バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

122 / 175
Save Our Planet-3 【本】

 

 

 悪を滅ぼすというデューオの使命は理解した。

 だが、それを告げられて数時間後にこの星に裁きが下されると言われて、はいそうですかと納得出来る筈もない。

 

『人は悪に抗う生き物だ。そうやって今日まで繁栄してきた。悪との付き合いは、人の営みで必要不可欠なものだ』

 

 ラウル氏が、厳然と言い切る。

 確固たる意志があれば、己の悪とは向き合い、そして打ち勝つことが出来る。

 昨日、伊集院少年とブルースが経験したことはまさしくそれだった。

 確かに悪の心というものは人間にいつまでも付き纏う課題ではあるが――抗うことが出来ている以上、無条件に滅ぼされる要因になるとは思えない。

 

『人間の悪との戦い。その歴史は我をして驚嘆に値するものだ。それは認めよう。だが、その悪は繁栄と共に肥大してきた。我が計算であれば、その悪に種族そのものが呑み込まれる時代は遠くない』

 

 その関わりがこの星の、人間という種族独自のものなのだとしても、決して恥じるものではない。

 だが、デューオはそれを認めつつも人間の存在を否とした。

 彼そのもの、もしくは彼を創造した存在の価値観があるのだろう。

 しかし、分かり合えなくとも説得しなければならない。

 そうしなければ、次の朝日を安心して迎えることが出来ないのだから。

 

『我が今、この星に到達したのは幸運だった。これよりお前たちの悪が深まれば、その悪意は星の外へと手を伸ばし宇宙に影響を及ぼしていただろう。これ以上の悪化を辿る前に、我はお前たちを滅ぼす』

『そんなことはさせない! ボクたちに悪の心があるなら、ボクたちはそれに抗い続ける! 最悪の事態があるのなら、それもボクたちの手で防いで見せる!』

「そうだ! それをオレたちが自分で防ぐことが出来ないって、決まった訳じゃないぜ!」

 

 ロックマンと光少年の啖呵に、デューオは暫し沈黙した。

 それは己が下す裁きを吟味しているように見えた――中止してほしいと思うゆえの、錯覚なのかもしれないが。

 

『……いいだろう。お前たちにその意思があるのなら、我はそれを審判する。見せてもらうぞ、お前たちが、己の内なる悪を滅ぼすことが出来るのかを』

 

 デューオの瞳が一層強く光る。

 その光にナビたちが包まれ――次の瞬間には、彼らの前に同じ姿が立ちはだかっていた。

 まるで鏡――しかし、その姿、その心は完全な悪そのもの。

 

『これは……』

『ボクたちの、ダークソウル……!』

 

 言わばそれは自らの影。暗がりへと歩むたびに濃くなっていく、負の部分。

 それを見渡して――違和感を覚えた。

 映し出されたダークソウルは、一つ数が足りていない。

 

『……?』

『――ほう。生まれたばかりの無垢なる命か。悪がまだ芽生えていないのも頷ける。であればお前には試練は必要ない。これは、己の悪との戦いであるがゆえに』

 

 ジャンクマンの前には、闇の姿は存在していなかった。

 彼はまだ生まれて間もない、本来は自立ナビであった存在だ。

 あのゴミ捨て場で過ごしていた彼にはまだ、ダークソウルが芽生えてはいないのだ。

 そんな彼の自由をデューオが奪う。

 出現させた巨大な手の平にジャンクマンは乗せられ、皆から引き離される。

 

「……デューオ、何をするつもりだ? ジャンクマンは私のナビなのだが」

『悪の心無き者に試練を与えることはない。ここまで来た戦士でありながら悪の心を未だ持たぬお前を我は尊重する』

 

 ひとまず――ジャンクマンに危害を与えるつもりはないらしいことに安堵する。

 しかし、この場で私たちが戦いに介入することは出来ないようだ。

 ロックマンたちの前に現れた影が構える。

 善なる心に悪が勝ると証明するために。

 

「……皆、どうやらジャンクマンは戦闘に参加出来ないらしい。キミたちなら問題ないとは思うが……」

「うん! ロックマン、皆――これは自分自身との戦いだ! 自分の中の闇に打ち勝つんだ!」

『了解! 熱斗くん、オペレートよろしく!』

 

 各々が戦闘態勢に入り、ナビの内から表出した闇と対峙する。

 彼ら、ナビから抜き出されたダークソウルが何をしてくるかは不明だが、少なくともダークソウルに完全に支配されたナビについては、オペレーターが操るそれとは違う。

 オペレーターから送られるチップは受け付けず、レヴィアのような一部の自立ナビが持つようなフォルダも存在しない。

 代わりにダークチップに類似した能力の攻撃や、かつてそのナビが使用したチップを己のリソースを削って本能のままに引き出すのだ。

 本来のナビが強ければ強いほど、ダークソウルの脅威も増す。

 己が今まで使っていた戦法を模倣して使う様は、正しく自分との戦いだ。

 

「バトルオペレーション、セット!」

『イン!』

 

 戦闘が開始される。

 その中で私はジャンクマンの様子を注視しつつ、デューオに問いかけた。

 

「デューオ――彼らが己の悪を打ち倒せた場合、キミはこの星を去るのか?」

『もしも、お前たちの戦士が悪を滅ぼすに足る存在だと証明されたのならば、我はこの星の裁きを見送るべきと判断する可能性がある』

 

 重要なのは、この戦いがデューオのお眼鏡にかなうかどうかということか。

 彼の判断基準が如何なるものであるか、分かればそれを彼らに伝えることも出来るのだが……。

 

