バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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群雲を超えて-4 【本】

 

 

 ロックマンの使えるソウルユニゾンには、時間制限がある。

 チップ送信を行わなければ、その制限を迎えず戦い続けることも出来るが、ソウルの力だけで押し切れるほど、シャドーマンが弱い訳でもない。

 ブルースソウルは元になったオフィシャルのエースの得意分野が示す通り、ソードのスペシャリスト。

 ソード系チップの使用時、瞬時に相手に接近し、威力の引き上がった一撃を叩き込む性質こそ本領といえる。

 さらに左腕には敵の攻撃を反射するリフレクトも備えた、非常にバランスの取れた形態だ。

 勿論、ソードだけではなく、他のチップの性質を理解して組み合わせれば、そのポテンシャルは何倍にも膨れ上がる。

 

『今だっ!』

『エレキリール――!』

『ぬぅ……っ!』

 

 シャドーマンが僅かに距離を取り、分身しようとしたタイミング。

 そこで光少年はそのチップを使用した。

 敵が密集していれば、隣の敵に、更に隣の敵にと伝っていき破壊力を増す『エレキリール』を、分身が発生した瞬間に命中させたのだ。

 さしものシャドーマンもこれは想定外だったか。

 電撃を受け、直後に消えた分身。残った本体へと迅速な『ワイドソード』が直撃する。

 

『どうだ! 分身だって出てきてすぐに倒せば怖くないぜ!』

『――今のは認めねばなるまい。少々驚いた。拙者の分身を完全に制圧できる者がオモテにいるとは』

 

 まだシャドーマンには戦闘を行えるほどの余力が残っている。

 しかし、自身の隙を的確に突き、痛烈な一撃を浴びせてきたロックマンたちの技量を、彼は素直に称賛する。

 本心ではあろうが、果たしてそれだけか。

 

『一気に攻めるぞ、ロックマン!』

『了解!』

 

 何を隠していようとも、このまま攻め切ればいいだけのこと。

 そう言わんばかりにロックマンはシャドーマンに猛攻を仕掛けた。

 当然ながら、ダメージを受ければ受けるほどに、ナビのパフォーマンスは落ちる。

 まだ戦えるとはいえ、今の攻撃は効いたのだろう。シャドーマンは目に見えて、速度が落ちた。

 

『クッ……!』

『逃がさないっ!』

 

 シャドーマンは相手を幻惑し、翻弄するシノビの術を武器とするナビだ。

 彼の象徴である分身も、変わり身の術(カワリミマジック)も、それを仕込む隙さえ与えない猛攻を仕掛ければ、こちらのペースに持ち込むことが出来る。

 手練手管がなくても強力ではあるが、本領から叩き落とせば決して勝てないナビではない。

 

 ――では、その弱点をシャドーマンが理解していないか。

 その状態まで追い込まれたシャドーマンが、目立った抵抗をせずにいるだろうか。

 ……ウラの住民であれば、この状況で勝ちを確信して油断するなど、決してない。

 シャドーマンにとって、傷を負うというのは作戦の一つであり。

 手負いのシノビほど恐ろしいものは、ウラでもそうそう存在しない。

 

『もらった……!』

 

 術を破られ、追い込まれたシャドーマンの、最後にして最大の手札。

 勝利を確信した相手を襲い、無情に形勢を引っ繰り返す、背水の一刃。

 シャドーマンを追い込める手練れは、ウラの世界にも多少なりいる。その中で、彼と戦った者はいずれもその一振りの前に倒れてきた。

 それでもなお、追撃を許さず引き分けに叩き込んだ規格外もいるにはいるが、今のシャドーマンはそこまで死力を尽くしている訳ではない。

 引っ繰り返すに十分な、調整された追い込まれ方。彼にとってはさほど珍しくもない勝ちのパターンに立っている。

 

『――窮鼠噛猫……』

『ッ!?』

 

 勝ち筋と定めた攻撃を躱されたロックマンの驚愕。

 その直後、静かに呟かれた一言に、紅く染まる刃が応える。

 上段からの大振りな一撃を受け止めるために、ロックマンが咄嗟に『メットガード』を構え、それと同時に、ブルースソウルが制限を迎えて解れていく。

 『メットガード』は汎用的な防御チップだ。確かな防御力を持ち、さらに受け止め方によっては反射の衝撃が発生し、攻撃に転じることも出来る。

 だが、所詮はありふれたウイルスたる、メットールのチップ。

 受け止められる攻撃力にも、限界がある。

 

