バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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群雲を超えて-2 【本】

 

 

 科学省エリアにやってくれば、そこは本来のものとは様変わりしていた。

 もしかすると空のど真ん中にでも転移してきたのかと錯覚するほどの雲の群れ。

 踏みしめる道もまともに確かめられない状態となっていた。

 

『エールさん!』

 

 そんな雲を掻き分けながら、ロックマンが走ってくる。

 この辺りの白い雲なら触れても問題ないのか。

 科学省の調査によれば、エリアの奥に進むにつれて増えてくる黒い雲は、白い雲に比べてかなり大きな容量を持っているらしい。

 雷を纏うそれらは触れることも危険そうだ。

 

『やあ、ロックマン。あまり雲には触れないように。何が飛び出してくるかも分からない』

 

 白い雲さえ、並の容量ではないのだ。

 中身も見えない以上、ウイルスの一つや二つ仕込まれていてもおかしくない。

 

『う、うん。ごめんね、来てもらっちゃって』

『構わないよ。この雲は厄介だ。……それ以上に、シャドーマンとやり合っているのが厄介だがね』

 

 護衛に連れてきたプログラムは一体のみ。

 チームの事情なのでジャンクマンたちは呼べないし……そもそも、ジャンクマンがシャドーマンと戦えるかと言われれば、厳しいと言わざるを得ない。

 そして、あくまでもここはオモテのインターネット。それも科学省エリアともなれば、ビーストマンのような後ろめたい経歴を持つ連中を呼ぶことも出来ない。

 そんな中でシャドーマンと関わるなど、普段であれば絶対にしないぞ。

 

『エールさん、シャドーマンのこと知ってたの?』

『深く関わったことはないが、私も向こうもウラでの活動が長いからね。ヤツはウラの世界でも指折りの実力者だ』

『強いのは知ってたけど……アイツ、ウラでも有名人だったのか』

 

 ――やっぱり、光少年の言葉から察するに、ゴスペルの一件でシャドーマンが依頼に失敗した要因は彼らだったらしい。

 その際にあのムラマサの脅威も目にしたということか。……よくそれで無事だったな。

 シャドーマンが油断していたとは思えないし、よほどの想定外でも起きたのだろうか。

 

『――フ。なるほど、無計画の立ち往生ではなかったか。様子を見に来た甲斐もあったというもの』

『ッ、シャドーマン!』

 

 とりあえず、エリアを進むための準備を整えていれば、上方から声が降ってきた。

 今日一日……もっと言うと、数日前からの悩みの種ことシャドーマンである。

 彼は積み上がった雲の上に立ち、腕を組んでこちらを見下ろしている。

 雲から雷でも飛び出して痺れてくれないかと思わずにはいられない。そうすれば、このまま楽に捕縛できるのだが。

 

『依頼の受付も取り止め、オモテで子守とは。名にし負う薬師は休暇を満喫中と見える』

『そう見えるならキミの目も鈍ったものだ。隠居した方がいいんじゃないか』

 

 互いに事情が分かっているにも関わらず、当たり前のようにこういうやり取りになってしまうのはウラの日常茶飯事である。

 何が休暇だ。今日は依頼がある普段よりも忙しいぞ、主にキミのせいで。

 

『子守でないなら、当然状況は好転しような? これでどうにもならぬならば、お主たちのチームが共有する術策も底が知れよう』

『さっきから言いたいこと言いやがって……! シャドーマン! お前たちの目的はなんなんだ!』

『結果を示さず得られる情報があると思わないことだ。来るがいい。お主たちにここを進む気骨があれば、拙者の口も幾らかは緩むだろうよ』

 

 そんな挑発の後、シャドーマンは身を翻して雲の向こうへと消えていった。

 御託はいいからこの雲を超えて見せろ、と。

 最低限の実力を持たない者の言葉など聞く耳持たないとは、ウラでもオモテでもそれなりによく見るポリシーではある。

 時折、そういう実力主義を私に押し付けてくる輩もいないではないが、まさかこちらのやり方を分かっているだろうシャドーマンがけしかけてくるとは。

 ともあれ、雲を退かす手段を持っていないこともない。

 科学省も抵抗できていない訳ではないのだ。限度こそあれ、雲を吸い取るバキュームプログラムの基礎を構築済みだという。

 雲を吸い取る――実に分かりやすい方法である。私の手札を応用すれば真似事が出来るという点が実に良い。

 

