バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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再開に際し、特に隠しておく必要もなくなったので匿名設定も解除します。
とはいえこの作品の何が変わる訳でもないので、今まで通りチャマッシュでもキマッシュでもクロマッシュでもなんでもいいです。


雅なる闇の刺客 【本】

 

 

 母とミリオネア氏により、パーティの招待券を手に入れてから数日。

 私はチームの作戦室となっている、科学省メインルーム奥の会議室を訪れていた。

 プライド様は別件でいないが、今回は都合が良いかもしれない。

 今から会うことになるのは、ある意味特級の危険人物だからだ。

 

「……間もなく時間か」

「本当に来るのか? 特に入館用のライセンスも渡していないが」

 

 時計を眺めながら小さく呟けば、バレル氏は懐疑的な声を零す。

 私たちが待っているのは、シャドーマンのオペレーターだ。

 私はまだ、その正体を知らない。そもそもシャドーマンさえ、そう深く関わってはいないのだ。

 強いて言うならば、ウラにおける一大儀式――ブラックアース封印の儀に共に招聘された際や、レヴィアが彼と刃を交えた時くらいか。

 互いにオペレーターが割れるような会話もなかったが、ここに来て現実世界で顔を合わせることになるとは。

 

 先日のメールに指定されていた日時が間もなくやってくる。

 こちらが場所を決めた訳ではないが、然るべき場所に赴くと、メールには記載されていた。

 決まって集まるような場所と言えばこの作戦室を置いて他にはない。ゆえに、私たちはこうして待っている。

 ……あまりウラの住民との関わりにおいて、互いに素性が割れるような行いは好ましくないのだが、今回の依頼の仲介を担っている以上仕方がない。

 

「さて。向こうが本当に、シャドーマンを操るオペレーターであるならば、約束は守るだろうさ。仕事に一定のポリシーを持つことは確かだからね」

 

 ほんの一年前まで、達成率百パーセントを堂々と掲げていた実績は伊達ではない。

 依頼人に求められるのは、代金と誠実さ。それさえあれば信頼に足る、強力無比な影となる。

 

 ウラランキングとは、第四位以下は同列な制度ではある。下の位階が上の位階に劣るなどということはない。

 だが、基準が純然とした実力であるならば、シャドーマンは確かに第三位の彼に次ぐだろう。

 それほどまでに腕を磨き上げ、そして第四位を守り続ける力と、請け負った依頼を必ず成し遂げる信念。

 これは私も、認めざるを得ない。私も、彼らも、ウラで信頼を商売にする者なのだ。

 

「ふむ……」

 

 納得したのかしていないのか、黙りこくるバレル氏。

 静寂の中で、時計の長針がてっぺんに辿り着く。指定した時間になった。

 秒針がそれを追い越し、離れていく。部屋の扉は開くことはない。

 

「――然り。たとえ口頭であろうとも、一度結んだ契約を反故にはせぬ」

 

 ――何故ならば、既に待ち人はこの部屋にいるから。

 いや、まったくもって納得は出来ないのだが、その声に釣られるように視線を動かせば、それまで意識の外にあった部屋の隅に一つの影が立っていた。

 クリームランド外の歴史に疎い私であっても、何となく時代錯誤だと分かる奇妙な装束に身を包むその男。

 たとえ事情を知らずとも、ウラの住民がこの姿を見れば、シャドーマンのオペレーターであると一目で分かるだろう、絵に描いたようなシノビだった。

 

「薬師エール。そして此度、この身を置くことになる組織の棟梁……間違いないな?」

「――」

「……ああ、その通りだ。オレはバレル。このチームの代表だ」

 

 私に代わり、バレル氏が答える。

 ……不意を打たれ声が出なかったとも言う。いつの間にやってきたんだ。先程までは間違いなくいなかったぞ。

 あれか、これもシノビの(マジック)か。光少年や伊集院少年のワイヤレスプラグ投げ、大山少年の岩石投げ、火村少年のオミコシ担ぎに続く得体の知れない超技術なのか。いや、彼が日本人なのかは知らないが。

 

「私はミヤビ。ダークを襲名せし請負人……そのような肩書は此度、意味をなさぬか。お主たちが求めているのは、私の操るナビの証明だろう」

 

 彼――ミヤビ氏は細い目を更に細めて小さく笑うと、懐よりPETを取り出し、画面をこちらに向けた。

 ……なんだか冗談のような絵面だな。この格好でIPC製の最新式PETを持っているのはあまりにもちぐはぐだ。

 いやまあ、常に新しきに対応するというのは、この時代重要なことなのだが。

 そんなシノビの持つPETの画面には、ウラにおいて名の知れたもう一人のシノビが映っている。

 

