バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー 作:けっぺん
いや、本編には何も関係ないんですけど。
一部が占領されたとてそう変わる訳でもないウラの僻地を、私は歩いていた。
護衛に連れてきたのはビーストマンだ。最近私がウラに入り浸ることが少なくなってだいぶ清々していたらしい。久しぶりの呼び出しにはいつもの倍近く時間が掛かっていた。
『で? 今度は何を企んでいやがる?』
『何がだい?』
『久しぶりに呼び出したかと思えば、こんな何もねえところを歩くなんざ、悪巧みしているとしか思えねえだろうが』
その信用の無さは相変わらずだった。いや、私の方もその護衛能力以外は期待していないのだが。
別に彼に目的など言うつもりはなかった。
いつものことだ。呼び出して、歩く先に付いてきてもらう。私とビーストマンの関係などそのくらいだった。
ただ、まあ――今回は別だ。ある程度、話だけは通しておいた方が良いか。
『少しばかり大事な取引がある。部外者には決して耳を傾けさせるな。いいね?』
『……グルル……また面倒なことに巻き込まれた気がするな』
何を今更。目的がどうあれウラランクを……第十位を手にした時点でキミの運命など決まったようなものだろうに。
第十位が抱えることになる面倒ごとを受け入れる覚悟だけは認めてやっているのだ。光栄に思ってほしい。
いや、覚悟があろうとなかろうとその役割を強制させることに代わりはないのだけど。
不愉快そうな唸り声を耳障りに思いつつ、ウラに通じた者でもあまり知らないような路地を歩く。
ウイルスさえ姿を見せないほどに過疎地帯であるここは、そもそも知名度がない。
ゆえに良く知る者からすれば、都合の良い取引場所となる。
やがて、私が指定した袋小路で立ち止まる。
ビーストマンは周囲を見渡し、鼻を鳴らした。
『その取引とやらの相手はまだ来ていないようだな』
その言葉を聞いて、私は呆れや落胆より先に感心が来た。
よくそれでランカーなどやっていけるな、と。というか改めてコイツに護衛任せるの不安になってきたぞ。訓練プログラムの方向性、少し変えてみようかな。
『……キミ、もう少し気配の捉え方を覚えたまえよ。彼にしてはかなり露骨な方だぞ』
『何……?』
途端に首の動きが忙しなくなった。
本当に気付いていないのか……何というか、野生の勘みたいなものはないのか?
……まあ、いいや。もう少し近付けば流石に気付くだろう。
『かくれんぼをしに来た訳じゃない。出てきてくれるかい?』
『――ふむ。腕は衰えていないと見える』
『ッ!』
真後ろに一瞬で接近してきた気配。
ビーストマンがそれに対処するより先に、緊急用の自動防御プログラムが展開される。
そう便利なものじゃない。ほぼ、彼という存在が繰り出す不意打ちに特化した命綱のようなものだ。
何せ、私単独ではその接近に対処する力など到底持っていないがために。
『一応、此方としては戦意が一切ないつもりなんだが。相変わらず挨拶が些か物騒じゃないか?』
『互いにウラの流儀を知らぬ身でもなかろう。それに、古参に数えられる階位持ちが腑抜けていては話す気も起きぬ。ゆえに試させてもらったまでよ』
『……ああ、そうかい。それで、お眼鏡にかなったかな?』
『うむ。小手先が健在であることは理解出来た』
背中でバチバチと反応していたプログラムから離れ、私の前にそれは立つ。
というかビーストマン、せめて迎撃の素振りくらい見せろよ。何を唖然と突っ立っているんだ。
『久しいな、薬師。壮健か?』
『久しぶりだね、シャドーマン。此方はまあ……慌ただしいが、そこそこだ』
古臭い言い回しで私を呼ぶそのナビは、その風体、その素性に反して、ウラでも高い知名度を持つ存在だった。
ブルースがオモテから来る死神であれば、彼はウラに潜む死神。
寧ろ、一度狙われればウラにいることは不可能とされる、黒き暗殺請負人。
――ウラランク四位、シャドーマンである。
『シャドーマン、だと……?』
『お主とは初めて顔を合わせるな。如何にも、拙者はシャドーマン。このウラの世界で闇討ちを生業としている身よ』
ビーストマンとしては初見の相手だろう。
ランカー同士が積極的に顔を合わせるなどということは基本的にない。
シャドーマンは用事があるならば出会うのは難しくはないが、用事がなければすれ違うことさえないナビだ。
『薬師。この者は第十位を担う者で間違いないな?』
