バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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かつて栄えた炭鉱島-1 【本】

 

 

 それから五日後、私は日本にやってきた。

 日本で暫く滞在することになる、科学省近くのホテルの一室で、ひとまずノートパソコンを起動する。

 長くなると告げれば、当然のように我が家の居候たちはついてくることになった。

 ……なんというか、また面倒ごとに巻き込まれることになると確信しているらしい。

 いや、まあ、今回は私から飛び込むつもりではあるのだが。

 三人が此方にやってきて暫くした後、プライド様は部屋にやってきた。

 

「ああ、もうジャンクマンたちも来ていたのですね」

『ム……ヒメサマ』

 

 そういえば……ジャンクマンの言語機能についてもまだ手を出していないな。

 優先順位が変わってしまったが、あちらも対応した方が良いだろう。

 あの状態では、普通のナビよりも話すための負荷が大きい筈だ。

 

「よかった。三人には聞いておきたいことがあったのです」

「……? 三人に?」

「ええ。エールに聞くより正確な答えが得られるでしょうから」

 

 なんの話だろう。私が答えられることであれば、特に偽りを話すこともないのだが。

 ジャンクマンやアイリスも首を傾げる中で、プライド様は三人に問いかける。

 

「エールは最近、まともに寝ていますか?」

「なっ――」

「ちゃんと徹底しろと言ったので大丈夫だとは思いますが、どうも顔色などを見る限りそうではないような気がして」

 

 …………いや、問題ないぞ。普通のパフォーマンスが発揮できる程度の睡眠時間は確保している。

 そもそも、私の顔色なんていつも通りの筈だ。

 そんな風に疑われるような要因などなかったぞ。なかったと思う。

 

「プライド様、大丈夫です。ちゃんと寝て――」

「レヴィア、どうですか?」

『まあ、四時間くらいは寝ているんじゃない? それがまともなら、なんの心配もないわ』

 

 ――私の証言をぶった切って、プライド様はレヴィアに聞いた。

 そして、レヴィアは至極正直に回答した。

 

「……本当に、エール。貴女は……」

「えっと……私はこれくらいの睡眠で十分なので。あまり寝ると、逆に頭が働かないというか……」

「貴女の睡眠時間、わたくしが知る限り異常に不足しているか、過剰に多いかの二択しかないのだけど……」

「……」

 

 そんなことは……ない筈だ。

 そうする理由があるからそうしているだけで、平時であれば割と普通の睡眠時間を維持している。

 プライド様はその二択の印象を強く持ちすぎているのだ。

 ――なんていう風に主張することは、今のプライド様の何かを訴える笑みを前にして出来る筈もなかった。

 

「話は手短にしましょう。今日は早めに寝なさい」

「あ、はい」

 

 有無を言わさない指示に、頷かざるを得なかった。

 前のそれとは訳が違う。従わなければ容赦はしないとでも言わんばかりの圧だった。

 

「まったく……。お仕事の話になりますが、貴女に明日お願いしたいのは、古い削岩機のメンテナンスになります」

「削岩機?」

 

 仕事についての話が来ることは予想していたが――また、プライド様から出るとは思えない単語を思わず復唱する。

 

「削岩機って……削岩機ですか?」

「はい、削岩機です。ドリルがあって、岩を削るあれです」

 

 どうも、プライド様とは繋がらないその装置を思い浮かべ、やはり首を傾げる。

 私に依頼してきたということは、小型のそれではなく大型のものだろうが……プライド様がそれを必要とする理由が、どうにも分からない。

 なんだろう。岩を砕いてストレス発散でもするのだろうか。

 ……そんな訳あるか。恐らくは公務の一環だろう。いつも忙しいプライド様には間違いなくストレスが溜まっているだろうが、流石にそんなものを使って発散などする筈もあるまい。

 

「エールは、オラン島という島を知っていますか?」

「いえ……知らないです」

「かつては炭鉱として栄えていた島です。現在は需要の変化で閉鎖されてしまい、無人島となっていますが……」

 

 無人島、か。

 確かに石炭をはじめとした鉱石の需要は減る一方だ。資源を残したままに閉鎖された炭鉱も多いだろう。

 

「しかし、我が国の最新PETに使用するマグネメタルという鉱石が、この島で豊富に採れるとのことで。そこで、この島から採れるそれを輸入しようという話になったのです」

「なるほど……」

 

