バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー 作:けっぺん
そのナビは当然のように此方への警戒心を上げてきた。
年月の重みを込めた威圧感は恐れるべきものなのだろう。
だが、それ以上を恐怖として知っている身からすれば、さしたるものでもない。
かといってアレに感謝の念など抱ける筈もないが。
『……お前はネビュラのナビか?』
『ネビュラの敵だよ。所属を明かす訳にはいかないが』
先程ブリザードマンに言ったのと同じことを繰り返すのは何だか馬鹿馬鹿しいな。
まあ、これで信用は出来まい。私にとっても向こうは正体不明な訳だし、信用してもらわなくても結構だが。
『生憎だが、所属不明の勢力を野放しにしていられる状況ではない。最悪の場合、拘束させてもらうぞ』
『優先順位は向こうでは?』
『同時に相手取れば良いだけのこと』
剣を構えたナビ。
怪しまれる身分とはいえ、余計な戦闘などしたくないのだが。
冷静ながらも実力行使上等であるらしいその性質を億劫に感じた矢先――背中を走った寒気から咄嗟に『インビジブル』を使用した。
『うぎゃ!?』
『っ、危ないな……』
私たちから離れた場所で振るわれた剣。
それは素振りではなく、私がいる場所からブリザードマンまでの空間を一直線に切り裂いた。
ブリザードマンの闇が再び散る。
傷はやはり修復されるものの、ダメージ自体は入っているらしい。
『キミがネビュラでないなら、敵対するつもりはないのだがね』
『ならば大人しくしているか即座にプラグアウトを行え。この混乱に無用の懸念が加わるのは面倒だ』
そんな警告の後、そのナビはブリザードマンに踏み込んだ。
『二度もやられてたまるか! 今度こそデリートしてやる!』
振るわれる剣をストックとスキー板で受け止め、反撃の吹雪が放たれる。
それをマントでいなした後、吹雪の勢いで離れたブリザードマンを再び遠隔の斬撃が切り裂く。
――遠近両用の剣か。ソニックブームとは違い、斬撃が離れたところに発生するというのは相手取る上で非常に厄介だ。
その剣の切っ先とあのナビの思考、どちらに対しても十分な注意を払う必要があるのだから。
剣の一撃は、鋭いのではなく重い。
ブルースほどの速度は見られないものの、確固とした、迷いのない、完全な一振り。
作りが古いと感じるのはその風格から推測しただけに過ぎないが、それが戦闘面において闇の力を大いに吸ったダークロイドを相手に圧倒している。
ウラの強者たちとも当たり前のように渡り合える――或いは、それらを超えるかもしれないとさえ感じさせる熟練の戦士だった。
だが、だからといってブリザードマンをデリートまで至らしめられるとは限らない。
攻撃面では凌駕していても、闇が齎す圧倒的な耐久力を突破出来ないのだ。
本体を掴むことの罷りならない敵。それはまるで、影を斬っているようだった。
そう。ダークロイドに普通の攻撃は殆ど通らない。
即座に影響を与えることが出来るのは、余程の攻撃力を持った攻撃か、闇を相殺する別の闇のみ。
だというのにそれをエリアから追い出すことが出来たということは、ダークロイドをして脅威と感じさせたということに他ならない。
このまま戦い続けていれば、ブリザードマンをデリートすることが出来るかもしれない。
だが、それでは困るのだ。私のこれが実際にダークロイドにも通用するのか、確認を済ませていない。
あのナビが近くにいるのが邪魔だが――仕方ないか。
『……』
それを起動し、チップを選ぶ。
使い勝手の良い『バルカン』にそれの機能を適用させ、ブリザードマンに向ける。
そして再び正体不明のナビとブリザードマンの距離が開いたところで、弾丸を発射した。
小さな弾丸の群れは、一つ残らずブリザードマンに吸い込まれ、闇を散らばらせずに傷を生み出していく。
『ぐぅ!? な、なんだ!?』
『何……?』
効いているな――さらにもう一発。
『パルスビーム』による直線状の音波が直撃し、傷を広げる。
困惑しているブリザードマンに『エリアスチール』で接近し、持ち前のナイフを突き立てた後、『ノイズストーム』を放ちつつ再び距離を取る。
問題ない。先のような、闇が散るだけですぐに修復されるなどということもない。
その能力さえ無視すれば、彼は並以下の耐久力を持つだけのナビだ。
『ヒュル……! お、オマエ、なんでボクに、まともに攻撃が出来るんだ!』
『さて、何故だろうか。並の努力ではなかったとだけは教えておくよ』
『ふざけるなよ!』
別にふざけてもいないのだが、求めている答えを教える理由もない。
激昂して雪玉を蹴り飛ばしてくるブリザードマン。
その雪玉を、宙から落ちてきた『ストーンキューブ』が押し潰した。