『そちらの棟梁とは、顔を合わせるのは初となるな。拙者はシャドーマン。お屋形様にお仕えする一刃なり』

 

 ……『私』に対して、初めましてとはならないのか。

 どうやらある程度私の事情については把握しているらしい。

 

「……どうやってこの部屋に?」

 

 ともかく、気になっていたことを尋ねる。

 ネビュラの襲撃により、外部の者の科学省への入館はより厳しくなっている。

 私はプライド様の公務に合わせ、ライセンスを発行してもらったものの、そうした用意がなければ省内の職員が招くほかない。

 ……外で途方に暮れていたとしても彼に声を掛けようと思える職員もいないだろう。

 

「フ……この程度の防備、児戯にも等しい。ネビュラのネズミ共にはそれなりに有効だろうがな」

「……不法侵入じゃないか」

 

 破られるようなセキュリティをしている方が悪い、が通用するのはウラの世界だけである。

 やましい理由がなければ私ですらやらないだろう無法を恥ずかしげもなくやってのけたシノビは完全に不審者であった。

 凄まじい技術だが、それは果たしてこの場で発揮するべきものだったのだろうか。

 まあ、いいか。責任を取るのは私でもプライド様でもないし。……ないよな? ここに呼び出したのが私だから私の監督責任とかにならないよな?

 

「……後ほど正規のライセンスを申請する。次からはそれを使って入館するように」

 

 搾り出すような声で、バレル氏が言う。

 当然ながら、これからこの暫定不審者について、省内で説明をしないといけないのだろう。

 正式に入館可能となれば、ミヤビ氏も正面玄関から入って手続きをしてここまで歩いてこられる訳だ。それはそれで、一度見てみたい図ではあるな。

 

「忍びの者に正面から入れとは、また酔狂なことを言う」

「真面目な話だ。この作戦室でお前たちの身柄を保障できんなど、笑い話にもならん」

 

 ごもっとも。なんの保障もない状態であれば、ミヤビ氏は本来オフィシャルに追い回される側の人間だ。

 此度、ネビュラを相手に一時的に力を借り受けるのだとしても、それが要人に知れ渡っていなければいつ通報されてもおかしくない。

 せっかくネビュラと戦うためにやってきたのにオフィシャルに捕まるのでは悪い意味でウラの伝説になってしまう。

 

「さて……ミヤビと言ったな。話の概要はエール・ヴァグリースより聞いていると思う。我々はネビュラに占領されたインターネットを解放すべく、作戦を行っている。このチームに、お前も参加してもらいたい」

「そのつもりで私は里より下りてきたのだ。オモテの衆では戦力に限界もあろう。それに、連中の手が伸びているのはオモテに限った話ではないのでな」

 

 その通り――ネビュラの占領を受けているのは、オモテのインターネットだけではない。

 ウラインターネットにおいてもエリアが一つ、ネビュラの手に落ちた。

 ……一つで済んだ、ともいえる。ウラの王しか全容を把握していないとされる、広大極まりない世界において、ウラの住民はネビュラの被害をエリア一つに留めたのだ。

 

 ネビュラによって日本のインターネットが襲撃を受けたその日に、ウラでは大規模なアクセス制限が敷かれた。

 特に日本からウラスクエアに向かう手段について、ひどく厳しくなったのだ。

 現状、『日本側』のウラインターネットは、ウラの世界そのものから切り離されていると言って良い。

 ウラの王が行った対応はそこまで。後は趨勢を見守るとのこと。

 その後は度々、無法者共によるゲリラ的な奪還作戦が行われているらしいが、戦況は芳しくないようだ。

 

「最終的にはウラインターネットの奪還作戦を執り行う予定はある。だが、まずは科学省エリア3だ。国の要であるこのエリアを奪還することの意味は大きい」

「フ、初仕事が科学省エリアか。それも悪くはない」

 

 本当に、嘘のような話だな。

 科学省エリア奪還のために、ウラランク持ちが新たに加わるなどと。

 

「まずシャドーマンに任せたいのは、科学省エリアの偵察だ。現在、科学省エリアは全体に巨大な容量を持った雷雲が発生している。通常のナビでは、これを潜り抜けて満足に進むことも難しい。メンバーが万全の状態で科学省エリア3に到達し、作戦を決行するために必要な情報収集。お前たちならば容易いな?」

「否、という訳にもいくまい。必要とあらば、今日明日にでも連中の仕掛けを丸裸にしてくれる」

「頼もしいな。……可能であれば、障害の打開も頼みたいところだが、それは作戦決行の直前が好ましい。メンバーを招集できる機を見計らって障害を突破し、警戒を強化される前にエリアを奪還する」

「承った――して、その言いぶりでは、メンバーとやらは他にもいるのだな?」

「ああ。現状、お前を含めて五人。……残る二名は後日、紹介しよう」

 

 ――ウラでの彼の実績は信頼に値するとして、プライド様や光少年と引き合わせるとなると抵抗があるぞ。

 プライド様はゴスペルの一件でシャドーマンについて知っている可能性がある。そうでなくても、知る人ぞ知る暗殺者だ。

 光少年も、シャドーマンとは面識があるような様子だったし……面倒ごとにならないよな?

