バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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ファースト・オペレーション-1 【本】

 

 

 人前に出ることに、なんら緊張したりはしない。

 ただ、やはり不安があった。

 ジャンクマンを上手くオペレートすることが出来るかという不安。

 今から、ここまでやってきた成果が試される。

 

「これより、レッドサントーナメント二回戦、第一試合を開始します!」

 

 出来る限りのことはした。

 今のジャンクマンも、フォルダも、私が指示するという前提の下では最高の形になっていると感じる。

 果たしてそれが、世界有数のネットバトラー相手に通用するかどうか。

 こればかりは――分からない。訓練ではない、正式なネットバトルは、これから初めて行うのだから。

 

「まずはアジーナ代表、パクチー・ファラン選手!」

 

 私の隣に立っていたファラン氏が先行して、スタジアムへと出ていく。

 本業ではないとはいえ、彼女が幾度ネットバトルという舞台に立ってきたか。

 十や二十といったレベルではあるまい。そんな、実戦経験において雲泥の差とも言えない相手に、これから私は挑むのだ。

 

「頼んだよ、ジャンクマン」

『アァ、マ、任セロ……作戦ハ、全テ、覚エテイルゾ……』

 

 私は素人だ。戦いを知っていても、オペレートを知らない。

 だが、この大会に出場する全ての選手の中で、私しか知らないことがある。

 電脳世界の感覚――チップを使用する感覚――そして、ナビの感覚。そうしたものは、私だけが持つ大きなアドバンテージだ。

 勝てる方法は思いつかない。だが、勝てる方法を潰していくことなら出来る。

 そして、ジャンクマンでしか出来ないその手段がある。あとは、本番でそれを万全に指示することだけ。

 

「続いてクリームランド代表、エール・ヴァグリース選手!」

 

 陽の下に出て、目元を隠す黒いカラーレンズの眼鏡の効果に感嘆する。

 PETを見る分には問題なく、日差しは邪魔にならない程度にカットしてくれる逸品は、プライド様からの餞別である。

 本当はあまりこうした舞台に顔を出すのも避けたいため、出来るだけ黒に揃えた帽子やマスクやらも用意しようと思ったのだが、『我が国の代表を不審者にしたいのですか、貴女は』という尤もな指摘で取りやめとなった。

 日差しが苦手なのは本心だ。これだけはと許容をもらい、特別に用意してもらったこれは素晴らしい。

 特にプライド様にいただいた品という点が良い。これを着けているだけでオペレート能力が向上した気がする。

 というか何処かでプライド様、見ているのだろうか。そう考えると負けたくなくなってきた。勝つか。

 

「どうしたんだい、それ」

「秘密兵器、と言っておこうか」

 

 まあ別に見えないものが見えるようになる訳でもない、普通の伊達眼鏡なのだが。

 とはいえ目から此方の意図を悟られない強みはあるぞ。

 ……いや、普通はネットバトルの最中に相手の目を見る余裕はないか。ナビのオペレートから目を離すことはすまい。

 

「ふーん。ま、いっか。あんたの変化は気にしていても仕方ない。これはネットバトルなんだしね」

「その通りだ。お手柔らかにお願いするよ」

「悪いけど一回戦で既に温まっちまってるからそれは無理。最初っから全力で行くよ!」

 

 ――恐ろしい。速攻型は本当に対処が難しいというのに。

 とりあえず、最初の十秒ほどが勝負だ。そこを切り抜けられるかどうかが、分かれ目となる。

 戦意十分と言った様子のファラン氏と同時に、ネットバトルマシンにプラグインを行う。

 対面するジャンクマンとスラッシュマン。

 だが、状況はあの時とは違う。ジャンクマンが武器とするゴミの山はなく、そしてスラッシュマンにとっては動きやすい平地だ。

 あの時のままであれば、一方的な戦いとなった。

 今は違う。ジャンクマンは強くなった。私も、オペレートを覚えた。今なら、戦いになる。

 

「それでは始めましょう! パクチー・ファラン対エール・ヴァグリース! バトルオペレーション、セット!」

『イン!』

 

