バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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星の終わりへのカウントダウン 【本】

 

 

 決勝戦が終わって暫く。

 私は閉会式の会場に移動するためと、車で移動していた。

 しかし、どうにも違和感を感じざるを得ない。

 何故、アメロッパ城で閉会式を行わないのか。そして、何故プライド様がこの車に乗っているのか。

 選手たちはそれぞれ、別の車で移動しているらしい。

 移動を始めて一分ほど。不意に、プライド様が此方に言葉を投げてきた。

 

「……大会、お疲れ様でした。見応えのある試合でしたよ、エール」

「――はい。ありがとうございます」

「使っていたモノに、幾つか追求したいものはありましたが、それは不問としておきます。決して悪用だけはしないようにしなさい」

「心得ています」

 

 ゴスペルについて、プライド様が詳細な姿を知っている訳ではない。

 だが、バグ融合体については説明しているし、それが獣の姿を模すことはプライド様も知っている。

 あの時の怪物を再現しているのだろうとは、プライド様も思い至ることは出来るのだろう。

 

「ところで、何処に向かっているんですか?」

「すぐに分かります。わたくしからは……まだ、話すことは出来ません」

 

 何処か上の空といった様子のプライド様。

 ここ数日、このようなプライド様は何度も見ているが、今の彼女から感じられる焦りは相当のものだ。

 一体何が起きているのだろうか。

 ネットバトル続きでかなり疲れてはいるが、プライド様の悩みの種がこれから行く場所にあるのであればそれを失くしておかなければならない。

 

「……エール」

「はい」

「――今から、貴女にまた、重荷を背負わせてしまうことになります」

「構いません。プライド様のためならば、幾らでも」

「……いつになったら、貴女に少しでも、返すことが出来るのでしょうね」

 

 もしかしたら、そうなるのかもしれないという曖昧な認識はしていた。

 しかし、プライド様に改まって言われずとも私は応じるつもりではあった。

 返す必要などない。そもそも、これは私にとっては貸しでも何でもない。

 プライド様だからこそ、私が為したいと思っていることなのだ。そこに何も見返りを求めることはない。

 

「気にしないでください。私にとっては、プライド様の悩みに力になれない方が辛いのです」

「……」

 

 かつてのようなことをプライド様が背負っているのであれば、私は何度でも体を張る。

 知恵を振り絞り全てを投げ出して、あらゆる技術をもってそれを助けるつもりだ。

 黙り込んだプライド様。そうしている間にも、車は何処かへ淡々と走る。

 前を行くのも、後ろを走るのも、他の選手が乗った車だろう。

 観客にはどう説明しているのだろうか。彼らとしては、あのまま閉会式が行われる想定だったと思うのだが。

 

 私の疑問は晴れないままに、車は妙な場所に辿り着いた。

 到底、そこで閉会式が行われるとは思えない場所。

 どころか、大会に参加した選手たちが集まるにはあまりに違和感のある施設だった。

 

「……プライド様?」

「――目的地はここです。下りてください、エール。全て、ここで説明することになっています」

 

 プライド様の言葉を受け、車から下りれば、他の選手たちも怪訝な表情でその施設を見上げている。

 ――レッドサントーナメントの選手だけではない。

 光少年や伊集院少年たち――ブルームーントーナメントの選手まで、集まっていた。

 二つの大会の選手が集まっているのか? 一体何故、こんな場所に――。

 見上げた施設は、宇宙開発の最先端。

 アメロッパ国際宇宙局――ANSAであった。

 

 

 

 私たち――結局試合会場に間に合わなかった名人氏を除いた、計十五名の選手たちはANSAの中に通された。

 ここの技術者は、私のようなフリーの医者(デバッガー)の手など必要ない、世界でもトップクラスの者ばかりだ。

 ゆえに、一度として訪れることなどないだろうと思っていた。

 それを理由も分からないままに招かれることになるとは……。

 

「あ……エールさん」

「やあ、光少年。話は聞いているよ、優勝おめでとう」

 

