バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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プラチナム・エリート-1【本】

 

 

 オラン島エリアの解放から数日。

 次の解放エリアである科学省エリア3のリベレートミッションは、未だに行われていない。

 現状ではそれを実施することも難しい有様だ。

 というのも、オラン島エリアを解放してから、科学省エリア全域に正体不明の雲が出現するようになった。

 ただ視界が狭まるという程度のものであればさほど問題ではなかったが、それはかなりの容量を持った雷雲だ。

 エリア3へのリンク付近にあるそれは取り分け強力であり、除去し切るのも難しいとのこと。

 恐らくはその先のエリアを守るダークロイドの仕業か。

 これへの対策には打ってつけがいる。いるが――まだ合流していない。

 ゆえに、次のエリア攻略は彼がチームに合流してからとなった。現在手を付けている依頼はもう数日中に片付くとのことだが、それ以前に文句を言いたいのは、何故私が彼との連絡係になっているのか。

 コンタクトは取ったのだから彼らとバレル氏の間でどうとでも話してくれればいいのに。

 そんなこんなで足踏みを続けていたある日のことだった。

 

「――さて。調査の結果、ネビュラの動きがある程度掴めたのだが、この件に関してはプリンセス・プライドに一任したい」

「わたくしに、ですか?」

 

 光少年を除いたメンバー三人による会議が佳境に差し掛かった頃、バレル氏がそんな話を切り出した。

 元々、光少年をチームに入れたのは、危険を減らした上でネビュラと戦わせるため。

 そのため、ミッションを除いたネビュラへの対策を可能な限りバレル氏が担当していたことは知っていた。

 だが――プライド様に任せたいとは。場合によっては口を出さざるを得ないのだが。

 

「ああ。可能な限り此方で対処は受け持っているが、これはどうにも難しくてな」

「……どんな内容ですか?」

「――近日、ビッグカンパニーという企業が主催するパーティにて売りに出されるプログラムを守ることだ」

「っ」

 

 ――息を呑んだ。

 それはあまりにも、私にとってはタイムリーな話題。

 この機会を拾うか否かという、重要な選択の真っただ中にある案件だったのだから。

 

「パーティ……ああ、クイーン・チェーコ号、でしたっけ。招待券が届いていましたわ」

「そうだ。船上パーティで行われる新型プログラムの商談会。そのプログラムをネビュラが狙っているという情報が入った。これを阻止してもらいたい」

 

 ビッグカンパニーが開発したプログラムはとにかく高い汎用性が売りだ。

 ナビからバトルチップ、国を守るためのシステムにまで、使い方次第で何にでも応用できる。

 そんな企業が今回、船上パーティまで開いて売りに出すというのがブースターシステム。

 性能の倍増というシンプルな機能が、ビッグカンパニーが誇る汎用性と組み合わさることがどれだけ魅力的かなど言うまでもない。

 私もこのパーティの存在は知っていたし、可能であれば是非とも外装に使いたいと思っていた。

 しかしそれは叶わない。何故ならば、

 

「パーティの招待券はオフィシャルとしても容易に手に入るものではない。クリームランドの王家となればどうかと思ったが、僥倖だったな」

 

 ――そう、招待券が無いのである。

 ビッグカンパニーの商売相手は基本的に企業や法人、政府といった団体だ。

 今回のブースターシステムも、個人では易々と手が届くような金額のものではないだろう。

 そもそも招待券自体、送られるのはそうしたお得意様だ。私に送られてくるようなものではない。

 ゆえに諦めていた。諦めていたのだが。

 

「――あまり興味はありませんでしたが、ネビュラが狙っているのであれば仕方ないですね。承りました」

 

 プライド様がそれを請け負ったことで、私の中の天秤が傾いた。

 直接ネビュラと関わることによる危険を許容できない気持ちが決定的なものだった。

 

「……その仕事、私も付いていっても?」

「エール……?」

「構わないが、招待券はあるのか?」

「当てはある。それに、ネビュラ相手ならプライド様を一人で行かせるというのは、ね」

「分かった。であればお前も同行しろ。仔細は任せる」

 

 それはプライド様を守るためで、ネビュラと戦うため。

 ブースターシステムがネビュラの手に渡れば碌なことにならないのは確定で、逆に入手できれば外装は一気に完成に近づく。

 同行しないという選択肢が無くなったことで、私の思考は完全に、“極力利用しないものでも使う”という方向にシフトした。

 

「エール、もしかして……」

「ええ。自分の中では封印していた“コネ”ですが、今回ばかりは特別です」

「……そうですか。なら、きっと招待券を手に入れてください。お仕事付きではありますが、共にパーティを楽しみましょう」

 

