バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー 作:けっぺん
善のソウルと悪のソウル、二つによって高まったロックマンの力。
これまでとはまったく異なる力はデューオをして驚愕せざるを得ないものだったらしい。
『己の悪を完全に従えるだと……そんなこと、出来る筈がない』
彼にとって、善とは絶対的なものであり、それと相反する悪もまた同じものだったのだろう。
ゆえに、どちらかがもう片方を掌握し操ることなど不可能。
どちらかが百パーセントで勝利するのではなく、二つの調和はデューオもまた知らない力なのだ。
「ろ、ロックマン、大丈夫なのか?」
『うん――暴れ出そうとするダークソウルを、皆のソウルが完全に抑え込んでいる……行けるよ!』
ロックマン自身も驚いているようだ。
今の彼に、闇の力に呑まれているような様子は見られない。
複数のソウルと共鳴し、その力を借りることが出来る彼だからこそ可能な技。
その力を理解したように頷いたロックマンは、闇色に輝くソードを構える。
『――いいだろう。その力、見せてみるがいい!』
『行くぞ、デューオ!』
他のナビはダメージが大きい。少なくとも、即座に戦線復帰することは難しいだろう。
ゆえにロックマンは単独で、デューオへと走っていく。
その行く手を阻むように現れる、ユラとロケットの群れ。
それを恐れることなく、ロックマンは大きくその腕を一振りした。
『はぁ――ッ!』
――正しくそれは、本来ダークチップと呼んでも差し支えない威力だった。
大きく薙がれた闇の刃は、たった一閃で前方の障害物を纏めて真っ二つにする。
一撃で拓けた道。デューオが瞠目する中で、ロックマンは一気に彼との距離を詰めた。
ブルースが得意とする、射撃系のチップに比べてリーチが限定されるソード攻撃を主体とするための瞬間的な踏み込み。
それをソウルユニゾンによってものにしたロックマンは、一息でデューオのコアに迫っていた。
『おおぉっ!』
『ぐ、ぉ……!?』
そして、返す刀での一撃。
コアを切り裂き、その外の強固な外殻にまで亀裂を入れた斬撃に、デューオの巨体が揺れる。
それまでの衝撃の全てがこの一撃で後押しされるためにあったように、コアには多数の罅が刻まれた。
『おのれ!』
振るわれた腕によって距離を開けることを余儀なくされ、ロックマンは高く跳躍しその腕を躱す。
跳躍した先での回避は不可能と見たか――デューオはそちらにコアを向け、溜め込んでいた力を解き放った。
巨大なレーザーに対し、ロックマンは回避が出来ない。ゆえに、先程と同じようにそのソードでもって、障害へと挑む。
――レーザーが斬れた。
霧散していくエネルギーの中でロックマンは着地し、もう一度踏み込んでコアを斬りつける。
亀裂が広がり、外殻から破片が零れ落ちた。
『――熱斗くん、炎山くん、ライカくん、ヴァグリースさん。聞こえますか?』
その攻勢を見てか、グレース嬢が通信を投げてきた。
私たちが通信良好である旨を伝えれば、彼女は指示を送ってくる。
『デューオとの決着をつけましょう。ロックマンの攻撃終了と同時に、四人の『メテオレッドサン』と『ブルームーンレイ』を使用し、デューオの戦闘形態を完全に破壊します』
「……出来るのか?」
『出来ると信じましょう。ロックマンがデューオを追い込めている現状が唯一の好機です』
ロックマンに向けて、デューオの拳が雨のように降り注ぐ。
それを正確に避け、次の攻撃の機会を狙うロックマン。
その表情には苦悶が浮かんでいる。あの姿に負担が掛からない筈がない。
今までの疲労も相まって、あの姿が長持ちしそうもない。チップ送信を一度でも行えば、恐らくその時点で解除されるだろう。
恐らく、ロックマンが限界まで頑張ってもデューオを完全に倒すまでには至らない。そこで、トドメとしてあのギガチップを使おうと言うことか。
「……あと一回のチップ使用だ。行けるね、ジャンクマン」
『マ、任セロ……ヤッテヤルゾ』
送信するのは私だが、使用するのはジャンクマンだ。
ギガチップの負荷に耐えられるよう、尚も使おうとしていた置物のコントロールを捨てる。
周囲に転がるコールドマンの氷塊の中で、ジャンクマンはゆっくりと立ち上がった。
「――いつでも」
「頼むぞ、ブルース」
「此方も大丈夫だ。戦場を俯瞰しろ、グレース。お前の方で合図を出せ」
『了解しました』
ふわりとギャラクシーマンが浮遊する。
戦闘に関しては、彼もこれ以上無茶は出来ないが、こうして戦場を眺めることなら可能だ。
