バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー 作:けっぺん
――普通のネットバトルでは考えられない、長い時間が経っていた。
一発目のレーザーを防いでから、デューオの攻撃はより苛烈になった。
私たちを試すように攻撃一つ一つをゆっくりと行ってくるようなことはない。
寧ろそれまでの戦いで、彼は私たちが全力を出すべき相手だと判断したらしい。
『ウオオオォォォォッ!』
「っ、来る! ロックマン! 受け止めるぞ!」
『うん――!』
それがデューオの本領であると、私たちは嫌でも理解させられていた。
右の拳が凄まじい勢いで振り下ろされる。それを真っ向から受け止めたのは、メタルソウルに姿を変えたロックマンの拳。
そのサイズには決定的な差があるが、光少年のサポートにより同等の力を発揮し、迎撃に成功する。
『ロケットが来ます、ここは――ヴァグリースさんで』
「了解だ――頼む、ジャンクマン!」
『イッケェェェェ!』
拳は防御されても、デューオは同時に他の攻撃を絶え間なく繰り出してくる。
ロケットに対してコールドマンが作り出した氷塊を振り回して迎撃。
それによって他の面々への被弾を防ぎ、攻撃の隙を作り出す。
『ファランさん、炎山くん、お願いします』
『ああ! 任せときな! スラッシュマン!』
「合わせろ、ブルース!」
そして、コアへの道が開けたところでスラッシュマンとブルースが駆け込んでいく。
二人の強力な斬撃は、コアに確実に傷を作る。
可能な限り攻撃し、撤退すると同時に新たにコアに叩き込まれたのは、レーザーマンの目から放たれた黄色に輝くレーザー。
それ以上の追撃は叶わず、横薙ぎに振るわれた腕で後退を余儀なくされた。
『はぁ……はぁ……』
「っ……ジャンクマン。まだ、行けるかい?」
『ム……少シ、キツイゾ』
戦闘開始から、どれだけ経っただろう。時間を確認している余裕もない。
恐らく一時間は経っている。もしかすると、二時間経っているかもしれない。
その間、一切の容赦なくデューオの攻撃は私たちを襲っている。
これだけの長期戦。幸運だったのは、私たちが一人や二人で戦っている訳ではないということ。
多大なダメージを受けたり、フォルダのチップを全て使い果たしたりして戦闘の続行が困難になった場合はそれを申告して、一時的にこの戦場の外にまで後退し、バトルオペレーションを解く。
そうして回復やデューオの攻略に合わせたごく僅かな時間のフォルダ調整を行い、再び戦線復帰。
これをそれぞれのナビがタイミングをずらして行うことで、どうにか長期戦をこなすことが出来ている。
だが、それでも数時間ともなれば話は違う。
「……っ、くそ……」
「え、エールさん、大丈夫?」
「……正直、私の方も疲労がきつい……だが集中を切らす訳にもいかない。続けるぞ、光少年」
「――うん!」
額に浮かぶ汗を拭う。
ナビの傷は回復できても、彼らにも疲労は溜まる。
それだけではない。戦いが長引けば、当然オペレーターだって疲労する。
こんな、極限の集中を必要とする場では尚更だ。エナジードリンクも何もない状況で、唇を噛んで自身に喝を入れ直す。
元々、オペレートに集中すればすぐに疲れていたのだ。それを、数時間無理を通して続行し続ける。
既に光少年や伊集院少年、ライカ少年にも目に見えた疲労が浮かんでいる。
大して――デューオのコアには傷が目立ち、そのダメージも体中に伝わってはいるようだが、まだ限界は見えていない。
危機だった。ナビとオペレーター、どちらが先にダウンしてもおかしくない状況。
誰もがその限界を気力で引き延ばし、戦いを継続している。
そんなやせ我慢も、永遠に続けられる訳ではない。そして、この作戦を完遂させないとならないタイムリミットも確実に迫っている。
『どうした。動きが鈍っているぞ、戦士たち!』
『うっ……くぁ……!』
私たちの事情など、デューオには関係がない。
彼の拳の勢いは鈍ることなく、ナビたちを襲う。
それの対処にも無理が出始めており、多少のダメージ覚悟で重傷だけは回避するという方法も取らざるを得なくなっていた。
『くっ……』
ロックマンのメタルソウルが解除される。
既にロックマンはガッツ、アクア、ウッド、メタルの四つを使い切っていた。
ソウルユニゾンは今の彼の切り札のようなものだ。
それを四つ使用してなお、デューオを追い詰めるどころか私たちは追い込まれている。
「まだまだ――ロックマン! ロールソウルだ!」
『うんっ、絶対に負けられない……っ!』
しかし、光少年とロックマンが誰より先頭に立ち、全員の士気を引き上げる。
