バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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2nd Mission/Vampire-4 【本】

 

 

「今だ、ロックマン!」

『ッ――!』

 

 それから、どれくらい時間が経っただろうか。

 プライド様の説教がひと段落したのと、光少年の指示により最後の闇の穴がリベレートされたのは殆ど同時だった。

 最後まで残っていた鳥型ウイルスがデリートされ、消えていく。

 闇を供給していた核が全て消え去ったことで、エリア中の雰囲気が僅かに温かさを取り戻す。

 

「……さて、残るは一人だね」

 

 気を取り直して、私もそちらに集中する。

 はっきり言って精神的なダメージは吹っ飛んだ腕以上に大きなものになったが、それはそれとして正念場である。

 私が戦う訳ではないにしろ、ここから先はシステムが停止するようなことはあってはならない。

 “無くてもどうにかなる”ここまでとは違い、ダークロイドとの戦いはこれでようやく対等になれるのだ。

 

『シェードマン……!』

『ようやく来たか……待ちくたびれたよ。赴くに苦労したことはないからね、待つ身は実に新鮮だった』

 

 オラン島エリア3最奥部。

 闇の穴の供給に加え、自身の闇の力で周囲を覆って構築されていた砦の中心に、彼はいた。

 既にこのエリアの闇は弱まっているため、リベレート――彼との決戦を行うにおいても問題はないだろうが、元々の守りは手出し不可能なほどに堅牢だっただろう。

 これは――そもそもダークロイドと戦う前に、闇の穴の除去は必要だな。

 例えば同じダークチップを山ほど叩き込んだとしても、盤石な状態のこれを崩すのは骨というものだ。

 

 さて――状況を見れば、私たちは今シェードマンを追い込んでいる。

 代償はどうあれ、片腕を奪ったことで弱体化した彼。

 ダークロイドとしての強みの一つである耐久性が此方と平等になった以上、ようやく数の有利は私たちに向いた。

 だが、だからといってここでナビ全員での攻撃、とはいかない。

 オペレートを行えるのは光少年一人。チップ送信もオペレートもままならない中での共闘は危険極まりない。

 

『シェードマン。投降する気はあるか?』

『分かっていることを聞くようなものじゃない。君たちがそちら側にいる限り、我々が分かり合えることはないさ』

『そうか。では――光熱斗』

 

 カーネルが構える。

 周囲の闇は完全に消えた訳ではない。少し猶予があれば、すぐさまシェードマンはその傷を癒すことが出来るだろう。

 ゆえに、ここからは速度が求められる。

 オペレートの正確性だけではない。可能な限り迅速に――彼をデリートする。

 

「よし、頼むぜカーネル!」

『了解した。作戦行動を開始する!』

『闇の饗宴を楽しもうじゃないか! キキキ――――!』

 

 バトルオペレーションシステムが起動する。ここからカーネルが戦闘を可能とするのはおよそ三十秒。

 ウイルスの群れならばともかく、ナビを相手取るとなると非常に短いと言わざるを得ない。

 カーネルの踏み込みを、光少年の送った『エリアスチール』が加速させる。

 離れた空間さえ切り裂く特異なソードだが、当然その真価は近接戦闘にある。

 シェードマンが素早く後退したことで斬撃は腹を掠め、その距離感を過たず更に踏み込んでの刺突が正確に捉える。

 

「今!」

『ふっ!』

 

 細い刃が巨大なドリルに変化し、その回転は単なる刺突とは段違いのダメージを生む。

 『ドリルアーム』は近接戦闘用のチップではあるが、ソード系統とは使い勝手が大いに違う。

 基本的な武装としてソードを持つカーネルは、突き刺してから回転を発生させるというこのチップの真価を発揮できる状況を作りやすいのだ。

 

『――なるほど。やはり出来る、だが――』

 

 しかしシェードマンもまた、チップ一枚で致命打を与えられるほど甘くはない。

 空いた穴から影が広がっていき、シェードマンの体を埋め尽くすと、その体は蝙蝠の群れとなって散っていく。

 飛行能力を失った今、自由な飛行を可能とするのはこの特殊な状態のみ。

 一度距離を置こうとしたのだろうが。光少年とてこの状態は知っている。

 

