バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー 作:けっぺん
あくまでこの、私が作り出したゴスペルはかつてのそれには遠く及ばない。
精々がその脅威は一割というところか。
ゆえにこそ、ウイルスとして保有することが出来ている。
――ネットマフィア・ゴスペルが作り出したバグ融合体。
その姿について詳しく知っている者は、私と光少年たち、そして帯広少年だけ。
知識がある観客にとっても――それは電脳獣を模して作った大型ウイルスだ。
何となく、現在光少年たちがブルームーントーナメントを戦っていて良かった、と思った。
あまりこれに突っ込まれたくはない。材料とするバグのかけらの性質から調整しているとはいえ、作り方はまったく同じものだし。
『ゴァァ!』
『くっ……!』
「サーチマン、弱点を探せるか!?」
突っ込んでくるゴスペルを紙一重で回避しつつも、サーチマンはそれの解析を開始する。
まあ、それは好きなようにしてほしい。
あの獣の攻撃がジャンクマンに被害を与えることはない。
こうしている間に、私たちの戦闘準備は整えさせてもらう。
『ストーンキューブ』、『ディスコード』、『ティンパニー』。
石塊と妨害用の置物を二つ。
ゴスペルを倒す前から徹底的に妨害を行う。
サーチマン相手に不利な状態になれば、巻き返すのは難しい以上、常に優勢であり続ける。
「この――」
「対応を間違えないよう、気を付けたまえ」
爪を躱し、喰らおうとする牙を撃って牽制。
その後、音をかき鳴らそうとする『ティンパニー』を撃ち抜いて破壊した。
残った『ディスコード』が相手の思考を妨害する音色を奏でるが、そちらの音はサーチマンを狂わせるには至っていない。
正確性のある狙撃を必要とされるナビだ。その手の思考へのジャミングに抵抗するためのカスタマイズは十全に行われているようだ。
しかし、『ティンパニー』を破壊したのを見るに、動きを止められることには弱いと見た。
当然か。狙撃に情報処理、隠密行動――そうした能力を重視すれば防御力を高める余裕がなくなる。
ゴスペルの攻撃を安心して防げるとは判断できない訳だ。
『ゴォォォ!』
「潜り込め、サーチマン!」
『了解!』
横薙ぎに振るわれた爪を躱すように、サーチマンは床に穴を開け、潜り込む。
モモグランなどが有する『ユカシタ』能力を元にした塹壕の作成か。
『インビジブル』ほど万能ではないが、咄嗟の使用によって回避できる攻撃は数多い。
あれをチップの効果に頼らず使用できるのは中々に厄介だ。
穴自体は見えているが、その奥に攻撃を通すことは容易ではない。
「……」
その穴を注意深く見ているゴスペルだが――そこからサーチマンが飛び出してくることはないだろう。
それを伝えたいのだが、残念なことにあの獣には詳細な命令を受け付けはしない。
その都度送る“敵を害する”、“身を守る”という大まかな命令に従うだけだ。
「ジャンクマン」
『アァ、オデガ、アイツヲ、補エバイインダナ?』
此方の意図をジャンクマンは言わずとも理解していた。
二つの置物を浮かせ、ゴスペルが埋めることが出来ない隙を補う。
あまりあの置物のコントロール能力も小回りが利く訳ではないが、背後に忍び寄ったところを狙うなどは出来る。
真正面からは射撃の隙が殆ど取れない。
であれば、攻撃の及ばない場所に移動した上での攻撃を繰り返すか、或いは――。
「っ、防御!」
『――!?』
彼らが取ることが出来る一つの選択肢に思い至り、咄嗟にチップを送る。
たった一撃ながら使用者への攻撃を防ぐ『バリア』がジャンクマンを覆い、次の瞬間、彼の目の前に現れた穴から突きつけられた銃身が吠えた。
『コノ!』
腕をプレスに変え、その穴に振るったジャンクマン。
だが、その速度に追いつけず再びサーチマンは穴へと潜っていく。
「背後だ!」
『クッ――!』
