バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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Save Our Planet-4 【本】

 

 

「見たか、デューオ!」

 

 ダークソウルたちを打ち倒し、光少年がデューオに向けて叫ぶ。

 ただの一つも、この場に表出した闇は残っていない。

 それは、彼らの可能性を証明するものだった。

 

『己の内なる悪を抑え込んだか……認めよう。見事な戦いだった。お前たちには、確かに悪に抗う力が存在するようだ』

 

 彼らは力を見せた。

 それが確かなものであると、デューオは認めた。

 だが――彼の様子はどうにも安心感を抱かせない。

 寧ろその評価が前置きであるかのような、不安感を覚えた。

 

『だがしかし、今の戦いでは悪を一時的に眠らせたに過ぎない。確かに暫くの間、姿を見せることはないだろうが……いつの日か、僅かなきっかけでそれは再び目を覚ますだろう。それは問題の先延ばしに過ぎない。お前たちの力では、悪を消し去ることは出来なかったということだ』

 

 デューオが求めていたのは、己の悪の完全なる根絶だった。

 確かに世界屈指のネットバトラーたちは、ダークソウルを打ち倒すことは出来ただろう。

 だが、それは一時的に抑え込み、己の内に再び封じ込めただけ。

 それは悪との別離ではない。今の戦いだけでは、いつまでも悪に負けることはないと言い切れるものではなかった。

 そんなデューオの指摘に、ロックマンは反論する。

 

『生きている限り、誰もが良い心も悪い心も持っている! 悪の心が出てきた時にそれと向き合い、戦うことが出来る――それが大事なことなんだ!』

『それにもいずれ限界が来る。悪の心が強くなることを、お前たちは感じ取ることは出来まい。悪に負ける時は、一瞬なのだ』

『そんなことはない! 人の心は強い! だからこそ、国も考えも違うのに、こうやって自分たちの星を守るために、ソウルを一つにすることが出来るんだ!』

 

 ――然り。

 

 ロックマンの反論に、そう同意する声が小惑星の電脳に響いたのは、その時だった。

 その場にいるナビたちの声でも、デューオの声でもない。

 これまで、この作戦に関わっていなかったナビの声――それは、一度聞いたことのあるものだった。

 

『今の声は……!』

 

 作戦に参加したナビたちを押しのけて、前に出てくる黒い姿。

 それまで己にジャミングを仕掛け、存在を隠してきた、地球からの使者。

 悪の打倒を使命とするデューオと間違っても対峙してはいけないナビが、そこにいた。

 

『――レーザーマン!』

 

 ダークチップシンジケート・ネビュラの頂点に立つ、指導者とやらのナビ。

 数多くのナビがダークソウルと向き合うことになった原因。

 ロックマンが距離を取って警戒を始めたことで、周囲のブルースやサーチマン――作戦に参加したナビたちも距離を取る。

 彼らにその存在は周知されてない。何者かは分かっていなくとも、何をされても対処できるように。

 

「光、知っているのか?」

「あぁ……レーザーマン――ネビュラのボスのナビだ!」

「何……!?」

 

 何故、彼がこの場にいるのか。

 ネビュラが小惑星にアクセスする手段はない筈だ。

 あそこに辿り着くには、ANSAが技術の粋を集めた遠隔通信装置を使う必要があった。

 このANSAにいない限り、ネビュラがこの作戦に関わることなど不可能だ。

 

『――強大なる悪の結晶。我は地球の脅威度を過小評価していたらしい。このような存在がいたとは』

 

 当然のように、デューオはレーザーマンに目を付けた。

 闇の力に満ちた、普通のそれとは作成方法の異なるナビ。

 その身に宿る悪は並のものではあるまい。

 

「ネビュラがこの作戦に関与しているのか……? こんな状況で……!」

「ANSAにいることは確実だろうが、一体誰が……」

 

 犯人捜しをしている状況ではないが……しかし、このタイミングで出てくるのは最悪に過ぎる。

 レーザーマンの存在を、デューオは決して許容しようとはしないだろう。

 

『ネビュラのナビ。今すぐプラグアウトを行え。この状況を見ていたのであれば、今はお前が悪事を働く時ではないと分かる筈だ』

『その通りだ、ブルース――オフィシャルのエースよ。案ずるな、私は此度、お前たちと敵対するつもりはない』

『何……?』

 

