バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー 作:けっぺん
小惑星の電脳に降り立った四人のナビ。
辺りは正に宇宙空間といった世界。
浮かぶ星々に紛れて、無数のデータファイルが流れていく。
「皆、無事にプラグインは出来たか?」
『うん――四人とも平気だよ』
辺りを警戒するように見渡しているブルースたちに代わり、ロックマンが答える。
入り込んだプログラムの形式によって内装が自動的にコンバートされているのだろうか。
この電脳世界には普通に床があり、地球の電脳世界とそう変化は見られない。
無重力を模した状況でのオペレートとならなかったのは幸いか。そうであれば作戦の難度が劇的に上がっていただろう。
『君たちが、サーチマンとジャンクマン――ライカくんと、エールさんのナビ?』
『ああ。ワタシはサーチマン。ロックマンで間違いないな?』
『オデハ、ジャンクマン。ヨ、ヨロシク……』
『うん、よろしくね。他の皆は――』
互いの姿と能力については、事前のミーティングで共有を行っている。
とはいえ、顔合わせはしていない。
この場で挨拶をし合うナビたちが後ろを振り向けば、一歩遅れて多くのナビがプラグインしてくる。
大会に参加した選手のナビ――この作戦においてジャンクマンたち四人を護衛する役目を持った者たち。
ふわりと浮いて前方を観測するギャラクシーマン。
ネットバトル以上に、この場の攻略は彼の得意分野かもしれない。
宇宙観測が本来の役目である彼は、本来こうした場こそを想定されたのだろうか。
『……はー……何ともまあ、とんでもない電脳世界ですね。上の方に流れているの、この小惑星……ロケットの航行データですよ。こんな状況じゃなければ年単位で入り浸って探索したいくらいです』
グレース嬢の感嘆は分からなくもない。
あのデータが航行データだということは知らなかったが、少なくとも外宇宙の何らかのデータであったのは間違いないのだ。
それらに興味を惹かれるのは同意だし、持ち帰る余裕があるというのならそれも悪くない。
とはいえ――そんなことは後回しだ。
私たちにとってどれだけ有益なデータであったとしても、まったく意味がなくなるかどうかの瀬戸際なのだから。
「……通信室、グレース。真面目に解析を行え。無駄なく作戦を遂行するために、お前の働きは必要不可欠だ」
『興味はともかく、仕事自体は大真面目にしてますよ。電脳世界そのものは広いですが、殆どがデータ保存のためですね。歩いていける箇所はそう多くもなく、複雑でもなく。ですが――』
「何かあるのか?」
『総数不明のウイルスとジャンクデータ、そして強力な磁場の乱れ……コントロールシステムは遠くはありませんが、道のりはそれなりに険しいと思われます』
障害は数多い、ということか。
内容からしてそれらは本来このロケットに備えられたセキュリティという訳ではなさそうだ。
長い航行で入り込んだデータによる不具合などの結果か。
それが天然の要塞を作り上げているらしい。
「それぞれの対処手段は?」
『前者二つは単純に迎撃を。磁場の乱れに関してはギャラクシーマンが対処します』
磁場の乱れ――それがナビたちにどういう影響を及ぼすかは不明だが、どうやらそれを対処する手段は確立されているらしい。
であれば、それに任せよう。不確定要素は少ない方が良い。
『では、解析した結果をもとに道を示しますので――皆さん、よろしくお願いします』
ギャラクシーマンが先導する形で、進み始める。
ここには誰一人として、どうなっても良いなどという考えを持った者はいない。
全員が全員、次の朝が訪れることを望む者たちだ。
出身国も思想も関係なく、この場においては気持ちは一つ。
ゆえに――この場で協調性を持たない者など、誰一人いなかった。
この電脳世界に棲息するウイルスは、当然地球に存在するそれとは違うだろう。
だが、それらも私たちという存在に合わせて変換されているらしい。
その技術からして地球より高度なものだが、それは大きな問題ではない。
