バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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3rd Mission/Depth-1 【本】

 

 

 それから暫く。

 シャドーマンの専用ツールが完成し、プライド様の公務のない日の午後、ミッションが行われるということで私たちは科学省に集まっていた。

 バレル氏がミヤビ氏を紹介することはない。

 というのも、既にこの場の全員と顔合わせ済みであるからだ。

 プライド様と光少年に関しては、試すための襲撃で、という形であるが。

 それゆえに、プライド様のミヤビ氏に対する視線は厳しかった。よくもまあ、ミヤビ氏も平然としていられるなというほどである。私であればあんな風に睨まれれば逆らえる気がしない。

 ……彼、やっぱりライセンス使って入ってきたのだろうか。今回、部屋には普通に入ってきたが。

 

「――プライド様」

「……ええ、分かっています。これより先に私情は挟みませんわ。ただ、今後一層、クリームランドのセキュリティは高める必要があるなと」

 

 うん、完全に根に持っているな。

 もしかすると、彼らの手腕であればクリームランドの守りは突破可能であると、自分の中でシミュレートが完了しているのかもしれない。

 いつぞや、私がプロトから戻ってきた時。取引を守ったフォルテのヤツに突破されて以来、よりセキュリティの展開速度を高めたと聞いているが、今後防衛部隊の訓練がより苛烈になることが確定付けられたようだ。

 

「無駄話はそこまでだ。ミヤビ、シャドーマン、始められるな?」

 

 国の防衛の話だし、ある意味無駄話でもなんでもないのだが、それを指摘していては作戦が始められない。

 既にメンバーのナビたちは科学省エリア3に向けたリンクの前に集合している。

 行く先を塞いでいるのは、積乱雲の如き闇の雲。

 ゴスペルを用いても、これを吸い込むのは難しいだろう。それほどまでに圧倒的な容量と、膨大な闇を、この雲は持っている。

 

「無論だ。迅速に片付けろ、シャドーマン」

『御意。それでは諸君、暫し待たれよ』

 

 シャドーマンは高く跳躍し、積み上がった雲に乗ると、素早く駆けあがっていく。

 足場の影響を受けなくなるフロートシューズの作用もあるだろうが、それだけならば不可解なほどの速度。

 そんな、状況を選ばない俊敏性が彼に求められたものだ。この分ならば、この後の役割も十全にこなしてくれるだろう。

 

『ダークチップか――これの持つ闇の力を増幅させ、雲の性質と融合させていたのだろう』

 

 ……やはり。この雲の持つ闇の力は、そういう仕組みだと思っていた。

 だが、それもここまで。この科学省エリアに、闇の力など到底似合わない。

 この雲そのものが防備として機能していれど、ダークチップのチップデータそのものに大した耐久性はない。

 それこそ、バルカン系の弾丸一発で粉々に砕け散るほどに。

 

『ッ……! フン、他愛もない。これで雲も晴れよう』

 

 恐らく、あのカタナで切り捨てたのだろう。

 鋭い音が聞こえてきた後、少しずつ雲は統制を失い消えていく。

 まだエリア全体から雲の群れが消えた訳ではないが、これで科学省エリア3に通じる道は拓けた。

 あとはこの奥にいるだろう、ダークロイドを倒せば残った雲も消滅し、科学省エリアは奪還できる。

 

「準備はいいな? 光熱斗、エール・ヴァグリース」

「ああ! 大丈夫だぜ!」

「こちらも、いつでも」

 

 カーネルの、ナイトマンの、シャドーマンの管理が光少年のPETに移る。

 私もPETを光少年のPETに繋ぎ、システムを実行。同時に部屋の大型モニターに映像を映す。

 

「よし――カーネル」

『了解。では行くぞ、皆。これより第三次リベレートミッションを開始する!』

 

 カーネルの宣言で、科学省エリア3へと踏み込む。

 作戦の目標は前回と同じ。エリアを守るダークロイドのデリートないし撃退を果たし、エリアを奪還すること。

 相変わらず――エリアに満ちた闇の力は膨大だ。なんの策もなく攻略していこうと考えれば、一体何時間掛かるか分からない。

 

 このエリアは他のエリアと比較すればシンプルな、広場が十字状に広がるエリアだ。

 中央の広場に向かうための一本道とは別に、数倍の距離を持つ回り道があるのが特徴。

 ナビの往来とは別に、継続的にやり取りをする必要のあるデータを運ぶためのルートの筈だが、そこも含めて全域が闇で覆われている。

 