例のナビだ。威力を失くして砕け散った雪を踏みしめながら、彼は近付いてくる。
『単刀直入に聞く。倒せるんだな?』
『――あぁ』
その警戒は変わりない、というより寧ろ増していた。
だが、今この場で彼がその警戒以上に重視していることも、また伝わってくる。
それに答えている間に、ブリザードマンはゴロゴロと転がりながら迫ってきていた。
勢いは蹴られた雪玉よりも強い。彼なりの大技なのだろう。
決死の覚悟のブリザードマンに対して、ナビは自分で攻撃するまでもなく、右腕の剣で標的を指し示すだけに留めた。
瞬間、石塊を弾けさせ中から飛び出してきた小型の兵士がブリザードマンに銃を向け、発砲する。
『がっ……!?』
どうやらその、『バルカン』よりも小さな弾丸には敵の動きを停止させる効果があるらしい。
重畳だ――今利用しているそれと干渉して負荷が強まるが、ここで加減もしていられまい。
出現した砲身を隙だらけのその身に向け、チップを選択した時点で溜まり始めたエネルギーを放出する。
『カスタムボルト』――一直線に伸びた電撃は狙い違わずブリザードマンを撃ち抜いた。
『うっ、嘘だっ! ボクがこんなところでっ!』
雪を操るナビは大抵の場合、水属性を有している。
このチップの最大威力ともなれば彼も堪るまい。
耐久の許容を超え、その体が散る直前。
『嘘だぁ――!』
彼なりの執念か、最後に彼は己に込められた闇を利用した。
手を此方に突き出し、変化した砲から放たれた凄まじい弾丸。
渾身のダークチップによる攻撃は、受けた傷によって威力が引き上げられ、私たちに向かって射出される。
――躱せない。チップも間に合わず、今この場で出来るのはアンダーシャツによって耐えることのみ。
傍のナビが前に出ようとするものの、しかしその威力が直撃すればただでは済むまい。
これを耐えられるとすれば――それは。
『――ヌゥッ!』
――圧倒的な防御力を持つ、彼のようなナビのみ。
凄まじい速度で迫っていた闇の弾丸が視界から消える。
闇を覆い隠した黒い巨躯は私の知っている姿だった。
『む、ぅ……やはり、ダークチップの力は強大だな。その者たち、無事か?』
ダークチップの攻撃を受け止め、尚も膝をつくことなく立ち続ける強固なるナビ。
防御であれば右に出る者などいない、プライド様に仕える騎士。
彼――ナイトマンの横から顔を覗かせれば、既にブリザードマンの姿はなかった。
どうやら、あの一撃を撃った直後にデリートしたらしい。
『……ナイトマン。クリームランドの王女のナビだな?』
『うむ。察するにそなたが本防衛の指揮官のナビでよろしいか?』
……ふむ? このナビはナイトマンを知っているようだ。
一国の王女とはいえ、プライド様はそのナビの情報までよく知られているということはない筈だ。
それを知っているとなれば、オフィシャルの上位にいる人物か、それに匹敵する組織のメンバーか、という推測が出来るが……。
『その理解で正しい。見事な防御力だった。よもやダークチップの一撃を真正面から受け止められるとは』
『あの程度、などと強がりは言えぬが、それでも一撃程度ならば造作もないわ』
『……なるほど』
僅かに思案した様子のナビは、もう一度此方に目を向ける。
『――お前は、今科学省にオペレーターがいるのか?』
『……』
この場にナイトマンがいる。つまり、プライド様が見ているという状況から、私は口を開かないままに頷いた。
声の加工こそしているものの、この場にいることを知られたくない――という気持ちからだった。
『私はカーネル。所属はアメロッパのオフィシャルだ』
彼は私とナイトマン――恐らくはオペレーターにも――に対し、自身の所属と名を明かした。
オフィシャルのカーネル……聞いたことはないな。ここまで強力なナビならば幾らでも功績は挙げられるだろうし、有名であってもおかしくないのだが。
あのブルースに劣らないどころか、寧ろ二つがぶつかれば有利に戦うだろうと思わせるほどの“力”、ほんの一端のみではあったが、先程私はそれを見た。
ただのオフィシャルの一員とも思えない。
『双方のオペレーター。ひとまずの助力に感謝する。ナビのプラグアウトを行い、メインルーム奥の部屋に来ていただきたい』
そんなことを考えているうちに、カーネルは手短に感謝と命令に近い要望を告げ、プラグアウトした。
程なくして、省内の放送でネビュラの襲撃が終了した旨が流れる。
どうやら、ブリザードマンを相手取っているうちに他の襲撃ナビたちは全て片付けられたらしい。
『……』
ナイトマンの目が此方に向けられたことに気付き、私は逃げるようにパルスアウトを行った。
ダメージはない。どうも最近の疲れの影響か鈍くなっている気のする感覚を刺激するように頭を押さえ、戻ってきたことを自覚する。
