バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー 作:けっぺん
プロトのプログラムが切り札と定めた武器による電撃の網。
かつては、半壊のプロトの核が逃げる際に張り巡らせ、私たちの障害となった。
今回はそれを私たちの武器として、使わせてもらう。
『くっ……これは……!』
「援護する。落ち着いて対処しろ、サーチマン」
『バリア』でやむを得ない被弾を防ぎ、『エリアスチール』で一気に詰め寄る。
それは予想出来ていた。『インビジブル』で射撃を回避し、詰め寄ってきたサーチマンに集中して電撃を浴びせかけることが出来る――
『――今!』
『グァ!?』
しかし、その電撃の中で、銃を構えるサーチマン。
スコープを通して放った弾丸は『インビジブル』ですり抜けることなく、ジャンクマンを捉え撃ち抜いた。
あのスコープガンは『インビジブル』を貫通して相手を捉えることが出来るのか。
私にとって、生命線とも言うべきチップが実質的に封じられたことに歯噛みする。
幸いジャンクマンは数発は受けても問題ない耐久力を持ってはいる。
だが、咄嗟の回避が出来ないその性質は決して軽視できない。
――それでもこの撃ち合いをしている限り、サーチマンに勝ち目はない。
この近距離で集中している電撃は並のダメージではない。
それを分かっているのだろう。サーチマンはそれだけ撃ってすぐに離れていく。
下がった場所に『ディスコード』を投げつけ、それを対処している隙に電撃を上方へと飛ばす。
狙う先は――先程レーザーを放ってきたサテライト。
先のレーザーは銃弾とは比較にならない威力を有していた。
しかし、あれほどサーチマン本体とは離れた場所にあるものをずっと意識に置いておくのは難しい。
「――無駄だ。サテライトは並の高度には配置していない。その電撃では届かない」
「……なるほど」
電流はサテライトに届くより前に飛散する。
それならば、無理してこの電撃であれを狙う必要はない。
「ジャンクマン、サーチマンを牽制。“もう一方”でサテライトを撃つ」
『ワカッタ――行クゾ!』
電流をばら撒いたジャンクマン。
多少、それに慣れてきたのかサーチマンは危なげなく躱していく。
毒で徐々に弱ってはいるもののまだその動きの軽さは健在だ。
だが、今は避けられても構わない。此方に攻撃をさせないように限界まで張り巡らせ、その隙にジャンクマンにもう一つのプログラムを実行する。
電撃を放つパーツを付けた腕とは反対側に取り付けられる、巨大なロケット。
――『プロトアーム
それを上方のサテライトへと向け、射出する。
「っ、サーチマン、撃ち落とせ!」
『はっ!』
サーチマンが銃口を上っていくロケットに向け、弾丸を放つも、簡単に打ち砕けるようなものではない。
勿論、その無防備は狙わせてもらうため、そのまま何度も撃たせるつもりはないが。
余所見をしているサーチマンに向けて『ストーンキューブ』と『ディスコード』をけしかける。
さらに『オウエンカ』を設置。
これは音を奏でている間はナビは殆どの攻撃から身を守られる。
『インビジブル』よりもその防御範囲は広く、ネットバトルにおいては相手の攻撃タイミングを制限させるのに有効な代物だ。
『くっ、厄介な……!』
しかし、此方が飛ばした置物を注意する余裕もあるようだ。
それらを回避し、さらに飛ばした電流を岩陰に隠れることで防ぐ。
そうしている間にロケットは飛んでいき――
「やむを得ん、溜まっているエネルギーを射出しろ!」
『了解!』
まだ完全に充填されている訳ではないのだろう。
しかしせめてもの抵抗か放たれたレーザーは、しかしロケットを破壊するには至らなかった。
そして――電脳の上方で爆発が起きる。
サテライトは撃破した。これであとは、サーチマンのみに集中するだけだ。
「……サテライトは此方の切り札だったが。そちらの切り札とは消費し合う結果となったか」
「先のものも含め、二つ失った以上、此方の方が損失は大きかったがね」
しかし、此方にはまだ『プロトアームΣ』が残っている。
有利な状況は変わりない。後はこのまま、押し切れるかどうか。
「まだサーチマンの余力は残っている。この程度の窮地であれば、幾らでも巻き返せる」
その、ライカ少年の確信を持った言葉。
信頼に応えるように岩陰から飛び出し軌道を曲げた弾丸がジャンクマンに飛んでくる。
『オウエンカ』の音色により防ぐことは出来たが、ここで見せられた弾の軌道変化という更なる技術は確かにまだ逆転が可能だと宣言するようだった。
こうなると、岩陰に隠れている状態を放置しておくのも不味い。
岩の向こうに『ディスコード』を放り投げ、続くチップを使用する。
