バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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ネビュラ討伐部隊-2 【本】

 

 

 彼の言葉は、紛れもなく彼以外にチームに所属しているもう一人を示していた。

 ああ、当然だ。父が攫われたとなれば、彼は何としてでもそれを助け出そうとするだろう。

 

「……オフィシャルでもない、一般人である子供を引き入れるのは、些か以上に非常識では?」

 

 プライド様の言葉には、静かな怒りが込められていた。

 彼女と光少年はあの会議以降は――私の知る限り面識はない筈だ。

 だが、あの戦いを通して彼の人となりはプライド様も理解しているだろう。

 彼は善人だ。そして、まだ上手く物事を捌き選択することが出来ない子供だ。

 私としても、気に入らない。さぞ簡単だっただろう。“父を助けるために”と彼を勧誘することは。

 

「偶然の助けもあったとはいえ、世界を四度救った小学生――今回の作戦は、彼の保護も目的としている。インターネットが占領されている今、彼に独断で動かれては追うことも難しいからな」

「それは、彼を戦いに巻き込む理由になりますか?」

「戦いを禁止してみろ。何を起こすか分かったものじゃない。当然ながら彼の類稀な力を借りたいという理由もあるが――光熱斗が望むように、ネビュラと戦うための最も安全な方法だ」

 

 ――もしも、父を連れ去られた今の状況で、何もせず大人しくしていろと彼に強制すれば。

 ……遠からず爆発することなど想像に難くない。

 たとえ一人――ロックマンと二人であろうともネビュラと戦うだろう。

 少なくとも、大人しく自宅で待機しているなどということは、彼に限ってはあり得ない。

 であれば、光少年のためにも、彼には戦ってもらう。それも、実力のある者たちが十全に補佐できる環境で。

 その結論は分からなくもなかった。戦いの中の彼という存在を、よく知っている身からすれば、特に。

 父の技術、父の名声とは関係のない、彼らの力で成し遂げられた偉業が生んだ、強いられた戦い。

 ……それらを助け、時に共に戦った――つまり、止めることが出来なかった私の責任か。

 

「……」

 

 今、私はこんなところにいて良いのかという疑問が、ふと脳裏を過ぎった。

 ネビュラという敵を用意したのも、それと戦う席を光少年の()()()用意したのも。

 どちらも私が関与していた。今、彼が感じているだろう苦しみは、私が作ったようなものなのだ。

 

「このチームはあまり大規模にするつもりはない。十人以下の精鋭とするつもりだ。その中に、防衛において世界でも五指に入るほどのナイトマンを有するプリンセス・プライド。そして光熱斗と共にゴスペルやWWWと戦い、そして小惑星衝突の危機を救った技術者たるエール・ヴァグリース。お前たちが入ることの重要性は理解してほしい」

「……話は分かりました」

 

 気付けば拳を強く握りしめていた。

 己の決意、というよりは強迫観念のようなもので、ネビュラと戦う理由にまた一つ、重くのしかかるものが増えたようだった。

 自分の意思を示すように、プライド様に目を向ける。

 視線を交わしたプライド様は暫し思案し――小さく、溜息をついた。

 ああ――また、彼女に選択を無理強いさせた。いつになっても返せない恩が積み重なった。

 甘んじるべき胸の痛みは、まるで錯覚ではないかのようだった。

 

「わたくしは公務でこの国に来ています。また、彼女もその助力のために連れてきました。ゆえに――いつ如何なる場合でも招集に応じることが出来ると約束出来る訳ではありません。それは、大前提として考えるように」

 

 ――そして、私はその時のプライド様の、ほんの僅かな声色の変化に、その痛みが緩和されたのを感じた。

 いや、緩和というよりは、動揺で鈍ったというのが正しいのだが。

 

「――いいだろう。作戦時にそれが重なれば痛いが、ある程度は此方で調整する」

 

