バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー 作:けっぺん
思えば、ここ直近の四回。
私がプライド様のためにゴスペルに関わって以降の四回の訪日では、必ず彼と会ってきた。
最初はゴスペル打倒のため。最終決戦の場で、必然的に出会った。
二度目はウイルス研修室で偶然。あの後のWWWとの戦いなど、まるで想像していなかった。
三度目はホークトーナメントの舞台である、シェロ・カスティロで。
あれもまた、偶然だった。彼がやってきていて、偶々事件がネビュラによる起き、それを解決する際に。
そして四度目。
今回、私たちは再び、同じ組織と戦うために再会した。
同じ組織を追って、その行き先で偶然出会うのではなく――連中と戦うことを目的とした同じ部隊に所属する形で。
「――エールさん?」
「……やあ、光少年。久しぶりだね」
少しだけ、痩せただろうか。
そして睡眠時間も減っているらしい。彼からはいつもの快活とした雰囲気が幾らか減っており、疲れが見える。
この日――メンバーの顔合わせをしつつ、オラン島エリア3を解放する作戦を行うため、私たちは再び科学省を訪れていた。
作戦開始のおよそ一時間前。決められた集合時間ギリギリに部屋に入ってきた光少年と顔を合わせるのは、少しだけ抵抗があった。
あの日から……ネビュラと戦う運命が決まった日から、私は彼と連絡を取っていなかった。
ゆえに、彼はこうして再び私が日本に来ていたことも知らなかっただろう。
「何でここに……バレルさんっ、新しいメンバーって……」
「見ての通りだ。クリームランドからの協力者――彼女たちが新たなチームメンバーとなる」
彼の顔には戸惑いがあった。
端的に説明したバレル氏に続き、プライド様が光少年に近付く。
「お久しぶりです、光熱斗。わたくしを覚えていますか?」
「うん――プリンセス・プライド……だよね。クリームランドの、お姫様の」
いつもの彼らしくない、やや遠慮した様子で、光少年は答えた。
今回のプライド様の服装は、あのオフィシャルの会議の場で着ていたドレスとは違い私服姿だ。印象も大いに違うだろう。
「でも、どうして二人が……?」
光少年からの問いに、プライド様はバレル氏に僅か視線を向ける。
発端となった事件を話しても問題ないか。それを視線で尋ねれば、バレル氏は首肯を返した。
「わたくしの公務にエールが付いてきてくれたのですが……先日、科学省エリアの、まだ占領されてないエリアに向けてネビュラの襲撃がありまして。その際、偶然わたくしたちが来ていて、対処に手を貸したところを勧誘された形です」
「ぐ、偶然って……」
プライド様の説明を聞いて、光少年の表情はより微妙になった。
……そういえば、偶然だったな。あの日科学省に来ていなければ、もしかするとこのチームとは無縁だったかもしれないのか。
慣れる筈のない、偶々居合わせたことにより厄介ごとに巻き込まれるという構図。
もしも私がそういう星の下に生まれたとかであれば、このネビュラとの戦いが終わったら、レヴィアの言う通りお祓いでも受けた方が良いだろうか。
あまりその手の宗教観を理解してはいないが、本当に何かが憑いているとするならそれを飛ばしてくれるなら願ってもない。
こんな状況で現実逃避気味に益体も無いことを考えていると、バレル氏が私たちをチームに所属させた理由を話し始める。
「ナイトマンが持つ屈指の防御力は今後の戦いに確実に役立つだろう。そして、エール・ヴァグリースは先の事件で、ダークロイドへの有効な攻撃手段を持っていると分かった」
「え――それってまさか……」
「いや、光少年。キミが想像しているようなものじゃない」
光少年は知っている。ダークロイドと戦うための、一番手っ取り早い力を。
他でもない私が、それを用いてかつてシェードマンをデリートしたのだから。
彼らには止めていても、私自身はダークロイドやフォルテに対して、ダークチップを躊躇なく行使していた。
加えて――光少年はあの時、リーガルから明かされたダークチップの由縁を聞いていたのだ。
彼から見れば私は寧ろ主犯格の側だ。今回も同じ方法を用いたのだろうと考えても、おかしくない。
「ネビュラとの戦いのために、連中の闇の力によるリカバリー能力を相殺するシステムを作成した。闇の力への対抗専用となるバトルオペレーションシステムだ」
「バトルオペレーションシステム……つまり、ロックマンたちでも使えるってこと?」
「ああ。だが、制約は多いしネビュラが占領するエリアで自由に戦える訳ではない。それらも加味して、バレル氏が次のエリアを解放するための作戦を立案した」
今の状況にどれだけ私が関与していたとしても、少なくとも今の私は光少年の味方だ。
だからこそこのシステムを提供することを許可したし、外装を後回しにして、このシステムの改良を終わらせた。