『このエリアは非常に守りが堅い。リサーチ通り、防壁が張られているようだ。作戦中、これをバリアパネルと呼称する』

『バリア……通れないってことだよね?』

『その通り。パネルリベレートシステムを用いてリベレートすることも不可能だろう。当然、これを避けて通ることは出来ない。よって、これを解除し、先に進むための鍵――バリアキーを手に入れなければならない訳だが……』

 

 バリアパネル――そう呼称されることになった、このエリアのセキュリティは非常に強固だ。

 闇の力を特に濃縮させた防壁はエリアを真っ直ぐ侵攻することを防ぎ、私たちの作戦時間やリソースを浪費させる。

 解析して解除しようにも、一からやるとなるとどれだけ掛かるか分からない。

 そのため、手っ取り早いのは鍵を探すこと。

 どうやら鍵そのものは、このエリアから切り離すことが出来ない。この防壁がある以上、鍵もどこかにあるということだ。

 

『エリアの奥にあると見るのが妥当でござろう。たとえば、一見侵攻に無関係と思える路地の突き当たりなどは……些か正直が過ぎるか?』

「エリアの奥ったって……この回り道の闇を少しずつリベレートしていくってことか……? それだけで日が暮れちゃうぜ?」

 

 鍵がそこら辺に転がっている訳もなし。

 侵攻不能に至らしめるためのセキュリティではない以上、エリアの奥を怪しむのが道理だ。

 とはいえ、光少年の言う通り、馬鹿正直にリベレートを繰り返していくのは得策ではない。先にリソースが枯渇するだろうし、光少年のスタミナももたないだろう。

 

「なるほど……そこでシャドーマンの出番、ということですね?」

「左様……いけるな? シャドーマン」

『御意。光熱斗、お主はひとまず、これまでと同じように正面に侵攻していればよい。バリアキーについては拙者に任せよ』

 

 この状況を打開するのが、彼の仕事。

 彼に与えたツールで、負荷そのものは軽減されている。だが、手段そのものは、彼が元来持つ手練手管に委ねなければならない。

 当然、その程度可能であるという確信があった。

 戦うための状況、戦うための地形を考えていては、請負人など務まらない。

 

「な、何か策があるのか?」

『伊達に修羅場は潜っておらぬ。我が秘術、忍び足であればこの程度の闇、造作もない』

 

 そう言って、シャドーマンはそれまでと変わらない調子で、私たちでは踏み入れない闇の瘴気の向こうへと歩んでいく。

 単にフロートシューズの援け、というだけではないだろう。それだけであれば、私だって苦労しない。

 影響の低い遥か上方を飛行するのでもなく、自らの足で闇を踏みしめるその術策は、是非ともカラクリを教えてほしい。

 ……まあ、それは叶わないだろうが。

 大抵こういうものは門外不出。ミヤビ氏にしか出来ないカスタマイズの賜物だろうから。

 

『す、すごい……けど、それって危険なんじゃ……』

『危険に怯えておればいつまで経っても進めぬ、のだろう?』

 

 各メンバーが有する役割の中で、最も危険にさらされる、闇の向こうへの偵察。

 その危険性は言うまでもない。中からウイルスが飛び出してくれば、闇のど真ん中で四方八方を囲まれることになるし、何が待ち構えていようと真正面から飛び込むことになる。

 しかし、ロックマンの心配に光少年の言葉で返したシャドーマンは、こちらに振り返ることなく歩みを進めて闇の奥へ消えていった。

 

『フム、通信は繋がるな。視界も不都合こそあるが、一寸先も見えぬというほどでもなし。であれば、ある程度のウイルス共は薬師の術策で対応出来よう。消費を惜しむなよ、薬師』

「……キミの役割からして多少の無駄遣いは仕方ないが……くれぐれも見る敵全部叩き切る、なんてことは避けてくれ」

『シノビに対する忠告ではないな、それは。――光熱斗、お主の助力が必要になればその旨を伝える。その時は頼んだぞ』

 

 シャドーマンに与えたツールは、偵察の中で発見した敵に対し、バトルオペレーションシステムを起動することなく痛打を与えることを可能とするもの。

 有利な態勢に持ち込むための牽制ではない。彼の技量であればデリートにさえ追い込むことも出来る闇討ちの手管。

 正面から攻める面々から離れ、単独で行動するシャドーマンが動きやすくするためのツールのため、遠慮なく使ってほしい……そう言いたいところだが、言えば本当に遠慮なく使うのがウラの住民というものである。