五つ目のソウルユニゾン――ロールのソウルを使用したロールソウルは、回復に特化した姿だ。
その強みは、チップの使用と同時に一定値のリカバリーが発動するという点。
相手のバトルチップを破壊するロールアローはネットバトルでは高い効果を発揮するだろうが、デューオを相手取る上では関係ないか。
この回復能力は今の戦況には実に心強い。
これまでロックマンはチップの使用を控え、一度もバトルオペレーションを解除することなく戦い続けている。
そうして確実に減っている体力を、此処で一気に回復するつもりらしい。
「合わせろ、光熱斗!」
「ああ!」
ライカ少年と光少年が、このANSAで初めて出会ったとは思えない息の合った射撃で正確にコアを撃ち抜く。
そして振り下ろされた拳を『インビジブル』で回避――その隙をジャンクマンにボルトを発射させ、私たちもデューオを攻撃する。
「喰らえ!」
『ハイパー――バーストッ!』
ここぞの場面の、プログラムアドバンスの使用。
連発される射撃は大きな範囲の誘爆を伴うが、デューオの巨体からすればそれさえ小さいものに感じられる。
「行くぞ!」
『任せろ、合わせて見せる!』
その爆発が止んで間もなく、伊集院少年とラウル氏の連携によって攻撃が叩き込まれる。
『ロングブレード』と『エレキショック』。
ブルースとサンダーマンが得意とする二つの系統のチップによる追撃。
『ふっ――』
『む、ぅ……っ』
そして、レーザーマンが放った巨大なレーザー。
ロックマンの攻撃から続いた連続攻撃により、遂にデューオはその体勢を僅かに崩した。
『……驚いたぞ。我がここまで損傷するとは。確かにこの星の可能性、大したものであるらしい』
『っ……』
体力こそ回復したものの、ロックマンもまた疲弊している。
それはロールソウルでも回復することが出来ず――チップの度重なる使用ですぐに維持は出来なくなり、元の姿に戻った。
『絆の力による能力の強化とは、実に興味深い。だが、お前たちの限界は近いようだな』
「――まだだ。ソウルはあと一つ残ってる!」
戦闘の要であるロックマンの使えるソウルはあと一つ。
ブルームーントーナメントの決勝戦での戦いの末に共鳴した、ブルースのソウル。
ブルースが持つ速度とソードの技術を得ることにより高い攻撃性能を発揮するものだ。
だが――それを使い切れば、攻めの切り札が無くなったも等しいことになる。
バトルオペレーションを解いてロックマンの状態をリセットするにしても、戻ってくるまでこれ以上時間を稼ぐことは不可能だ。
であれば、デューオをこれで押し切れるよう、全力でサポートする必要がある。
『ならば――それを裁定しよう。我もまた、全ての力を出し切ることで!』
「ッ――――!」
その時、感じた怖気を、指示に変えることは出来なかった。
『――全ての悪に滅びを!』
デューオが吠える。
体に滾らせる力が跳ね上がったと同時に、彼の顔面から放たれた赤いエネルギーの衝撃波が戦場を押し潰した。
突然の奔流は不意打ちにも等しいもので、対応出来たのはあらかじめチップを送っていたごく僅かのみ。
ジャンクマンは自前の耐久力でどうにか耐え凌いだものの、戦闘は難しい。
ブルースやサーチマンも倒れ伏していたのが、デューオの全力、その凄まじいパワーを実感させる。
「くっ……」
「これほどとは……!」
すぐさまリカバリーを使うが、即、戦線復帰とはいかない。
そんな中、最前線にいたロックマンは――
『――――、無事だな』
『っ……レーザーマン……!?』
レーザーマンが体を半壊させつつも衝撃から庇い、事なきを得ていた。
恐らくは『エリアスチール』であの瞬間の移動を可能としたのだろう。
だが、その代償は大きい。戦闘の継続可否を確認する段階にはなく、既に彼の体は崩壊が始まっていた。
今から回復を試みても遅い。これから程なくして、あのナビは消え去る。
「――リーガル」
「これが最良の策だ。ソウルの共鳴……良い能力だな。これならば、デューオを倒すに足る」
リーガルの判断は迅速、かつ淡泊なものだった。
ロックマンの力に可能性を感じ、レーザーマンを使い捨ててでもそれに託す選択をしたのだ。
『ロックマン。お前は先程、己の悪を抑え込んだ。であれば、今この瞬間だけでも、悪を完全にコントロールする術を得ている筈だ』
消えかけているレーザーマンは、リーガルが見出したらしいその策を、ロックマンに伝える。
『悪を、コントロール……?』
『お前と仲間のソウル、それを以て、お前が己の悪に解答を出せると証明しろ。そうすれば、デューオを倒すだけの力を得られよう』
自身の意思と、共鳴したソウルで――ダークソウルを完全に制御する?
