バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー 作:けっぺん
「どうするんだ?」
「レヴィアとブルースを同時に止める。その隙にブルースにワクチンを打ち込む――私がレヴィアを受け持とう。グレース嬢、ワクチンをキミに渡す。任せても良いかな?」
「構いませんが……まだギャラクシーマンが止めるのを担った方が良いのでは? 多分ですけど、戦いに耐え得る外装ではないですよね?」
「ご明察。だが、残念なことにレヴィアの槍を一番理解しているのも私なものでね」
一筋縄ではいくまい。当然、危険ではある。
しかし、その隙を作り出すにおいて、一番可能性があるのも私だ。
二人を引き離し、私がレヴィアを食い止める。
そして、止まろうとはしないブルースのソードを受け止める役も必要になる。
それは――
「……光。ロックマンをオレに任せてくれないか」
「炎山……?」
他でもない、彼の役割という訳だ。
「ブルースの太刀筋はオレが熟知している。オレがロックマンをオペレートし、攻撃を止める――恐らく、いや、間違いなく可能だ」
此方は、可能性がある、だけでは駄目だ。
その方法は、伊集院少年が他のナビの命を預かることにも等しい。
もし一瞬でもタイミングを間違い、その剣を受けることになれば、ただでは済まない。
それに、他人に自分のナビのオペレートを任せるということに、抵抗を覚えない者はいないだろう。
出来るとすればそれは――心の底から信頼している相手のみ。
「……ロックマンを頼むぜ、炎山」
「光……」
「オレ以外でロックマンを任せられるのはお前だけだよ。それに、もしも立場が逆だったら、オレもブルースを任せてほしいってお前に頼むと思う」
友人として、優秀なオペレーターとして、ライバルとしての絶対的な信頼。
それは、ナビの命を預けるにも足るもの。
光少年が手渡したPETを、伊集院少年はやや躊躇いつつも受け取る。
「必ずいつか、借りは返すぞ」
「へっ、期待しないで待ってるぜ!」
「……フッ。――行くぞ、ロックマン!」
『うん。炎山くん、オペレートよろしく!』
この場限りのコンビ。だが、暴走したブルースに対するならば何よりも相応しい一組。
彼らならば問題はあるまい。作戦の成功を確信する。
「グレース嬢、これがワクチンだ。外さないでくれよ」
「確かに、受け取りました。任せてください。では――ついでにあの二人を引き離すのも担当しましょうか」
ギャラクシーマンが、今なお打ち合う二人の上方へと飛んでいく。
よし――正念場だ。
イレギュラーにも程があるやり方ではあるが、今更取り替えることも出来ない。
相手はレヴィアだ。少々無茶をやらせてもらうぞ。
ギャラクシーマンが放った黒い弾丸を直前で悟り、レヴィアとブルースは距離を開くように跳ぶ。
――作戦開始。
ロックマンが動くのと同時、私はレヴィアに向かう。
私にとって――
『レヴィア!』
『ッ、エール――また貴女は、余計なことを!』
一切の容赦なく、槍は振るわれる。
それを見てから動くなど出来る筈もない。本来であれば、私が防ぐも避けるも出来ないものだ。
だけど、彼女という存在を知っている私だからこそ、分かる。
苛立ち任せのその槍がどう振るわれるか。
『――――!』
そしてその動きが完了する前に次の攻撃を避けるための動きを開始する。
横薙ぎの一撃。すれすれを通り過ぎる程度にまで身を屈め――さらに次の一刺しのために動く。
答えは分かっている。三発目を私は避けられない。
であればその刺突の後に振り捨てられぬよう、限界まで接近する。
それが叶う。今の――エールハーフであっても精神全てを集中させた、疑似的なフルシンクロ状態であれば。
体を自然なほどに容易く突き抜けていく槍。
その痛みを感じる前に、私は二枚のチップを使用する。
『ライトニング』――基本的に配置物に対して使う雷撃を己に落とす。
そこに、槍が刺さった状態で私に展開される『バリア』。私に落ちた電流の追撃を防ぎ、その威力は槍を伝ってレヴィアへと注ぎ込まれる。
『ぁ――――っ!』
『ぐ、ぁ……!』
そこでようやく槍のダメージを自覚し、体に激痛が広がっていく。
アンダーシャツの発動。だが、それ以上のダメージはない。
レヴィアと言えど、弱点属性の攻撃を打ち込めば当たり前のように動きは止まる。
