バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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ゼロの残響-3 【本】

 

 

 ホテルから外のインターネットに出る。

 そこはアメロッパエリア。この国のメインエリアである。

 世界の中心であるという技術力の誇示からか、罅一つなく整備された綺麗な通路。

 歩いて観光を行う分には非常に快適な散歩が出来るだろうが、生憎そんな呑気な理由で出てきたのではない。

 今から向かうのはネットショップが並ぶ商店街でもアメロッパの名所を再現した広場でもない。

 普通ならば立ち入ることのないダウンタウン――ウラインターネットだ。

 

『……』

「おっと?」

「安心していい。味方だよ」

 

 ホテルのホームページから出たところで、レヴィアは槍を肩に掛け退屈そうに待っていた。

 グレース嬢と伊集院少年は初めて出会う相手の筈だ。

 とりあえず、今回の同行者であることを軽く説明する。

 そして、フリーズマンが起こした事件や、思い出すのも嫌だがフレイムマンの一件、そしてソウルユニゾンの調査の際に出会っていたロックマンは特に警戒なく近付いていく。

 

『久しぶりだね、レヴィア……って呼んで良いのかな?』

『……』

『……えっと、嫌だった?』

『…………ああ、この前会った、ソウルの共鳴が出来る子ね』

『えっ』

 

 ――既に三度出会っているナビの顔を、まだレヴィアは覚えていなかった。

 普通、記憶領域が壊れたり劣化したり、意図的に捨てたりしない限り、ナビが記憶を失うことはない。

 そしてレヴィアとロックマンが知り合ってから、そこまで致命的な期間は到底経っていない。

 つまるところ、それはレヴィアにとって記憶領域にまともに刻み込むほどのものだと思っていなかったということだが――まあ、あえて言及する必要はあるまい。

 まさかの事態に目を丸くしているロックマンと光少年。その一方で、グレース嬢は(エールハーフ)に関心があるようだった。

 

「ヴァグリースさん、ヴァグリースさん。これは今、突っ込んで良いものですか?」

「出来れば遠慮してもらえるとありがたい」

「噂のバグ医者のナビ。その実態はパルストランスミッションと専用の外装の賜物。ものすごく興味をそそられますが……事態が事態です。我慢しましょう」

 

 流石と言うべきか、パルストランスミッションについては当然知っているらしい。

 シャーロは世界有数の軍事力を持った国だ。

 当然、それを築き上げる過程で科学省の技術を得ることもしているのだろう。

 

『そして――あれがキミのナビ、と』

 

 通路の上方を見上げる。

 ――未確認飛行物体が、そこに浮いていた。

 円盤型のUFOはウイルスでも、チップの効果でもない。希少なウイルスであるUFOサニーよりも更に希少な存在である。

 

「ええ、僕のナビ、ギャラクシーマンです。得意分野は飛行、遠方の観測、情報処理、それから充填に時間を掛けた上での大規模攻撃による制圧。近接戦闘は苦手なので、その辺の支援はお願いします」

 

 最後に物騒な得意分野が飛び出したものの、基本的に戦闘ではなくサポートに特化したナビであるらしい。

 円盤は此方に近付いてくると、その下方から頭より小さな体を現し、手足を伸ばすと床に降り立つ。

 小さいな。大体トードマンと同程度のサイズだ。

 何処か神秘的で近寄りがたいデザインながら、そのサイズ感は妙な愛嬌を与えている。

 彼――ギャラクシーマンは私たちに向き直ると、手本のように綺麗な所作で頭を下げた。

 

『初めまして。ワタシはギャラクシーマン。グレースお嬢様のナビを仰せつかっております』

『丁寧にどうも。……お嬢様?』

 

 その慇懃な言葉遣いの中にあった気になる単語。

 グレース嬢に目を向ければ、彼女としては珍しく若干の気疲れを滲ませつつ肩を竦めた。

 

「宇宙観測を任せるナビですから、“もしも”があった時に失礼がないようにしているんですよ。別に、僕がそこまでお高い生まれな訳じゃないです」

「もしも、ね……」

 

 宇宙観測――普段はシャーロの宇宙センターにでも置いているのだろうか。

 惑星の外に目を向ける。もしもそれで、何かを見つければ、彼はこの星の顔として接する立場という訳だ。

 オペレーターへの態度もそのためのカスタマイズで付随してきたということだろう。

 

「エールさん、レヴィアも来てくれるってことで良いのか?」

「ああ。伊集院少年、彼女はウラの住民で、かなりの実力を持っている私の協力者だ。信用してくれて構わない」

「……分かった。では、行くぞ」

 