この場で試すには危険極まりない、賭けにも程がある策だ。
私もソウルについては詳しくない。それが、成功するか否かも判断できない。
だが失敗すれば、逆にダークソウルを再び呼び起こすことになろう。今のロックマンでは、ダークソウルを倒しきることが出来まい。
『星を救うがいい、ロックマン。お前の正義が本物であるならば』
消えていったレーザーマン。
彼は悪だ。普段であれば、ロックマンがその言葉に耳を貸すことはなかっただろう。
だが――彼を信じるための条件は、揃っていた。
デューオが求めているのは、地球という星の可能性。この星の悪への答えを出せる――滅びを齎す危険性がないと判断させるほどの強さ。
悪を御することが出来る意思の強さを証明する必要があったのだ。
『――熱斗くん』
「やる……のか――ロックマン?」
『やれる。やらなきゃいけないんだ。ボクの中にある皆のソウル、それがきっと、悪の心にも負けない道を指し示してくれる!』
――ならば、何も言うまい。
これまでだって、重大な局面では彼らを信じ、危機を切り抜けてきたのだ。
窮地における彼らの強さは嫌と言う程知っている。
「よし――頼むぜ、ロックマン! ソウルユニゾンだ!」
『うん! ブルース、そして皆のソウル――お願い。ボクに、ダークソウルに打ち勝って、星を守ることが出来る力を!』
ブルースのソウルがロックマンのソウルと合わさる。
赤く変化していくその姿に――同じように彼自身のダークソウルが重なった。
信頼すべき仲間、そして己の内にあるもう一つのソウル、それらと完全に調和することによる、魂の三重奏。
先走り、暴発することで調和を乱そうとするダークソウルを、ロックマンと共鳴したソウルたちが抑え込みロックマンへとその力を還元させる。
『おおおおおぉぉぉ――――!』
――結果として、残ったのはブルースソウルにより変化した姿。
その色は悪の力を制御したことで黒く染まり、ブルースのように右腕に装備されたソードは代償を必要とする強欲が完全に沈黙した、善のために振るわれる闇へと変わっていた。
それは、善なるソウルと悪しきソウルの融合した、混沌たる調和。
言うなれば、“カオスユニゾン”とも言うべき、規格外の現象だった。
・カオスユニゾン
5に登場するシステム。
ダークチップを用いたソウルユニゾンであり、ロックマンが己の闇に打ち勝ったことで修得した。
最大の特徴として、チャージショットによって生贄にしたダークチップを使うことが可能。
4では使用に必ずリスクを要したダークチップを代償無しに使える手段だが、チャージに失敗すると暴発したダークソウルが逆にロックマンに襲い掛かってくる。
本来のソウルユニゾンよりも黒みがかったカラーリングとなっている。
・『ロングブレード』と『エレキショック』
「HEY! 光熱斗! お前の噂は聞いてるZE! ちょっとPETが新しくなったくらいで、自分が強くなったと勘違いしたお調子者だとな!」
「力の差を教えてやるZE!」
「HEY! BROTHER! 目にもの見せてやれ!」
「OK!」