 腰を低く落としたスラッシュマン。

 彼が初手で接近を選ぶことは分かっている。

 それが自前の速度によるものか『エリアスチール』を用いてのものか。

 どちらであっても、問題ない。“最初の十秒”を切り抜け戦況を有利にするための戦法は、既に指示するまでもなくジャンクマンと打ち合わせてある。

 ジャンクマンが前方に放った『サンダーボール』。

 ゆっくりとした速度で敵を追尾するそれは、次のチップを使うまで目の前に接近させないための足止め。

 それに対して、スラッシュマンが選んだのは回り込みつつの接近。チップ使用は――ない。

 次のチップは『ディスコード』。目の前ではなく、ジャンクマンから少し離れたところに設置する。

 

「――スラッシュマン、先にそれを破壊だ!」

 

 今の動きは此方の出方を窺っただけ、か。

 今度こそ『エリアスチール』を使い配置された『ディスコード』に一息で踏み込む。

 これが一度旋律をかき鳴らしてしまえばナビは感覚を揺さぶられ前後不覚となる。

 特にスラッシュマンのように常に動き素早く事を行うタイプであれば、真っ先に片付けておきたい障害だろう。

 であれば、存分に破壊するといい。本命は次だ。

 

『シッ――!』

「今!」

『アァ!』

 

 青い楽器の中ほどを鉤爪の一振りで切り裂いたスラッシュマン。

 そのタイミングで使用するのは『ブラインド』――

 

『くっ!』

「チッ……スラッシュマン、警戒だ!」

 

 相手ナビの視界を暫く奪う妨害チップ。

 大抵の場合、それは次の強力な攻撃チップに繋げるために使われる。

 ゆえにファラン氏の判断は正しい。

 スラッシュマンは無理に動かずその場で構え、ファラン氏の指示に合わせてジャンクマンの攻撃を迎撃する姿勢を取った。

 それでいい――その硬直は存分に利用させてもらう。

 『フルカスタム』で即座にカスタム領域を開き直し――次のチップを送信。

 攻撃チップ? 一つもないとも。

 

 ――『ホーリーパネル』、『ティンパニー』、『ストーンキューブ』。

 

 ジャンクマンの足元を聖なる光で照らし、左右に彼にとっての武器を配置する。

 

「……陣地作りって訳かい。随分消極的じゃないか」

「望みとあらば攻撃させてもらうが」

「はっ。もう遅いさ!」

 

 『ブラインド』の効果が切れたのだろう。

 ジャンクマンを見据え、一跳びで突っ込んでくるスラッシュマン。

 相手の動きを止める音が鳴り響くまではまだ時間が足りない。

 ゆえに、この場を凌ぐには迎撃が必要になるが、今この場にある手札でジャンクマンにはそれが可能だ。

 

『喰ラエッ!』

『ぬぅ!?』

 

 ジャンクマン自身が攻撃するのではない。

 この場に置物を配置した時点で、既にそのコントロールはジャンクマンが掌握している。

 ゆえに――凄まじい重量を持った『ストーンキューブ』は、盾でもあり槌だ。

 目の前に石塊を移動させ、スラッシュマンを立ち止まらせると共にジャンクマンの姿を隠す。

 そうしている間に鳴り響いた『ティンパニー』の音色はスラッシュマンをその場に縫い付け、ジャンクマンがプレスに変化させた腕で一気に『ストーンキューブ』を押し出す。

 

『ッ、ふっ!』

 

 激突した石塊は少ないダメージではなかっただろう。

 だが、それ一度で倒れるようなこともなく、横から飛び出したスラッシュマンはクナイを投げ、『ティンパニー』を破壊。

 そして一気に接近してくる彼の一撃を回避することは――出来ない。

 

『シャッ!』

『ッ……!』

 

 ……問題ない。まだ、このくらいならジャンクマンが倒れることは、ない。

 そのための『ホーリーパネル』。そして追撃を受けないための手段も用意してある。

 

「スラッシュマン、後ろ! ――そして左だ!」

『何……!? ッ、ハァ!』

 