 私ですら注意していなければ見逃すほどの変化。

 ゆえに、バレル氏が気付くことが出来る訳がない。

 仕方なく、本当に不承不承に――プライド様が方針の転換を行ったことに。

 

「よろしい。……エール、それで、いいですね?」

「え、あ……はい」

 

 思わず押され気味に返事をしてしまったが、私の意思としては、入らざるを得ないという方向に固まっている。

 バレル氏の思い通りになっていることが癪ではあったが――光少年が心配だ。

 プライド様にもその気持ちはあるようだった。この答えを出した理由の幾分かが、光少年の存在であったことは間違いない。

 

「では、クリームランドの王女、プライドと、我が国が誇るデバッガーたるエール・ヴァグリースの名を、貴方たちのチームに貸しましょう」

「よし――それでは、これよりお前たちはネビュラ討伐部隊、チーム・オブ・カーネルの一員だ」

 

 ――だが。

 それはそれとして、乗せられたように思えるのが気に入らないのは、プライド様もまた同じだった。

 そして、まあ仕方ないかと思う私の一方で、プライド様はそれで終わるつもりはなかった。

 決して侮られてはいけない、王女という立場であるがゆえに。

 

「――ええ。早速ですが、積もる交渉は先に済ませてしまいましょうか」

 

 たとえ非公式であろうとも、表沙汰に出来ない組織での活動であろうとも。

 国の力を貸し与える以上、その対価となるものに目を瞑ることは、公人として出来ないということらしい。

 

「……何?」

 

 何を、とは言っていないが、その雰囲気の変化には流石にバレル氏も気付いたらしい。

 こういう時私はどうすれば良いか。プライド様にうんうんと頷くまでである。

 かつての苦境はプライド様に、転んでもただでは起きない強かさを与えたのだ。

 バレル氏にとっては想定外の展開だろうが、まあこういうものだと諦めてほしい。王女に力を借りるとは、そしてフリーであろうと医者(デバッガー)の力を借りるとは、こういうことなのだと。

 

 

 

 それから暫く。

 殆どプライド様の独擅場であった、いわゆる見返りの交渉が終了した。

 ネビュラの襲撃で中断となっていた、プライド様が参加している会議が再開され、一足先にこの部屋を出て行った彼女を見送る。

 それと同時に深い溜息をついたバレル氏。

 その顔には、慣れない苦労を強いられたことによる気疲れがありありと浮かんでいた。

 ……まあ、それに対して私が掛ける言葉はない。

 

 まだ未完成であった私の外装。

 あれを完成させるための資金提供を報酬として受ける約束をプライド様が果たしてくれたのだ。

 ……いや、私が望んだ訳ではないし、私が何を言うまでもなくプライド様が全て纏めてくれたのだが。

 

「……相応の働きは期待しているぞ」

「……報酬相応の仕事はさせてもらうつもりだよ」

 

 どうにも謎の空気となった中で、バレル氏同様、若干――本当に若干だが、私はプライド様に引いていた。

 プライド様がそういう仕事をしている場に同席することなど今までなかった。

 ああもプライド様に凄みを感じたのは……まあ、怒られている時に度々あるが。

 

「ともかく、まずは記録を見せてもらえるかい?」

「ああ。これだ。持ち出しても構わないが、取り扱いには注意するように」

 

 チームに所属したことで私が請け負うことになった最初の仕事。

 それが、ネビュラが占領するエリアに進攻するための手段だ。

 私はまだ、そのエリアについての情報を有していない。

 どんな状況になっているか分からない以上、頼りとなるのはこのチームが直前に対応した秋原エリアの作戦記録だ。

 ノートパソコンは持ってきていないので、PETでその記録を再生する。

 