 プライド様は自身のPETを差し出してきた。

 クリームランドの最新モデル……というよりは、試作品のようなものであるらしい。

 それをプライド様自らが使用する辺りが、らしいというかなんというか……。

 ともかく、これにはそのオラン島で今もなお豊富に採れるマグネメタルとやらが使われているらしい。

 

「その採掘に使う削岩機ということですか?」

「そうです。その機械自体、使われていたのが二十年近く前のようで……今も内部の炭鉱に設置されているのですが……古いのですよね」

「まあ、そうでしょうね」

「この削岩機のメンテナンスをお願いします。共にオラン島についてきていただくことになりますが……」

 

 無人島の炭鉱にある大型の削岩機。

 そんなものをメンテナンスのためにわざわざ島から持ち出すことは難しいだろう。

 となれば、当然、技師の方が現場に赴くことになる。

 流石に私も無人島に赴いたことは……あるな。あった。この日本で去年関わったジゴク島もそうだ。

 もしかすると日本は近年無人島の利用が盛んなのかもしれない。

 

「分かりました。大丈夫です」

「……一応言っておきますが、暑いですよ」

「大丈夫じゃないかもしれません」

 

 季節が巡って、再び夏の空気がやってきた頃。

 クリームランドでさえ私にとっては外に出ることさえ億劫になる季節である。

 今日は日本に到着したのがもう夕方だったためそれほどは感じなかったものの、日中ともなればやはり暑さが猛威を振るうことになるだろう。

 去年来ていた時は殆ど、室内での仕事だったため問題はなかった。

 しかしジゴク島にいた時は――あの島の名に恥じない地獄だったぞ。

 

「……熱中症には気をつけてくださいね、エール」

「……善処します」

「本当に善処してください」

 

 そんな打ち合わせを十分ほどした後、プライド様は部屋を出て行く。

 しかし……夏か。冷房の効いたこの部屋ではそれは感じられないがオラン島での作業で嫌というほど感じることになるだろう。

 思えば、ゴスペルと関わった一件から、ようやくもうすぐ一年経つようだ。

 長いか短いかで言えば、間違いなく長かった。

 全ての始まりであったゴスペルとの戦い。その後の、N1の事件から始まったWWWとの戦い。

 そして、小惑星の接近。色々なことがあり過ぎているというのに、息つく暇もなく、今はネビュラがこの国のインターネットを支配している。

 どうやら、このホテルのホームページの外に出れば既にそこはネビュラの占領下であるらしい。

 レヴィアたちにはウラと私のホームページを駆使してやってきてもらったが、どうにも不便だな、これ。

 

『にしても、インターネットの占領ねえ……だいぶ外に出るのが面倒になっているみたいじゃないの』

「そうだね。こればかりは、どうにもならないが……少しずつエリアも解放されているらしい。それを待つといい」

 

 聞いた話では、オフィシャルか民間人かの抵抗により、ここ数日でいくらかのエリアは解放されたらしい。

 そして、それをネビュラ側が取り返すようなことは起きていないとのこと。

 ネビュラとしては重要なエリアではないのか、それとも――このインターネットの占領という動き自体、彼らの作戦の一部に過ぎないのか。

 

『ふぅん? 何ならこの外、蹴散らしてきましょうか?』

「くれぐれも――くれぐれも、やらないでくれ。オフィシャルとネビュラ、どっちに目を付けられても面倒臭い」

 

 この外のエリアにいるネビュラの連中がどれほどかは知らない。

 もしかするとレヴィア一人でどうにかなるレベルかもしれないが――もしもネビュラに目を付けられるようなことがあれば厄介だ。

 ネビュラへの攻撃はまだ早い。あれが完成していない以上、今はその時ではない。

 オフィシャルがそれを見咎めれば――やはり面倒なことになる。

 伊集院少年には既にレヴィアの姿が割れているのだ。彼女の無茶が彼の耳に入れば、間違いなく彼は此方に問い詰めてくるだろう。

 何故、彼がそうしてくれているのかは知らないが、ダークチップの件について本部には黙っていてくれているらしい。

 しかし、彼の中では私の信頼は落ち切っている筈だ。これ以上は、避けたい。

 

『そう。そこそこ面白そうだし、勿体ないわね』

『れ、レヴィア……あんまり危険なことは……』

『ソ、ソウダゾ。レヴィアガ、ドレダケ、強クテモ……』

『ウラの奥のが数倍危険だと思うんだけど……まあ、いいわ』

 

