バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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Q.なんで二年も更新が滞ったのですか?
A.ウマ娘やってた。 別の書いてた。 アドコレを待ってたってことにしておいてください。

実際のところ、とある事情で執筆意欲が完全に無くなっていたのですが、ここ最近アドコレ効果かエグゼ二次創作が増えてきたのを見て、久しぶりに書いてみようという気になった次第です。
とりあえず主要な伏線を回収するまでは止まれないなって思いました。
マイペースに頑張りますので、お付き合いいただければ幸いです。


プラチナム・エリート-2【本】

 

 

 ここに来た目的を説明し終えるまで、母は眉一つ動かさなかった。

 そこまで大それた目的でもなかったが、私としてはこの機会を手に出来るか出来ないかは重要なのだ。

 とはいえ、彼女が件の招待券を貰っている保障はこれと言って無いのだが。

 

「――ビッグカンパニーのパーティ」

「ああ。今回売り出されるシステムが必要なんだ」

 

 砂糖を過剰に入れて色の変わったコーヒーを飲みつつ、母は何やら思案する。

 ……見ているだけで胸焼けしそうな代物だ。よくあれが飲めるな。甘党だったのか、この人。

 

「来てはいないわね。元々、あそことは仲が良くないし」

「……そうか」

 

 そういう事情が絡んでくると、余計に面倒だな。

 そもそも、招待券が来ていたとしても、仲の悪い企業宛てのそれで入場した者が件のシステムを売買する席に着くというのは、会社としても色々と厄介だろう。

 となると、どうするか。

 最も頼りやすい“当て”が駄目だったとなると、次は――と、候補と成り得る知人を探し始めていれば、

 

「待っていなさい」

「ん?」

 

 母は短く告げて、PETを操作し始めた。

 ……IPC製のものだ。やはり日本でのシェアはあそこの一強か。

 クリームランドのブランドもゴスペルの一件をきっかけに、そこそこ日本でも売れ始めているらしいが、やはりこの城を崩すのは一筋縄ではいくまい。

 どうやらオート電話を掛けているらしい。私に席を外せとは言わない辺り、別に聞かれても困らないような相手だろうか。

 

『――はぁい、シェロ。貴女、こっちの時間をご存知?』

「久しぶりね、ミリィ。ちょっと頼みがあるのだけど、良いかしら」

『いっそ清々しいくらいのスルー、間違いなくシェロね。で、何? エールの専属契約の話ならいつでも締結する用意はあるわよ』

 

 何の話だ。

 母が向こうの嫌味を当然のように無視すれば、明らかに知らない間柄ではない電話の向こうは私欲で話を切り出そうとする。

 確かに頼んだのは私だが私の名前を出す前に巻き込むな。というか、まだ諦めていなかったのかそれ。

 

「その話なら本人が断った筈よ」

『時間を空けてまた聞いてみれば気が変わっているかもでしょう? フリーだっていうなら尚更、囲いたくなるものなのよ』

「そう。本題だけど、貴女のところにビッグカンパニーからのパーティ招待券が来ているかしら。あるようなら融通してほしいのだけど」

『もうちょっと同じ話題で会話続けようって気はないの?』

 

 ないぞ。この人が世間話が得意ではないのは数分前の会話でもよく伝わってきた。

 とはいえ、好ましくない方向に進みかけていた話題を強引に本題に引き戻した母の胆力は見習いたいところである。

 表情一つ変えないで雑談する母と、画面の向こうの相手が、互いに遠慮を知らない間柄だとは記憶に残っている。

 そもそも彼女との縁が出来たのも、他でもない母の紹介があったからだ。

 

「……エールはもう自立しているわ。仕事の話なら仲介が無くともなんとでもなる筈よ」

『どうにも首を縦に振らないのよねぇ……ねえシェロ、改めて聞いてみてくれないかしら?』

「本人がここにいるわ。答えならすぐ聞けると思う」

 

 話題を振るな。余計ややこしくなる。

 そういう意思を込めて視線を送るも、意にも介さず母はPETを此方に向けてきた。

 母ほどではないが、久しぶりに顔を合わせるその女性は、画面の向こう側で内面の読めない薄い笑みを浮かべていた。

 

『素晴らしいわ。去年のアメロッパ以来かしら。久しぶりね、エール。今日こそ専属契約、頷いてくれるってことでいいかしら?』

「……申し訳ないが、気は変わっていない。私はフリーでありたいんだ。――久しぶりだね、ミリオネア氏」

 