デューオの拳を受け流し、ロックマンはもう一度コアに斬撃を浴びせる。
最低限の接触に留めたものの、ダメージをゼロにすることは出来なかったらしい。その衝撃で、ロックマンの姿が元の形に戻っていく。
『くっ……最後に、一撃!』
『ぬぉぉ……っ!』
解除される直前、ロックマンはコアにソードを突き立て、駄目押しの一撃とした。
見れば、デューオの体はボロボロだ。
両腕の接続は壊れかけで、絶え間なく解れたパーツが零れ落ちていく。
コアへの度重なる衝撃がようやく全域へと伝達され、崩壊が始まっているのだ。
『まだだ……! 我の力はまだ、尽きてはいないっ!』
その、罅だらけの姿になってなお、デューオの気迫は消え去っていない。
これが己の正義を頑なに全うしようとする意思の力。
恐れるな――ここで押し切れなければ全てが終わりなのだ。
『四人とも、今です――っ』
待ちに待っていたその合図に、同時にチップを送信する。
そして示し合わせたように、四人のナビがそのチップを使用した。
現れるのは四つの衛星。赤い日輪と青い月輪。それらがデューオに向かって一斉に砲口を向ける。
『メテオ――』
『――レッドサンッ!』
『――ブルームーンッ!』
『レイ――!』
赤い日輪が吼える。地球に向かう危機を打ち砕くべく、隕石が降り注ぐ。
青い月輪が煌めく。滅びを目前とした星を守るべく、光輝が迸る。
ANSA主導のもと開発された最新のチップ。それはつまり、この星が用意できる最先端の迎撃手段にも等しい。
合計四つの輝きはデューオの戦闘形態の機能を次々と停止させていき、そしてその傍から打ち砕いていく。
そして胸部の装甲が完全に砕け散り、剥き出しになったコア目掛けて――その力を使い果たした衛星は落下していく。
『――グオオオオオオオォォォォォォォォォォォッ!』
それが最後の攻撃となる。
何があっても全力で、最善の対処が出来るよう、力を振り絞って立ち上がったナビたちの歓声の中で、デューオの体は爆散した。
油断なく、ナビたちはデューオを見つめ続ける。
戦闘形態は失われ、今や彼は姿を現した時と同じく、顔だけの姿となっていた。
『……我がバトルボディを打ち砕くとは。見事だ――地球の戦士たち』
その姿には、何ら傷は見られない。戦っていた時にいつしか現し始めていた高揚も消え去り、彼は落ち着いていた。
最早戦意はないようだった。
ゆえにこそそんな評価を下したのだろう。
『――だが。もう遅い。ロケットはお前たちの星の重力に引かれ始めた。軌道を変えることは出来まい』
「っ――」
その時初めて、私は時間を確認した。
午前五時過ぎ――空はいつの間にか白み始めている。予想されていた衝突時刻のおよそ一時間前。
タイムリミットが程近くに迫り、既に小惑星はこの星を捉えているのだ。
『――――、計算が正しければ、事実です。これ以降の成功率は――』
普段と変わらない声色に見せかけているものの、震えが感じられるグレース嬢の言葉。
私たちにとっては絶望以外の何物でもない宣告を、光少年が強引に断ち切った。
「まだだ! やってみないと分からない! 最後の一秒までは、オレたちにだってチャンスはある筈だ!」
『熱斗くん――うん、その通りだよ。成功率がゼロパーセントだったら、ボクたちの手で一パーセントに引き上げて、それを掴み取るんだ!』
それがどれほどの暴論であるかなど、まったく無関係な人物でも分かるだろう。
隣にいる伊集院少年でさえ呆れを隠せないその発言。
根拠なんてない。ある筈がない。だが――そんながむしゃらが、これまで奇跡を起こしてきた。
最後の頼りどころとしては――悪くはない。
『いや……そんな無茶苦茶な――』
『……いいだろう。そこまで言うならば、試してみるがいい』
『――はぇ?』
またしても言葉を遮られたグレース嬢を気に掛けることなく、デューオはナビたちの前に先へと続く橋を作り出した。
何事か、と見上げるナビたちに、デューオは静かに告げる。
『お前たちが何処までやれるのか興味が湧いた。先へと進みコントロールシステムを操作するがいい。それが、悪を征し我に勝利したお前たちへの敬意であり、我がお前たちに下す最後の試練だ』
すぐ近くにあるコントロールシステム。
しかし、そこまでの道は存在せず、ゆえにここで立ち往生となっていた。
そこまでの道を作ることこそを、デューオは私たちの戦いへの評価としたのだ。
『お前たちの星の基準で言うと、あと五十八分二十秒で大気圏に突入する。急がねば間に合わないぞ。お前たちに残された可能性が星さえ救えるか――見極めさせてもらおう』
「――望むところだ! 行くぞ皆!」
