バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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2nd Mission/Vampire-2 【本】

 

 

「よっし――道を一気に切り拓くぞ、カーネル!」

『了解した。オーダーコマンドを使用する』

 

 よし来た――光少年の選択に応じ、変換したリソースをカーネルに回す。

 それぞれのナビに装備させたツールは、こうして専用のリソースを代償として真価を発揮する。

 ナイトマンに付与したそれに関しては例外的に、彼自身が立ち続ける限り誰かの盾として機能するものだ。

 だが、ロックマンとカーネルのそれは防御ではなく攻撃のためのもの。

 バランスの優れたロックマンは遊撃として、どんな状況にも対応できる可能性を持ったものを。

 そして、部隊のリーダーたるカーネルは後続が進軍するための布石として、前方を切り拓くものを。

 

 ツールが実行され、それが攻撃と判定されたのか、闇からウイルスが漏れ出す。

 そのウイルスも、闇も、この一時のカーネルは纏めて切り裂く。

 

『いくぞ――スクリーンディバイド!』

 

 離れた空間に斬撃を走らせる、カーネルの特殊な攻撃特性。

 それによりウイルスたちは一撃で切り伏せられ、まだウイルスとなっていない闇さえ晴らしていく。

 ――これが、このツールに与えた力。

 パネルリベレートシステムと大元の力は同じだが、得られる結果はウイルスバスティングを伴うそれよりも広く、そして手っ取り早い。

 ただし、リソースの消費もその分激しいのが難点。

 

「……」

 

 持ち出したリソースの残量にまだ余裕があることを確認する。

 パネルリベレートシステムと、このそれぞれのナビが持つオーダーコマンド。

 変換元となっているリソースは共通ゆえ、枯渇は即ちこのミッションの失敗にも繋がる。

 今回は私にとっても初戦となるため、目安を確認すべく大盤振る舞いとばかりに用意してきた。これで足りないようであれば後々のミッションがどうにもならない。

 ――消費は予想以上に激しい。だが、賄い切れないほどの量でもない。

 (エールハーフ)の周りを巡る二色のらせんは、足元から湧くリソースを溶かすように上方へと昇っていく。

 まったく――単独行動とは違い、チームでの活動となると、何より響くのがこの消費だ。

 チームからの報酬として資金提供を受けても、“これ”の数は増えることはない。

 それでも、ナイトマンの負荷を、そしてロックマンと光少年の負荷を少しでも減らすために、遠慮なしに投入する。

 

『ッ、ナイトマン!』

『相分かった!』

 

 更なる侵攻を行おうとしたロックマンが何かを察知し、ナイトマンを呼ぶ。

 闇の向こうから伸ばされる長い腕。その先端の鋭い爪はロックマンを狙ったもの。

 それをナイトマンが庇い、鉄壁の体で受け止める。

 

『ムゥ!』

『おっと……危ない危ない』

 

 反撃とばかりに鉄球を振るうナイトマンだが、相手の素早い動きを彼が捉えるのは難しいだろう。

 バトルオペレーションシステムで移動を制限している訳でもなく、シェードマンは闇の向こうへと軽やかに引っ込んでいった。

 

『隙だらけかと思えば、存外そうでもないらしい。キキ、それでこそだよ、正義のナビ諸君』

「ちぇっ……余裕かましてられるのも今の内だぜ、シェードマン!」

『熱くなるにはまだ早いだろう? ワタシの居城はまだまだ先だ。精々、楽しもうじゃないか』

 

 光少年の啖呵を嘲るように、声は闇の向こうから。

 ――どうにもならないな。この闇からの不意打ちは、彼の特権だ。

 その居城とやらが何なのかは知らないが、そこを離れ、闇の中を自在に飛び回り不意打ちを仕掛けてくるのは、素早く飛行することが出来る彼の特権だ。

 ……やはり、この闇は厄介だな。

 ダークロイドにとってはホームだが、私たちにとっては踏み込むことすらままならない。

 ()()は、或いはこの闇の中を影響を受けずに進むことが出来るだろうか、とも考える。今はこの場にいないゆえ、頼ることは出来ないが、今回こそ彼のような速度で勝負が出来る存在が必要に思う。