『そうだよ。不甲斐ない第五位と比べて半年は生きている以上、それなりに根性がある』
連れを侮られて立ち去られては敵わないため、ある程度言葉を選ぶ。
シェードマンの次の第五位については、決まってから私もあまりウラに関わっては来なかったため、正直詳しく知らない。
特に目立つ逸話も聞いていないため力を誇示しようとしたり早死にする動きをしている訳ではないようだが。
『ふむ。あの者の後釜として様になり、お主が認めるにはあと三年といったところか』
『……生憎、世間話をしに来たんじゃない。本題に入るぞ』
アイツの存在、そしてその力を知っているからこそ、そんな冗談を言ってきたのだろうが。
私はそれに返す答えを考える気はない。ゆえにその戯言を切り捨て、持ってきたデータを放り投げる。
『……ほう?』
『知るだけでそこそこに厄介な話だ。まずはそれで交渉の席に着け』
用意したクレジットデータの一部である。彼に依頼するのに相応しいほどではないが、かといって無視できない程度の額。
少なくとも、それで此方が本気であることは向こうにも伝わるだろう。
ついでに、ビーストマンにも目を向ける。
依頼内容は言葉ではなくテキストで用意してあるが、そこから込み入った話を続けるならば彼もいない方が良い。
声が聞こえず、それでいて様子を確かめつつ一息でここまで戻ってこれる位置まで離れろ。
その意図は伝わったようで、彼としても面倒ごとを耳に入れるのは憚られるらしく小さく唸ると素早く離れていった。
『――よかろう。薬師の依頼とはまた稀有なこと。まずは話を聞かせるが良い』
『まあ、依頼者は厳密には私じゃないんだがね』
クレジットに続けて、依頼内容の書かれたテキストファイルを彼に渡す。
今、バレル氏から開示できる作戦の内容がそこには記されている。
協力を断られ、さらにその情報がネビュラに伝わることを考え、最低限に――それでいて、依頼の内容は伝わる程度に。
暫くそれを読み進めていたシャドーマンだが、やがて鼻を鳴らすとその深い瞳を此方に向けてきた。
『ゴスペル、WWWと続いて次はネビュラか。正義の薬師が板についてきたな?』
『……そういう冗談も結構だよ』
『クク。ウラからオモテに働きかけようなどという謙虚な輩はそうおらん。ゆえにそれを評価したつもりだ』
それを言うなら、ゴスペルに関わったのは彼の方が先だろうに。
結果は苦々しいものに終わったらしいが、もし彼が首尾よく計画を終わらせていれば、今頃世界はどうなっていただろうか。
……まったく。正義の薬師などと。私はそんな風に呼ばれるに相応しい存在ではない。冗談にしても趣味が悪いぞ。
『しかし――拙者を引き入れたいとはまた酔狂なことよ。余程手段を選んでいられぬと見える』
『状況が状況だからね』
金さえあれば、国を落とす仕事さえ請け負う彼が仕事を選ぶとは思えない。
だが、シャドーマンは私とは違い、理由がなければオモテに関わることはない完全なウラの住民だ。
少なくとも、私はシャドーマンに対し、非公式とはいえネビュラと戦うオフィシャル寄りの組織に所属するというイメージは抱けない。
『ネビュラとの戦いか。いつぞやの苦い経験を思い出させる大仕事だな。受けることになれば、の話だが』
『申し訳ないが、あまり選択に猶予は与えられない。キミが頷かないのであれば代わりを見繕わないと』
バレル氏曰く、シャドーマンに任せたいのはこのチームにおける偵察の役割。
それだけであれば、彼でなくともウラにはその役割をこなせる者はいる。
だが、それを安心して任せることが出来る面々は私の知り合いの中でも限られるというもの。
シャドーマンが駄目であれば……あとは電脳ツバメくらいか。あれの素早さは一目置いているが、コンタクトを取りにくいしあまり選びたくないところだ。
というか、気紛れが過ぎるので声を掛けても頷くとは思えない。
『して。あの闇の手の者はどう相手取る。あれを仕留めろというのは、拙者としても些か骨が折れるぞ』
『それに関しては私が受け持つ。その手段の下で動いてもらうから、制約はあるが――その程度で依頼をこなせなくなるほど衰えてはいないだろう?』
『ほう――怪しげな手管にかけてはウラ随一なだけある。薬師の術策であれば、その制約とやらは構うまい。限られた手で事を進めるのも仕事の内よ』
さして関わりなどない筈だが、随分と信頼されているな。
まあ、それであれば話は早いが。
『――御屋形様、如何いたしますか』
む……? オヤカタ……オペレーターか?
