バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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やあ、コーエツ兄さんだよ!
実は「見損なったぞカーネル!」は挨拶じゃないんだ!
流石の彼もまだ見損なわれるようなことはしてないぞ!


ネビュラ討伐部隊-1 【本】

 

 科学省メインルームの奥。

 そこはあまり使われていない会議室となっているようだ。

 確かにその部屋は現在、オフィシャルに貸し出し中となっているらしい。

 受付に話をすれば、該当の部屋専用のカードキーを受け取れた。

 プライド様と共にメインルームに訪れ、その部屋のセンサーにカードキーをかざす。

 

「……」

「……」

 

 警戒するプライド様の前に立ち、ドアが開くと入室する。

 使われていないとは言うものの中は手入れが行き届き綺麗だった。

 会議室、にしてはここにある機器は質が良い。奥のモニターも、他の会議室のそれより大きく新しいものだ。

 そして、モニターの前に立っている、あまり科学省という場には相応しくない粗野な印象を抱かせるコート姿。

 三十代といったところだろうか――いや、容姿など実年齢の推測などにはたいがい役に立たないものではあるが。

 真っ黒な瞳は私に暫く向けられ、どうにも感情の読めない小ささで僅かに揺れた後、プライド様に向けられた。

 

「――貴方が、先のナビのオペレーターということでよろしいですね?」

 

 プライド様が話を切り出す。

 カーネルなるナビのオペレーター。状況的にその可能性は高いだろうが、念を込めての確認。

 男性はそれに対し、唇を震わせるような小さな動きながらやけにはっきりと通る低い声で答えた。

 

「そうだ。オレはバレル。アメロッパオフィシャルより派遣された。カーネルのオペレーターだ」

 

 その男、バレル氏は名乗ると同時、此方にオフィシャルとしてのライセンスを見せてきた。

 警戒は仕方ないが、ある程度、話について信頼を置けとでも言うように。

 

「先程の戦いへの助力については、改めてオレからも礼を言う。ダークロイドへの有効な攻撃手段と優秀な防御能力、どちらもなければカーネルも無傷での勝利とはいかなかっただろう」

「……ここに呼んだ理由がその礼だけであれば、受け取りましょう。ですが、それだけではないのでしょう?」

「ああ。本題は別にある、が……その前に」

 

 もう一度、視線が此方に向いた。

 

「クリームランドのエール・ヴァグリースで、間違いないな?」

 

 ――まあ、現状正体不明は私だけということか。

 あのライセンスは本物だろうし、プライド様もオフィシャルにその名を連ねている。

 一方で私はそうした、この場で無害の証明になるようなものは存在しない訳だ。

 

「顔で覚えられるようなことはしていないつもりだがね」

「世界大会に出場しておいてその言い分は通用しないと思ってもらおう」

 

 私が大会に出ることに抵抗のあった理由として、ナビのオペレート能力の次点として懸念していた問題は実に効果を発揮しているようだった。

 この場で会っただけでそれと一致出来るだろうかという疑問もあるが、現に言い当てられているのだし何も言うまい。

 

「……ネットバトラーとしてでなく、医者(デバッガー)として名を覚えてもらいたいところだよ。あれは本業じゃない」

「本業としての実力の評価は聞き及んでいる。寧ろ、単純なネットバトルの腕のみがあるより望ましい」

 

 のみがあるより、とは言うがそのネットバトルの腕にまったく覚えがないのだが。

 こんな状況でなければきっとプライド様も苦笑しているぞ。私がやっていたことなどほぼほぼ予習の再現だけだというのに。

 そうでなければライカ少年との戦いももっとまともに進められたし、デューオとの戦いでも役に立てた筈だ。

 微妙な気分になっているのを知って知らずか、バレル氏は話を続ける。

 

「プリンセス・プライド、エール・ヴァグリース――先の戦いを見込んで、話すべきことがある。そこに座ってくれ」

 