 彼の背後を狙うように飛ばした『ディスコード』を、ファラン氏が即座に気付いたことで振り向いたスラッシュマンが一撃で破壊。

 さらにその隙を狙った『ストーンキューブ』の一撃を跳躍して躱す。

 ――躱されたのならば仕方ない。ジャンクマンの手元に石塊を引き寄せ、攻撃に備えさせる。

 

「いつの間に二枚目の『ディスコード』なんて使ってたんだい?」

「二枚目なんて使っていない、というのが答えだね」

 

 今の不意打ちに使ったのは正確には一枚目に使った『ディスコード』だ。

 ジャンクマンが持っている特性は大きく分けて二つ。配置された置物のコントロールを奪い、それを自在に動かす能力。

 そしてもう一つ――それが、ジャンクチップの生成。

 一つのバトルオペレーションの最中に使用したチップデータがジャンクマンの中に保存され、徐々に復元していくというもの。

 ある程度の時間をかけて復元されたそれは、彼が任意のタイミングで使用できる。

 つまり――『フォルダリターン』を使わずともチップの再使用が可能な訳だ。

 即効性はなく、使用したチップを記憶しておく必要性があり、ジャンクマンのメモリの使用領域も大きい。

 だが、これはジャンクマンにしかない特異かつ強力な能力だ。

 

「ふぅん? それに、置物チップの操作……正攻法じゃないってのは中々にやりにくいね」

『あぁ……諦めるか?』

「まさか! 面白いじゃないか。真正面から突破してやるよ!」

「否定されなくて安心した。なら、このままいかせてもらう」

 

 一撃の保険として『バリア』を使用。

 そうすればファラン氏はどうするか――置物による防御にも、この『バリア』にも対応できる性能のチップの使用しかあるまい。

 チップの送信。スラッシュマンが『エアホッケー』を使用。

 床を滑るそれを――直線状の床を切り離して浮かせることで消滅させる。

 

「なっ……!」

 

 今日までの間に、ジャンクマンの性質からチップを作っておいた。

 戦場となる床をただ砕くのではなく、切り離して武器とする『パネルシュート』。

 チップである以上自由度はない。

 ゆえに、そのまま飛ばすことしか出来ないが、攻撃を防ぎつつ接近されるルートも制限出来るのはスラッシュマンと戦う上で大きなアドバンテージとなる。

 回転を伴って放たれた床を、スラッシュマンは自身に叩き込まれる前に細切れにする。

 まあ……ここまで単純な攻撃をまともに受けるほど甘くはないか。

 

『エ、エール』

「あぁ」

 

 ――だが、戦えている。

 その場その場に合わせたオペレートは、可能にはなった。だが神経を使いすぎるし、あまりやりたくはない。

 他のナビがチップを使う感覚――これは未だに掴みかねている。状況ごとの指示が疲れる理由の一つだ。

 では、その上で比較的わかりやすいチップとは何か。

 それが今、ジャンクマンが操っている置物系チップである。

 これらは即座に効果を発揮しない。一度戦場に配置することで、初めて役割を持つ。

 このチップならば私がエールハーフとして使う時となんら感覚が変わりはしない。

 ゆえに、これらを主軸として、事前に作戦を立てた。

 リハーサルしていたことを実践し、適宜僅かな修正だけに留める。これならオペレートの不足を補える。

 

 ――私がファラン氏の戦法を知っていて、そして私たちの戦法をファラン氏が知らなかった。

 情報の差によるちょっとした反則――否、ハンデというもの。

 その中で、勝負を決めるためのチップは揃いつつある。復元が完了し、再使用可能となった『フルカスタム』を確認し、私はひとまずの優勢に一つ頷いた。




エール「黒い眼鏡とマスクと帽子で顔を隠して出ようと思うんですけど」
姫様(いつも以上にエールが何を言っているのか分からない)

はじめてのねっとばとる。
ジャンクチップ、ソウルではなくてナビ固有の能力として使えることを考えるとチートに過ぎると思うんですよね。
すぐに復元できると、フルカスタム含めて必要なチップだけ使っておけば永久コンボ構築出来るので時間が掛かるという設定に。
何もかもフルカスタムとフォルダリターンとかいうバグチップが悪い。
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