『では、彼の言う通り、まずは素直に追ってみようか』

『うん――ところで、どうやって……』

 

 実行したプログラムを見て、ロックマンが顔を引き攣らせた。

 そういえば、彼のいる場でコレがよく見られるような機会を作ったことはなかったか。

 私が利用する、攻撃的なプログラムの形状として、比較的オーソドックスになってきたのが複雑ではある。

 だが、それもまた仕方ないこと。何故ならば、その材料は他でもない、バグそのものなのだから。

 

『ご、ゴスペル……!?』

『倒さないでくれよ。ほら、首輪も付いてる』

 

 今回のものは私たちより少し大きいくらいの、中型サイズ。

 これくらいになれば、ようやくあの凶暴な風貌もいくらか落ち着いて見えるというものである。

 バグを原料にしたとはいえ、完全に制御されたコレは、無害ウイルスの環境を守るための番犬タイプ。

 管理用のプログラムくん――カグラのサポート及び、実験などのためにあの環境をネットワークに繋いだ際に流れ込んでくるウイルスへの対策のため、レッドサントーナメントの折のデミ・ゴスペルの残骸を流用したものだ。

 それを更にコピーして持ち出したコレは、戦闘能力こそ、オリジナルを劣化させた“デミ”と比べても乏しい。

 だが、元とはいえトーナメント時の私の切り札の一角としてのポテンシャルは残っている。

 

『首輪って……エールさん、これってバグの塊でしょ?』

『まあ、そうだね。扱い方を誤らなければ安全、と言い切れる程度にはなっているが』

『エールさん、デバッガーだよね?』

『普段からそう自称しているね』

 

 光少年とロックマンの問いに答えつつ、我らが番犬に指示を出す。

 白い雲に近付いたゴスペルはその口を開くと、自慢の吸い込みでそれを捕食し始めた。

 勿論、それではゴスペルに持たせた容量が瞬く間に埋まっていくだけ。

 なので、きちんと吸ったものは吐き出してもらう。その、“吐いたもの”は――元の雲の形など留めていないわけだが。

 雲の中に一筋のトンネルを作り、ゴスペルはもごもごと咀嚼した後、巨大なバグの塊を吐き出す。

 ――バグ溜まり(ゴスペルの体内)で雲を変換した、私の万能リソースの完成である。

 

『エールさん、自分でバグ生み出してない?』

『作戦に使うリソースもそうだが、私個人でも色々使っているからね。日々の消費量が結構馬鹿にならないんだ』

 

 少し引かれていることを自覚しつつ、岩塊の如きバグを回収する。

 このまま放っておくと、流石に面倒なことになりかねない。

 後で分解して、適度な大きさのかけらにしておかないと。

 

『……まあ、エールさんがバグを間違えて使うなんてことないんだろうけどさ』

『信頼があるようで何よりだよ。ウラの手練れを相手にするための、ウラの流儀だから、今回は見逃してくれ』

 

 食べ盛りの犬の如く、雲を食い散らして道を切り開いていくゴスペルを至極微妙な目で見ているロックマン。

 彼をオペレートする光少年の声も、あまり納得は行っていなさそうだった。

 いつぞやにバグの危険性は伝えた筈だし、そもそもコレの外見からして、かつて死力を尽くして撃破した怪物である。

 私の場合――ただ一人を除いて――過去の敵の似姿を使うことに拒否感はないものの、彼はそうでもないらしい。

 そうなると、果たしてシャドーマンが仲間になるというのは、彼らにとって納得できる話だろうか。

 

 雲の中を進んでいれば、わざとらしく接近してくる気配。

 ロックマンは一旦疑念を切り捨てて構えるが――気配の主の声はすれどその姿を見せることはない。

 

『ほう……かの電脳獣の似姿か。オモテを出歩いているとは思えぬ物騒な手管よ』

『シャドーマン、姿を見せろ!』

『クク、拙者にばかり気を取られていて良いのか? そら、どうやらこの雲、単にお主らの道を阻んでおるだけではないようだぞ?』

 

 シャドーマンの言う通り――あの雲ほどの容量があれば、中には様々なものを仕込んでおける。

 分解された雲から飛び出してくる、多数のウイルスたち。

 当然ながら、雲をどうにかしようとした者への対策も備えていたということだ。

 