 ――アイリスとジャンクマンが来たことで、分かったことがある。

 それなりにレヴィアは聞き分けが良い。駄目だとか、危ないとか言うと、意外と引き下がってくれるのだ。

 何故これまで知らなかったかと言えば、私がレヴィアのやっていることに過度に干渉することがなかったからだ。

 いつの間にか勝手にマネージャー扱いされ、セッティングこそ任されてはいるものの、そうしたライブ以外で何をしているかはあまり把握していない。

 突っかかってきたウラのならず者を蹴散らす。病的なファンへのサービスを欠かさず蹴散らす。たまたまヤバい犯罪者が目の前に現れたので蹴散らす。何となく機嫌が悪いのでその辺にいるナビを挑発して向かってこさせて蹴散らす。そんなようなことをしているのは知っているが。

 そういったウラの実力者――つまり、ヤバい連中としての顔はあまりアイリスやジャンクマンの前で出すことはない。

 誰の前でもそれを出す訳ではないものの、空気を読むという技術は持っているのである。

 

『外出るわよ』

「悪かったから斬新な脅迫しないでくれないか」

 

 どうも最近、レヴィアに考えを読まれることが増えた気がする。

 そこまで顔に出ているだろうか……そんなつもりはないのだが。

 “外に出る”が脅迫文句として成立する現状に辟易しつつも、とりあえずレヴィアがネビュラに積極的に喧嘩を売るようなことがないことに安心する。

 レヴィアのことだ。ネビュラのナビとも真っ向から戦える力がある。

 だが――例の、ダークロイド相手となると、どうだろうか。

 決してレヴィアは耐久性に優れたナビではない。ダークチップに頼らなければどれだけ時間を掛けるかも分からない相手を削り切れるのかという心配がる。

 ……やはり、極力戦わない方が好ましい。彼女とネビュラにはブルースの一件以上の因縁などないのだから。

 

『で? そのオラン島ってところには二人は連れて行くの?』

「あぁ、そうだな――古いシステムらしいからね。時間が掛かると思うし、二人にも頼みたい。アイリスは補佐として。ジャンクマンは、私たちの護衛としてだ」

『わかった……お願いね、ジャンクマン』

『ア、アア! 任セロ!』

 

 レヴィアに付き合ってもらう選択肢がない以上、ジャンクマンに護衛として来てもらえるのはありがたい。

 私は元より、アイリスも戦闘能力は殆どないのだ。

 作業中のウイルス接近はいつだって医者(デバッガー)にとっての脅威となる。

 今やジャンクマンは立派なナビである。十分に、背中を任せるに値する存在だ。

 

「まあ、今日は夕食を済ませたら、早めに寝て明日に備えるとしようか。作業もほどほどに――」

『……エール。ほどほどに、じゃなくて、今日はやらない方が良いと思う』

 

 控えめに制してきたアイリス。

 それはまるで、作業を始めればどうせ数時間は続けるだろうと確信しているようだった。

 

「大丈夫だよ。三十分だけに留める」

『――って言ったのが、昨日と一昨日……今日は駄目』

「……いや、だが――」

『駄目……ちゃんと見張るように、プライドから、言われているから……』

「……」

 

 内偵、だと。それは少し狡いぞ、プライド様。

 いつの間にかプライド様のことも名前で呼ぶようになっていたアイリスにも、容赦はなかった。

 控えめではあるが、彼女はやると言えばやる。そういう子だ。

 私が少しでもその素振りさえ見せれば、明日にはプライド様に伝わっているだろう。

 降参を示すように両手を上げる。今日ばかりは、ネビュラもダークチップも忘れて眠るしかないようだ。




・オラン島
5に登場する、日本にある無人島。
かつては炭鉱夫で賑わっていたが、石炭の需要の減少で炭鉱が閉鎖され、人も去って無人島になった。
今でも時折島の掃除に来る人がいるほか、海水浴の隠れたスポットにもなっているらしい。
炭鉱周辺には謎の落とし穴トラップがあり、デカオたちは落下した挙句ドリルで落石の下敷きになるところだった。割と冗談抜きに5で一番の命の危機である。
島にはインターネットが通っている。無人島のインターネットの癖にやたら交通の便が豊富で、ネビュラの支配時にはシェードマンがエリアを守っている。
少なくともインターネットエリアとしては現在も非常に重要な場所ではあるらしい。


日本到着。今回はプライド様やナビたちとの交流。
なんで一国の王女が一人で炭鉱に云々とか盗掘云々とかはめんどくさいので雑な理由付けで勘弁してください。
ストレス発散のためにやってきていたもう一方の人の方がまだ理由としては自然ですね、ここ。
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