彼の背を狙いつつ飛び出してきたサーチマンに『ディスコード』が飛んでいき、銃身にぶつかることで弾道をずらす。
弾丸がジャンクマンの真横を通り抜けていき、反撃のボルトミサイルを避けてサーチマンは距離を取る。
ジャンクマンの傍に駆け寄ってきたゴスペルに待機、防御指示を送る。
仕切り直しだ。ここまでゴスペルに相性の良い移動手段を隠していたのはあまり良くない想定外だな。
「無視してくるとはね」
「ナビに隙が見えたまでだ」
あのゴスペルを前にしていて、戦場を俯瞰する余裕があったか。
まあ……そうか。かつて私たちが戦ったそれほどのスペックがある訳ではないのだ。
世界トップクラスのネットバトラーともなれば、それも難しいことではないということだ。
「では――そちらも気を付けないとな」
ゴスペルに新たなコマンドを送る。
使用のたび送信しないと実行されない攻撃手段。セーフティーを解除し、ゴスペルが大口を開く。
油断なく構えるサーチマン。その体が吸い込まれるほどの強さで、ゴスペルは大きく息を吸った。
『これは――!』
「サーチマン、横に跳べ!」
瞬間、ゴスペルが吐き出したブレスが迸り、サーチマンの姿を呑み込む。
かつてのそれ程の規模はないものの、その威力はナビを一撃で粉砕出来るほどのもの。
ゴスペルの切り札である、エネルギーを純粋な威力として放出するそれは、バグから還元されたリソースを敵の弱点属性に自動的に変換して放たれるもの。
しかし、ここにいる獣が暴走しない程度のリソースではそこまでの解析能力を持たせることは出来ない。
このゴスペルに与えた属性は木。
サーチマンに対しては際立って有効という訳ではないが、それでも直撃すれば十分な威力となる。
――当たれば、だが。
『シッ――!』
その奔流の中から飛び出したサーチマン。
直撃を『インビジブル』で躱していたのだろう。目立った傷はない。
そして銃を構え、ゴスペルの口に狙いを定める。
弾丸が放たれる。そして、ほぼ同時にジャンクマンが放った『ストーンキューブ』がサーチマンに直撃した。
『ぐっ……!』
『ガァァァ――!』
彼へのダメージと引き換えに、弾丸はゴスペルの口を貫く。
本来のそれと同じように口の奥にだけコアが存在している訳ではない。表面を攻撃していても、リソースが修復を不可能となった時点で消滅する。
そして、あの獣にとって体内は明確な弱点だ。
苦しみ悶えるゴスペルの状態を確認し、小さく舌打ちする。
一撃でここまでダメージを受けるとは――やはり被弾はギリギリまで抑えないとならないな。
『グルル……!』
体内を貫通する威力ではあったものの、まだゴスペルは倒れてはいない。
リカバリーをゴスペルに適用させ、申し訳程度に傷を癒す。
……やはり、ゴスペルの劣化コピーだけで勝てるほど、甘くはないか。
通常のネットバトルでは使う気のない手段は幾つかある。此度利用しても構わないと決めたもののうち、ゴスペルだけでは足りないと判断し、次の手段を用意しておく。
「――っ!」
『ムッ――!』
ゴスペルに防御指示を出している影響で、サーチマンに攻撃の余裕が出来ている。
獣が防ごうとする爪を躱し的確に狙ってくる弾丸を、ジャンクマンが体を捻って回避する。
再度の攻撃指示――突っ込んでいくゴスペルに対して、先程のような焦りを彼らは抱いていない。
対応が可能だと理解したためだろう。
だが、同じようにはいかない。
このゴスペルを倒せるだろうと判断したのであれば、それで可能な限り追い込むまで。
送り込んだチップをジャンクマンが使用すれば、戦場が瞬く間に変化していく。
「チッ……厄介なことを!」
「このくらいの戦場は慣れっこだろう?」
毒に満たされた戦場の中で、ジャンクマンだけは守るべく、『フルカスタム』からの『サンクチュアリ』を使用させる。
ジャンクマンの周囲にだけ展開される聖域。
その外は踏みしめるだけで体力を奪う戦場と化す。