 ――秋原エリア。恐らく、本来は平穏なインターネットエリアなのだろう。

 それが悍ましい闇に覆われていた。

 先に進めないほどに濃密な闇がエリア全体に充満しており、奥に潜んでいるだろうダークロイドに辿り着くことすら出来ない。

 対して、カーネルとロックマンはその闇から湧き出るウイルスたちをデリートしながら、少しずつ闇を切り拓いていく。

 そうするしかないのは仕方ないものの、そこからウイルスの発生という形でリソースを消費させるのが唯一の手段。

 待ち受けるダークロイドまでの最短ルートを切り拓き、度々撤退しては回復し再度進攻を繰り返す。

 

「ダークロイドへの攻撃手段も無論だが、その闇を効率よく払う手段も必要だ。先のシステムを応用出来そうだろうか」

「出来る……というか、そうでもしないと専用のシステムを作るために時間が掛かり過ぎる。そう猶予がある訳じゃないだろう」

「そうだな。出来る限り迅速に、次のエリアの作戦を進めたいと思っている」

 

 ネビュラもいつまでも此方を待っていてくれる訳ではあるまい。

 連中が張っていない、比較的安全なエリアに攻めてこないとも限らないし、解放された秋原エリアが再び攻撃されないと決まったということもない。

 であれば、彼らを攻撃できるシステムは、今あるものや、すぐに作れるものを応用して構築した方が良い。

 

「次のエリアとは?」

「オラン島エリア3を予定している。あそこのエリアの守備は、ナイトマンがいれば突破出来るだろう」

 

 攻撃力に特化した守備を用意しているということだろうか。

 ナイトマンがいれば、並の攻撃力など数の内にも入るまい。

 しかし――オラン島エリアか。あそこにもエリアが存在することは知っていたが、あまり解放の優先度としては高いとは思えない。

 ネビュラの占領下にあるのは変わらないとはいえ、無人島だぞ。重要なエリアではない筈だが。

 

「オラン島エリアはそこまで優先すべきエリアなのか?」

「秋原エリア、科学省エリア、エンドエリアを繋ぐ重要なエリアだ。オラン島は現在は無人島になっているが、インターネットは今も往来の激しいエリアとなっている」

「……そうだったのか」

 

 ネビュラがわざわざ占領するだけのことはあるのか。

 科学省エリアとも繋がっているということは、今後科学省エリアを奪還するための通行ルートとしても使えるということだ。

 ここを奪還する意味は大きいのかもしれない。

 

「そして……お前にはもう一つ、頼みたいことがある」

「所属が決定して数十分の仕事量ではない気がするが」

「そちらに関しては最優先という訳でもない。時間があれば進めてくれればそれでいい」

 

 ――その時間がないと言っているのだが。

 このシステムの構築で外装の作成はその分遅れることになる。それはあまり望ましいことじゃない。

 

「……一応、聞くだけ聞いておく」

「先程話したウラの住民の協力の件だ。実際のところ、有力な者の力は借りられそうか?」

「何とも言えない。どちらかと言えば、望みは薄い。オモテの事情に関わる者も稀だからね。というか、一人くらい候補は出していないのか?」

 

 ウラの住民でも力があれば誰でも、という話でもあるまい。

 力があろうと協調性のない連中が殆どだし、私もそんな連中に声は掛けたくない。

 バレル氏から望ましい候補の一人でも出されなければ、動きにくいぞ。

 

「……コンタクトを取れるだろうと考えていたのは一人。シャドーマンだ」

「…………なるほど」

 

 ウラの住民で、条件次第でオモテにも付き合い、その役割を十全にこなして見せる実力者と言えば、真っ先に彼の名前が挙がるだろう。

 金さえ積めばオモテの――それこそオフィシャルに通ずる仕事から、犯罪組織が企てた一国のシステムへの襲撃さえ請け負う暗殺者。

 寧ろ、それがネビュラに力を貸す前に此方の協力を取り付けておきたいと思うのは、彼の存在を知っていれば当然のことだ。

 

「まあ、確かに彼なら請け負う可能性はあるだろうね。ウラの住民でもあそこまでウラだのオモテだのを気にしない輩は珍しい」

「では……光熱斗と協力することも厭わないということだな?」

 

