バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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群雲を超えて-3 【本】

 

 

 ――砦の本丸に至るには、二重の防壁を突破する必要がある。ぴたりと合う鍵でもなければ開かぬ強固な障害よ。

 

 ――あれは拙者でさえ超えるに難い。お主らの抵抗を受け、連中も対策したと見えよう。

 

 

 ……やはり、オラン島エリアの解放よりも厄介であるらしい。

 進むにつれて少しずつシャドーマンが零していく情報には、解放すべき科学省エリア3についてのものも含まれていた。

 もしかして、既にエリアに侵入し、調査を済ませているのだろうか。

 彼の情報が真実であるならば、今回はただ闇を晴らしていくだけでは駄目だ。

 より計画的に……特に彼の役割を重視し、進行を進めないとならない。

 

『ああもう、どこまで行くんだアイツ……!』

『どうしよう。科学省エリア3まで逃げられたら、追いつけなくなるよ』

 

 先を塞ぐ黒雲が変換されるまで、私たちは暫く足を止めていた。

 科学省エリア2……本来であれば、科学省エリアは道が入り組んでこそいれど、危険性はさほどないインターネットの中でも安全な場所だと言える。

 しかし、雲とそこから飛び出すウイルスは一筋縄ではいかない。

 護衛の戦闘用プログラムも二度入れ替えているし、ロックマンも目に見えて疲れが出ている。

 時折シャドーマンは姿を見せているが、立ち止まることはない。

 ひたすら追いかけていれば、現在位置はもうすぐ科学省エリア3へのリンク付近……という始末である。

 

『まあ……そうなったらなったで、諦めるしかないかな』

『すぐにリベレートミッションを開始するってのは?』

『当然、駄目だ。プライド様が今日、時間を取れないからね』

 

 バレル氏は分からないが、この状況を監視していてもおかしくない。

 なんなら、呼べばすぐにでも駆けつけて、エリアの解放に赴けるだろう。

 しかし今日となるとプライド様の都合が悪い。

 午前中は比較的余裕もあったが、シャドーマンの襲撃で台無し。午後は夜まで公務である。

 ナビのオペレートを行うのは光少年とはいえ、プライド様もナイトマンだけを送り出すなどということは出来まい。

 

『なら早く捕まえないと――もういいよね、急ぐぞ、ロックマン!』

『うん!』

『あ、ちょっと……まったく』

 

 まだ満足に通路が出来たとは言えない黒雲の隙間を潜り抜けて、ロックマンは先行してしまった。

 ……よくこんな、雷を纏った黒雲を潜って行こうと思えるな。

 さっさと続きたいところだが、生憎これを無傷で通り抜けられる自信はない。

 そんなこと出来るのは、バトルオペレーション中に『インビジブル』を使っている時くらいである。

 

 ゴスペルに変換を急がせ、一分ほど遅れて私もその先へと進む。

 中々の量のバグは回収できたものの、ひたすらこれを続けていても無暗に消耗するだけ。

 そろそろ、いい加減にしてほしいものだが……と早足で追いかけ、その先の開けた場所で向かい合うロックマンとシャドーマンを目にした。

 周囲は相変わらず雲に覆われていれど、エリア中を見ても比較的影響が少ない場所だ。

 

『おや。鬼ごっこは終わりかい?』

 

 シャドーマンには、それ以上大きく動こうとする様子は見られない。

 だが――どうにも、はい終わりと行儀の良い流れになるとは思えなかった。

 

『フ――多少の気骨はあるようだ。伊達にゴスペルやWWWに喧嘩を売っておらぬか。その先に何が待つか、碌に判断もせぬ無謀とも取れるが』

『何かが待ち構えていたとして、そんなんに怯えてたらいつまで経っても進めないぜ!』

『……青いな。お主がチームの要としてあるのも納得がいく……お屋形様、如何いたしますか』

『――様子見はその辺で良いだろう。手合わせしてみろ』

 

 ……そういう流れか。最悪とは言わないまでも、望んでいなかった展開だ。

 可能な限り、彼らとぶつかるような機会は避けたかった。

 というか――そもそもロックマンはともかく、私まで標的になっているんじゃないだろうな。それは洒落にならないぞ。

 ウラの手練れの護衛はなし。そして、私も今使用しているのはエールハーフだ。

 