『デスマッチ3』――戦場を罅で覆う『デスマッチ1』、自身と相手の立つ場所以外の床を破壊する『デスマッチ2』とは違い、移動自体に制限は与えられない。
しかし、ナビそのものに影響を与え続けるこのチップは、オモテの世界で許されているチップの中で最も強力な毒を有するチップと言える。
かの、五大暗黒チップが一つ、『ポイズンアヌビス』が撒き散らす毒ほど強力ではないが、長く立っていればただでは済まない。
――床の影響を避けるためのフロートシューズをサーチマンは持っていない。
『パネルリターン』の用意はあるだろうか。ないのであれば、その作戦行動にはタイムリミットが発生した。
体力が奪われれば行動に粗が生まれる。
それはしっかり狙わせてもらおう。
「……」
どうにも、まるで悪役だな、と自嘲する。
徹底的に相手を粉砕するための戦法。許容される限りの、容赦のない勝利手段。
無情かつ冷徹な戦闘は彼の専売特許だろうが、今回ばかりは私がそれを担当している。
『ゴァァ!』
『この……!』
「サーチマン、サテライトを用いる。一気に片付けるぞ」
『了解――標的捕捉、チャージ開始』
毒の戦場に立ち、ゴスペルの攻撃を間一髪で回避しつつも、サーチマンは攻撃のために動く。
だが、その銃身に何らかの準備を施す様子はない。
であれば――攻撃を何か別の位置にある何かに任せているか。
「――上だ、ジャンクマン!」
『ッ、行ケ――!』
サーチマンが攻撃のためにコマンドを送信した先を特定した時には、それを妨害することは既に不可能な状態になっていた。
咄嗟に行ったのは妨害ではなく、それを利用すること。
ジャンクマンによって放り投げられた『ワラニンギョウ』はゴスペルの頭上に飛んでいく。
そしてその人形諸共、ゴスペルの額を撃ち抜いたのは、遥か上方から落ちてきたレーザーだった。
『――――、ライカ様……残体力、三割を切りました』
「……分かった。回復させる」
これだけやって、ようやく三割。
ゴスペルがあまり有効な攻撃を与えられなかったという点もあるが、それでもサーチマンの外見以上の耐久力に錯覚させる。
体力の限界を迎え、崩れ落ちていくゴスペル。
先の強力なレーザーをサーチマンへのダメージに利用出来たのは大きい。
だが、減らした体力をライカ少年がリカバリーチップで回復させていく。
――ジャンクマンの位置からでも、辛うじて見える人工衛星か。本来はサーチマンの情報処理をサポートするためのデバイスだろうが、強力な攻撃手段も持っているようだ。
「獣は討伐した。まだ小細工があるか?」
「あるかと言われれば、あるな」
ゴスペルのほかにもう一つ持ち込んでいる、今回の戦いにおける切り札。
ジャンクマンに持たせたプログラムを実行させる。
展開した槍のような装甲がジャンクマンの腕に取り付けられる。
「……?」
その装備は、見た目とは違い近接戦闘のためのものではない。
先端に集められたエネルギーは、突き出されると同時にばら撒かれる電流として戦場に顕現する。
『――――!』
あっという間に戦場を埋め尽くすほどに広がる無数の電流。
まるでブービートラップのように展開されたそれに切り裂かれたサーチマンは、続いて飛来した『ディスコード』の直撃を受ける。
この電流を齎す装甲もまた、ゴスペルと同じだ。
私の精神にこびり付いていた旧インターネットの残滓から成分を抽出し、ジャンクマン用の装備とした、私が相対した脅威の利用。
それが『プロトアーム
エール(ゴスペルは電脳獣を模したウイルスと説明できる。プロトの戦闘形態は私と光少年しか知らない。私の作戦に隙はない!)
プライド(本当に! ほんっっとうにあの人は!!)
某国首脳(クリームランドのプリンセスがご乱心だ……!)
デミ・ゴスペルに次いで持ち出したプロトアーム。
3に登場するギガチップと同名ですが、あくまでジャンクマン専用の装備でありチップではありません。チップの方がマシです。