペレートの難しさもそうだが、相手にとって対策の難しさにも繋がる。
有効に活用出来れば、優秀なナビにも引けを取らないと思えるのだが……。
「――クリームランドのブランドですね、その白衣」
「……ん?」
よもやそれが他者に向けられた言葉ではないだろうと前を向けば――そこだけ世界から色が奪われたような白が、そこにあった。
私以上に白い肌に、ふわふわとした肩までの白髪。
ほんのりと紅い瞳は眼鏡の向こうから、じっと此方を捉えている。
そして羽織った白衣の袖から指先だけを出した、十代半ばと思しき少女だった。
まるで目を向けていなかったが、先程の店員殿が言っていた相席で目の前の席に着いたらしい。いきなり声を掛けられるとは思わなかったが。
ふむ、何を返すべきか。
「……そういうキミはシャーロのブランドだね」
「正解です。そちらはレッドサントーナメントのクリームランド代表として、国を背負う意思の表明といったところでしょうか?」
「いや、そんな意図は特にないが」
「あれ、そうなんですか」
……私をクリームランド代表と分かっているのか。
というか、そうだとしてもいきなりブランドを言い当てられても、反応に困るだけだぞ。
「私のことを知っているということは、トーナメントの参加者かい?」
「ブルームーンの方ですけどね。知ってます? 伊集院炎山なんですよ、相手。“詰んだ”って言葉がここまで相応しい状況、そうそうないですよね」
「名人氏と当たるのとどちらがマシだろうかね」
「そちらも一回戦負け濃厚ですか。いや、ご愁傷様です」
図らずも、情報を手に入れたな。
どうやらブルームーントーナメントには伊集院少年が出場しているらしい。
日本の枠は二枠だった筈だから……あと一枠は誰だろうか。
光少年がいれば、世界大会という舞台で戦うという、N1の焼き直しが出来るのだがな。
「で? キミは? 大会前に諦めるのもどうかと思うが」
「シャーロ代表、グレースと言います。まあ、僕は良いんですよ。両大会で優勝することなんて望まれてません。シャーロの本命はライカくんなので」
グレース、と名乗った少女は、自身の絶望的な組み合わせをさして気にした様子もない。
それに、シャーロには他に本命がいるからと呑気に言い切って、注文したらしいホットココアを啜る。飲み慣れているのかは知らないが、もうアメロッパも普通に暖かい時期だぞ。
「ライカ……サーチマンのオペレーターだったか。確かに、シャーロの本命とするには相応しい存在だね」
「おや、知ってるんですか?」
「出会ったことはないがね。サーチマンの悪名は良く聞いている。そのオペレーターなのだから、優秀なのだろうさ」
サーチマン――ブルースと並び、ウラの犯罪者共における死の象徴だ。
ブルースの、目にも止まらぬ速度とソード攻撃に対し、サーチマンの武器は狙撃。
その高い情報処理能力で、集中すれば自身の立つエリアの外にまで索敵範囲を広げ、標的を狙い撃つことも可能だと言う。
弾の誘導のために行われる標的の固定は『コピーダメージ』などと類似のもので、解除も可能ではあるようだが、放たれるまでの速度や徹底したジャミング行為によりそれを許さない。
命乞いは無意味。そも、それをすべき相手が何処にいるかも分からない。
シャーロの死神として名ばかりが有名な存在だ。まさか、そんな存在が大会に出てくるとは。
国の代表、それもこの少女の言葉を信じるなら本命である以上、偽物という線もないだろうし。
「優秀ですよ。融通は利きませんが。たまのアメロッパを楽しみもせず任務任務。そんなん本国でやってろって思いませんか?」
「……軍人なんだろう? 任務を優先するのは当たり前だと思うが」
「ライカくんと同じこと言ってますよ」
いや、知らないが。
私は軍人ではないが、当然の優先順位ではないのだろうか。
このくらいの考えが一致しても、別にサーチマンのオペレーターにシンパシーは感じられないぞ。
真面目ですねぇ、と肩を竦めてココアを啜るグレース嬢。