 お得意様――と呼ぶべき存在ではあるのだが、私はどうにも、この人物が得意になれなかった。

 記憶が正しければ、母の親友であり、父とも面識があるその女性。

 ミリオネア氏は知る人ぞ知る大富豪である。

 なんというか……一般人には到底理解できない、超常的な金銭感覚を持ち、一度目を付けたものに対しては、金に糸目はつけないという豪快な人物だ。

 

 しかしながら、同時に多彩な趣味の一つに値切りを持つのである。

 彼女のナビたるスネークマンの、文字通り蛇のようなしつこさと言ったら、アメロッパの高級店では有名なんだとか。

 あれだけ好ましいデザインをしておきながら、その好印象を台無しにするのがあの性質だ。

 スネークマンや、ミリオネア氏のPETのメンテナンス依頼は定期的に来るのだが、その度に値下げ交渉をされる身にもなってほしい。

 一度頷いてしまえば商売は負けであるという気概で断り続けているものの、どうやらそれがミリオネア氏に刺さってしまったようで。

 値引きはしない、専属契約もしない、そんな私は良い退屈しのぎとなってしまっているらしい。勘弁してほしい。

 

『相変わらずね。ひとまず一年間で五千万ゼニーでどう?』

「いや、金額の問題ではなく……」

 

 当たり前のように何千万という単位が出てくる提案が、彼女としては特に不可能でもないというのが恐ろしいところである。

 都合が悪い上に、本筋でない話を続けられても困る。

 視線で訴えればミリオネア氏は、何がおかしいのか笑みを深めた。この人の琴線は一生分かりそうにない。

 本当にこの人、いつも楽しそうだな。こうなると、小惑星の一件でもこんな風に笑っていそうだ。なんなら作戦に参加出来なかったことを惜しんでさえいるかもしれない。

 

『惜しいわね、本当に惜しいわ。まあ、これで釣られないのは自分の価値を理解しているからだけど。エールを囲い込むのに、これでは安いもの。ねえ、シェロ?』

「エールの生き方を決めるのはエール自身よ。価値を決めるのも私たちじゃないわ」

『シェロ、あなたよく冗談が通じないって言われない?』

「ミリィ以外には言われないわ」

 

 母はミリオネア氏の言葉を冗談だとは思っていないらしいし、実際冗談ではない。

 仮に私が頷いていれば、ミリオネア氏は嬉々として契約の話を進めていただろう。

 一体どんな経緯で気が合って、二人が親友でいるのか、想像もつかないちぐはぐさに辟易する。

 

『――で、なんだったかしら。なんの招待券って?』

「ビッグカンパニーの船上パーティよ。新型プログラムの商談会」

 

 そして、ようやく思い出したかのように、ミリオネア氏から本題に戻る。

 ここまで異様な長さを感じた。

 

『ああ、それ。どうかしら――退屈そうな招待は、最初から見ないようにしているのよねぇ。……シェロの会社、あそことは仲悪くなかった?』

「だからこっち側に来ていないのよ。悪いけど探してくれないかしら。迅速に」

『パーティ飢えでもしてるの……? まあ、いいわ。スネークマン、聞いてた? 招待券が来ているか、確認してちょうだい――そう、ありがとう。シェロ、あったみたいよ』

「不要なら譲ってもらえないかしら」

『いいわよ、別に。無駄になるどころか、気付かなかったほどなんだし」

 

 そして、本題に入ったかと思えばあっという間に終わった。

 いや……ミリオネア氏のことだし、招待券を見つけたところで商談会など退屈だと切り捨てていたのだろうが。

 特に深く考えることもなく手放される招待券。私が欲しがったことが原因とはいえ、ビッグカンパニーを少し哀れに思った。

 

『それで? こんなのが欲しいだなんて一体どういう風の吹き回し? ストレス発散?』

「知らないわ。欲しがったのはエールよ。ストレス……は、溜まってるの?」

「別にパーティが目的じゃない」

『エール? パーティじゃないなら散財かしら』

「私がどうこう言う問題じゃないけれど、あまり感心は出来ないわね」

「散財するつもりもない」

 

 本当、これだけ違う性格をしていてどうしてここまで息を合わせられるのか。

 なんだか頭が痛くなってきた。身内に含まれる人間が関わっている分、余計に疲れが溜まる。

 