 会議用の長テーブルと整頓された椅子。

 会議室というならそれらはあって当然なのだが、どうにも辺りの設備との不揃い感が否めない。

 此方の方が急遽用意されたような、部屋の雰囲気と合っていないものが部屋の中心を占めているのはどうにもおかしかった。

 

「……」

「――話は聞きましょう。ただし、その後どうするかの確約は出来ません」

 

 プライド様に従うと視線を向ければ、暫し思案した後、彼女はそう答えた。

 当然だ。聞いたからには何かを約束しろなどと強制されては堪るまい。

 バレル氏もそれは理解しているだろう。

 オフィシャルのメンバーとはいえ一国の王女。オフィシャルとして活動する際は基本的にあまり立場を気にすることもないらしいが、それでも度が過ぎれば国際問題まっしぐらである。

 プライド様に続いて席に着く。それを確認してから、バレル氏は再び口を開いた。

 

「現在、日本のインターネットがダークチップシンジケート・ネビュラによって占領されているのは知っての通りだ。日本のオフィシャルや民間人――後者は禁止令が出ているが、彼らの抵抗はあるものの、成果は殆どない。ネビュラの本拠地も掴めておらず、戦況は苦しいと言えるだろう」

「……」

 

 より、自身の表情が苦くなるのを自覚した。

 あまり他者と、連中に関する話をしたくはない。

 改めて口にされると、己が関わったことの被害の大きさを実感してしまうのだ。

 

「そこで極秘に有力なメンバーで構成された、オフィシャルの管理下にない非公式の部隊が作られた。占領されたインターネットを解放し、ネビュラ壊滅のために動くチームだ」

 

 非公式……オフィシャルにも大々的に知られていない、立場も国籍も関係のない集まりか。

 ここまで大規模な作戦を行っているならば、当然ネビュラもオフィシャルの動向について目を付けているだろう。

 ゆえに、オフィシャルが攻撃されたところで作戦の止まらない、動きやすい部隊を作ったと。

 そして最終的な目的はネビュラの壊滅。管理下から外れることを許す辺り、随分とオフィシャルも思い切った手を打ってきた。

 

「しかし発足されたばかりのこのチームにはまだ戦力が足りない。優秀なネットバトラーとナビは一人見つかっているものの、彼とオレだけでは限界がある。そして、あのダークロイドへの有効な攻撃手段を我々は有していない」

 

 ……言いたいことは分かった。

 前途多難なチームな訳だ。決してメンバーが問題児の集まりとかそういう理由ではなく、相手側が問題児の集団だという意味で。

 

「そこで、二名には我々のチームに入ってもらいたい。ネビュラ討伐部隊――チーム・オブ・カーネルに」

 

 現状二名のチーム。既にエリアをダークロイド――ブリザードマンから解放したとは言え、まだまだネビュラ打倒には遠い。

 ゆえに、ああした襲撃への対処でも有力なナビを探しているのかもしれない。

 だが――何の問題もなく、はいそうですかと頷くことなど出来ない。

 

「――」

 

 プライド様を危険の伴う戦いに向かわせるつもりはない。

 そして、私がネビュラと戦う理由は彼らのそれとはまた別だ。

 互いに不干渉とする方が賢明だ。そう告げる前に、プライド様が口を開いた。

 

「わたくしはともかく、彼女は一人の技術者ではありますが一般人です。ネビュラ討伐という目的を持った、危険を伴う部隊に所属させる訳にはいきません」

「そうした実力を持った一般人や、場合によっては非合法的な職を持つ者の力をも借りるための非公式部隊だ。日本という科学の最前線のインターネットがネビュラの手に落ち、光祐一朗氏が攫われた。既に状況はオフィシャルだけで解決できる域にはない」

「非合法的な……? ウラインターネットの力でも借りるつもりですか?」

「一案として考えている。日本からウラへのアクセスが難しいため、慎重に行う必要はあるがな」

 