『――――』

 

 己の傷から血を啜り、切れ味に還元するシャドーマンの刃。

 その名はムラマサ。それを元にしたチップをブラックアースの封印に奉ずるほどに、彼らが絶対の自信を有する一振り。

 十分に仕上がった刃は『メットガード』をまるで無いものかのように真っ二つにしていき――

 

『――――そうは、いかないっ!』

 

 盾を通り抜けた先――巌の如く堅牢となった自身の体でもって、ロックマンはそれを受け止めた。

 

『何……ッ!?』

 

 全身に無骨な鎧を纏ったその姿が有するのは、如何なる攻撃をも受け止める鉄壁の力。

 先のミッションで共鳴した、ナイトマンのソウルを宿した新たなる形態――ナイトソウルである。

 その防御力が最大限に高まるのは、接近戦におけるチップ使用時。僅かな時間ではあるものの、そのタイミングならばプログラムアドバンスさえ容易には通さない。

 『メットガード』こそ破られたが、それを超える無敵の防御力はムラマサの刃さえ通さない。

 

『くらえ――ロイヤルレッキングボール!』

 

 必勝の一撃を受け止められたことで生まれた隙は、それまでで最大のものだった。

 ロックマンはその隙を逃さない。ナイトマンから受け継いだ鉄球による反撃は、完璧な形でシャドーマンに突き刺さった。

 

『ガ、ふっ……!』

 

 広場の端にあった雲まで吹き飛ばされ、堪らず崩れ落ちるシャドーマン。

 デリートまでは至っていないが、これ以上の戦闘は厳しいと一目で分かる。

 その状態で再度ムラマサでも振るえれば、さぞ恐ろしい威力を発揮するだろうが――今の彼の余力では、ロックマンには届くまい。

 文句の言いようのない決着だ。まだ続けられても困ると、私も前に出る。

 

『そこまでだ。よくやった、二人とも』

『エールさん……?』

『ここまで痛めつければ、流石のシャドーマンと言えども戦闘続行は出来ない。そうだろう?』

『フ……確かに。ムラマサまで防がれてはな』

 

 雲に背を預けつつ、立ち上がるシャドーマン。痺れたりしないか、それ。

 彼の目的はあくまでロックマンたちを試すことであり、デリート依頼が来ている訳でもない。

 これほどの結果を示されれば、彼らにもう戦う理由はないだろう。

 

『……如何でしょう、お屋形様』

『うむ――こやつらなら良いだろう。お前も、光熱斗に命を預ける用意は出来たな?』

『主命とあらば。……合格だ、ロックマン。そして、光熱斗』

『ど、どういうことだよ……!?』

『お主らに力を貸してやる。ネビュラを討つべく、チームの一員としてな』

『……え?』

 

 光少年にとっては、予想外にも程がある事態の筈。

 なんなら、ネビュラの一員という疑惑さえ出ていた彼らが、チームの新しいメンバーだとは。

 

『ど、どういうこと? エールさん?』

『騙すつもりはなかったんだが……ウラの住民から協力者をと、バレル氏が前々から考えていたようでね。白羽の矢が立ったのが、彼らだった訳だ』

 

 ここまで付いてきたのだ。私に答え合わせの義務があるだろう。

 目を丸くしているロックマンに教えれば、シャドーマンが喉を鳴らすように笑った。

 

『クク……ただの依頼として、ネビュラを相手に刃を振るえというならばともかく、オモテの者どもと……それも、お主たちと手を組み、作戦を共にせよというのでな。お主たちがそれに足る実力を有しているか、試させてもらったまでよ』

『お眼鏡にかなったかい?』

『まだ未熟な部分は多々あるが、それもこれからの戦いを経て磨かれるだろう。ひとまず見られるものは見た。十分だ』

 