「次だ、カーネル!」

『捉えた――!』

 

 選んだチップは『ファイアパンチ』。

 振るわれた拳が生んだ炎は離れた敵を穿つが――チップの効果が消えるまでは猶予がある。

 複数の相手との距離感を正確に掴めていれば、二発三発と連続して拳を放つことも不可能ではない。

 必然的にその感覚はナビに委ねられることとなるが、歴戦の戦士であることが一目で分かるカーネルならば何の心配もない。

 纏まった蝙蝠の群れを複数撃ち抜き、そのいくつかが燃え尽きて落ちていく。

 しかしながら、油断は出来ない。

 生き残った群れがカーネルを挟むように、両側に集まっていく。

 そして再び腕の形を成し、その爪がカーネルを襲った。

 

『ッ』

 

 飛び出した腕は二本。

 あの攻撃は同等の容量さえ残っていれば喪失した部位など関係ないのか。

 両者の迎撃は難しかったのか、後退したカーネル。

 彼を挟み込んでいた二本の腕は獲物を逃し、互いに絡み合い――再びシェードマンの姿を形作る。

 

『キヒァ――ッ!』

『ぐっ……!』

 

 その口から放たれた音波がカーネルを包み込む。

 ナビの動きや方向感覚といった機能を鈍らせる特殊音波をまともに受け、追撃に備えるべく防御態勢に移ったカーネル。

 しかし追撃はなく、二人は強制的に距離を離され、バトルオペレーションは終了した。

 

『命拾いしたようだね』

『……、光熱斗。続けて行けるな』

「っ……ああ! 次はナイトマン! 頼むぜ!」

『御意! 参る!』

 

 戦闘の反省などしている場合ではない。畳みかけることが肝心だ。

 そもそも、光少年はともかく、先陣を切ったカーネルとしては自身の手で片付けようなどとは思っていないだろう。

 あくまでも様子見――残るナイトマンとロックマンのオペレートをシェードマンの戦い方と合わせたものにするための準備時間に過ぎない。

 ゆえにカーネルは素早く光少年に次を促す。

 前に出たナイトマンに、シェードマンは笑みを深めた。

 

『その防御力を貫くのはワタシでも難しい。だが、君たちにとっては残念なことに、ワタシはこれを使うことに躊躇などしないのだよ』

 

 残る片腕を闇色のキャノン砲に変化させ、ナイトマンに突き付けるシェードマン。

 それはダークロイドとの戦いにおいて最も注意しなければならないもの。

 私の体をざわざわと駆け巡る嫌な感触など、彼にとっては知ったことではない。

 それの使用は彼らには当然のものなのだから。

 

『下らぬ。ダークチップを恐れて騎士が務まるものか。闇の力、何するものぞ!』

 

 たった一撃でプログラムアドバンスにすら匹敵する圧倒的な火力を前に、ナイトマンには一切の恐怖もない。

 高潔かつ堅牢、城塞が如き魂に、闇の付け入る隙などなかった。

 

『――では受けてみるがいい! 騎士道に殉じるのだな!』

「ナイトマンッ!」

『うむ!』

 

 闇の砲が吠える。対するナイトマンは速度を捨てたナビだ。

 『エリアスチール』や『インビジブル』などの助けがなければ、どう足掻いてもその砲撃を躱せない。

 ゆえにこそ――躱さない。

 

『ぬぅ――!』

『……何?』

 

 闇の砲撃を真正面から受け止め、膝を付くことすらない。

 “誰かを守るため”の咄嗟のものでもない、来る事の分かっている攻撃に対する防御態勢(ストーンボディ)

 移動を捨てたこの状態であれば、ナイトマンにとってはダークチップさえ攻撃の数に入らない。

 

「よし、反撃だ!」

『承知!』

 

 ダークチップによる一撃が受け止められたことによる動揺で生まれた隙。

 それを直接狙うには、距離が遠すぎる。

 だからこそ、まずシェードマンの動きを封じた。

 ナイトマンの鉄球が床を殴る。単純な“重さ”は衝撃を生み、シェードマンの硬直を長引かせる。

 

『しまっ――』

 

