バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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戦場の狂想曲-1 【本】

 

 

 ネットバトル。そこにあるのはナビ同士の命のやり取り。

 例えナビにデリートという結末が訪れなくとも、その気概で戦うことは間違っていない。

 とはいえ、昨今そうした感覚でネットバトルを行う者は少ないだろう。

 そこに喜びや楽しみを見出すのが基本であって、面白いと思うからこそ互いが分かり合う手段となり得る。

 私も相手からそれを望まれているのであれば、それに則った戦い方をしよう。

 どれだけ苦手であっても、そうした空気は読める。

 ただ――今回は、それとは違う。

 レッドサントーナメント決勝戦。

 ――今大会最後のネットバトルは、戦争だ。

 

 決勝戦

 クリームランド代表

 エール・ヴァグリース&ジャンクマン

 VS

 シャーロ代表

 ライカ&サーチマン

 

 二回戦第二試合。ライカ少年とラウル氏の戦いは、ライカ少年が勝利をもぎ取った。

 サンダーマンの姿を完全に覆い隠し、戦場を支配するほどの雷雲。

 戦場がそうなる前からサンダーマンを捕捉し続けたサーチマンが雷の荒れ狂う雲を貫いて放った弾丸により勝負がついた。

 淡々と攻めるだけではない。

 彼らにはああした、大勝負に挑む気概もまたあるらしい。

 

 控室の隅で、缶コーヒーを片手に作戦を纏める。

 口は開かずひたすら、ジャンクマンと筆談の上で、だ。

 何故そんなことをしているのか。

 別のテーブルではあるが、戦う相手がいるからである。

 既に敗退した選手たちは試合後の式の準備のため別の部屋に移動している。

 よって、この場にいるのは私とライカ少年のみ。

 他者の雑談もないこの静かな場では、ナビと話して作戦を練ることなど愚の骨頂だ。

 ゆえに、こうしている訳だが――なんというか。はっきり言って、彼の向けてくる殺気が非常に鬱陶しい。

 それまでは戦う相手と決まっていた訳ではないのでそれが此方に向けられていなかったというのは分かる。

 だが、突然露骨になり過ぎである。

 此方の作業に集中出来なくするための挑発だろうか。だとしたら有効だが。

 

「……何か用かな。あまり殺気を向けられたくないのだが」

「これより戦う相手への意識としては当然だ」

「それはそうだが。どうにも気になって仕方ない」

 

 それにしても普通に居心地が悪いぞ。縄張り争いでもあるまいし。

 手を動かしつつも僅かな抗議を込めて視線を投げてやれば、ライカ少年はほんの少し殺気を抑えて睨みつけてきた。

 

「――悠長なものだな。もしくは無防備か。誰に盗み見されているかも分からない場で作戦会議とは」

 

 ――ほう?

 それを聞いて私に生まれたのは感心だった。

 やっぱり彼だったのか。ただ個人のネットバトラーとして強い訳ではないというのは軍人であるから当然ではあるが、あれは予想外だったぞ。

 

「今私がやっているのは確かに作戦会議だが、見ての通り私が座っているのは部屋の隅だ。問題ないよ」

「真後ろの壁に設置されている監視カメラがあるのに、か?」

「あるのに、だ。既に許可を取って録画は止めてあるよ」

「……ほう?」

「確かめたいならご自由に」

「……ふん。それでウイルスなど流し込まれては堪らんな」

 

 後ろにある部屋全体を映すための監視カメラ。当然、こんなものは事前の下見で確認してある。

 その際に当日はこの部屋の録画を止めるよう依頼もしてあるし、今日開会式が終わった後に“何故か”起動していたので再び止めてある。

 選手のうちのいずれかだとは思ったが、別に気にするほどではない。

 ライカ少年はこれの映像を手に入れる手段を持っていたとしても、それはしないだろう。

 流石にそこまですれば大会規定に触れるし、大方此方が油断しているか否かの確認といったところだ。確認した時ウイルスが流れ込まないかの危惧については慧眼としか言いようがない。

 