 ……ネビュラと戦うという私の決意に対して、プライド様は“禁止はしない”という、事実上の黙認の形を取っている。

 だが、だからと言って突然に告げられたそのチームへの所属には頷けないらしい。

 私としても――正直なところ、胡散臭いというのが本音。

 これだけ聞かされても、プライド様は駄目という思いが余計に強くなるだけだった。

 

「その点で考えても、お前が入る意味は大きい――エール・ヴァグリース。ウラにおいて発言権を持つウラランク持ちを確認出来ているのは日本とクリームランドのみ。ウラの力を借りられれば、戦力は大幅に上がる」

「――エール」

「……そこまで調べてもらってなんだが、ランクがあるからといってウラへの発言権が上がる訳じゃない。全域を動かせるのはウラの王だけだし、ウラの王に促せとでも言うならそれこそお断りだ」

 

 プライド様の傍でウラについて話すのは気が引けたが、間違いは正しておくに限る。

 ランク持ちが大々的に喋ったところでどうなる。特に私のような、力で存在している訳でもない者が。

 手先だけでウラを動かせるウラの王という存在もいるが、これに頼るというのなら私は寧ろこのチームに敵対しよう。

 セレナード自身はともかく、オペレーターである彼を危険に晒す者がいるならその者が私の敵だ。

 ――ちなみに姿を隠しているだけでウラの王はこの前、炎渦巻くパークエリアで大暴れしたりもしていたし、稀にではあるがランク持ち以外が謁見できないとは限らない。

 

「ウラの住民多数に協力を促せと言っている訳ではない。中でも一握りの、オモテの事情にも介入する意識のある者と手を結べれば御の字というだけだ。まあ――ウラの話は置いておこう。我々としてもおいそれと出せる決断ではないし、必須事項という訳でもない。お前を必要とする最大の理由はダークロイドへの攻撃手段にある」

 

 まあ、本命はそちらだろうが。

 そこについてはプライド様も呑み込めていないようで、怪訝な表情に変わる。

 

「……先程から気になっていましたが、彼女が先の戦いで何か特別なことを?」

「ダークロイド――闇の力を備えたネビュラの上位ナビたちの総称だ。ダークチップを当たり前のように行使し、そして受けた傷を闇で即座に修復する強大な力を有している。先程科学省エリア1に襲撃したナビ、ブリザードマンはそのダークロイドだ。数日前、カーネルともう一人のメンバーで彼が支配しているエリアへの攻撃を行ったが――一日かけてエリアから撃退するのが限界だった」

 

 そこまでの耐久力があるとは思わなかった――それほど、ダークチップが生み出す闇は強大だったということか。

 チームの二人によるエリアへの攻撃。ダークロイドは勿論だが、連中の攻撃にそれだけの時間耐え凌ぐことが出来るメンバーたちも相当の実力者であるらしい。

 

「お前のナビの攻撃が、そのダークロイドに有効だった。結果としてようやくブリザードマンをデリートすることが出来たが……あの攻撃は通常のバトルチップに見えた。どういう理由だ?」

 

 仕組みについては、答えても問題ないかと判断する。

 あくまでこれは目標としているプログラムの一つだし、他者が簡単に模倣出来るものでもない。

 確かに通常のバトルチップだ。それの性質を変化させればダークロイドにも通じるというだけ。

 

「私が改造したバトルオペレーションシステムで、此方の攻撃にダークソウルを弱める力を組み込んでいるだけだ」

 

 ダークソウルを浄化する手段というのは多くない。

 さらに、その深みにまで沈んでしまった場合、もう一度救い上げることはほぼ不可能になる。

 そうした状況でただ一つ、万能に力を発揮し闇からの救済を可能とするプログラムが存在する。

 ウラの奥底、ブラックアースと呼ばれる封印されたエリアに安置されたそれの一端を使って作り出したのが、このシステムだ。

 