 ウラの住民という点が引っかかったようだが、今は彼も気にしている場合ではないだろう。

 まあ、彼女とてウラにいても犯罪行為に手を染めてはいない。

 寧ろ連中の危なっかしい闘争本能を抑制し一挙に集めている貢献者まである。

 やっていることはひたすらにクレイジーだが。事情を知らなければライブのあの催しは集団リンチだし、毎度アイリスがはらはらと見守っているのを知っているのだろうか。

 なお、言うまでもないがリンチの果ては毎回、一人の勝者だけが立つ、悔いのなさそうな亡骸やどこか恍惚とした瀕死のナビが多数転がる惨状である。

 正直、あの場をオフィシャルに見られたら大変面倒くさい事態になると思う。

 ……名人氏はウラスクエアで手に入る情報は把握できると言っていたな。あそこの掲示板でもそれなりに話題となっているが、ウラ独特の文化と黙認しているのだろうか。

 

 そんなことを考えて微妙な気持ちになりつつも、アメロッパエリアの暗がりへと向かう。

 アメロッパの街並みは美しく活気があるが、一つ通りを間違えればそこは近寄りがたい者たちが集まる区域が広がっている。

 そうした者たちがインターネット上でも自分たちの区域を作った。

 少数部族たちが集まって電脳世界で生計を立てるためのエリアの先。

 そこがアメロッパのインターネットの中でもメジャーな、ウラの入り口だ。

 

『クソッ、何だってんださっきのは……!』

 

 その通路のナビたちには混乱が見られた。

 トラブルはつきものだろうが、今回のそれは想像がつくな。

 ウラへのリンクに近付くと、苛々した様子のナビが一人歩いてくる。

 

『ったく、次から次へと……』

『何かあったのかい?』

『オフィシャルのブルースがここを強行突破していったんだよ。そんなことされたらここの管理が成り立たねえ』

 

 ……ここの道を通っていったのは間違いないか。

 オモテからウラへ続く道は、特定のアクセス制限や管理者によって立ち入りが制限されていることがある。

 この道はそんな場所だ。別に入る者の身分などを制限する訳ではないが、“通行料”が必要な、ありがちな通路である。

 

『大変ね。通るわよ』

『おい、待て待て。ここを通るなら一人五千ゼニーだぜ』

 

 思ってもいない労いの言葉を投げ、素通りしようとするレヴィアをナビは止める。

 命知らずな行為ではあるが、これがこの道のルールであり、あのナビの役目だ。

 

「経費で落ちますかね?」

「いらないよ。支払わないといけなかったら流石に別の道にするさ」

 

 一ゼニーとて値下げはしないとばかりのナビに、私はウラランクを提示する。

 

『構わないね?』

『……商売上がったりだぜ、ったくよぉ』

 

 渋々と引っ込んでいくナビを見送り、正式に通行許可を得る。彼、今日は厄日だろうな。

 まあ、彼には申し訳なくもないが、これがウラのルールというものである。

 彼もここを管理している以上、ウラには片足突っ込んでおり、この暗黙の了解も当然知っているということだ。

 たった十人にしか発行されていない、ウラにおける“ほぼ”万能な通行手形は伊達ではない。

 

「では、ウラに入るよ」

「ランク持ちってことには突っ込んでも?」

「出来れば遠慮してもらいたい」

「秘密主義ですね。その気持ちはよくわかりますよ」

 

 グレース嬢の場合はその秘密とやらをただの雑談でぺらぺらと喋りそうではあるが。

 そもそも、このランクに関しては秘密も何もない。持っているという事実だけがすべてだぞ。

 

 その道を進みリンクを踏めば、景色は一転して闇へと変わる。

 ウラの表層――そこはこの世界の入門にも相応しいエリアだ。

 ウイルスの脅威は比較的小さく、変に入り組んでいる訳でもない。

 この辺りならまだごろつき程度が呼び方として相応しい輩がたむろしているだけの、“危険なエリア”というだけの場所だ。

 それなりに技術を身につけたネットバトラーが肝試しに訪れることもあるような一丁目。こんな場所に、ネビュラのような犯罪組織の拠点はない。

 

「よし……ネビュラの拠点はウラインターネット5にある。より深層のエリアを経由して戻ってくる形で辿り着くエリアだ」

「おう! 早く行ってブルースを取り戻すぜ、ロックマン!」

『了解!』

 

 ここからだと、やはりそれなりの時間が掛かりそうだな。

 レヴィアが先頭を歩き、私、ロックマンと並んで進む。

 ギャラクシーマンは再び円盤の姿となり、上部をふよふよと浮いている状態だ。

 あれなら床に足をついたウイルスはあまり脅威ではないだろうが、結構目立つな。

 ちゃんと高速での移動も出来るのだろうか。不可能となると空中への攻撃手段を備えた相手にとっては的に等しいぞ。

 