「それなりの意識はあるようだ。だが、どの道勝負は動かん。サーチマンは此方の勝率を九十九パーセントと予測している」

「あまり事前情報から算出した勝率を宛てにしない方が良いぞ。相手が隠し玉を幾つ持っているかなんてわからないんだから」

「その不確定要素も含めての数値だ。何をしようとも、オレとサーチマンが突破する」

「なら、それを楽しみにしていよう」

 

 あまり口論するつもりもない。

 どうせ電脳世界でこれから戦いを繰り広げるのだ。

 私が不利であることなんて言うまでもないし、どのように算出したのか分からない時点で不毛なのだから。

 

「……」

「……」

 

 適度に殺気が緩んだことで再び手が動かしやすくなった。

 私が打つ作戦パターンをジャンクマンはひたすらに覚え込んでいく。

 先程やったものを同じように繰り返しても、恐らくライカ少年は当たり前のように対応してくる。

 である以上、基本の戦法を既知のものには出来ない。

 まったく別の手段を使えとなると難しい話ではあるのだが――相手がライカ少年であるならば別だ。

 ネットバトルに求めるものが違う。言ってしまえば“ウラらしい”命のやり取りを所望とあれば、まだ私も戦いやすくはある。

 とはいえ公の場だ。流石にやってはいけないことはあるのが惜しいところ。

 その辺りも自重せず、本当に相手をデリートするだけを求められたならライカ少年を楽しませることも出来たのだろうが――と少しだけ残念に思った。

 まあ、その辺りは仕方ない。お利口な戦争という形で、彼には応じよう。

 

 試合まで残り十分というところで、作戦を纏め終える。

 ジャンクマンは驚いていた――というか、若干引いていたが、ライカ少年はこのくらいがお望みの筈だ。

 移動の前にブルームーントーナメントの現在の様子を調べてみれば、向こうも決勝直前というところ。

 どうやら、既知の二人は無事に勝ち進んだらしい。

 

 決勝戦

 日本代表

 伊集院炎山&ブルース

 VS

 日本代表

 光熱斗&ロックマン

 

 世界大会の決勝戦を戦うのが、日本人の小学生同士。

 少しの違和感を覚えざるを得ないが、ある意味相応しいとも言えるだろう。

 半年以上前にはなるが、この二人が世界一のネットバトラーをかけて戦う筈だったのだから。

 ……正直、自分の試合より此方の方が気になる。グレース嬢の気持ちが分かる気がする。

 まあ、決勝戦で棄権してそちらに向かうことは出来まい。彼らの試合は後で動画で確認するとしよう。

 

「さて。そろそろだね」

「……」

 

 ライカ少年もまた、無言で立ち上がる。

 まるで彼の様子はこれから死地に向かうかの如く。

 圧倒的な戦意は、それに立ち向かう者として相応の態度を持たなければという気概にさせる。

 無言のままに並んで控室を出てスタジアムに向かい、スタッフ殿に指示された位置に立ち止まる。

 スタジアムの入り口。そこでも聞こえる喧噪は相も変わらず耳障りだ。

 

「それでは、レッドサントーナメント決勝戦を行います!」

 

 司会の宣言で、その喧噪は一層大きくなる。

 出来ればそれは意識から外しておきたいところだが――PETと繋げるイヤホンの使用は禁止されているのが実に残念だ。

 

「まずは、クリームランド代表エール・ヴァグリース選手!」

 

 二度目のスタジアムであろうとも、その歓声に慣れることなどない。

 ネットバトルマシンまでの道のりがやけに長く感じた。

 

「続きまして、シャーロ代表ライカ選手!」

 

 続いてやってくるライカ少年は、一切動じることなく歩いてくる。

 これで何も感じることがないというのは素直に羨ましい。

 いや、ポーカーフェイスなだけかもしれないが。グレース嬢に聞いたらどちらか教えてくれるだろうか。あまり興味はないが。

 

「――戦闘準備は出来ているな?」

「いつでも」

 

 同時にナビをプラグイン。

 ジャンクマンに向かい合うように現れたのは、迷彩色の装備に身を包んだ如何にも軍用と見えるナビ。

 右腕に装着されているのは彼の象徴であるスコープガン。

 高い情報処理能力と射撃能力を持つ、正しくシャーロの代表と呼ぶに相応しい存在だ。

 