 ――まあ、プライド様がそういう方向性で捉えてくれるのであれば、私も嬉しい限りだ。

 招待券の目途が“手に入りそうだ”から“絶対に手に入れなければ”へと変わり、脳内で計画が組み上げられる。

 遊びに行く訳ではないんだぞ、というバレル氏の視線はとりあえず黙殺した。

 

 

 

 その日の内に連絡をして、アポイントメントを取り付けたのは翌日のことだった。

 急なことではあるが、調整してくれたのだろう。

 この日私はプライド様に暇を貰うことを伝え、デンサンシティを離れていた。

 数々のテーマで研究が行われ、特にネットワーク技術や気象管理技術については日本でもトップクラスとされる都市――才葉シティ。

 デンサンシティから数時間。メトロと主にこの都市で利用されているリニアバスを乗り継いで訪れたのは、無駄に背の高い建物の並ぶビル街。

 デンサンシティのビーチストリートや電気街のように活気に満ちている訳ではない。

 賑わっていると言えば賑わっているのだが、どこか息の詰まりそうな硬さの抜けない厳かな雰囲気。

 それもその筈、ここを訪れる人々の大半は各種技術の発展に力を尽くす者たちなのだから。

 才葉シティ内にある他の主要エリアの例に当てはめるならば、ビジネスタウンとでも言うべき大手企業の立ち並ぶ街。

 

『ム……ココ、ダナ』

「ああ。ありがとう、ジャンクマン」

 

 受け取っていた住所と地図を頼りに、どこまで歩いても景色の変わらないビル街を進むこと十数分。

 辺りを眺めても一際大きく、自己主張の激しいビルに到着した。

 相変わらず金の掛け方の理解が出来ない。

 こんなビル街で一つ目立ったところで嫌味にしかならないだろうに。

 はっきり言ってセンスを疑う所業だし、正直見ているだけで入りたい気持ちが削られていくのだが、背に腹は代えられない。

 溜息を一つ零してから建物入り口のセンサーに、送られてきたIDを提示する。

 これを持たず、アポイントメントもない人物がここで不審な挙動を取れば、たちまち何処からかやってきた警備ロボットが確保に掛かるという。

 この才葉シティ全域で見られるセキュリティ技術の高さは感嘆すべきことだ。警備というにはやや物騒だし、馬鹿正直に見習いたいとも思えないところだが。

 ともかくそんな不手際はなく、一介の客人として入場を許可される。

 受付まで歩いていけば、話は通っているようですぐさまそこにいた女性は営業的な笑顔を向けてきた。

 

「エール・ヴァグリースだが」

「はい。いらっしゃいませ。社長は応接室でお待ちです。どうぞ、此方へ」

 

 その女性の案内に従いつつも、考える。

 さて、向こうはどのような態度で接してくるかと。

 メールのそれとは空気感は違うということは分かっている。

 とはいえ、そもそも向こうが今の私をどう思っているかなど、私は知らない。

 それほどまでに浅い関係と思うと些かあの人に申し訳が立たなくなってくるも、互いに進むべき道は違っていたのだから仕方ない。

 まあ、私の存在理由とは異なる道を強制されなかった辺り、私という存在への理解はあるのだろうが。

 そんなことを考えているうちに、エレベーターで階を上がり一つの部屋に辿り着く。

 第一応接室と書かれたプレートの付けられた部屋の扉を受け付けの女性が叩き、すぐに中から応じる声が聞こえてくる。

 

「はい?」

「社長。エール・ヴァグリース様がいらっしゃいました」

「そう。入って構わないわ」

 

 許可に従い開けられた扉。どうぞ、と頭を下げる女性に頷きを返し、入室する。

 そうして彼女を視界に収めれば、思った以上に感慨がなかった。

 或いはそれが、彼女との関係の浅さを物語っているのかもしれない。

 

「――」

「……」

「――――見違えた」

「十年以上会っていないから、それはそうだろうね」

 

 最後に会ったのはいつかは覚えていない。少なくとも十年は経っているし、その頃の私は未成年である。

 それで身長やら何やらが変わっていなければそちらの方が心配だ。

 かくいう向こうは――変わっていないな。記憶の通りだ。

 後ろで一つにまとめたセミロングの金髪も、ウラの住民さえ射殺しそうな鋭い目つきも、オンオフによらず完璧なまでに整えたスーツ姿も。

 への字と形容するのが相応しい口も相まって対面した者を絶望させるほど不機嫌に見える様子も、記憶にないものであればきっと此方も委縮しただろう。

 ただ、それは彼女の友人が評して曰く、意識してやっと笑顔を作れるらしいレベルの感情表現の下手さからくるものであり、つまるところ彼女にとっては平常運転である。

 これでよくこの手の仕事をやっていけるものだと感心する。商売相手から冷酷だと誤解されないだろうか。

 