 そう考えれば、結果論ではあるがここをシェードマンが守るのは実に適役と言えよう。

 何せ、その喉元に至るまでは私たちは的も良いところなのだから。

 

『ピギィッ!』

『チッ……シェードマンだけではないということか!』

 

 彼が引っ込んでいったのと入れ替わるように、闇の中から巨大な鳥のウイルスが飛び出してくる。

 見たことのない大型ウイルスだ。普通のものではないな。恐らくはこのエリアの闇の力によって生成された種だろう。

 ナイトマンがロックマンの防御に向かっていること、そしてこの中で誰が一番脆いのかを理解しているのか、ウイルスは誰の手も届かない上方を飛び此方に向かってくる。

 

「エールさん!」

「あのくらいなら問題ない。ロックマンたちのオペレートに集中してくれて良いよ、光少年」

 

 突っ込んできたウイルスを飛び退いて躱す。

 動きは直線状のシンプルなもの。速度はそれなりに注意すべきものだが、正面から向かってくる分には私でも問題ない。

 床に爪が突き刺さり、動けなくなったところにバグを乗せたナイフを投げ、突き刺す。

 此方でチップを使えないというのは、防御手段に乏しい私としては死活問題ではあるが、それはそれとして有する妨害手段には事欠かない自負はある。

 自身に起きた問題に気付いているのかいないのか。攻撃が失敗して飛び去っていくウイルスは、執拗に襲い掛かってくる性質ではないらしい。

 与えたバグは何をせずともひとりでに体力を削られるものだ。あれで暫く戻ってこなければ、知らないうちにデリートされているだろうが、その頃合いを測れないのは問題だな。

 性質を把握するためにも、せめて一体回収しておきたいのだが。

 

「エール。余計なことを考えていないで、作戦に集中してください」

「何で分かったんですか、プライド様」

「貴女が悪巧みをしている時の雰囲気は分かりやす過ぎるんです。どうせあのウイルスを持ち帰りたいとか思っていたのでしょう?」

 

 流石にそこまで詳細に言い当てられたことに瞠目する。

 いや、私もプライド様の考えであれば雰囲気で分からないこともないが、そんなことまで?

 というか光少年、頷くな。オペレートに集中してくれ。

 

『ッ!』

 

 鳥型ウイルスを退け、更に先へと進もうとロックマンが前に出れば、それを迎撃すべく獣型ウイルスが現れる。

 あれも同類だな。闇の力で構成された、普通よりも強力なウイルスだ。

 

「くっ……ロックマン!」

『うん! オペレートよろしく!』

 

 飛び掛かってくる獣の爪を躱し、更なる追撃を『エアシュート』でその巨体を押し退けるようにして逃れる。

 しかし、その爪牙だけがあのウイルスの武器かといえば、そうではないらしい。

 ロックマンを囲むように存在する闇を持ち前の脚力で駆けまわり、彼の隙を探る。

 そしてその背後に回ると、大口を開け闇の力に満ちた炎を吐き出した。

 

『熱斗くん!』

「ああ! 任せろロックマン!」

 

 『インビジブル』――それにより炎に呑まれてもダメージを逃れる。

 そしてその炎の中からウイルスに投げ込まれる塊。

 隙の大きな『アースクエイク』だが、攻撃中、そして炎の中から放られたことでウイルスの対応は遅れた。

 巨大な一撃に押し潰され、弾け飛ぶウイルス。

 それに呼応するように、周囲の闇が一気に晴れる。

 

『あの特殊なウイルス、このエリアの闇を制御しているようだね』

『それなら、あれをデリートしていけば……』

「よし――そうと決まれば話は早い!」

 