これが、今の私に出来る最大の、光少年への支援となる。
「では、チーム・オブ・カーネル第二ミッションの概要を説明する。今回我々が解放するエリアはオラン島エリア3。オラン島エリアは解放優先度の高い科学省エリアと、その規模からネビュラの戦力も大きくオフィシャルによる解放の望みの薄いエンドエリアを繋ぐエリアだ。島自体は無人島だが、ここを解放する意味合いは大きい」
あれから軽く調べてみたが、オモテ側のインターネットでネビュラが最も大規模な戦力を置いているのがエンドシティであるらしい。
日本西側のインターネットの要であり、デンサンシティ程ではないがこの街のインターネットエリアは非常に広い。
ネビュラが完全な占領を果たし、解放を必要とするエリアも一つではないようで、オフィシャルが日々解放を目指して攻撃を続けているようだが、その成果は芳しくない。
強固な護りの向こうに展開される膨大な数の敵は決してオフィシャルを近付けないという。
その状況を、オラン島エリアを解放しアクセスの手段が増えることによる改善を目指す。無論、次に優先すべきは科学省エリアだろうが。
「光熱斗。お前には少し前に、該当エリアの入り口まで偵察を頼んだな」
「うん……エリア前に置かれていた砲台をどうにかしないと入れないって話だったけど――そうか、ナイトマンなら……」
「そうだ。ナイトマンならあの砲台の攻撃を容易く防ぐことが出来よう。そうしている間にあの砲台を破壊してエリアにアクセスし、解放を行う。恐らくこのエリアも、秋原エリア同様ダークロイドが守っているだろう。激しい戦闘となることは間違いない」
砲台――何とまあ、ネビュラもシンプルな手段を取る。
だが、有効であることは否定しない。強固なセキュリティドアを予想して、それの解除を可能とするほどの情報処理能力を持つナビを連れてくれば、その攻撃に耐えられず突破は敵わない。
捨て駒を使えなければ出し抜くことの難しいセキュリティという訳だ。
――カーズのような特殊なウイルスを山ほど連れていけばどうなるだろう、とふと思った。
攻撃に反応して相手の目の前に飛び込んでいく性質を持つあのウイルスは得意なナビと苦手なナビがはっきり分かれるタイプだ。機動力があり接近を対処できるナビであればさして怖い相手でもないが、相手の攻撃を待ち受けての反撃を旨とするナビにとっては接近され過ぎて攻撃が出来ず、あっという間に追い込まれることも珍しくない。
砲台の性質にもよるが、もしかするとあっという間に壊してくれるかもしれない。
「そこからだが――強力なアクセス制限が敷かれている占領エリアでのオペレートは、前回同様、光熱斗――お前に務めてもらう」
これは、私とプライド様にも、事前に伝えられている。
ダークロイドが守備をしている占領エリアでは、ネビュラによってアクセス制限が敷かれている。
ここでナビと通信が行えるのは、一度に一人が限度だという。
つまり、複数のナビによって作戦を進めるには、一人のオペレーターが指示するナビを切り替えつつ進んでいく必要がある訳だ。
「じゃあ――ナイトマンやジャンクマンもオレがオペレートするってこと?」
一人が複数のナビをオペレートする。それは決して簡単なことではない。
それも、自分が長らく付き合ってきたナビという訳でもない、他人のナビを操るのだ。
関わりの薄いナビの特性を理解し、適格な指示を出す。それは、一流のオペレーターですら難しいことだろう。
「ジャンクマンはこのチームの作戦には関わらない。私は今回、エールハーフを使わせてもらう。エールオールで赴くことも考えたんだが……」
「いや……うん。やめた方が良いと思う。何があるか分からないんだし」
私が各ナビをオペレートするなど論外だ。
PETとの通信が出来ない状況のため、エールオールを使う方が良いかと考えたが、それはプライド様に許されなかった。
しかし、かといって私が赴かない訳にもいかない。今回起用するシステムの維持には私が現地にいることが必須となるのだから。
「作戦中、キミのPETと私のPETを通信状態にしておく。それならまあ、私もエールハーフを問題なく運用できるからね」
「……わかったよ。でもさ、あまり無茶はしないでよ」
「……善処するさ」
どうも……やりにくいな。
リーガルとの件が尾を引いているのか、光少年に気遣われるとは。
まあ、ともかくエリアには赴くが、私自身が積極的に戦うつもりはない。
それは光少年への負担にも繋がる。あくまで、システムの維持に集中するつもりだ。
バレル氏には既に、パルストランスミッションシステムについては説明をしてある。
当然怪しまれはしたが、これについてはクリームランド公認の技術だ。文句は言わせんぞ。