彼もナビだ。ウラの住民とはいえ、ナビである以上そのオペレーターがいる者も多い。
シャドーマンはインターネットと繋がっていない電脳世界でさえ依頼を受ければ攻撃を敢行する仕事人だ。
そうした独立した電脳世界には、現実世界に伝手がなければ渡ることが出来ないのはナビをはじめとしたプログラムの大原則。
当然、組むべきオペレーターは存在するのだろう。
『……はっ。では、そのように』
暫くして、答えが出たらしい。
ここで否と言われた時のために次の手を考えていたが、どうやらそれは杞憂に終わるようだ。
『良かろう。連中の横行が我らの妨げとなっていることは事実。なれば刺客の一刃となるも吝かではない。暫しその部隊に身を置いてやろう』
ウラで最も鋭く静かな刃の力を借りることの叶った瞬間だった。
駄目で元々な勧誘だったが、存外ネビュラはシャドーマンにとっても面倒な手合いであったらしい。
首尾よく新たな協力者を得られたことに安堵を覚えつつも――一人で戦うべきではないかと思い続ける自分が、未だに存在していた。
――考えるな。既にこのネビュラとの戦いは、プライド様も関わっているのだ。
自分ひとりが先走る訳にはいかない。それでプライド様や光少年が迷惑を被るなど、それこそ求めていないのだから。
『助かる。キミ程の戦力を他に探すのは手間というレベルじゃないからね』
『傍に歌姫がおるだろうに。察するに、あちらに声は掛けていまい?』
『団体行動が苦手で、金で応じることもないってのは想像がつくだろう?』
『クク、これはしたり。ただまあ、道理よ。あの者は余事があればあるほど槍が鈍る。ああ見えて器用ではなかろう』
『よくご存知で』
確かに、単純に戦闘能力のみを考えれば、シャドーマンの言う歌姫――レヴィアは真っ先に勧誘すべき存在だろう。
だが、彼女には他者との協調性はない。チームでのお利口な活動など、彼女は真っ平御免と言うに決まっている。
協力だったり、誰かを守っていたり――そうした余事への意識の割り当てに関して、ひどく下手なのだ。
――それでも私やアイリスの護衛くらいは片手間にやってのける辺り、相当に規格外ではあるのだが。
『そんな訳で、彼女は所属していない。出会う機会にはならないだろうから、変な気は起こさないでくれよ』
『依頼でもなければ命を懸けるほどの無用な争いはせぬよ。あれを相手に戯れで刀を振るうなど自殺行為も良いところであろう』
かつて、たった一度だが、彼はレヴィアと本気の戦いをしたことがある。
戦いは終始レヴィアのペースで進み、彼の仕組みも分からない手練手管を全て真っ向から粉砕し、一切の容赦なく追い込んで。
そして最終的に、起死回生の切り札たる刃の一振りにより、引き分けと相成った。
あれ以来、二人が戦った話は聞かない。
レヴィアも“向こうが来るなら今度は勝つ”とは言っているものの、自分から挑みに行く様子はないし、若干苦手意識を持っているまである――つまり、彼女が記憶に残すほどには大きな存在と判断しているということである。
宿敵、というほど大それた存在ではない。恐らくは、互いに“何となく腹立つ存在”くらいの認識だろう。
『まあ、関わっておらぬのならば拙者も何も言うまい。さて――仕事の話だが。実際に部隊に所属するのはまだ先となる。今は別件が立て込んでいるのでな』
『わかった。時期が決まれば連絡をくれ』
『うむ。部隊の棟梁が別にいるのであれば、その際に話をさせてもらおう。先立つ話も含めてな』
――いいか、それで。依頼料の交渉まで完全に終わらせろとは頼まれていないし。
詳しくは知らんが、彼も中々頑固だと聞くぞ。彼の仕事は命がけのものだし、無理もないが。
近いうちにまた訪れるだろうバレル氏の不幸を、私は自身が受け持つよりはマシかと雑に投げっ放すことにした。
・シャドーマン
1、2、5チームオブカーネルに登場するナビ。オペレーターはダーク・ミヤビ。
1では裏ボスとしての登場で、ストーリーに関わるのは2から。
忍者のような姿を持ち、その姿に違わぬ高速移動や分身、手裏剣攻撃を得意とする。
ゴスペルに依頼され、単騎でアジーナのインターネットを落とす程の強者。
その後、日本にも襲撃するが、最終的にスタイルチェンジの力を手にしたロックマンにより倒された。
5チームオブカーネルでは偵察ナビとしてチームに参加。
忍び足の術によりダークパネルを歩けるため、単独で先行しバリアキーを取りに行くのが主な役割。
専用コマンドはマップ上にいる前方の敵にダメージを与える闇討ち。ボス以外ならばHPを1まで削ってくれるため、1ターンリベレートの布石と出来る。
本作ではウラランク四位を持つウラ屈指のナビであり、かつてはレヴィアと相打ちになったこともある。
また、ブラックアース封印の儀式にも関わり、五大暗黒チップの一枚『ムラマサブレード』を作り出した。
淫夢語録を使いこなす淫夢忍者。久しぶりに5をプレイした時全然ふざけてなくてビックリした。
原作より早めのシャドーマン登場。何度か言及はありましたが、エールとは知己となります。
チームへの所属はもう少し先。直近で行われるミッションには参加しません。
それからレヴィアについても少しだけ掘り下げ。
本作におけるウラのネームドナビの強さは、三位までのランカーは別格としてそれに次ぐのがレヴィアやシャドーマン辺りといったイメージです。
よって5編も序盤のこの時点で仲間になるレベルではないのですがどうせ敵側も強くするんで特に問題ないです。5編の難易度はこれまでで最高です。