『くそ、ロックマン! バトルオペレーションだ!』

『うん!』

 

 このくらいの相手なら、光少年とロックマンであればさしたる脅威でもない。

 私もまた、護衛用のプログラムがある。問題は、周囲を雲に覆われていることによる狭さと、こちらを見ている影が襲ってこないとも限らないこと。

 

『ファイアパンチ!』

 

 遠くにまで届く炎の拳が、先行してきたドリクロールたちを殴り飛ばす。

 通路の狭さは彼らも承知している。

 ウイルスたちが近付いて来れば、その攻撃を躱すことが難しくなる。

 そのため、遠距離攻撃で接近される前に対処し切るのが得策だ。

 狭い通路を渡ってくるのはウイルスたちも同じ。真っ直ぐな攻撃だろうと、十分に有効打になり得る。

 

『よし……ロックマン、これで!』

『了解――!』

 

 ロックマンの両腕を覆って現れる、巨大な『センシャホウ』。

 発射までのラグにより中々使いづらいものの、当たればかなりの威力を発揮するそのチップは、この状況に適していた。

 放たれた巨大な砲弾はウイルスの群れを容易く粉砕していく。

 これで波は終了。このまま先に見える広場までは辿り着く――とはならなかった。

 

『ッ!』

 

 突然の殺気に、ロックマンは砲塔を盾にして対応した。

 そこに突き刺さる、十字型の刃。

 破壊された砲塔を振り払い、バスターで追撃を対処すれば――次は私か。

 

『――このエリア一帯に立ち上る雲は、科学省エリア3の砦を守る闇の手の者によって発生している』

 

 予め用意しておいた、対不意打ち用のプログラムが雲を突き破って伸びてきた炎を受け止める。

 大した威力ではなかったが……私のトラウマをわざと突いてきた訳じゃないだろうな、アイツ。だとしたらいい性格だが。

 

『賊の名はクラウドマン。奴を仕留めれば、管轄している雷雲も全て統制を失い消滅するだろう』

『な、なんでそんなことを……!』

『さてな。或いは拙者がその者に仕えているのかもしれぬ。であれば、拙者がこの群雲の内を駆けられることにも納得出来よう?』

 

 ……ネタばらししてやろうか、という気さえ起きるほど、堂に入った悪役ぶりだった。

 今は我慢である。それで台無しになって契約が白紙に、などとなっては笑えないし。

 

『……そういえば、砦たるエリアへの入り口を覆う雲は別の闇を媒体にしておったな。あれは、ただその獣に食わせるのではどうにもなるまいよ』

 

 それだけ告げて、再び気配は遠のいていった。

 ――雲を取り除いて進めるようになり、ウイルスにも対応できた。その結果に報いたというところだろうか。

 彼がそれを知っている辺り、本来望まれたことである偵察は十全に行っているらしい。

 このエリア中の雲の仕掛けを、既に彼だけは看破しているのか。

 

 まともに仕事をしてなお、こうしてメンバーを試す余裕まであるとは、凄まじいスピードだな。ナビも、オペレーターも。




・デミ・ゴスペル(番犬カスタム)
エール・ヴァグリースプレゼンツ、ゴスペル悪用シリーズ待望の最新作。
レッドサントーナメント決勝戦で撃破されたデミ・ゴスペルの残骸を元に作成した中型ゴスペル。
バグを制御し安全性を高めた分、戦闘能力は落ち、一般的な防衛プログラムと並べられる程度のスペックとなっている。
エールはこれを無害ウイルスを管理する環境の番犬プログラムとして利用していたが、科学省エリアの雲の対策のためコピーして流用。
食べた雲をバグに変換して吐き出すという、回収しなければネビュラとどっちが悪かを競える手段を実行した。
バグのかけらはとても大事。エールの生命線なのである。


シャドーマンとの追いかけっこ。
偵察ナビとして入ったのにミッション以外ではそんなに仕事してないのもどうなのということで、色々と調べてくれたみたいです。

前回の後書きに書き忘れていたのですが、熱斗くんのプライド様への呼称を「プライド」呼びから「プライドさん」呼びへと変えています。
年齢のそう変わらないエールをさん付けしているため、これの方が自然かなと。
ちなみにチームオブブルースで対となるテスラさんについては、熱斗くんは普通にさん付けしてます。
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