 あまり浪費できない共通リソースだ。シノビらしく、余計な戦闘は隠れ潜むことで避け、やむを得ない状況で最低限の障害を始末するために使ってほしいものである。

 シャドーマンが申告すれば、光少年が彼をオペレートすることで支援することも出来る。

 彼の単独行動における自己判断は、作戦の成否に大きく関わるのだ。

 

「了解! ――始めていいんだよね、バレルさん?」

「ああ。調べによれば、このエリアを守るのはクラウドマンという名のダークロイド――目指すはこれの打倒だ。お前に懸かっているぞ」

「よっし……それじゃあ早速いくぜ、ロックマン!」

『うん! いくよ、パネルリベレート!』

 

 作戦開始――闇の前まで駆け込んでいったロックマンと、周囲の闇を囲むようにシステムが起動する。

 さあ、ここからは光少年のオペレート能力に頼るところが大きくなる。

 制限の強い戦闘の、限られた時間でウイルスたちを打倒する戦術。

 その場に応じて適したナビを選択して侵攻させる判断力。

 机上論ではない、実績に裏打ちされた直感と勝負勘――それに最も長けたのが、この場の最年少である光少年なのは複雑だが。

 

『よし――リベレート成功!』

 

 敵を捕捉するまで弱点となる砲身を隠すキャノガードの上位種。

 ゆっくりと敵に接近し、強力な砲撃をぶちかましてくるキャタック。

 闇から飛び出してくるウイルスたちには、そうした特殊な立ち回りを必要とする油断ならない種が多い。

 しかし、世界を幾度も救った最強コンビは伊達ではない。言葉は不要とばかりに選ばれたチップを的確に使い、瞬く間にロックマンはリベレートを成功させた。

 

「やはり、熱斗とロックマンの爆発力は凄まじいですわね」

「このチームの要です。彼らがいれば、不測の事態でも問題ないでしょう」

 

 ゴスペルだの、プロトだの……そうした怪物との戦いを見届けてきた以上、最早彼らの実力、そして絆にはなんの疑いもない。

 デューオの試練においても、二人が中心となることで、あの日を地球最後の日とすることが防がれたのだ。

 信頼はあれど……相も変わらず、小学生には重すぎる責任。

 それに頼らなければならないからこそ、私たちがその他をサポートする。

 

 ――皆さんにやってもらわないといけないこと以外は全て僕たちが補います。

 

 あの時の、グレース嬢の言葉の通りである。

 光少年が十全なオペレート能力を発揮できるように。ロックマンがパフォーマンスを落とさずそれに応えられるように。

 世界さえ救うこの二人に、余計な負担を掛けないように。

 このリベレートミッション以外に必要なネビュラへの対応を、私たち大人が受け持つのである。




科学省エリア3・リベレートミッション

■ロックマン
HP500
装備:オーダーコマンド・遊撃
利用可能コマンド:
・ロングソード
横二マス分のダークパネルを解放する。
・■■■■■■■■
現在使用不可能。

■カーネル
HP550
装備:オーダーコマンド・リーダー
利用可能コマンド:
・スクリーンディバイド
縦三マス分のダークパネルを解放する。
・記録管理
ミッション中に発生した出来事を記録する。

■ナイトマン
HP700
装備:オーダーコマンド・防御
利用可能コマンド:
・ナイトディフェンス
ダークロイドフェイズにおける自身のダメージを0にする。
自身の周囲一マスへの攻撃から味方を庇う。

■エールハーフ
HP50
装備:オーダーコマンド・支援
利用可能コマンド:
・ソウルコンバート
プレイヤーフェイズ開始時、オーダーポイントを1回復。
コマンド使用時、選択した周囲の味方一人に、『ヘビーゲージ』、『カスタム+1』を付与。
・アンダーシャツ
HPが2以上の時、ダークロイドフェイズに攻撃を受けた際HP1で耐える。
・記録管理
ミッション中に発生した出来事を記録する。

■シャドーマン
HP500
装備:オーダーコマンド・偵察
利用可能コマンド:
・忍び足の術
ダークパネルの上を移動できる。
・闇討ち
前方2マス以内のガーディアン、または敵ナビに対し、戦闘を行わずにダメージを与える。
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