『――エール』

「ああ。頼んだよ、ジャンクマン」

「サーチマン、制圧しろ」

『了解。これより作戦行動を開始します』

 

 ナビカスによるセットプログラムによる影響か。

 戦場にナビの姿が隠れて余りあるほどの大きさの岩が二つ現れる。

 ジャンクマンのコントロール能力は……床にがっちり埋め込まれている以上、このままでは難しいな。

 一度掘り起こすなり砕くなりしないと武器として利用することは出来ないか。

 

「それでは始めます! エール・ヴァグリース対ライカ! バトルオペレーション、セット!」

『イン!』

 

 戦闘の開始と共に、サーチマンが銃を構える。

 上方に備えられたスコープがジャンクマンを捉える。

 それは、開戦の一射。真正面に立っていたとしても万全を期したサーチマンは、確実に相手を捉えてそれを放つ。

 ならば――あいさつ代わりだ。

 『コピーダメージ』の如き標的捕捉のためのサイトを、此方からのジャミングで弾が放たれる前に破壊する。

 同時にジャンクマンに移動指示を出せば――動いた直後に、それまで立っていた場所を一発の弾が通り抜けた。

 

『……!』

「――真正面からの見え透いたものとは言え、サーチマンのサイトを射撃前に破壊するとは……」

「元々その手の妨害の方が得意でね」

「……誇るがいい。この大会でサーチマンの射撃が外れたのは、今のが初めてだ」

 

 それはどうも――それほどの精度を誇る絶死の弾が切り札でも何でもないというのが恐ろしい。

 ジャンクマンは頑丈になったとはいえ、あれの威力を何発も受けて立っていられるほどではない。

 徹底的にあの射撃から逃れること。

 それが、この戦いに勝つための大前提。

 

「では、次は此方だ。行くぞ、ジャンクマン」

『イ、イツデモ、イイゾ!』

 

 受ける射撃を減らす方法は大きく分けて二つ。

 ひたすらサイトを破壊してジャンクマンに回避させる。これは負担が大きい。ずっとそれをし続けるなど、此方がひたすら消耗し続けるだけにしかならない。

 ライカ少年が格上である以上、ペースを掴ませ続けていては勝てない。

 戦況を握るのは私たちだ。そうした上で――ジャンクマンに飛んでくる弾の数そのものを減らす。

 

 ジャンクマンが放ったのは一塊のウイルスデータ。

 ウイルスの召喚にも使われるそのデータ形式はこの大会での使用を許可されたものだ。

 こうした世界大会の場においても、ウイルスを使用する者はいる。

 当然それが展開された時どうなるかを、ライカ少年もサーチマンも熟知している。

 

「ふん、ウイルスなど――」

『ッ――――!』

 

 それが展開され、ジャンクマンを守るように躍り出る。

 咄嗟に自身の判断で後退したサーチマンは、伸びてきた爪にスクラップにされるのを辛うじて回避した。

 その爪を持つ足は四つ。巨大ではあるが、不安定に解れ、ノイズの走る体を支えている。

 

「……なんだこれは」

 

 まばらに光の点る、黒い巨体。

 狼の如き姿を持ったバグの怪物。

 暴走を抑え規模を縮小させたそれは意図的に作り上げたもの――ゆえに、ウイルス同然に一定の行動プログラムの制御下に置かれている。

 ああ、これは戦争だ。手段を選ばずとも良いのであれば、喜んで使わせてもらおう。

 ざわつく観客たちの注目を集め、その不完全な姿を誇るように、私の切り札の一つ――『デミ・ゴスペル』は大きく咆哮を上げた。




・デミ・ゴスペル
エールの切り札の一つである大型ウイルス。誰が何と言おうとウイルス。
バグを多数集積させて作った獣であり、通常のナビより一回り大きい体躯を持つ。
元になった怪物とは違い、完全に制御下に置かれており送信した指示に従って行動する。


ライカとの決勝戦。早々に切られるエールの切り札。
その頃、貴賓席で何故か頭を抱えるプライド様の姿があったそうな。

本話を2020年最後の更新とさせていただきます。
来年もよろしくお願いいたします。良いお年をお迎えください。
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