 たまたま歩く中で隣り合った光少年に、ひとまずそれを告げる。

 ブルームーントーナメント決勝戦は、激戦の末彼らが勝利を収めたと聞いた。

 伊集院少年の表情にも後悔はなかった。まだ映像を見てはいないが、さぞ見応えのある勝負だったことだろう。

 

「うん、ありがとう……エールさんも、惜しかったんでしょ?」

「まあ、此方には悔いはないさ。短期間の詰め込みでここまで出来たのだしね」

「最初に聞いた時はビックリしたよ。エールさんがナビを持って、大会に出るって聞いた時。ねえ、オレとも今度ネットバトルしようぜ」

「機会があればね。少なくとも、今はそんな空気ではなさそうだ」

「そうだね……何があるんだろ」

 

 光少年も話を聞かされている訳ではないらしい。

 この施設はネットバトルとはまるで縁のない場所だ。彼も、訪れるのは初めてだろう。

 どうにも、ここまで何の説明がないことを不審に思いつつも職員の指示にしたがって歩く。

 そうして案内されたのは、管制室の一つだろうか。

 壁にいくつもの巨大モニターが取り付けられた如何にもな一室だった。

 そこに待っていたのは、何人かの職員と、私も知っているような著名な科学者たち。

 

「――パパ?」

「熱斗か……? そうか……ブルームーントーナメントの日本代表は、お前と炎山くんだったのか」

 

 光氏――ここにいるそうそうたる面々の中でも最たる知名度と技術を持つ彼もまた、そこにいた。

 そして――

 

「……リーガル」

「君もいたのか、ヴァグリース。いや、構うまい。信頼できる技術者だ」

 

 最後に会ったのは一ヶ月ほど前か。

 国の評判はともかくとして、その技術は光氏同様、世界有数のもの。

 彼もまた、ここにいる面々に並ぶのに相応しい存在だ。

 そんな二人も含めた科学者たちの前に集められた私たちは、未だに状況が掴めていない。

 その中で――ようやく説明時だと、選手の中から離れていく者が一人。

 

「では、これから皆さんが集められた理由について、説明しようと思います」

 

 グレース嬢――彼女が話を切り出し始めたことに、ライカ少年は怪訝な表情を深める。

 

「一応、自己紹介をさせてもらいます。シャーロ軍所属、グレース。今回、我々シャーロ軍の宇宙開発部隊及び情報処理部隊はANSAと協力し、一つの危機に向けて秘密裏に動いてきました」

「危機、だと……?」

「はい。単刀直入に言います。現在、この星に巨大な小惑星が接近しています」

 

 ――――は?

 その、あまりにも唐突に告げられた、荒唐無稽に過ぎる事態を理解できないとばかりの沈黙。

 徐々にざわつき始めた部屋の中で、ライカ少年が一歩前に出て、グレース嬢に問いを投げる。

 

「……そのような話は聞いていないぞ」

「ええ。レベル5のトップシークレットですからね。ANSAとシャーロ宇宙センターの関係者と、各国の首脳陣、それから今お話しした皆さんしか知らない情報です」

 

 この場所にはプライド様や、他にも来ていたらしい各国の重役は来ていない。

 ゆえにその言葉が真実なのか窺うことは出来ないが――もしも、それが本当であるならば、ここ暫くのプライド様の様子にも納得できる。

 先にその事実を知らされ、また彼女は背負っていたのだ。

 

「待ってよ、いきなりそんなこと言われても、何がなんだか……」

「そうですね。無理もないです。ですが、紛れもなく真実。このままでは小惑星は今からおよそ十三時間後――アメロッパ時間で明朝六時頃、この星に衝突する計算です」

「十三時間後!?」

 

 あとたった半日。

 それだけしかない猶予もまた、受け入れるのに時間を要した。

 まるで、使い古された設定のSF映画のような事態。

 この場所に連れて来られてなおも信じられない地球の危機を私たちに知らしめるように、前方のモニターが切り替わり、その小惑星の観測データが表示される。

 

「そ、それだけしかないってのに、呑気にネットバトル大会なんざやってたってのか!?」

 

 混乱を隠さない選手の一人が叫ぶ。

 確かに、その危機を把握していたというのなら、こんなことをしている暇があったのか?