ロックマンを先頭として、ナビたちがデューオの下を駆け抜けていく。
戦うことは難しい。だが、まだ出来ることはある。
それを振り絞ってこの星を救う――この作戦の最終段階だ。
舵輪型のコントロールシステムをギャラクシーマンとサーチマンが高速で解析する。
デューオ自身の助けもあったのか、すぐに答えは出た。
『これを回せば軌道は変えられます。現在の軌道からして有効なのは――』
『――左向き、だ』
その言葉に、ナビたちがコントロールシステムに集まり、力の限り押し始める。
彼らに管理権限がない以上、手動での命令が唯一の方法だ。
最後の最後にこんな原始的な手段に頼らなければならないとは――それに対し命令一つ出来ないことに歯噛みしつつも、様子を見守る。
『くっ……うぅ……! な、なんて重さなんだ……!』
『こ、の……っ!』
『ヒュゥゥ――、おい、ジャンクマン、これ、動かせないのか……!』
『ム、無理ダ! 重スギル――!』
問題なのは、その重量。
これだけのナビが総出で押しているにも関わらず、コントロールシステムはピクリとも動かない。
――惜しいのは、ここに集ったナビに力に特化したナビがいないことか。
いや、一人二人いても変わらない気もする。とにかくここは、時間をかけて少しずつでも押していくしかない。
「……これは、行けるのか?」
『分かりません。こんなの、詳しく解析しても気が滅入るだけです……うん、もう無理。そろそろメンタル限界です。死にます』
「あと一時間耐えろ。今シャーロ宇宙センターとの通信が混乱するのは致命的だ」
『部隊の皆は優秀なので大丈夫です。これでも怖いんですよ。手が震えてコンソールを打つ速度が上がってます。吐きそうです』
「それもあと一時間耐えろ。手の震えについては止めなくていい。その調子で続けろ」
『僕の幼馴染がこんな窮地でも鬼畜』
――恐らく天然でやっているシャーロ軍の部隊長同士の死ぬほどどうでもいい漫才がひどく癒しに感じられた。
いや、こんな状況で何を言い合っているのかという疑問はあるが。
パフォーマンスが下がるレベルの緊張は適度に解した方が良い。オペレートを必要とした状況が発生すれば、それが重要になる筈だ。
しかし、緊張は僅かに緩和されたとはいえ、状況は変わらない。
ナビ全員が力を合わせ、押し続けるも状況は変わらず、まるでそもそもコントロールシステムは動くように出来ていないのではと錯覚させる。
オペレートも何もない。今はジャンクマンたちが力を奮うしかない状況。
そんな中で、一体私に何が出来るのか――それを考えていた時だった。
『――皆、聞こえているかな』
通信室、管制室、そしてこの屋上。三つを繋ぐ通信に新たに参加者が現れたのは。
知っているその声の主は、本来この作戦に参加する筈だったネットバトラー。
「……名人氏?」
『正解だ。だが、氏はいらない。さて――皆、待たせてすまない。私は今回、私用を優先し作戦には参加出来なかった。だからせめて、別の形で協力させてもらう』
名人氏はレッドサントーナメントの一回戦、アッフリクで弟子が起こした問題を解決に行っており、不戦敗となっていた。
そしてこの作戦においても移動中であるため参加は不可能とのことだったが――遂に戻ってきたらしい。
だが、今更ケンドーマンを小惑星の電脳に送ることは出来ない。
協力とは言うが、一体何を――
「め、名人! 協力って……?」
『ああ、熱斗くん――声を伝えに来た。ANSAに、そして小惑星に届けよう。世界中の、君たちに向けた声援を!』
――それを合図に、通信に対し多数の参加要請が届く。
……これは、まさか。
いや、幾ら名人氏とはいえ、こんな無茶苦茶なこと。
『ちょ、待って。待ってください。パンクしますって。えっと――そこの貴方。回線の管理任せます。数秒ずつで回してください』
アドリブが過ぎる名人氏の一手。
それにより発生した事態を、グレース嬢が混乱のあまり丸投げする。
結果として、一体幾つあるのか分からない無数の要請は順に少しずつ受け入れられることになり――私たちも理解が及んでいない中で、大量の声援が送られ始めた。
「リーガル博士のアドリブで十年、名人のアドリブで十年。計二十年は寿命が縮みましたよ、今日。だいぶ好き勝手してますけどこれこの星の命運背負った作戦なんですよ」
「失敗していれば寿命がどれだけ長くとも死ぬことになる。結果として成功すれば幾ら寿命が減ろうが御の字だ」
「胆力どうなってんですかライカくん」
デューオ撃破。そして最後の試練。
名人氏には美味しいところにやってきてもらいました。
いよいよ4編もクライマックスです。