 確かに、シェードマンほどのナビと言えどエリア一つの闇を制御するには負担が大きい。

 その負荷を分担しているのが、あの特殊なウイルスということなのだろう。

 あれを全て削ることが、このエリアの解放の近道となるか。

 

『なら、さっきの鳥のウイルスも!』

『あれならもう問題ない。その内勝手にデリートされるから、先に進むことを考えたまえ』

 

 今の獣のウイルスの耐久性を考えれば、鳥のウイルスに仕込んだ毒もさほど時間を掛けずに効果を発揮するだろう。

 後は、同じようなウイルスが他にいなければ良いのだが。

 

「……」

 

 ――戦況は順調。順調、ではある。

 ロックマンもカーネルも、ナイトマンも苦戦しているようなことはなく、光少年も早々にオペレートに慣れた。

 彼らの進撃は問題ない。先の、秋原エリアの作戦よりもスムーズに進めることが出来るだろう。

 だが、そんな中で、私の中には無力感が残り続けていた。

 あの外装が完成していれば、より光少年たちの負担も減っていた。

 現状、この作戦で私が彼にしてやれたのは、寧ろ負担を増やしてはいないか。

 トップクラスのオペレート技術を持つとはいえ、彼が真価を発揮するのはあくまでロックマンと共にある状況。

 

 他のナビを預かり、そのオペレートを任される。

 そしてその上で、可能な限りスムーズなウイルスバスティングを求められる。

 父が誘拐された状態で、それを彼に強要しているのが――彼のストレスになっていない筈がない。

 

「……? エールさん?」

「ん――ああ。どうかしたかい?」

「いや……なんか考え事してそうだったから」

「……光少年の負担を考えていただけさ。もう少し、負担の小さなシステムに出来れば良かったんだが」

「ううん。こうやって順調に進むことが出来るだけで十分だよ。秋原エリアのミッションに比べれば、ずっと気も楽だし」

 

 ――それが本心であるかどうか、読み取ることは出来なかった。

 だが、もしも本当に負担が減っているのであれば、今のままではまだ足りない。

 

「……エール。貴女が気負う必要は……」

「……」

 

 プライド様は気遣ってくれる。

 それでも、やはり私は今の状況をポジティブに受け取ることなど出来なかった。

 シェードマンへと徐々に近付いていくナビたち。

 その後方でただシステムを維持し、観戦しているだけというのは、私が望んでいたネビュラとの戦いではなく。

 早くあの戦線に加わらなければと、私の中の強迫観念はより強くなっていった。




・ガルビースト
5に登場するガーディアンと呼ばれる、リベレートミッション中にマップ上に存在する獣型のウイルス。
最初のリベレートミッションからプレイヤーの前に立ちふさがる。
ナビと同様のやや素早いワープ移動を持ち、十字の炎で攻撃してくる。攻撃には火属性が付いているが、本体は属性を持たない。
十字の攻撃範囲が絶妙で、特に不利バトルだと逃げ道の少なさから猛威を振るう。
ランクが上がると攻撃速度もやたら早くなるため、速度が遅い防御ナビだと対処しにくくなる。

・ロイホーク
5に登場するガーディアンと呼ばれる、リベレートミッション中にマップ上に存在する鳥型のウイルス。
その特徴は、ダークロイドフェイズでの非常に広い攻撃範囲。傍を素通りして放置しておくと大体の場合、返しのターンで殴られる。
攻撃力はさほどでもないが、ランクが上がると段々と笑えないダメージ量になってくる。
戦闘では普段は上空に待機し、プレイヤー目掛けて急降下攻撃を仕掛けてきたタイミングのみ攻撃出来る。
慣れればタイミングを掴みやすく、HPも低めなため対処しやすい。プレイヤーに接近してくるため、防御ナビの癖が強い攻撃を最大限に活かすことが出来る。
諸般の事情でナビが移動禁止などの宿命を負っているとフレーム単位で攻撃タイミングを読まないといけない最強の敵と化す。
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