「では、今回運用するシステムについて、説明させてもらうが――作戦エリアの制限で、現在分かっていることは、カスタムゲージが溜まり次第、すぐにチップの送信が必要だということ。そして一度のバトルオペレーションを維持できるのは、それを三回繰り返すまで――『ヘビーゲージ』や『クイックゲージ』を利用していない限り、三十秒弱ということだな」
「うん。ダークロイド側もそれを守っているから、エリアそのものの制約ってことだよね」
このことから、求められるオペレート技術はただ正確なだけではいけなくなる。
素早く状況を判断し、適正な指示を出せる能力。
そして、少ないチップでより効率的に敵と戦うフォルダ作成が求められる。
「そんな中で、地道にエリア内の闇を削っていくのは非効率的だ。このシステムは、敵ウイルスとの戦闘にかけた時間に応じて、一度のバトルオペレーションに使用するリソースを闇の消滅に転用出来る」
「えっと……つまり?」
「……キミが素早く敵を倒せば倒すほど、効率的にエリアを解放出来るということだ」
エリア中を覆う闇。あれを直接突破するのは難しい。
だが、バトルオペレーションを組むことであれが変換されてウイルスとして襲い掛かってくる性質を利用すれば、ウイルスたちと一緒に周囲の闇を払うことは可能だ。
短時間のウイルスバスティングを心がければ、前回の作戦とは違い、少ない消耗でエリアを解放することが出来るだろう。
「加えて、作戦時、各ナビにはそれぞれ専用のツールを装備してもらう。上手く用いれば、より更に効率的に攻略を進められるが、此方は無制限に利用できる訳ではない。どのタイミングで利用するかは、光少年に一任するが、無駄遣いは禁物だぞ」
「わ、わかった……」
このツールは、それぞれの役割を先鋭化させ、ナビに合わせた形にしている。
カーネルの場合はリーダーとして戦線を切り拓くためのもの、ナイトマンの場合は周囲の防御に特化したもの、といった具合だ。
これに利用しているリソースはあまり用意できるものでもない。
作戦中も補充は進めるつもりだが――むやみやたらと使うようなら流石に補い切れない。
まあ、その辺りは光少年のことだし、ないとは思うが……。
「よし。では、オラン島エリア3に赴き作戦を開始する。アクセス後は光熱斗に各ナビのオペレートを委託。ダークロイドをデリートし、エリアを解放することを目的とする」
「ええ――熱斗。ナイトマンと、それからエールを任せましたよ」
「う、うん……!」
なんか複雑だな、それ。確かにシステムの維持は片手間に出来るものじゃないし、戦闘においてはよりお荷物となることは否定しないが。
何か、ナビを任せることとは違う謎の信頼関係がプライド様と光少年の間に結ばれている気がしてならない。
……これは、外装の完成を急がないとならないか。
正体の判然としない居心地の悪さを感じつつ、私はパルストランスミッションシステムの起動を進めるのだった。
オラン島エリア3・リベレートミッション
■ロックマン
HP500
装備:オーダーコマンド・遊撃
利用可能コマンド:
・ロングソード
横二マス分のダークパネルを解放する。
・■■■■■■■■
現在使用不可能。
■カーネル
HP550
装備:オーダーコマンド・リーダー
利用可能コマンド:
・スクリーンディバイド
縦三マス分のダークパネルを解放する。
・記録管理
ミッション中に発生した出来事を記録する。
■ナイトマン
HP700
装備:オーダーコマンド・防御
利用可能コマンド:
・ナイトディフェンス
ダークロイドフェイズにおける自身のダメージを0にする。
自身の周囲一マスへの攻撃から味方を庇う。
■エールハーフ
HP50
装備:オーダーコマンド・支援
利用可能コマンド:
・ソウルコンバート
プレイヤーフェイズ開始時、オーダーポイントを1回復。
コマンド使用時、選択した周囲の味方一人に、『ヘビーゲージ』、『カスタム+1』を付与。
・アンダーシャツ
HPが2以上の時、ダークロイドフェイズに攻撃を受けた際HP1で耐える。
・記録管理
ミッション中に発生した出来事を記録する。
エール→熱斗:今の状況からして相当参っているに違いない。私のせいなんだから十二分にサポートする必要がある。
熱斗→エール:ダークチップの件で間違いなく自分を追い詰めているので出来ればチームにも関わってほしくない。
プライド→熱斗:これまでの活躍で一定の信頼はあったがエールへの心配が伝わってきたので全面的に信頼できる。
熱斗→プライド:エールにとって特別な親友であることは知っているので、「エールを任せる」という言葉の重みを理解した。エールは理解してない。
5での再会。ちなみにエールは知りませんが熱斗とプライド様はエールがプロトに捕食されている頃に一度会っているので会議以来ではないです。
現在のそれぞれの心情は上記の通り。大体エールのせいでだいぶ拗れてきています。
各ナビの性能については参考程度に。「マス」の概念は本作には無いので、あくまでゲーム風の説明になっています。