『前方に扉がありますね。通常のセキュリティによるものではなさそうですが』

「恐らくネビュラが仕掛けたものだろう。先の手段で開かなければ……鍵を探すしかないな」

 

 群がるウイルスたちをレヴィアとロックマンが片付けつつ、先へと進んでいるうち、ギャラクシーマンがそんな報告をしてきた。

 さらに数分歩いてみれば、見えてきたのは物々しいデザインの扉。

 通路のど真ん中にあることから、何物かが無断で置いているものだろうことは明らかだ。

 

『赤の鍵を納めよ、だって……何処かにデータがあるのかな?』

『ふむ……』

 

 それを探すとなればまた厄介なことになるが、まずは出来る手段を一通り試してからだ。

 ウラランカーとしての権限を提示する。――扉は反応すらしない。

 

「駄目か……では――」

『レヴィア、頼む』

 

 伊集院少年が言葉を言いきる前に、私はこの場にいる力の権化を扉にけしかけた。

 次の瞬間辺りに響き渡った轟音。

 扉のど真ん中に突き刺さった槍を引き抜けば、その点から罅が氷と共に広がっていき――やがて完全に砕けてその場に転がった。

 

「……」

『鍵一つにつき一回ってところね。鍵の数が多いと手間よ』

『了解だ。そこまで厳重な扉がないことを祈ろうか』

 

 その破片を蹴散らしながら、レヴィアは我が物顔で先行していく。

 鳴り響く警報音など意にも介していない。

 まあ、私が言ったことなのだから彼女が気にすることでもないのは確かなのだが。

 

「……エールさん。デバッガーってさ、セキュリティをこう、何というか……適当に扱って良いものなの?」

「そんな訳ないだろう。セキュリティは徹底すべきだし、決められた制限は遵守すべきだよ」

「……これは?」

「ウラに扉を置いて攻撃への対策を取らないなど失格ということだ」

「……物凄い警告音鳴ってるんだけど」

『身構えられた方が張り合いがあるじゃない』

「この頼りになる戦闘狂っぷり、流石はウラの住民ですね。ちなみにさっきの扉くらいならギャラクシーマンも壊せますよ」

「……お前はどちらかと言うと技術で解除するのが仕事じゃないのか」

「力も技術の内ですよ」

 

 今の状況を一瞬置いて突っ込みを入れた伊集院少年に、グレース嬢は当然のように返す。

 然り。選択肢として用意されているならそれも技術の一つである。

 力が全てという価値観に支配されているウラの世界ではそれは常識だ。

 無理やり壊される扉を用意する方が悪い――そんな理由にもなっていない理由が罷り通る無法地帯であることを、光少年や伊集院少年は理解した方が良いな。

 ちなみに褒められた行為では決してないのでこの価値観には染まらないようにしてほしい。

 

「ちなみに、鍵データの在り処については検討がついているのか?」

「……ああ。このエリア内の床と同化する形で隠蔽していることが、オフィシャルで確認されている」

『よし、今の方法でいこう、レヴィア。その方が手っ取り早い』

『はいはい、了解よ』

「……貴女の助力を得られたことが、幸運なのか不運なのか分からない」

「……オレもだぜ」

 

 何やら失礼なことを呟いている二人を無視して、先へと進む。

 ウラの歩き方を知っている者の力を借りられているのだから今回は幸運に思うべきだろう。

 言うまでもなく、こうした手段を選ばないという前提でこそ、ウラの住民たちは輝くのだから。




・ギャラクシーマン
本作オリジナルナビ。オペレーターはグレース。
元ネタはロックマン9の同名キャラ。
誰もが思い描くアダムスキー型UFOの下部に小さな体が付いたような小型のナビ。
シャーロ軍所属のナビだが戦闘能力に秀でている訳ではなく、宇宙観測のためにカスタマイズされている。
物腰が丁寧でグレースに執事の如く仕える。
これは彼女の趣味ではなく、性格を目的に合わせてカスタマイズしたことで結果的に付随したもの。
UFO形態で飛行が可能なほか、時間こそ掛かるものの大火力の攻撃手段を有する。



XDiVEではクリスマスシーズンということでレヴィアタンが赤くなっていた。
一方その頃本作ではレヴィアがウラでネビュラ相手に破壊の限りを尽くしていた。
という訳で鍵探しを安定のカット。これがウラのルールです。氷も扉も壊せるもの置いておく方が悪いんです。
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