 

「はい。そして、それは皆さんの最後の時間を奪うなどという理由では断じてありません」

「じゃあなんで――」

「各国の代表ネットバトラー。皆さんの力をお借りしてこの危機を脱したいのです」

 

 ――プライド様が私に背負わせなければならないと言っていた重荷とは、相当のものであるという覚悟はしていた。

 しかし、それがこの星そのものの危機であるなどと、誰が予想出来ただろう。

 

「どういう事だ……?」

「――」

 

 それに対し、説明しようとしたグレース嬢の前に出てきて、手で制したリーガル。

 ここから先は引き継ぐとばかりに。

 

「名だたるネットバトラーの皆、初めまして。私はリーガル。しがない科学者だ。今回、皆を集め小惑星の衝突を回避するための作戦を立案させてもらった」

 

 リーガルが決めた作戦だったのか。

 であれば、信頼は出来る。この星の危機を救うためとあれば、彼も全力を尽くすだろう。

 だが、疑問は晴れない。そんな事態に大会を開催し、世界中のネットバトラーを集めた理由が分からない。

 

「まず、二つの大会を開催した理由だが、この作戦を任せるに足るネットバトラーを見出すためだった。本来の作戦では、双方の優勝者のみを起用する予定だったが、光祐一朗博士や、そちらのグレース嬢により、全員の力を借りることを提案された」

「……そもそも、小惑星衝突の対策にネットバトラーが起用される理由は?」

「そうだな、先にそれを説明しよう。落ち着いて聞いてほしい――小惑星は、人工物なのだ」

「なっ……!?」

 

 人工物――つまり、人の手によって作られたと?

 この星の歴史を、覚えている限りで思い返す。

 宇宙開発については詳しくないが……そんな話があれば、ニュースくらいは聞いている筈だが、やはり、記憶にはない。

 

「調査の結果、小惑星からは電脳世界のものと思われる周波数の信号を感知出来た。球体のロケットに、長い年月を掛け宇宙の塵などが付着したのだろう」

「球体のロケット……? そんなものをいつ打ち上げていたんだ?」

「無論、この星の宇宙開発の上ではそんなものが発射された記録はないし、仮に存在していたとしても今の状態になるまでの年月を考えれば同一のものではない。ゆえに考えられる――この星以外から発射された可能性」

「……外宇宙の、ロケット」

「しかし、どの星から発射されたのかは重要ではない。如何に小惑星の衝突を回避するかだ。電脳世界があるというならば――」

 

 外宇宙からのロケット……まるで想像がつかないな。

 だが、それが真実であるのならば、この危機を脱する方法として一つの手段が思いつく。

 それは確かに、強力なネットバトラーでなければ任せることが出来ないほどの危険な作戦。

 そして同時に――最も可能性があるだろう手段。

 それが、私たちが呼ばれた理由――

 

「――ナビを送り込んで、コントロールシステムから軌道を変える。これが我々の取れる、最上の手段だ」

 

 何の情報もなくそれだけ聞かされれば荒唐無稽としか思えない、この星の最終作戦だった。




物凄く唐突に発表された星の危機。
本作ではプライド様やグレースがほのめかすだけですが、原作ではプロローグからこの危機は言及され、熱斗の活躍の裏で小惑星対策が行われています。
最初は光パパの提案した、地上からレーザーを放って小惑星の軌道を変える作戦を進めていました。
それが発射直前にエネルギーが落とされ、軌道変更に失敗した訳ですね。
この装置で軌道を変えるには200%のチャージが必要だったみたいですが何故その状態を100%として開発しなかったのかは不明です。時間とか足りなかったんですかね。


そして、4編において原作と最も異なる点。お呼ばれしたのが両大会の優勝者だけではありません。
流石にこんな惑星規模の危機にまで子供メインで頑張らせるのはやべえと思い、大人にも頑張ってもらうことにしました。
じゃあなんで大会なんて開いてんのよって話ですが、協力する他のメンバーの能力把握や信頼関係の構築のため、トップシークレットのため自然な形で代表をアメロッパに集めるためとかその辺ですね。
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