『御意……邪魔をするなよ、薬師。お主の助けはもう要るまい?』

 

 ――と、そんな対象外宣言に安心と不安を同時に抱く自分がいた。

 つまるところ、それはロックマンが単独でシャドーマンと戦うということだから。

 

『――エールさん、下がってて!』

『……無理はしないように。強敵だぞ』

 

 今更彼らが、シャドーマンを相手に油断はすまい。

 であれば信じるのみ。頷いて一歩下がれば、ロックマンは体勢を低くして構える。

 

『その意気や良し。かつての粗削りだった頃から、どこまで磨かれているか……確かめさせてもらうぞ』

『あの時負けたクセに偉そうに……やるぞ、ロックマン! バトルオペレーション、セット!』

『イン!』

 

 そして、戦闘が始まった。

 先制攻撃とばかりの、ロックマンの『パルスビーム』。

 速度と正確性に優れた音波光線だったが、真っ直ぐな攻撃だからこそ、それを捉えたシャドーマンには通用しない。

 命中した――と思えばその姿は霞のように消えてしまい、次の瞬間ロックマンを囲むように、三人のシャドーマンが現れた。

 

『分身か!』

 

 三方向から迫る爆炎を、跳び上がることで回避したロックマン。

 そして、三人のうち一人を捕捉した『マークキャノン』が放たれるが、先と同じように手応えなくその一人は消えた。

 

 シャドーマンの代名詞の一つでもある、分身能力。

 一人でさえ細心の注意が必要な存在が頭数を増やすという、厄介極まりない力だ。

 付け入る隙がない訳ではない。先んじて本体を捕捉し解析しておけば、分身を無視して本体を狙うことが出来る。

 だが、それをシャドーマンの技量の前でしなければならないとなると、可能な者は極端に減ってしまう。

 ゆえに今のロックマンのように、分身を潰していき数の不利を解消するのが正攻法なのだ。

 ――ちなみにレヴィアは本体も分身も含めて全て一撃で吹き飛ばす手段を選んだ。それが誰でも出来るのであれば苦労はしない。

 

『――ッ!』

『今だ!』

 

 残る二人が跳躍し、ロックマンに迫ったタイミングで、光少年は次のチップを切った。

 ロックマンの手に現れた、小さな刃。それを持ってその場で回転し、周囲の敵を斬り付ける包囲を破るに適したチップ。

 『エンゲツクナイ』は分身を切り裂いたが、残る本体に届くよりも前に、シャドーマンが振るうカタナがその刃を弾き飛ばした。

 

『くっ……!』

『遅い!』

 

 追撃が来ると踏んだのだろう。

 『メットガード』で防御に出たロックマンだったが、その守りが本領を発揮するより前にカタナが叩き込まれる。

 チップの効果が成立する前にその盾は砕け、衝撃を飛ばすことなく消滅する。

 落下してきたロックマンの傍に、煽るようにシャドーマンは降り立った。

 

『対応力、技術力、防御力……それぞれに強みはあるが、お主らのチームには決定的に速度が足りん。及第点をやれるのは棟梁くらいか』

『トーリョー……? カーネルのところにも行ったのか……!?』

『クク、あれを狙うとならば拙者も骨が折れそうであった。だが棟梁一人が優秀でも、下の者が足並みを揃えられねばな』

 

 確かに、シャドーマンの速度は私の知るナビの中でも指折りだ。

 機動力においてウラの自由な電脳ツバメに並ぶ者などそうはいない。

 ビーストマンのヤツも、もう数年鍛え上げればそのくらいの速さになるだろうか。そこまで生き延びられればの話だが。

 

『――このぉ!』

 

 見下ろすシャドーマンに対しての、反撃の『ファイアパンチ』。

 だが、今の速度を嘲笑うかのように、彼は最低限の動きでそれを躱す。

 

『欠伸が出るほど単純な攻撃よ。愚直にバトルチップを使うだけがお主らの戦い方か? であればお主らの功業、拙者でもこなせるというもの』

『言わせておけば……! スピードが足りないってんなら見せてやる! 行くぜロックマン!』

『了解っ! やるよ、熱斗くん!』

 