 デューオを見上げながら、レーザーマンはブルースの警告を手で制する。

 

「ど、どういうことだよ……?」

『ロックマンの言った通りだ、光熱斗。思想は違えど、この星を救わんとする意思は同じだということだよ』

 

 ――レーザーマンの言葉は、あまりにも想定外な、“この星を守る”というものだった。

 この時の困惑は、誰しもに共通したものだ。

 懐疑的な視線を受けつつも、レーザーマンの意思に揺らぎはない。

 

『そこにいる戦士たちは、不十分ながらも悪に抗う力と意思を見せた。それに、お前のような悪の結晶が共闘を持ちかけるというのか』

『そう言っている。外宇宙の存在によって星の危機に陥ったというのなら、同じ星の者と敵対するなど愚の骨頂――違うかね?』

『どの道、お前という存在がこの場に現れた以上、我が裁きは必定となった。あの星を見逃すことはない』

『傲慢め――貴様の、滅びを必定とする頑なさこそ、悪に繋がることにも気付かないか』

『……なんだと?』

『一度己の行動指針を定義し直すが良い。私たちの星で悪が裁かれるべきか否かを判断するのはお前ではなく我々だ。貴様のような部外者に沙汰を下される謂れなど、何処にも存在しない』

 

 言ってしまえば、デューオという存在は外宇宙からやってきた余所者に過ぎない。

 そんな存在が地球の命運に関わるなと、レーザーマンは冷たく告げた。

 この星が消えてしまっては元も子もないという理由で、手を組むべく現れたレーザーマン。

 しかし、彼が何を言おうと、すぐに信用出来ないというのが本音だ。

 正体不明のオペレーターが誰かが分からなければ、それと協力するというのも難しい――そう、彼に切り出そうとした時。

 

『――、強力なナビを持っていたとしても、作戦そのものが揺らぎかねない行動は謹んでほしかったんですけどね』

 

 ぽつりと、グレース嬢が呟いた。

 まるでその呟きは、レーザーマンを操るオペレーターを知っているかのようだった。

 

「……グレース。ネビュラ首領の正体を、知っているのか?」

『知らないですけど、状況証拠で分かりますよ。僕が知る限り、遠隔通信装置を利用してナビの位置をジャミング出来る技術者は二人に絞られます。一人は光博士――』

「ぱ、パパがネビュラに関わっている訳ないだろ!」

『――との事です。では、貴方はどうですか? 僕としても、貴方を本命と見ているのですが――リーガル博士?』

 

 ――――え?

 

「……この装置について熟知しているのは、レーザー発射装置として作った私と、通信装置に改造する際に主となった貴方だけ……Dr.リーガル、貴方なのか?」

「――」

 

 思わず、PETから目を離し、リーガルの方へと向けた。

 光氏の言葉を、そんな筈はないと心の底から否定しながら。

 確かにZ国は何かと物騒な噂は多い。それに、彼自身にも良くない噂が付き纏っていたりはする。

 だが――だからと言って、彼がネビュラに関わっていたなんて、そんなことはあり得ない。

 あり得ないと、言うのに。

 

「――そうだとしたら、この場で私を排除するかね?」

「――――!」

「今この場で君たちが重視すべきことはただ一つ。ダークチップシンジケート・ネビュラは本作戦において君たちに敵対することはない」

 

 それは、言外にその指摘を認めているようなものだった。

 

「――リーガル?」

 

 名を呼んでも、リーガルは此方に目を向けることもしない。

 否定してほしい。今否定すれば、私はそれを信じることが出来る。

 だが、リーガルはまるでその指摘が事実であることを前提としているかのように、言葉を続ける。

 

「光祐一朗、そしてこの作戦に参加する諸君。私は君たちの味方だ。レーザーマンを頼ってくれて構わない」

「――ネビュラの首領という疑いが掛けられている中で、それを信じられるとでも?」

「……私とてこの星が滅びることなど望んではいない。この後の世界の命運を、外宇宙の使者に決められる訳にはいかないのだよ」

 

 何故否定しないのか。何故――否定してくれないのか。

 