……私が言うのもなんだが、だいぶ気の抜けた代表だな。
「……ぷはぁ。ところで、エール・ヴァグリース氏で良いんですよね? クリームランド代表で、ジャンクマンのオペレーターの」
「ん? ――ああ。名乗っていなかったか。間違いないよ。エール・ヴァグリース、ネットバトラーとしての経験は短いが、クリームランド代表だ」
私が名乗れば、グレース嬢は怪訝そうに首を傾げる。
その表情は変化が乏しく、何を考えているかはあまり想像がつかない。
「……? ……、ちなみに、ネットバトラー歴はどのくらいで?」
「一週間弱かな」
「……クリームランドは人材不足なんですか?」
「シャーロの人材豊富さを一市民として羨ましく思うくらいにはね」
ネットバトラーの養育も一朝一夕では成らない。それは、ここ数日で痛感した。
これから先、クリームランドの課題となっていく優秀なネットバトラーの育成だが、これが実を結ぶのは数年後となるだろう。
そう考えれば今回の二つの大会に割り当てられた一枠というのは妥当な数字だ。
約一名、ここでブルース相手に諦めているとはいえ、三枠を確保できたシャーロが羨ましいというのは紛れもない事実である。
「とはいえ、油断できない相手であることは間違いないとライカくんには伝えますよ。ネットバトラーとしてはともかく、そうでない経験なら短くないことは彼も知ってるでしょうが」
「サーチマンの噂を聞く限り、油断する人物とも思えないがね」
「間違いないです」
――まあ、名前を知られているのは想定の範囲内である。
ネットバトラーではなく、
つまるところ、そこは私の秘密ということにする。私のナビとして知られているエールハーフではなく、何故此度、ジャンクマンのオペレーターとして出場したのか。勝手に邪推してくれればありがたい。
「油断どころか、徹底的に未熟を突いてきますよ。遠慮も手加減も知らない人ですもん。冷酷です。冷血です。性根も血もシャーロの寒気で冷え切ってます」
遠慮がないのは彼女の方ではないだろうか。
恐らくはシャーロでも恐れられているだろう相手の悪口雑言を繰り返すグレース嬢。
少なくとも、彼女は気付いていまい。その遠慮も手加減も知らない冷酷で冷血、性根も血もシャーロの寒気で冷え切った代表選手と思しき軍服の少年が真後ろに立っていることなど。
「――他人の悪口を言う時は本人が訪れる筈のない場所にすべきだと愚考する」
そんな、背後からの忠告に、変化の乏しい表情を僅かに動かし動揺を表すと、落ち着けるようにココアを一口飲み、もう一度此方に目を向けてくる。
「いるならいると、教えてほしかったですね」
「キミの言う人物と同一なのか分からなかったもので」
――こうして相席がまた増えた。考え事は後回しにせざるを得なくなったらしい。
・ライカ
4レッドサン、5チームオブブルースに登場するシャーロの軍人。持ちナビはサーチマン。
シャーロ軍ネットワーク第十三部隊の隊長を若くして務める十三歳の少年。十三歳の少年。
ネットバトルを『戦争』と考えており、4では対戦相手となった熱斗に宣戦布告に現れ勝負の世界の厳しさを突き付けた。腹パンで。
レッドサントーナメントにはシャーロ大統領からの指令で出場している。シャーロの軍事力を世界に知らしめるための任務だがそんなことをやっている場合ではないのが大会当日の世界の状況である。
幼い頃から軍人として育てられてきたため、友人がいない。
試合後は、再会したら熱斗と友人になってもいいと告げ去っていった。レッドサンでのツンデレ要員。
5ではチームオブブルースのブレイン担当として参加。4の両バージョンのツンデレが揃う瞬間である。
友人と再会できたからかやけにテンションが高いがすぐに元通りになる。ネビュラはもう少し作戦に使う人材を考えるべきである。
お馴染み十三歳のシャーロ軍人ライカ、そして本作オリジナルキャラとなるグレースです。
二人のもう少し深い掘り下げは次回。また、エールの一回戦の相手が決定。
敗北フラグ濃厚ですが気にせず頑張っていただきたいものです。