そうしているうちに――
『今だ、ロックマン!』
『うん――ッ!』
ブルースの剣をロックマンが素手でもって受け止め。
『標的停止――射出』
『了解しました、グレースお嬢様』
ギャラクシーマンが、動きを止めたブルースにワクチンを打ち込む。
『ガアアアアアアアァァァァ!』
そうして、内部のゼロウイルスが消滅すれば――レヴィアが何を置いてでもブルースをデリートしなければならない理由はなくなった。
なおも動き出そうとするレヴィアの首にナイフを向ける。
『っ、ゼロウイルスは消えた。まだやるかい?』
『――……』
戦闘に喜びを覚える表情が、それを聞くと徐々に平時に戻っていく。
その視線は状況を確認するように、下方へ――己の得物が貫く私の腹部へと移っていく。
数秒の後、槍が引き抜かれた。
色々なものが抜けていく良くない感覚が思考を支配する前にリカバリーを用いて応急措置を行う。力の抜けた体を――レヴィアに支えられた。
『……またそんな、下らないことしてるんじゃないわよ』
『私たちとしては、必要なことだったからね』
どうやら――レヴィアは沈静化してくれた、か。
支えを受けつつも、ブルースに目を向ける。
ゼロウイルスが消失し、そのショックからか蹲るブルースを、ロックマンとギャラクシーマンが油断なく見つめていた。
まだ油断は出来ない。暴走状態となっていた最大の要因は取り除けただろうが、まだダークソウルの影響が消えた訳ではないのだから。
疑似的な精神同期が解け、痛みの幾分かを体へと持って帰る。
特に目立つ、頭のキリキリとした痛みに耐えつつ、ポケットに仕舞ってあった鎮痛剤を口に含む。
幸い、見られていないな。皆それぞれのPETに集中している。
『っ……くぁ……!』
「ブルース!」
ゼロウイルスは除去出来た。だが、それゆえにダークソウルの侵食を邪魔するものも消えた。
今度はあれが影響して暴走する前に、素早くブルースを捕えなければならない。
もう一度、その戦闘衝動に駆られるように動かされたソードは、やはりロックマンに届くことなく受け止められる。
だが――もうロックマンも長くは持たない。それほどまでに、ダークチップの威力は絶大なのだ。
『くっ……も、もう……限界が……!』
「ロックマン、もう少しだけ耐えてくれ――お前を通してブルースにシンクロを図る!」
「な、っ……」
「ちょっと待てよ炎山、そんなことしたら……!」
「炎山くん、冷静に。他のナビを通じて、という芸当が出来たとして、ダークソウルに染まりかけているナビとのシンクロなんて何が起きるか――」
「そのリスクはオレが背負うべきものだ。それで少しでも、ブルースの苦しみを理解してやれるなら――!」
光少年とグレース嬢の制止を振り切って、伊集院少年はブルースとのシンクロを開始した。
他のナビをバイパスにするという、これまでに例があるかさえ分からない手法。
ロックマンという、言ってしまえば精神同期における障害があってなお、僅かなりともブルースと通じ合う確かな絆。
「ブルース――!」
『ぐ、ぁあああああああああ!』
――ダークソウルの誘惑を振り切るための方法は、地道なものになる。
その精神力でもって光の側に立つと強く思い、闇に打ち勝つこと。
たった一度のダークチップ使用でさえ、それは数ヶ月、数年と続く戦いだ。
だが、そのナビが一人で戦っている訳ではないと、強く信じることが出来たのならば。
オペレーターが本当の意味でナビの苦しみを理解し、共に在るということが出来るのならば。
ともすれば――闇の深淵からでさえ、一気にその心を引き上げることも叶う。
そんな、ウラであれば笑い飛ばされるほどのきれいごとを、このウラの世界で、成し遂げた者がここに現れた。
『――――』
「はぁ……はぁ……ぶ、ブルース!」
『――――――――、闇の中で……柔らかな光に包まれた、炎山様を見ました。オレを、引き上げて、くださったのですね』
伊集院少年が起こしたことは、まさに奇跡と言えた。
確かに、完全にダークソウルに支配された訳ではない。
だからと言って、かなりの侵食率に至っていたその心をシンクロを用いて救い出すなど。
正気に戻ったらしいブルースは、そのまま力尽き、スリープに陥る。伊集院少年はブルースをプラグアウトさせると、PETを僅かに強く握り込み、小さく微笑んだ。