『……? エール? ドウ、シタンダ……?』

「……、説明してくれ、リーガル。理解が及ばないんだ。何かの、冗談なんだろう?」

「――ヴァグリース。友人にも話すべきではないことがある。そうは思わないかね?」

 

 これ以上ないほどの“答え”を、リーガルは言い放った。

 それで私が混乱しつつも、狂乱にまで至らなかったのは、星の危機という状況があったから。

 今はそれどころではないと――

 ――そう自分に言い聞かせて、平静を保つ。まだ確定はしていないのだから、リーガルは信頼の対象なのだ、と。

 

「優先順位は分かるだろう――諸君、この星を守るぞ」

『――皆さん、リーガル博士の言う通りです。今はネビュラもオフィシャルもありません。星の危機を脱するにおいて、私たちは手を取り合うべきと判断します』

 

 グレース嬢が先導する。時刻は二時三十分過ぎ――タイムリミットまで、およそ三時間。

 困惑を抑えながら、私はグレース嬢に同意した。

 状況はプロトの時と良く似ている。

 今は因縁があろうと、たとえ憎悪の対象であろうとも、手を取り合わなければならない事態。

 そうしなければ、そんな確執すらまったく意味がなくなってしまうのだから。

 

「そう、だな……この星を守りたいって気持ちは一つなんだ。なら、誰だって関係ない!」

『うん――善も悪もない。本当の危機には全員で立ち向かうことが出来る。それが人間の強さだ! この問題はボクたちの課題だ――解決するのは君の役目じゃない!』

 

 光少年とロックマンの共闘宣言に、その場にいるナビや、オペレーターたちの気持ちも動いていく。

 複雑ながら、確かに間違ってはいないと。

 誰しもが、今日という日を生き切るためにも必死なのだ。

 

『……人間の課題か。興味はあるが、我のメモリにあるのは悪の根絶のみ。お前たちの心に悪がある限り我は滅ぼさねばならない。ゆえに――』

 

 デューオはその様をじっと見下ろしていた。

 私たちの答えに、自身の意思を選択したのだろう。

 その巨大な手の平から、ジャンクマンを下ろし、より高い位置へと移動していく。

 

『より絶対的な力を示せ。善を以て悪と向き合える力を。悪を以て善と手を取り合える力を。我が手ずから、お前たち人間の可能性を裁定しよう』

 

 今一度、デューオの瞳が強く輝く。

 

『――バトルボディ!』

 

 彼が呼び出したのは、巨大に過ぎる体だった。

 ゴスペルなど比較にならない。プロトさえ超えるだろう。

 圧倒的な鋼の巨体はナビたちが立つことの出来る領域の外に現れ、その足はこの電脳世界の最下層を踏みしめた。

 

『――ライトアーム!』

 

 その巨体に、右腕が装備される。

 先程まで手の平だけを顕現させていたそれは、振るわれれば脅威以外の何物でもなくなる剛腕と化した。

 

『――レフトアーム!』

 

 右腕が現れた以上、左腕も当然のように現れる。

 ナビ数人を容易く握り潰せるだろう手は、己の信じる正義を示すべく、強く握り込まれた。

 

『――デューオ・バトルフォーム!』

 

 そして、その顔の左右に一対の角が装備されると同時、全体に凄まじい力が満ちた。

 駆動を始める巨体の力は、或いはプロトさえ超えるかもしれない。

 悪を滅ぼすために宇宙を航行するロケットのオペレーティングシステム。その戦闘形態が、見掛け倒しである筈がない。

 紛れもなく、それはこの星の最大の危機と言い切れる、規格外の存在だ。

 

「……コイツを倒さないと、オレたちの世界に未来はない! ロックマン! 皆!」

 

 ――だが、だからと言って諦められようか。

 少なくとも、ここに今日を、そして明日以降を諦めている者など一人もいない。

 ゆえに、私は光少年に続く。これまでの二度と、同じように。

 

「――よろしい。それではこれより、デューオ打倒を開始する」

「行くぜ! ラストオペレーション、セット!」

『イン!』




明かされる衝撃の新事実。なんとリーガルはネビュラのリーダーだったのです。
それによってエールのメンタルが激減した代わりに頼りになる味方が増えました。
という訳で4編のラストオペレーション。人多いですね。
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