これは、去年科学省で学んだ技術。
無害ウイルスの情報をチップデータにして、ナビチップ同様に利用するまだ一般化していない代物だ。
呼び出されたのはクーモス、クモモート、クモゲイツという、私が保護している三体の無害ウイルスを再現したもの。
それらは標的と定めたサーチマンへと這い寄っていき、その道中に蜘蛛の巣を置いていく。
『新たなウイルスか――!』
「所詮は通常のウイルスだ。即刻仕留めろ!」
岩陰から飛び出したサーチマンはクーモスをスコープガンで撃破。
その後、ジャンクマンが操る『ストーンキューブ』にクモモートを激突させた後、放り投げた手榴弾がクモゲイツを粉砕する。
しかし、彼らが残していったものは戦場に確かな影響を齎す。
設置された蜘蛛の巣はサーチマンの動きを完全に封じ込められるほどの接着性は持っていないが、それによって発生する損傷は決して今の彼には無視出来ないもの。
毒の戦場の中でさらに動きを制限する蜘蛛の巣。
この中で電流と飛び回る置物を回避するのは至難の業だろう。
「――まだまだ!」
スコープガンと『サークルガン』、離れたところから弾丸を当てることが可能となる二つが、『オウエンカ』による守護のなくなったジャンクマンを捉える。
聖域の祝福によってダメージは限界まで抑えられているため、まだ危険域ではない。
そんな油断を咎めるように――聖域を破壊するほどの威力が叩き込まれる。
『グゥゥ……!?』
「――『マグナム』か」
床を破壊するほどの重い射撃。
その戦場に加護を与える『サンクチュアリ』は今の一撃によって粉砕され、ジャンクマンのダメージを減らす領域は消滅した。
さらに、ようやくチップが回ってきたのだろう。『パネルリターン』によってサーチマンの周囲の毒が抜けていく。
問題なく立つことが出来る床で体勢を立て直したサーチマンを、ライカ少年はリカバリーで回復させた。
「しぶといね」
「こうでなければ、シャーロ軍人は務まらん」
――恐ろしいな、シャーロ軍人。まさかとは思うが、グレース嬢もこのレベルなら耐えられたりするのだろうか。
話している間にも行われる、『オウエンカ』への狙撃。
それを防いだ『ストーンキューブ』だが、ここまでの酷使で限界を迎えていたのだろう。遂に砕け散った。
「そちらの敷いた戦場は一つずつ破壊させてもらう。最後に立っているのは我々だ」
「どうかな。此方には戦場を敷き直す手段がある」
破壊された『サンクチュアリ』は既に、ジャンクチップとしての復元が完了している。
それにより再び展開される聖域に新たに設置される『ティンパニー』。
『させん!』
動きを止めるその音はサーチマンにとっても危険なものなのだろう。
射撃と共に『ボーイズボム』を設置し、此方に吹き飛ばしてくる。
相手に近付くことで自動的に爆発するその爆弾は、しかしジャンクマンにとっては脅威とはならない。
『ソレ、モラウゾ!』
此方に近付いてくる『ボーイズボム』のコントロールを掌握し、押し返そうとするも、サーチマンに近付く前にそれは爆発する。
爆風によって姿を隠したサーチマン。
『パネルリターン』によって修復された床の外に飛び出す可能性もあるか、と思って周囲を警戒していれば――戦場の一角が爆発した。
『ぐああああぁぁぁぁぁ!』
「サーチマン!」
無意識のままに踏みしめた地雷――『ステルスマイン』はサーチマンの次の動きを中断させた。
戦闘開始間もない頃に設置しておいたそれが遂に効果を発揮した直後、『ティンパニー』がサーチマンの動きを止める音色を響かせる。
頃合いだ――二枚のチップを使用する。
使用したナビの動きを暫く封じることで次に使用するチップの威力を飛躍的に上昇させる『ダブルポイント』――そして、それが強化させるのはもう一つのメガクラスチップ。
サテライトをロケットが撃ち落とした空から、幾つもの隕石が落ちてくる。
『リュウセイグン』、戦場全域の敵を殲滅する星の雨は、必殺を期したチップ。
「負けられるか――行け、サーチマン!」
『っ――了解! 必ずや、勝利を!』
しかし、その使用に反応したライカ少年の罠が先にジャンクマンを襲う。
『カキゲンキン』が巻き起こした爆発がジャンクマンを包み込み、同時に『オウエンカ』と『ティンパニー』、そして『ディスコード』を粉砕する。
ここに来て互いの罠が戦況を動かし、急速な勢いで終幕へと向かっていく。
降り注ぐ流星の中を掻い潜りつつ、ジャンクマンへと駆け寄るサーチマン。
対して、復元した『ストーンキューブ』によって迎撃しようとするも、彼は一枚チップを使用し、さほどの被害を与えないままに去っていった。
床を這って反撃とばかりにばら撒かれた電流は――『エレキショック』か?