いま重要なのは、このウイルスたちが私たちにとって対処可能であるという点だ。
『ふっ――!』
サンダーマンが巻き起こした雷雲。
そこから伸びる数多の雷撃が、サーキラーたちを撃ち抜いていく。
雷撃に続くチップによる攻撃の数々が、ボムボーイの進行を押し止める。
そしてボムボーイたちが運ぶ爆弾が止まっているうちにジャンクマンがコントロールを奪取し、ウイルスの軍勢に放り投げ爆発させる。
相手のウイルスは確かにかなりの数だ。
だが、此方もまた、力あるナビが協力している。
星を背負っているのだ。このくらいのウイルスの群れで止まっていては話にならないのだ。
『右方、ワタシたちの存在に反応したデータが多数接近。ジャンクマン、捉えられるな?』
『ア、アァ! 任セロ!』
ナビたちに引き寄せられるジャンクデータの群れ。
それらはサンダーマンたちが迎撃するよりも負担が少なく、その扱いに特化したナビがいる。
ジャンクマンにとってそれを操ることは自身の体を動かすように容易いことだ。
瞬時に飛来するそれらを抑え込み、逆にウイルスたちにけしかける。
それによって開いた前方へと駆けていく。
『っ、磁場の乱れだ! ギャラクシーマン、お願い!』
『畏まりました。ブラックホールボム、射出します』
そして、磁場の乱れによって上方に突如として発生した重力場。
ナビたちの進行が止まり、ウイルスたちは引き寄せられ、それに近付くと共に押し潰される。
中心にまで引き込まれてしまえば、頑丈なナビでも一溜まりもないそれに、ギャラクシーマンはふわりと近付いて、その胸元から小さな黒い球体を発射した。
飛び込んでいった球体は、その中心で爆発し、磁場の乱れを上回る力によって強引に飛散させた。
――これが、ギャラクシーマンが持つ大規模な攻撃能力。
発揮させる威力にもよるが、準備に数十秒から数分間掛かり、その間は無防備も同然という、ネットバトルに使うには無理がある兵器。
それは他のナビでは抗ってその場で耐えるのに精一杯な重力場を一撃で消し飛ばして見せた。
ネビュラがウラに設置した扉を、レヴィアと同じように彼も破壊可能だとは言っていたが、それも頷ける。
少なくともこの攻撃の威力に関しては、彼はレヴィアをも超えるだろう。
「この調子なら……!」
「ああ、間に合うが――」
何もなければ、という話だ。
作戦を開始してからもうすぐ一時間が経過する。
今のところは順調。だが――果たしてそれで終わるかどうか。
「あれは――」
そんな悪い予感というものは当たるもので。
見えてきた舵輪のようなコントロールシステム。
そこまでの道は、存在しなかった。
『どうやってあそこまで行けば……』
『ギャラクシーマン、行けるか?』
『不可能です。未知のセキュリティで塞がれております。解析、ロックの解除に掛かる時間は不明――』
ここに来て、寸前を塞ぐ未知のセキュリティと来たか。
あの場にはシャーロ軍の、情報処理のスペシャリストとも言えるナビが二人いる。
サーチマンとギャラクシーマン。彼らに任せるほかないが……それが、この星を超える技術によるものである以上、彼らに解除可能なものであるかも分からない。
大丈夫だろうか――或いは、私も協力のために赴く必要もあるかもしれないと考え始める。
「やむを得まい。強行突破は可能か?」
『それも、難しいと思われます。強度そのものも凄まじい。コントロールシステムに近付く必要もある以上、力押しでの突破は推奨しません』
ライカ少年の問いに、ギャラクシーマンは淡々と答える。
もしもこれを無理やり破壊出来たとしても、向こう側へと渡る道が存在しない。
それはセキュリティを解析し、解除と同時に呼び出すしかないものだ。
どれだけ時間が掛かっても――ここはまともに解除するしかない。
かなりの足踏みとなることは間違いないか……そう思った時だった。
『■■■■■、■■■――悪の、エネルギーを感知』
意味が存在しているかもわからない、私たちには認識できない言葉の後に続く、厳かな声が響き渡った。
ナビたちが見上げた先。
そこには――顔があった。