「そんなものを……では、お前は以前にダークロイドとの戦闘経験があるのか?」

「二度ほど。とはいえ、無制限でダークロイドと戦えるものじゃない。寧ろ普通のバトルオペレーションと比べたら制約だらけのものだ」

 

 攻撃で直接闇を払うことが出来るようになるために、必要とするリソースは馬鹿にならない。

 それに、戦闘における制約も多い――自分で作っておいてなんだが、使いにくい代物である。

 最も手っ取り早いダークロイドとの戦闘手段ではある。私の目標である、ダークソウルからの救済も出来ない、本当にただ戦うためのシステムだ。

 

「いや……それでも、我々としては希望とも言うべきものだ。それをこのチームに使わせてもらえないだろうか」

「私はキミのチームとは別の理由でネビュラと敵対している。プライド様を危険に晒す理由もない――私としては、それを最終解答としたいのだが」

「……お前は、光祐一朗氏を助けるつもりがないのか?」

「――――そういう話をするのであれば、今すぐ退出させてもらうぞ」

 

 プライド様の手前、沸き上がった不快感を抑え込む。

 それをチームに加入させるための、交渉の手段として利用するのであれば、この男とこれ以上話すことはない。

 光氏を出来る限り、迅速に救わなければならないことなど理解している。

 だが、だからチームに入れなどと名前を使われることは許容できない。

 そんな意思を込めてバレル氏を睨みつけるが――

 

「脅迫のつもりではない。その気があるならば、彼の息子を支える目的でも、このチームに入ってもらいたいという話だ」

「――」

 

 私にとっての楔となったのは、彼ではなく。

 父がネビュラに連れ去られたことで、またも戦いに飛び込まざるを得なくなった子供だった。




・バレル
5、6に登場するカーネルのオペレーター。
アメロッパ軍ネットワーク部隊総司令官。また、日本全国のオフィシャルに指示を出せる権限を持つ。
ネビュラの活動が本格化したことにより、ある人物からの依頼を受け非公式のチームを率いてネビュラと戦う。
基本的に指令室からチームメンバーやオフィシャルたちに指示を出す立場にあるものの、非常に貴重な熱斗と共に戦う大人の存在である。
熱斗のもとにロックマンがいない状況で、炎山のようにライバルではなく大人として厳しく接することで再起を促すなど今までにはいなかった味方。
5では基本的に活躍するのはチームオブカーネルだが、ブルース版でもチーム・オブ・ブルースの活動の裏で行動しており、最終局面で姿を現す。
しかし6では復活したWWW側の人物として熱斗たちと敵対。相変わらず熱斗に厳しい世界である。

・チーム・オブ・カーネル
5チームオブカーネルに登場するネビュラ討伐部隊。その名の通り、カーネルがリーダーを務める。
5では各エリアがネビュラに占領されているため、熱斗はこのチームのナビたちをオペレートしてエリアを解放するためのリベレートミッションに臨む。
チーム・オブ・ブルースがオフィシャル公認の正規部隊な一方で此方は非正規の傭兵部隊という印象が強い。
2からの復活キャラの多い5であるが、元ゴスペルやWWW側のナビが新たなオペレーターと出会っているブルース版と、オペレーター共々続投のカーネル版という違いも。
所属する面々が(約一名除いて)どいつもこいつも後ろ暗い過去があったり場合によっては次回作でやらかしたりするため、チームオブ犯罪者だのチームオブ前科者だの散々言われていることは有名。


TPOを弁えない我が道を行くワイルドスタイルのバレルVS場所が場所だけに白衣スタイルが許されるエールVSゲーム的メタな理由ならともかくこの作品ではきっと公の場に相応しい正装のプライド様VSダークライ。

5編はここまでで行ってきた設定の統一やら設定変更やらがかなり大きく影響してきます。
その中の一つであるダークロイドの超強化によりクソゲーになった秋原エリアの解放。多分50ターンくらいは掛かってます。
にしてもこれまでと比べると原作介入がだいぶ早く感じますね。まだ序盤と言って良い頃でしょう。
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