 光少年と――ゴスペルの依頼を受けていたし、その件を気にするとでも思ったのだろうか。

 そういえば彼らはムラマサを知っていたな。もしかすると面識すらあるかもしれない。

 ただ、そうだとしても私の回答は変わらない。あれは契約者側が裏切る素振りを見せなければ信頼を置いて良い存在だ。

 

「恐らくは。過去の恨みで仕事を断っていたら暗殺者なんてやっていられないだろうに」

 

 ちなみに医者(デバッガー)は過去の恨みで仕事は断るぞ。

 そこまで行くのは余程の相手だが。そんな輩は闇医者に足元を見られることになるのだ。

 

「それを聞いて安心した。では、頼めるか」

「……善処はしよう」

 

 ヤツの力を借りたいというのは分かる。だが、正直なところ、私としては気が乗らなかった。

 誰にだって一人や二人、三人や四人、天敵という者がいる。

 私の中で最たる存在はフォルテに他ならないが、あの暗殺者もまたその一人だった。

 ……ウラに行くことになるだろうが、レヴィアを護衛には使えないな。また互いにデリート寸前になるまで戦い合うぞ、きっと。

 目下の課題に加えて伸し掛かってきた億劫な任務。厄介だが、それもまあ必要なことか。

 

「――二十倍だ」

「何?」

「私に支払われる前金の二十倍。それだけあればひとまずヤツに話を聞かせることは出来る」

「…………正気か?」

「冗談だと思っているならウラを甘く見過ぎだな」

 

 ウラとは違法が飛び交う世界であり、違法が飛び交うということはつまり金も飛び交うということである。

 そんな中でまともな金額で仕事を請け負っている私が珍しいのだ。暗殺者なんていうウラの中でもとびきりに異質な仕事なら尚更、規格外の金額が要求される。

 ……それで依頼に困らないというのがシャドーマンの実力であり、ウラの世界の異常さなのだが。

 

 より渋い表情を深めたバレル氏の不明な資金源がいつか底を突くのではと思いつつ、私は秋原エリアの攻略記録を飛ばし飛ばしに眺める。

 私がシャドーマンと話をするにしても、私の懐を痛める理由などない。チーム運営の経費として落とすのが道理だ。

 私に出来るのは精々、必要以上にふんだくられないための交渉くらいである。




・ナイトマン
2、5チームオブカーネルに登場するナビ。オペレーターはプリンセス・プライド。
普通のナビの倍近い体躯を持つ騎士を模したナビ。巨大な鉄球を武器とする。
戦闘では石化しており、それを解除させて攻撃を行ってくるためダメージを与えるタイミングが限られる。
そして時間の経過でだんだんと自軍に迫ってくるため、早期に決着を付けないとロイヤルレッキングボールの餌食となる。
騎士としてオペレーターであるプライド様に絶対的な忠義を誓っている。
ゴスペルに与していた際も、それが間違った道であると理解しつつも騎士として従い、ロックマンと戦った。
5チームオブカーネルではオラン島にマグネメタルを採掘に来ていたプライド様と共に登場するが、鉱石の磁力の影響で暴走してしまっている。
それをロックマンに助けられた後、借りを返すべく彼の窮地を守り、その防御力を買われてチームの防御ナビとして参加することとなった。
リベレートミッションでは専用コマンドを持たないものの、自身と周囲一マスにいる仲間がダークロイドフェイズで受けるダメージを0にする。
ブルース版のマグネットマンと違い、メンバー全体に効果がある訳ではなく戦闘時に特殊な効果もないが、オーダーポイントを使わず行動権も使用しないのが強み。


プライド様とエールがチームに加入。
だいぶ自己嫌悪的に悩んでいるエールですが、5編は大体こんな調子です。
代わりといっては何ですがバレル氏の胃と懐も痛めるよう調整しました。クリームランド流の腹いせです。
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