『ま、いいわ。しつこく詮索をするほど野暮じゃないし。去年いきなり依頼を吹っ掛けたお礼ってことで、エールに送ればいいのよね?』

「……そうしてもらえるとありがたい」

 

 すぐに引き下がるのが意外だった。

 普段の値下げ交渉もこうであってくれればと思わずにはいられない。

 ともかく――これで無事、パーティの招待券は手に入った。ようやくスタート地点に立ったと言える。

 ブースタープログラムの入手はあわよくばだったが、ネビュラの作戦阻止は私が行けなければプライド様単独となる。それだけは避けないとならなかった。

 

『それじゃあ、用がそれだけなら切るわね。お休みなさい、シェロ、エール』

「今は昼よ」

『シェロ、もう一度聞くけど今の時間をご存知――』

 

 お休み、でもさようなら、でもなく日本の時間を告げるのみという斬新な挨拶で母は会話を締め括った。

 一方的に切られるオート電話。ミリオネア氏が気分を害して「やっぱりあげない」とかならないか不安だった。後でフォローしておこう。

 

「……良かったのか?」

「ミリィとはこれでいいのよ。さて、私からって訳じゃないけど、これでいいのかしら」

 

 母はまるで一切の負い目もないかのように、表情一つ変えずに断言する。

 ……これで企業のトップ、務まるのだろうか。

 親友との通話だからこその、独特の距離感ゆえだと思いたい。

 

「……構わない。礼を言うよ、母さん」

「そう――」

 

 そうして、また沈黙。カップを手に取る母に続き、冷めかけのコーヒーを口に含む。

 用件が終われば、この通り。

 せっかく時間を貰ってなんだが、それ以上に話すようなことは、見つからなかった。

 

「――王女殿下とは、まだ関わっているの」

「……去年からの話を聞いているなら、想像がついているのでは?」

「あなたがここまで目立つのだから、そうだとは思っていた。そして、それさえ目立たないほどの、クリームランドの躍進。どこまで、何をしたか、詳しくは知らないけれど誇らしいわ」

 

 淡々とした、本心かどうか分からない賛辞。

 それが、言葉に迷ってようやく引き出したものなのだとすれば、どうにもおかしかった。

 面と向かうと言葉は出てこないものだ。私もそうだし、あの人もそうだった。どうやら夫婦、そして親子そろって、似ているらしい。

 

「あまりこうして代弁するのは好まないけれど、あえて言わせてもらうなら――あなたはこの一年で、ヴァンさんの無念を晴らしたと思う」

「そうであったなら……喜ばしい限りだよ」

 

 私は――あの人の全てだ。

 あの人が何を思って、どんな限界に辿り着いて、どうして命を絶ったのか。今はもう、想像することしか出来ない。

 だが、ようやく世界に認められるようになったクリームランドが、彼の望んだ国であるならば、私は私の役割を果たせている。

 ……招待券はともかく、この言葉は母からしか受け取れないもの。どうやら、ここまで来た甲斐はあったらしい。

 

「……さて。もう行くよ。時間を取らせてすまなかった」

「……そう。気を付けて帰りなさい。――あまり、無理はしないように」

 

 絶対にするな、とは母は言わなかった。

 つまるところ私はどういう性質であるか、知っているのだろう。

 もしかすると、母もまた必要な無理は成し遂げるタイプなのかもしれない。

 席を立って、退出する。受付に話して会社を後にすれば、黙り込んでいたジャンクマンが声をかけてきた。

 

『エール、オ、終ワッタ、ノカ?』

「ああ。招待券を手に入れる算段はついた。帰るとしよう」

『アア……ダガ、ソノ前ニ……メールガ、届イテイルゾ。差出人ガ、書イテイナイ』

 

 ふむ……? メールマガジンの類はPETには届かないようにしているし、依頼も今は停止している。

 来る可能性があったのは知人からのものくらいだが――確認してみれば、無記名、無題、そして簡素な本文。

 そんな形式で来るのは大抵ウラからの依頼。

 今回のそれは私に対する依頼ではないものの、確かにウラの住民から。

 

 ――仕事が片付いたので、そちらに話を伺いに参る。

 

 先日勧誘したウラの暗殺者、シャドーマンである。




2編以来に登場したミリオネア氏の協力も得て、招待券についてスピード解決。誰がなんと言おうとスピード解決です。
そしてミリオネア氏はそもそも2編では言及されただけです。
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