『デュー、オ……オデハ、オマエノ言ッテイル話ガ、ヨク、ワカラナイ。悪ノ、心ハ、アッテハナラナイ、ノカ?』

 

 ――ジャンクマンの無垢な心は、まだ悪というものを知らない。

 ゆえに、デューオがこの星を狙う理由そのものがしっくりと来ないのだろう。

 デューオは、その瞳を下方で行われている戦いに向けつつも、口を開く。

 

『ならない。悪がこの宇宙を善き方向へと導くことはない。一時的に善く見えることはあろう。だが、いずれ天秤は逆に傾くのだ』

『デモ、オデハエールニ助ケラレタ。レヴィアモ、アイリスモ、ヒメサマモ、ナイトマンモ、オデヲココマデ、強クシテクレタ。悪イヤツジャナイ!』

『確かにその行いは善だ。しかし、それはその者に悪が存在しないと証明する行いではない。ここから見える存在の内、心に悪が芽生えていないのはお前だけだ』

 

 デューオはジャンクマンの言葉を受け止め、しかしその意思を変えることはない。

 私に悪意というものがないとは言い切れない。

 私が尚も抱き続けている復讐心は――決して善とは言えないだろう。

 オペレーターもまたデューオは見通している。私を到底、完全な善とは判断できまい。

 

『エールタチニ、悪ノ心ガアッテモ、オデハ命ヲ救ワレタ。ソレナラ、エールタチガ住ムコノ星ノ人タチヲ、オデハ信ジルゾ』

『……お前の言葉は貴重なものだ。もしもお前の後ろにある者に悪がなければ一考していた程に』

「――――」

 

 ――ジャンクマンの必死の言葉でデューオの意思が揺らがなかった要因は、私の存在だった。

 もしも私が生まれたままの存在であれば、今この場で星は救われたのか?

 だとすれば、私はジャンクマンの足を引っ張ったと?

 

『悪がある以上、宇宙の滅びは必定だ。それが、我を創造した者の最終解答である』

『ソ、ソレナラ、オマエヲ創ッタ者ガ、間違ッテイタトイウコトモ、アルンジャナイノカ?』

『可能性はある。だが、我はその結論を否定する解を持っていない。そも、宇宙にその技術の手を伸ばした種族に悪の心があれば宇宙の滅びに繋がるというのは当然の帰結だ。この星にその可能性がないというのは、希望的観測が過ぎるだろう』

 

 今この場で、ヤツへの復讐心を捨て去れば、デューオはジャンクマンの言葉を聞き入れるのだろうか。

 それでこの星が救われるというのなら、私は――それでもいい。

 私自身の意思など些末なものだ。どうあっても許せない存在だとしても、それは――。

 

『ソンナコトヲ、言ウナラ、オマエモ絶望的観測ヲスルナ! コノ星ノ人々ヲ、信ジテクレ!』

 

 しかし、それでも構わないと、ジャンクマンは吠えた。

 悪というものを知らない、未だ純粋な存在であるからこそ、言える言葉だった。

 善悪というものに染まっていないこの星の代表として、彼はデューオに訴えかける。

 あまりにも眩しい――仮初であるにしろ、私がオペレーターであるという事実を恥じるほどに。

 

『――お前のような存在が数多ければ、我がこの星を訪れることもなかっただろう。お前の存在だけは、今の我も惜しいと感じている』

『オデダケジャ、ナイ! 見ロ――ミンナ、自分ノ、悪ノ心ナンカニ、負ケテイナイゾ!』

 

 ジャンクマンは手の平の上から、己の闇と戦う彼らを見下ろす。

 彼らが闇に打ち負けるという結末を、ジャンクマンはほんの僅かにも考えていない。

 

 ナビたちの先頭で――ブルースがダークソウルが構える闇色のソードに真っ向から己のソードをぶつける。

 威力に圧倒的な差があるだろうに、ブルースは負けてはいない。

 

 サーチマンはダークソウルがばら撒く闇の弾丸を全て回避し、スコープガンを向ける。

 彼の闇には狙撃の正確性というものはなかった。

 ライカ少年との協力による正確な狙撃は、サーチマンの強み――それがないダークソウルに負ける道理などなかった。

 

 そしてロックマン。

 バスター同士の撃ち合いは二つの間に多くの爆発を生む。

 互いの姿を視認出来なくなったところでダークソウルは強大なキャノン砲を放つ。

 それに対して光少年とロックマンは、決して逃げない道を選んだ。

 

「ロックマン、行くぜ!」

『うん――ギガキャノンッ!』

 

 闇の力を超える、『キャノン』系列のチップを用いて最近開発された、新たなるプログラムアドバンス。

 床を抉るほどの強烈な砲撃は闇の砲を押し返し、ダークソウル諸共消し飛ばす。

 それとほぼ同時に――他のナビたちも己の闇を打ち倒した。

 それぞれの切り札となるほどの攻撃を受けて、その存在を解れさせていくダークソウルの群れ。

 ぱらぱらと黒い粒子となっていく鏡写しの彼らは――本来の己の力を認めたように、ナビたちの中へと逃げるように消えていった。




なんか感想でよく「エールをデューオの前に出したら駄目」的なことを言われるんですけどそんなにNGですかね?
一応作中では三戦しかダークチップ使ってないですよ?
フリーズマンをバグ漬けにしたのは教育ですし、プラントマン吹っ飛ばしたのもまもるくんのためですよ?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。