 起き上がりながら、僅かに距離を置いたロックマン。

 だがその直後――姿を変えると同時にその距離を一気に詰める。

 

『ム……!』

 

 その踏み込みの速度は、ロックマンが通常引き出せるものではない。

 それを『エリアスチール』も使わず、彼が手に入れる手段が――たった一つだけある。

 

『ほう……ッ!』

 

 ロックマンの変じた赤い姿。その右腕のソードは、シャドーマンのカタナと鍔迫り合う。

 ソウルユニゾン――スタイルチェンジに代わってロックマンに発現した能力。ソウルの共鳴したナビの力を一時的にその身に宿し、戦略を大幅に広げる手段。

 光少年が選んだのはブルースソウル。

 正確無比なソード攻撃と、敵の懐に踏み込む俊敏性を持った、近接戦闘に特化したソウルだ。

 

『いっ――けえええええ!』

 

 そのソードに込められた力が一気に増幅する。

 一度のソウルユニゾン中に可能なチップ送信は三度まで。

 その中で、複数のチップを組み合わせるプログラムアドバンスを用いるのは中々にリスキーだ。

 だが、汎用的なソード系攻撃ならば、これこそが最も強力。

 『ドリームソード』――三枚のソードチップによる一撃は、シャドーマンのカタナを押し切って余りある威力を発揮した。

 

『――――』

 

 圧倒的なソードの輝きに、シャドーマンは呑み込まれる。

 では、それで決着かといえば、それもまた違う。

 

『右だ、ロックマン!』

『ッ!』

 

 あらぬ方向から飛んでくる十字の刃。

 それを躱しつつ跳躍し、振るったソードが空を裂き、素早く隠れたシャドーマンを見破った。

 

『フ、やりおるな……!』

『まだまだ――!』

 

 シャドーマンの幻惑を一通り破り、ようやくロックマンがその影の本体に辿り着く。

 そうなればロックマンはシャドーマンを逃がすことはない。

 継続的な速度であれば敵わないだろうが、短期的な瞬発力においてはブルースソウルによってシャドーマンに並ぶことが出来る。

 ようやく、彼らが攻勢に踏み切れる距離になった。

 

『……お屋形様』

『うむ――光熱斗』

『な、なんだよ!?』

 

 決して距離を開けさせず、ロックマンは攻め続ける。

 その最中、シャドーマンのオペレーター――ミヤビ氏が、光少年に言葉を投げた。

 

『戦いながら聞け。リーガルの目的だ』

「ッ……」

 

 それが、私にとっても聞き逃してはならない言葉だと悟る。

 リーガルの――つまり、ネビュラの目的だと?

 

『リーガルはお前の父親が持つ、あるものを探している。もしもリーガルの手に渡れば、この世の終わりと言っても良い、そんな代物だ』

『パパが持ってる……? 一体それって――』

『さてな……実在の確証こそないが、リーガルの最終目的と成り得る代物なのは間違いない。ただインターネットを解放していくだけでは解決とはならんぞ』

 

 あるもの――光氏ならば世界に影響を与えるようなものの一つや二つ、鍵を握っているだろう。

 その中で、リーガルの目的に繋がるもの……駄目だ、リーガルの目的そのものが不明な以上、思い当たるものはない。

 

『なんでそんなこと……なんて、言っても話さないんだろ。勝って聞き出させてもらうぜ!』

 

 この先のエリアのことならば、先立って偵察していた成果として納得できる。

 だが、彼らは既にそこまで把握していたのか。

 もしかして、彼らも独自にネビュラについて調査していたのだろうか。

 仕事の邪魔になっているというようなことも言っていた。効率的にネビュラと戦えるという環境は、彼らにとっても都合の良いことなのかもしれない。




ようやくブルースソウルお披露目。
今まで、次のシリーズに以降する際に熱斗くんとロックマンには何かしらの弱体・リセットが発生していましたが、5編は正真正銘の強くてニューシリーズ状態です。
とはいえ、あくまでメインとして扱うのは5で入手するソウルとなります。
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