「背も伸びて、大人になった」

「十年以上も経てばね」

「――」

「……」

 

 ふむ、困った。無口だとは思っていなかったんだがな。

 とりあえず会話が止まったので、席に着かせてもらう。

 対面するようにソファに腰掛ければ、もともとの身長と一切姿勢を崩さない彼女の座り方から、立っていた時と視線の高さが逆転する。

 僅かでも見下ろされる立場になれば、なるほど、余計に誤解を受けそうな威圧感が生まれるな。本人としては意識していないだろうが。

 

「――だけど」

「ん?」

「何か、無理をしている。そんな風に見えるわ」

「……まあ、そうかもしれない」

 

 それが彼女に伝わったことが、些か以上に意外だった。

 プライド様ならばともかく、彼女にも分かるほど露骨なものなのかと。

 まあ、プライド様や光少年らのように誤魔化す必要はないので適当に肯定する。

 と、そのタイミングで扉がノックされる。

 彼女が入室を促せば、先の受付の女性が入ってきて、コーヒーを置いていく。

 そこまで話を長引かせるつもりはなかったが――貰っておくか。時間を作ってくれていることには変わりないのだ。

 

「それで、用件は何かしら」

 

 容器から角砂糖を二、三と自分のカップに放り込みながら彼女は切り出してくる。

 単刀直入。本題にスムーズに入ってくれるのはありがたい。

 であれば私もさっさと告げてしまうとしよう。

 

「その、なんだ。有体に言うと無心しにきた。少々、どうにもならないことがあってね」

「仕事は上手くいっていると思っていたけれど。去年から色々と、話には聞いているわ」

「金銭の話じゃない――まあ、そっちもあるとありがたくはあるが。貴女に頼るのが一番確実性があると判断した」

 

 一企業のトップ、というくらいならば、幾つか頼れなくもない者はいる。

 だが件の代物が配られるのは国でも一握りの大企業や王族といった者ばかり。

 ちなみにIPCもその大企業に含まれるだろうが、伊集院少年から譲り受けるというのは……なんというか情けない。

 形式上は遠慮なく頼めるということもあって――彼女こそが最適だった。

 

 

 

 

 

 

「――貴女に頼られるのは初めてね。言ってみなさい。可能な限り手を貸すわ、他でもない、()の頼みだもの」

 

「ああ――助かるよ、()()()




・クイーン・チェーコ号
5にて科学省近くの港に停泊し、ビッグカンパニーによるパーティが主催される豪華客船。
ブースターシステムとかいう冷静に考えると凄まじいプログラムの商談会であったが、案の定ネビュラとか招待した花火師とか一般市民に狙われて散々なものとなった。
犯行に使われたトリックは赤外線化したPETのプラグイン機能を利用したものである。
招待券は各国の大企業や王族などに配られている。
5ではネビュラによる強奪を阻止するため、熱斗がチームのリーダーに頼まれパーティに参加するが、招待券はない。
「翌日のパーティに参加するためにチームリーダーの権力でも入手できないほどの招待券を自力で調達しろ」という無茶振りはどう考えてもその時の熱斗に与える任務ではない。
ちなみに本話でエールが「IPCの御曹司である伊集院少年なら招待券自体はある」と考えているが、IPCとビッグカンパニーは長年のライバル企業であり招待状は配られていないとのこと。

・才葉シティ
6で舞台となる、日本の都市。
各種技術の研究が盛んに行われており、ネットワーク技術についてはデンサンシティのそれを超える。
また、町は各テーマに沿ってデザインされている。グリーンタウンのように自然に優しい町もあれば、スカイタウンのようにトチ狂ったとしか思えない町もある。
ここで開催される万博の会場こそが、エグゼシリーズを締め括る最終決戦の舞台となる。


クイーン・チェーコ号イベントの準備回。
直前だとバレルさん仕事してってなるので準備部分は前倒し。
そしてこんなイベントで初登場するエール母。
エール父ほど大きく扱うことはありません。話の本筋にも関わってこないです。
何なら、色々とあって情緒不安定な中でプライド様とデート出来る機会に浮かれ上がったエールが見出した、一番確実に招待券を入手できる手段くらいの扱いで良いです。
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