バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

13 / 175
本日、午前1時34分に一度更新しております。
未読の方はそちらからどうぞ。

また、本話でオリジナルナビが登場します。
今後も『オリジナルナビ』という枠組みに入るか微妙ですが、独自のナビの登場を予定しておりますので、ご了承のほどを。


ウラに輝く蒼き星 【本】

 

 

「……すみません。なんて言いました?」

 

 クリームランドに戻り、城の応接室でプライド様に処遇を聞かされた私は、思わず聞き返した。

 多分、聞き間違いがあったと思う。それくらい、脳が理解していない。

 

「ええ、何度でも言いましょう。本日付けで設立される対ゴスペル電脳医療部、その部長に貴女を任命します。エール・ヴァグリース」

「……」

 

 聞き間違いじゃなかった。

 

「……えっと。どういうことですか?」

「そのままですよ。こちらを」

 

 言いながら、プライド様は此方に内容の纏まったデータを寄越してくる。

 ――オフィシャルのように事件全般に対応するのではなく、ゴスペル関連の事件に特化した臨時の部隊。

 よかった、戦闘は職務内容に含まれていない。

 私の仕事はゴスペルの事件において発生するバグを対処すること。やっていることは普段と変わらないまでも、各種の支援を以てより安全に行える。

 それはいいとして。

 

「……何故私に?」

「何かと心配ばかり掛ける貴女が、ゴスペルに喧嘩を売ってしまいましたので。少しでも支援してあげねば、と」

 

 ……ゴスペルに喧嘩? なんのことやら。

 私は平和主義だ。戦う力もない、バグを直すだけの私がテロ屋なんかに手を出す訳がない。

 そんな意思を込め、首を傾げるが、プライド様は一昨日を彷彿とさせる笑みで返してきた。

 

「一昨日、貴女を部屋に帰した数時間後、報告がありました。貴女のホームページからウラインターネットを経由し、日本のインターネットに向けてウイルスが放たれたそうで」

「……」

「それをデリートしたら残骸データがバグのかけらに変わったそうです」

「…………」

「そして昨日、ホームページが立ち入り禁止になり放たれるウイルスが増量したと」

「………………」

「日本のオフィシャルにもその旨、連絡をしたようですね? エール」

「……………………」

「これがゴスペルに対する宣戦布告でないのだとしたら、国際問題に発展しかねないのですが」

「ゴスペルに喧嘩売りました。申し訳ありません」

 

 流石はプライド様、大変優秀な配下をお持ちである。

 いつの間に私のホームページの監視なんてしていたのか。

 一応日本のオフィシャルに許可は貰っている。また、ウイルス自体は殆ど脅威のないものだ。そもそもウラからオモテに届いたものすら少ない。

 ウラ掲示板を見たら案の定私が置いたバグピーストレーダーで盛り上がっていた。何やってるんだアイツら。

 

「今後、ゴスペルに対する行動を起こす際はわたくしを通しなさい。必要な資金や資材、人手は可能な限り捻出します」

「……処分というには、待遇が良すぎだと思うのですが」

「いいえ。代わりに貴女には大きな命を与えます。この待遇はそれを命ずるにおいて当然のものです」

 

 ……まあ、当然か。

 だからこそ、この名前が付けられたのだ。

 プライド様は毅然とした表情に、ほんの僅か不安を滲ませながら、告げてくる。

 

「クリームランドを守り、わたくしを助けた貴女――エール・ヴァグリースに命じます。これよりオフィシャルと協力し、ゴスペルを壊滅させるべく全力を注ぎなさい」

 

 それは、プライド様から私への、初めての正式な命令だった。

 部署はゴスペル壊滅までの臨時のもの。それを過ぎれば、私はまたフリーに戻る。

 だがこの一時、私はクリームランドの――プライド様に仕える者として、プライド様を唆したネットマフィアと戦う。

 これはプライド様なりのゴスペルへの報復にして、宣戦布告であると、何となく察する。

 そこには、数日前と同じように、しかし迷いのない覚悟があった。であれば、私の答えなど決まっている。

 

「――畏まりました。必ずや残るゴスペルの面々、悉くの息の根を止めてご覧にいれます」

「いえ、そこまでしろとは言ってません」

「あれ?」

 

 ――そんな認識の齟齬があったものの、私は正式にゴスペルと戦うことになった。

 勿論、医師(デバッガー)としての戦いだ。あまり前に出るつもりはないけれど。

 いざという時は、このちっぽけな身で出来る限りの全力を出しても構わない。

 ヤツらがバグを集めて下らない企みをしているのなら、それを何より上手く処置できるのは、私に他ならないのだから。

 

 

 

 数日ぶりの自宅に到着し、車で運んでくれた城の職員殿に礼をする。

 ……これも待遇ということらしい。別に城からそう離れている訳でもなし、このくらい歩いて帰る体力がないこともないのだが。

 

「……お客さんは無し、と」

 

 電子ロックの電脳に誰かが侵入した形跡は無し。

 インターホンの電脳、監視カメラの電脳を確認し、留守中に誰も来客が無いことを確認してから、扉の鍵を開ける。

 私の家に入り込むような物好きなんていないだろうが、念のため。

 ゴスペルの動きには注意する旨、命令を受けてからプライド様に五回は言われているし、送ってくれた職員殿にも言われた。

 まあ、注意しておくに越したことはあるまい。

 

 部屋の電気をつけ、荷物の整理をしつつパソコンたちの電源を入れていく。

 ただし、一つだけは既につけっぱなし。

 まあそれは仕事に使っているものではないので、気にしない。

 さて、とりあえずは今日のうちにやっておいた方が良いことがある。

 既にプライド様に許可は取っている。これは早めにやっておいた方がいい。

 