「終わったみたいだね。すまない、無関係だというのに」
「研究室にまで来ておいて無関係もないさ。……すまないが、失礼するよ。何やら別室に招集を受けてね」
息をついた室長殿にそう告げて、部屋を出る。
そして――傍の壁に背中を預けて、少しの間思案した。
先の招集。それに従うことで何が発生するか。
私の先の言動が、正体不明のナビのものではなく、クリームランドの
そんなこと、私は明かすつもりはなかったが――同じ立場にプライド様がいる。
既に正体が割れているプライド様はその招集に応じざるを得ないだろうし、それで彼女が何かに巻き込まれる可能性を考えれば、私もまた選択肢は一つだった。
プライド様にオート電話を掛ける。まるで予期していたかのように、電話に出るのは早かった。
『――エールですか?』
「はい。非常事態の直後ですみませんが、お話があります」
『……見当はついています。先の戦闘について、何か言うことはありますか?』
……やはり、プライド様には筒抜けだったらしい。
或いは、だからこそナイトマンを送ってくれたのかという考えがふと浮かぶが――自惚れが過ぎると捨て去る。
ともかく、今彼女が求めている
「状況が状況だったため、事後報告になりましたが――ネビュラ襲撃に対する防衛に参加しました」
『……よろしい。次は先に報告を貰えることを期待します』
――怒られるかと思ったが、ほんの小さな溜息をついただけで、プライド様からのお咎めはなかった。
どちらかというと、今回は逆に謝った場合怒られていた気がする。
内心で安堵したが、本題は終わっていない。この後、どうするかだ。
「えっと……プライド様。招集は、どうしますか?」
『相手はオフィシャルとのことなので、ひとまず応じるつもりです。ネビュラだとしても、科学省の中なら大きくは動けないでしょうから』
例の襲撃事件以来、科学省への入場は当然ながら厳しくなっているとのこと。
私は今回、プライド様のお付きとして許可されたが、そうでなければ事前にそれなりの用意をしなくてはならなかっただろう。
そして、その状況下でこの省内の部屋に招かれるということは、そこで待っている人物はとりあえずは科学省に信頼されている人物であることを証明している。
『ですが、貴女はどちらでも構いません。相手に素性が割れていないのであれば、応じずとも……』
「いえ。プライド様が行くというのなら私も行きます」
プライド様が答えを出した時点で、私の答えも決まったようなものだった。
何が待っているにせよ、警戒すべき事柄にプライド様を一人で向かわせる選択肢は、私にはない。
『……そうですか。では、今から合流しましょう。二階の自動販売機前で良いですか?』
「はい。すぐに向かいます」
電話が切れる。
いざとなれば、プライド様を守らないと。
現実世界には彼女のための騎士はいないのだから。
・カーネル
5、6に登場するナビ。オペレーターはバレル。
元ネタはロックマンXの同名キャラであり綴りはColonel。コンピュータ用語の
黒い軍服を模したデザインの、指揮官のような姿のナビ。また、基本的にデザインに布を用いないネットナビの中でも珍しくマントを身に着けている。
右腕のソードは電脳義手であり、キャノン砲やミサイルランチャーに変化するほか、ちゃんと手の形にもなる。また、置物に伏兵を忍ばせ援護攻撃を行うことも可能。獣化カーネルフォースを許すな。
5チームオブカーネルでは自軍のリーダーとしてチームを引っ張る。
リベレートミッション時の専用コマンドは横三マスをリベレートする『Sディバイド』。
次のリベレートに不利を持ち込まず安定させることが出来るが、1ターンリベレートで攻略できる範囲と被っているため、バトルに自信があるなら一切使用しなくても良い。また、ミッション中のセーブが可能。
己の使命に意固地になっているということもなく、熱斗やロックマンを気遣うようなところもある頼りになる人物。だけど元ネタが元ネタなので何もしてなくてもファンから矢鱈と見損なわれる。6ではこっちも大概なので残当である。
ブリザードマン戦、ナイトマンの援護防御、そして招集の三本立てです。
本作の独自設定として、ダークロイドは共通して4のシェードマンのような半無敵化能力を備えています。
仕組みとしては、本来のHPにプラスしてその数倍~数十倍の耐久値を持つ闇がダメージをほぼほぼ肩代わりする感じ。
現状オフィシャルが把握している打開策は粘るかダークチップかの二択です。ダークチップなら無条件で闇を無効化し本体にダメージを与えられます。
なのでナビを犠牲にした特攻戦法が有効です。やったらデューオさんが逆に感心しながら引き返してくるのでやらないですけど。