 

「その必要はない。私の方で勝手に試す」

 

 ミヤビ氏は不敵に笑い宣言した。面倒ごとになりそうだった。

 

「試す……?」

「私が知っているのは薬師の悪名のみ。棟梁たるお主も含め、個人的に力量を確かめるという話だ。腑抜けに足を引っ張られては堪らんからな」

 

 なんというか……理屈は分かるが発想が突飛だ。

 やはりウラの住民。倫理観が飛んでいるのだろうか。私が言えた話じゃないが。

 

「……今の時世、インターネットで余計な騒ぎは起こさないでほしいものだがな」

「なに、そう大きく騒がれるようなことはせん。それに仕事に支障も来たさん。ほんの手遊びのようなものよ」

 

 手遊びでこちらに警戒の手間を掛けさせないでほしいものである。

 光少年の方も心配だが、彼の方の普段(プライベート)には介入するつもりもないため、注意を促しておくのが精いっぱい。

 プライド様に関しては、ミヤビ氏が下手なことをすれば立派な国際問題である。

 彼としては何も知らない状態のメンバーを試したいのだろうが、無暗にそういうことも出来ない立場なのだ。

 ……一応、チーム内の訓練があるという名目で、伝えておくべきだろう。私が個人的に対策していたら後でプライド様に怒られるだろうし。

 

「さて。すぐにでも仕事に動いて構わんが……その前に」

 

 ある程度、話は纏まったと、ミヤビ氏は話題を切り替える。

 内容を察して、私は帰り支度を始めた。『訓練』の対策もしておかないといけないのだ。

 

「分かっていような? ウラの刃が何をもって動くのか」

「……」

 

 はぁ、とこれみよがしな溜息がバレル氏から零れた。

 最初から言っておいただろうが。シャドーマンと話をつけるためにバレル氏から渡されたのは、あくまでも交渉の席に着かせるための金だ。

 本格的に彼を雇うとなれば、あの程度では済まない。

 依頼を受ければ国家さえ転覆させるウラの刃とはそういうものだ。

 バレル氏の災難に同情しつつも、手助けはしない。ここから先の契約は私には無関係である。

 

「――待て、エール・ヴァグリース」

「すまないが、予定が立て込んでいる。後はどうとでも交渉してくれ」

 

 このチームに運営費とかあるかは知らないが、バレル氏の予算、尽きないといいけどな。

 どうでもいいことのように思いつつ、私は足早に作戦室を出た。




・ダーク・ミヤビ
2、5チームオブカーネルに登場する人物。持ちナビはシャドーマン。
金で雇われ、如何なる依頼でも遂行する傭兵であり暗殺者。ナビ同様、忍者を思わせる和装に身を包む男。
2ではゴスペルに雇われアジーナスクエアを壊滅、その後日本を標的とするが、熱斗とロックマンによりシャドーマンが倒され失敗に終わった。
5チームオブカーネルではバレルに雇われてチームに所属する。2では影の掛かった顔グラしかなく、公式イラストも5で用意された。
この姿でごく普通に秋原町に訪れ、公園のリス像の電脳で熱斗とロックマンの腕を試した。よく通報されなかったものである。
更にまだオラン島でなんかやってるプライド様にも襲撃を掛けてナイトマンをデリート寸前まで追い込んだり、解放されたオラン島エリアからまだネビュラの支配下である科学省エリアまでを駆け巡る追いかけっこを熱斗たちに挑んだりした。バレルには事前に伝えてあったことらしいがプライド様の件は多分普通に犯罪である。
プライド様たちのように改心した訳ではなく、雇われたという理由で敵から味方となる、エグゼシリーズでは割と珍しい立ち位置。エンディングでも「次に会った時は敵かもしれない」とメンバーらに告げている。
ちなみに「ダーク」とは一人前の暗殺者に送られる称号であり、本名ではない。そのため6グレイガでは弟子のダーク・キリサキが登場するが血縁がある訳ではない。
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