『あら、お帰りなさいエール。私に黙って五日間も、何処で何をしていたのかしら。ねえ、怒らないから私に教えてくれる?』

 

 それから、オフィシャルに私が作ったプログラムを送っておく必要もある。

 これはクリームランドからの協力という名目だ。忘れる訳にはいかない。

 副長官殿にメールでプログラムを送る。インターネット全域を守るほどの効力はないが、重要なものを守る一端くらいにはなろう。

 

『私のスケジュールの管理、私のお世話は貴女の仕事でしょう? それを蔑ろにして、代わりのプログラムも用意しないで、さぞ重要な用事だったんでしょうね?』

 

 これで良し。さて、あとはゆっくり、迅速に、仕事を進めよう。

 

『…………』

 

 一体いつ、ゴスペルが仕掛けてくるかもわからない。

 この作業は早く終わらせておくだけ、ゴスペルに対し有利に立てる。

 ゆえに――

 

『ねえ、エール。貴女はついに耳を失ってしまったの? そうしたら、私は誰のために(うた)えばいいの? ここまで(うた)ってきた私を、ここにきて否定するの?』

「……仕事用のパソコンに入ってくるのは勘弁してくれないか」

 

 少し静かになったと思ったら、向かっていたパソコンの画面から飛び出さんほどに近い顔が現れた。

 ナビにしては珍しく、髪のような形を持った青い頭部。

 肌色の顔は幼さをまだ残した少女のもの。しかし――青い瞳の圧は現実の少女ならば到底発するものではない。

 怯えるようなものではないがその圧をやめろ。目に光を宿せ。

 画面に手を置くな。それ一体どこに触ってるんだ。

 

『あら、聞こえていたの。ということは向こうのパソコンの音声を切っていたのかしら。それはどうして? 私から声を奪おうとしていたの?』

「してない。ミュートにもしていない。仕事をしているから向こうに戻ってくれ」

 

 圧が強くなった。仕事の邪魔で仕方ないのでとっとと退いてほしい。

 その光のない暗い瞳と暫くにらめっこ。

 それを一分ほど続けると、画面から離れ、再び元のパソコンに戻っていった。

 

『それなら、何故無視していたの? 今、私がどれだけ不安を覚えたか分かる?』

「知らないが、疲れているんだ。何かあるなら明日にしてくれないか」

『駄目よ。だって何をしていたか聞いていないもの。貴女がいない間、一度(うた)いに行ったわ。とても虚しかったの』

「知ってる。掲示板で話題になってたよ。今回も随分な大暴れだったようで」

『死ぬほど退屈だったわ。やっぱり(うた)うなら貴女がいないと駄目なのよ。ねえ、何処で何をしていたの?』

 

 何だろう、また頭痛くなってきた。

 家にいても不定期で襲ってくるこの大嵐にも等しい癇癪。

 これが居候という事実が無限に頭痛を助長させる。

 

「仕事だよ。プライド様とクリームランドの未来を左右するほどの、ね」

『貴女、いつからそんな重役になったの? フリーであることをあれだけ強調していたじゃない』

「そんなことを言っていられない状況だったのさ。今からやることも、それに関わっている。だから邪魔をしないでくれ」

 

 向こうの画面を見ていないから直接感じてはいないが、さっきと同じ圧を発していることが分かる。

 もう、何なんだ。私より親身になって世話してくれる物好きなんて幾らでもいるだろうに。

 

『……それが本当なら、いいわ。今日はこれ以上追及しないであげる。後で埋め合わせはしてもらうわよ。退屈させたその倍、私を楽しませてちょうだい』

「……何度も言うが、オペレーターでもない私が何故キミの面倒を見る必要があるんだ」

『貴女が私を肯定してくれたからじゃない、エール。初めて私を肯定して、初めて私を打ち負かしたのが貴女なの。だから、貴女に私が勝てるまでは、貴女は私を支配する必要があるの』

 

 話が飛躍し過ぎだ。意味が分からない。

 それに私が彼女を打ち負かした? その事実こそ存在しないのに。

 

『それに、何だかんだ言いつつ、私を置いておいてくれるじゃないの』

「…………」

『ふふ。埋め合わせ、期待しているわ。とびっきりのものをね』

 

 ……なんて勝手なことを。

 こういう性格の厄介さがなければ、別に特に文句なく置いておくというのに。

 

『ああ、そうそう。エール、ただいまがなかったわよ?』

「…………ただいま、レヴィア」

 

 合格、とばかりに頷く“野良”ナビ。

 私の持ちナビという訳でもないのに、私の有するナビマークを胸に付ける青い少女。

 ウラの住民曰く、ウラに輝く蒼き星。バーチャルアイドル・レヴィア。

 それが、決して私の仕事を手伝おうとはしない、我が家の大変厄介な居候である。




・レヴィア
本作オリジナルナビ。
元ネタはロックマンゼロに登場する妖将レヴィアタン。当然ながら向こうとの関わりは一切なし。
容姿は大体元ネタのそれをイメージしてくれればOK。細かいデザインはエグゼ風になっているほか、胸にはエールのナビマークが付いている。
ウラでカルト的人気を誇るバーチャルアイドル。この辺りは容姿の似たロックマン9のスプラッシュウーマンの要素を拝借。
エール家の居候。仕事は手伝ってくれないが収入源の一部にはなっている。

次回は掲示板回。
その後、2終盤のシナリオとなるフリーズマン編となります。
マグネットマン? 今頃光少年がどうにかしてるんじゃないですかね?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。