 『エリアスチール』はその後だ。

 速度を補い、一息で接近したナイトマンに気付いた時には、鉄球は既に振るわれている。

 鉄球が激突し、大きく振り回されたシェードマン。

 その体が床に強く叩きつけられ、衝撃と過度なダメージによりパラパラと構成するデータが散っていく。

 

『ッ――!』

 

 そんな中で執念か、闇の力を込めたボムが放たれた。

 外敵を一掃して余りある威力の爆発もまた、ナイトマンに膝を付かせるには至らない。

 反撃とばかりに放たれた鉄球が直撃し、再度その身体が宙を舞う。限界を迎えたのか、もう片腕が引き千切れた。中々ショッキングな光景だな。

 

『ガ、ハ……ッ! おのれ、よもやこれほどの防御力を……!』

『時間だな。これ以上の攻撃は出来ぬ。ロックマン、トドメはお任せしますぞ』

『う、うん――!』

 

 そして、後退するナイトマンと入れ替わるように前に出てきたロックマンの腕は、既に変化が表れている。

 巨大なキャノン砲は先のシェードマンのものとは違い、闇に染まってはいない。

 しかしその威力は負けず劣らず。つまるところ――今のシェードマンに耐えきれるものではない。

 這いつくばり、立ち上がることもままならない彼の顔に、初めて恐怖が浮かんだ。

 

『ギギ……このワタシが、またしてもっ、このような屈辱を……ッ!』

『――ギガ、キャノンッ!』

『ギギギギィィイイイイ――――ッ!』

 

 プログラムアドバンスによる凄まじい砲撃に、断末魔は呆気なく打ち消される。

 砲撃が通り過ぎた後にはシェードマンがいたという痕跡一つ残っておらず、エリアの主が消え去ったことを証明するように残った闇が急速に晴れていく。

 

『――リベレート、完了!』

 

 それを見届けたロックマンが、このエリアでの勝利を宣言した。

 一つの作戦の終了に、プライド様が安堵の息を零す。

 私もシステムを停止し、乾き始めていた喉を潤してから背もたれに体を預ける。

 これで無事、オラン島エリアは解放されたのだ。

 

「皆、ご苦労だった。これでまた一つ、インターネットをネビュラの手から解放することが出来た」

「うん。前よりはずっと気が楽だったよ。えっと……エールさん、このシステムだけどさ」

「心配せずとも、今後も提供するよ。既に契約済みだ」

 

 一時間以上かかったミッションではあるが、それでも秋原エリアのそれよりは気が楽だっただろう。

 一度これを経験させておいてまた没収など流石に酷というもの。

 それに、今後はこのチームの一員として光少年の負担を少しでも減らさないとならない。これは当然のことだ。

 

『ナイトマン、今回のミッションの中で、キミの鉄のようなソウルに共鳴したよ。これからもよろしく!』

『うむ。此方こそだ』

「各自、ナビのプラグアウトを。今回の報酬は後日渡す。本日は解散だ」

 

 続けて科学省エリアの解放を、などとはバレル氏も言い出さない。

 パルスアウトを実行すれば、じわりと疲労が広がっていく。

 ――ホテルが近くて助かったな。この分だと、あと一時間も経たずに意識が飛びそうだ。

 

「エールさん、大丈夫?」

「ああ――問題ないよ」

「ない訳ないでしょう。まったく……すぐに戻って休みますよ。――熱斗、今後もよろしくお願いしますね?」

「――うん」

 

 プライド様に引っ張られるように立ち上がり、ゆっくり彼女の歩みに続いていく。

 体の怠さはあるが歩けないほどではない――ホテルまでは十分に持ちそうだ。

 とはいえ、ただシステムを抱えて追従するだけではお荷物なのは変わらない。それでは、私がやるべきことを全て彼らに押し付けるだけだ。

 

 外装の完成を急がないと。まだまだ、必要なものがある。

 そして、パーツの一つと成り得るものが手に入る、絶好の機会。

 ――その機会を掴むために、私は久しく使っていなかった一つの“コネ”を使うことになる。




書きながら「ボス戦これ一斉に戦っても順番でもリンチっぽくなるな」って思いました。
そんな訳でオラン島エリアのリベレート完了。いやあ、長かったですね。
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