ジャンクマンの倍はあろうかという巨大な顔。
その、感情の見られない赤い瞳は、じっとナビたちに向けられている。
『何者――』
ソードを向け、威圧しようとしたブルースを手で制し、ギャラクシーマンが前に出る。
浮遊してその顔と同じ高さにまで上がると、丁寧な所作で一礼した。
『ワタシはギャラクシーマン。この物体が現在向かっている星より遣わされた存在です。失礼ですが、貴方の名をお聞かせいただけますか?』
『――我はこの惑星破壊ロケットのオペレーションシステム――デューオ』
彼の言葉に応え、その巨大な顔は名乗りを上げた。
オペレーションシステム――よもやそれが、ナビと同じように疑似人格プログラムを持っていようとは。
そして、問題はそれだけではない。あの小惑星……ロケットの本当の正体を、デューオと名乗った存在が口にした。
『惑星破壊ロケット……それが何故、我々の星へと向かっているのですか?』
地球の外を観測するためのナビ。
ゆえに、彼は万が一、他の星の生命を観測した時、コンタクトを取る役割を持っているのだろう。
礼を欠かないよう、丁寧に問うギャラクシーマンの問いに、デューオは再び口を開いた。
『我が創造者がメモリーに記したのは“悪を裁き、滅びを与えよ”というプログラムのみ。そして我は長き航海の中で、お前たちの星に大量の悪を感知した』
『大量の、悪……?』
『そうだ。それは人間という生き物だ。お前たち、勇敢な戦士たちの戦いを見届けている生き物たちが該当する種族だ』
悪を滅ぼす――その、彼に記されたプログラムは、人間をその対象として定めたらしい。
感知した、滅ぼすべき対象が住まう星こそが、この地球だった。
『人間という生き物は高度な種族だ。高い知能を持っており、己が技術を研鑽し進化する可能性がある。だが、その心に満ちているのは、膨大な悪だ』
『……』
『悪は伝播する。人間だけではなく、それはお前たちにも既に根付いている。ゆえに、我はプログラムに従い、この星に住まう全ての悪に裁きを下すことを決定した』
何を勝手なことを――と、管制室の誰かから怒号が飛ぶ。
怒るのは当然だ。そんな理由で突然この星に滅びを齎されては堪ったものではない。
勿論、私もそんなこと、許容は出来ない。
心に悪が存在する。それを否定はしない。だが、それとの付き合い方を心得ている者が多いからこそ人間という種は現在まで存続していられているのだ。
『ボクたちにも……?』
『お前たちの作られた心にも、根付く悪は存在する。悪は多くを誘惑し、他を破壊し、より大きな滅びを齎す。その果てにある最悪の事態を防ぐために、我は創造された』
ここ暫く――悪の心というものと、多く関わった。
そうして立ち会うことになった星の危機。その根幹こそが、悪そのもの。
外宇宙のあまりにも唐突な正義の執行者。彼が齎す人間という種に対する裁きは、こうしている間にも徐々にこの星へと迫っていた。
・デューオ
4のラスボス。
エグゼシリーズのラスボスの中で唯一、地球上で生まれた存在ではなく、外宇宙の文明によって作られた、惑星破壊ロケットのオペレーションシステム。
この惑星破壊ロケットとは4で地球に飛来した小惑星の正体であり、デューオは己のメモリにある“悪を滅ぼす”というプログラムに従い、悪性たる人間という種を滅ぼすためにやってきた。
己の行動規範を「プログラムに従うのみ」としており、ロックマンの説得にも耳を貸さず戦闘用のボディを装備して襲い掛かってくる。
エグゼシリーズにおける正真正銘、最強のラスボス。
胸のコアが赤く光っている時以外は攻撃を受け付けず、上下に移動しながら非常に広い範囲の攻撃を絶え間なく繰り返してくる。
その激しい攻撃と、コアが赤いタイミングが同じため、とにかくダメージが通りにくい。
4では一周目では強いチップが手に入りにくく、エアホッケー系などの強力なチップが通らないことから多くのプレイヤーにトラウマを与えた。
5、6でも熱斗とロックマンの戦いを宇宙の何処かから見ており、彼らを助けるチップを与えてくれる。『ジャスティスワン』をつい最近までガチで『ジャスティス