「やったな、炎山!」
「……ああ。感謝する、三人とも。いつかそれぞれに、礼を返させてもらう」
……まあ、今回はこれで良いか。
厳しく叱責するつもりではあったが、ブルースを救えた以上もう不要なことだ。
一度体験すれば、二度同じことを繰り返す伊集院少年でもあるまい。
『……それで、どういう訳だグレース。お前にネビュラの部隊殲滅の任務は出ていなかった筈だが』
「ええ。ネビュラ攻撃ではなく誘拐されたナビの救出です。あと、任務じゃなくてプライベートですね」
『シャーロ軍人がプライベートでネビュラと関わったというのか……?』
「ま、そういう事ですね。ともかく、感謝します、ライカくん。サーチマンの援護は助かりました。じゃあ、報告終わり。切りますね」
『待て、お前――』
グレース嬢はそれを聞いているのかどうか。
協力してくれたライカ少年に不十分に過ぎる説明を終えて、説教を聞かされる前にそれを切った後、ギャラクシーマンをプラグアウトさせる。
『――レヴィア。キミは……』
『歩いて帰るわ。先に戻ってなさい。私もちょっと、頭の中を整理する時間が欲しいから』
『……分かったよ。ロックマン、戻ろうか』
『う、うん……熱斗くん、プラグアウトよろしく』
レヴィアの言葉に甘え、パルスアウトを行う。
正直、このまま歩いてアメロッパエリアまで戻ってくるのは厳しかった。
疑似的なフルシンクロ状態で受けたダメージは、エールオールに匹敵する。本来爆発するような痛みになる筈のそれを、効き始めていた鎮痛剤が、体に何かが走る感覚だけを自覚させる。
それにしたって、やや痛みが少ない気がしなくもないな。ありがたいことではあるのだが。
――結果として現れたのは酷い倦怠感のようなもの。手放しそうになる意識に喝を入れて、耐え凌ぐ。
「……死ぬほど体に悪そうなんですけど、そのパルストランスミッション」
「まあ、下手すると死ぬほど体に悪いからね……伊集院少年、PETを貸したまえ。ダークチップのバグはブルースに残っているだろう?」
「……ああ。頼めるだろうか」
「そっちなら幸いどうにかなる。もちろん、お代は請求するのでそのつもりで」
テーブルに置かれたダークチップを手に取る。
凄まじい範囲、凄まじい威力で敵を切り裂く『ダークソード』。
これがあれば大多数の敵に囲まれていようともその危機を脱することが出来るだろう。
しかし、その力がナビに取り込まれることによって発現するのは、ナビ自身が抑えられないほどの戦闘衝動。
オペレーターの指示よりも衝動を優先し敵に向かっていこうとする、冷静なブルースに残しておくには厄介過ぎる代物だ。
「……直せるんだ」
「バグの方はね。心はどうにもならないから、さっきのようなことを言った。あんなこと、誰にでも出来るようなことじゃない」
ノートパソコンにPETを繋ぎ、スリープ状態のブルースをパソコンに移す。
目的のバグを発見し、念のためその他に波及していないか。そして関係のないバグが発生していないかを確認する。
「まあ……こういう解決になるのは僕も予想外でしたね。とはいえ、明日の大会には間に合いそうで何よりです」
「……借りは出来たが、出るからには手加減はしない」
「それでいいですよ。当然、優勝を目指してもらわないと困ります」
このバグであれば、一時間と掛かるまい。
これを終えても、まだ伊集院少年がブルースを調整するには十分な時間が残っていよう。
……私の方も、やるべきことを終わらせないとな。
まだ大会への調整が終わっていない。それまで、意識を失う訳にもいくまい。
明日朝に問題なく目覚められるには、どのくらい睡眠時間を取る必要があるか。
そしてそれを考慮して、フォルダ構築などに使える時間はどのくらいか。
そんな計算をしつつも、ブルースを完全なものに戻す作業に打ち込むのだった。
【求】柔らかな光に包まれた伊集院炎山の画像
【出】『ダークソード Z』
ブルースの一件はこれにて終了。
自分と自分でフルシンクロ、というある意味当たり前な手段で精神全てをエールハーフに疑似的に叩き込む裏技。
ちなみにエールハーフの外装自体は精神の半分しか容量的に許容されていないので、これを使って精神全部をパルスインしようとすると外装が容量オーバーで壊れます。
これでやっておきたい大会シナリオは消化したので、次回から大会となります。