見れば、ジャンクマンを守ろうと張った聖域は再び罅割れ、その効果を失くしていた。
そして、流星が絶え間なく爆発を起こす毒の戦場の中で――不意にサーチマンが立ち止まった。
流星の一つや二つ、耐えて見せると言わんばかりにその場で動かず、此方に銃身を向ける。
――そして、巨大なバルカン砲に変化した銃身が、爆発の向こうにかすかに見えた。
もしも、あの場を動いていない理由が、ジャンクマンに使用したチップと同じものなのだとしたら。
「――――」
『クッ――――!』
『スーパーバルカン』をも超える圧倒的な弾数を誇るプログラムアドバンス、『ムゲンバルカン』。
その弾丸一つ一つに乗った、動くことを引き換えにした凄まじい強化がジャンクマンを蹂躙していく。
電撃も、流星も、その弾全てを迎撃するには至らない。
なおも続く流星が齎す大爆発がやがてサーチマンの姿を完全に見えなくし――
――全ての攻撃が止み、静かになった戦場。
鮮明になってきた戦場から姿を消していたジャンクマンを追うように、力を使い果たし倒れていくサーチマンにプラグアウトコマンドが出された。
同時、ではない。ほんの数秒の違いではあるが、先に力尽きた者がどちらかは明白だった。
「――――ジャンクマン、デリート! 両者の差はごく僅か! 全ての力を使い切り、サーチマンが勝利を掴みました!」
……健闘した、とは言えるか。
最終的にあそこまで激しい戦場になるとは思わなかったものの、あの中で彼らをギリギリまで追い込むことが出来ていたのだから。
「……お疲れ様、ジャンクマン。素晴らしい戦いだった」
『……ン。オデモ、エールモ、ヤリキッタ。ダカラ、アマリ悔シサハ、ナイ』
それなら良かった。
色々と普通ではない代物まで持ち出し、その上でのオペレートはやはり万全とは言えなかっただろう。
だが、この状態でオペレーターとしての私が出せる全力は、確かに出した。
彼に悔いがないようであれば、私も満足だと言えよう。
「……たった数秒。それが勝敗を分けるほどにまで、追い込まれるとは思わなかった」
「私も、正直そこまで追い込めるとは思わなかったよ」
どっと出てきた疲れから、ネットバトルマシンに手をついて呼吸を整えていれば、ライカ少年が此方に歩いてきた。
私自身もそうだが――彼としてもこの結果は予想外であったらしい。
あの場で『インビジブル』を使えていれば。『オウエンカ』が残っていれば――“もしも”など幾らでも思いつく。その上で後悔が生まれてこない以上、この結果に文句の言いようなどない。
「互いに全力だった。その上での、キミの勝利だ。おめでとう」
「……ああ。言語道断な話ではあるが――最後は、軍人ではなく、一人のネットバトラーとして戦っていた。ゆえに、その言葉は受け取ろう」
そう言って、彼は躊躇いがちに手を差し出してきた。
ネットバトルを楽しむという心も――どうやら、彼にない訳ではなかったらしい。
その手を握る。まともにネットバトルなどやってこなかった。こうした、“らしい”ことの経験も生まれてこの方なかったが、勝負が終わった後にこうするのはネットバトラーとしては当然なのだろう。
試合が終わったからか、先より鬱陶しさを感じない歓声の中で――初めて、彼のほんの僅かな笑みを見た。
バグの獣、電流、ロケット、人工衛星。
そして隕石が降り注ぎ絶え間なく爆発を起こす戦場に飛び交うララパッパたち。
およそネットバトルとは思えない地獄絵図に貴賓席の約一名が諦めたような微笑みを浮かべていたそうな。
そんな訳で、サーチマンの優勝でレッドサントーナメントは閉幕。
次話より4編の最終局面に入ります。