 彼らの気持ちも、分からないではない。

 ただ協力するだけではない。ミッションの際は、シャドーマンのオペレートを光少年に委ねる必要があるのだ。

 それは、たとえ実力を知っている相手だろうと、容易に任せられることではない。

 だが、今の戦いを通して、ソウルユニゾンによるまったく違う戦い方への切り替えを即座に行う、光少年の適応力は把握できた。

 その上で自分たちを追い込んだとあらば、合格も止む無しということか。

 

『……じゃあ、この先のエリアのこととか、パパのこととかも……』

『手土産というヤツだ。後者については、我らもそう深く調査は進んでおらんよ』

『な、なんか狐につままれたような気分だぜ……エールさんも、言ってくれればいいのに』

『すまない。というか、私も試されていたようだからね。私の方も戦うことに……なんてならなくて良かった』

『拙者はそれでも構わぬぞ』

『遠慮しておく』

 

 流石に今の用意では、シャドーマン相手に立ち回るのは難しい。

 返答次第では本当に戦うことになりそうだったので、断固として拒否する。

 

『まあ……そういう訳だよ。彼にはチームの偵察役として動いてもらう。解放エリアの状況把握は、ミッションを効率的に進めるのに重要だ。勿論、ミッション自体にも参加してもらう』

『それって……シャドーマンをオレがオペレートするってことだよね?』

『なに、なんの根拠もなくお主の采配に従うのではない。とはいえ、拙者が契約金相当の働きを出来るかはお主次第。クク、期待しておるぞ』

『け、契約……?』

 

 おっと、その話はそこまでだ。

 光少年のオペレート能力ならば問題はないし、何より子供に聞かせるような話でもない。

 詳しくは私も聞いていないが、ウラにおいてシャドーマンが受けた、危険極まりない依頼の数々と比べても、中々に目立った金額で今回の契約は結ばれたらしい。

 果たしてバレル氏の懐が痛むだけで済んだのか、ほんの僅かに気になるところだ。

 

 ……そういえば、光少年には個別に報酬など出ているのだろうか。

 ミッションの際、オフィシャルからの特別報酬こそあったが、あれ自体はチーム全員に共通したものだった筈。

 戦う理由を与えたというだけで、彼を無給で働かせるようなこと、無いといいのだが。

 

『科学省エリア3の解放だが、また後日バレル氏から通達が行くと思う。最短でも、シャドーマンの専用ツールが完成してからだ』

『あの闇の雲もその際に晴らせば良かろう。その程度ならば作戦に差し支える消耗ともならん』

 

 想定している通りのツールが出来れば、シャドーマンという特殊な立ち回りを求められるナビのオペレートの負担も幾分減る。

 それが完成したら、ようやく次のミッション開始だ。

 先立ってプラグアウトするシャドーマンを見送り、私もパルスアウトの支度を整える。

 

『さて――私ももう戻る。ロックマンも、今日はもうプラグアウトしたまえ。今更だが、占領されたエリアに長々と居座るのも危険だからね』

『うん――今日はありがとう、エールさん』

『このくらいなら、お安い御用だよ』

 

 その言葉を最後に、私の切り分けた精神は体に戻ってくる。

 PETに戻したゴスペルを停止させ、回収したバグを集計……うん、少なくとも次のミッションに運用するリソースは十分賄えそうだ。

 それから――第三の外装について。

 完成は近い。用意した材料は組み込み終え、それらが反発し合うこともなく、安定した挙動を示している。

 後は、性能の底上げや、負荷の低減のため、ブースターシステムが手に入るかどうかという問題。

 

 パーティはまだ先だ。恐らく、ミッションの方が先になるだろう。

 ゆえに、コレは次のミッションには間に合わないから、目標はさらにその次――。

 どうなるかは不明だが、プライド様からの用事のない午後はこれらの開発や調整に使うとしよう。

 そう、本日の方針を定め、ひとまず体を伸ばしてから、コーヒーでも買いに行こうと部屋を出る支度をするのだった。




シャドーマン戦終了。
わざと追い込まれてからのムラマサ逆転は恐らく彼らの黄金パターンの一つ。
肉を切らせて骨を断つという奴です。
肉どころか骨も忍術も全部力でぶっ飛ばして完勝しかけたところを引っ繰り返された歌姫もいるそうです。

次回はようやく次のリベレートミッションです。長かったですね。
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