バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー 作:けっぺん
光少年にとって、この形式でのリベレートミッションは二度目となる。
最初の秋原エリアでの執念深い攻略はまあ、置いておくとして、二度目ともなればある程度侵攻の仕方にも慣れてくるというもの。
その闇の向こうに何が待っているかは分からない。
エリアの全容を確認するのが難しい以上、元のエリアのマップ情報から現在地を確認し、進め方を考えるのが必須だ。
出来る限り戦力を温存した状態でダークロイドのもとまで辿り着くために、侵攻の中心となるのはナイトマン。
『ッ、頼む、ナイトマン』
『お任せあれ。ヌン……!』
時折、闇から飛び出して不意打ちを仕掛けてくるウイルスがいる。
それらに対して有効なのが、ナイトマンの防御力だ。
非戦闘時に作用するナイトマン用のツールは、防御態勢のナイトマンをより堅牢にする力を持っている。
これを用いて周囲の味方を庇うことで、ロックマンやカーネルのダメージを可能な限り抑えられる。
ナビを回復するためのリカバリーチップも、限られた時間の中で使用するとなると、攻め手に欠ける本末転倒なことになりかねない――ナイトマンの防御性能は、攻撃にも繋がるのだ。
そして、ごく近距離にまで飛び出してきたウイルスであれば、ナイトマンが恐れる相手ではない。
「よし、そのままリベレート行くぜ、ナイトマン!」
『承知! オペレートを頼みますぞ!』
ただし、シャドーマンを付け入らせるに至った弱点でもある、ナイトマンの重さは注意すべきところだ。
身軽さを武器の一つとするロックマンや、全体的に非常に高水準なカスタマイズが施されているカーネルと異なり、速度を重視した戦い方は不可能。
まったく違う戦い方を要求されるのだが、それも及第点まで成し遂げられるのが、光少年の適応力。
『ムン――!』
『センシャホウ』の無視できない衝撃も、ナイトマンの重量ならばなんてこともない。
反動から立ち直るまでの隙はロックマンたちに勝る。素早く『エリアスチール』で接近戦に移り、敵の中心にまで踏み込むと、鉄球を振り回すことで一網打尽にする。
「――お見事」
実のところ、このように『エリアスチール』などを用いて積極的に相手に攻め込む戦い方は、プライド様のオペレートスタイルとは異なる。
専守の構え――陣地を構築し、相手の攻め手を崩して反撃に移る。
こうして自ら踏み込んで立ち回るナイトマンを見るのは新鮮だった。
プライド様が思わずといった様子で称賛を零すのも当然のこと。或いは、そのような戦法を組み込めるか、頭の中で思い浮かべているのかもしれない。
今のプライド様の安定した戦法は好ましいところ。あまり過激な攻め方になるというのはらしくないというか……あまり見たくないのだが。
そんなことを考えていたらプライド様から意味ありげな笑みを向けられた。何故。
「闇の穴か……! カーネル!」
『了解した。パネルリベレート――!』
ナイトマンが切り開いた道のその先で、占領エリアの闇を制御する核を発見する。
これをリベレートすることで、エリア内の闇のバランスが崩れ、より確実にダークロイドのもとに攻め込むことが出来るようになる。
奥に行くにつれ、深く濃くなっていく闇を進むためにも、これの積極的なリベレートは必須だ。
ダークロイドまで辿り着いて、闇が深すぎて侵攻不能なんてことになっては話にならない。
飛び出してきた闇の獣。
オフィシャルの抵抗によって奪還された幾つかのエリアでも確認できたことで、ガルビーストと命名されたそれは、ダークロイドと共にこのエリアの闇を制御している特殊なウイルスだ。
通常のウイルスよりも大型で、下手なインターネットエリアであれば単騎で制圧してしまえるほどの強敵。
素早く駆けまわり、その爪牙や吐き出す炎で攻撃してくるコイツは、本体が属性を持たないこともまた厄介さに拍車をかける。
とはいえ、光少年もコレを対処するのは初めてではない。
その独特な火炎の範囲は、回避しにくいと同時に付け入る隙にもなり得る。
『フッ……闇の穴のリベレートにも慣れてきたな、光熱斗』
「出てくるウイルスが強いだけで、勝手は変わんないもんな。どんどん行くぜ――っと」
吐かれた炎の隙間に踏み込み、離れた空間を切りつける特有のソードでガルビーストを倒したカーネル。
リベレートが完了したことでエリアの闇が全体的に薄くなる。
これだけで全容を把握できるほどにはならないが、前回のデータと照らし合わせれば、残る闇の穴の数もおおむね逆算可能だ。
恐らくは、あと三つ。障害はそれと、そして――目の前に現れた、侵攻不能のバリア。
『ここから先はバリアキーを手に入れないと進めないな』
「みたいだけど……どうだ? シャドーマン」
今の私たちでは、これ以上先に進めない。
シャドーマンが鍵を見つけるのを待つしかない訳だが、ここまで彼からの連絡はゼロだ。
このエリアにいるナビの人数は幸い把握できている。デリートされた、などということはない筈だが……。
『――ふむ、良い頃合いだ、光熱斗。こちらの状況、見えているな?』
光少年がオペレートの対象をシャドーマンに切り替えれば、見えてきたのは一面の闇。
まったく視認できないというほどではないが、PETが映像を補正してなお、目を凝らさなければその向こうは把握し切れない。
そんな闇の中に立つシャドーマンの視線の先には、湧き出たウイルスたちに囲まれたデータがあった。
データそのものが強固に保護されており、周囲のウイルスたちの影響で壊されないようになっている。
なるほど……あれがバリアキー、このエリアの防衛の核か。
『あの群れの中を押し通り、バリアキーを奪取する。指示の用意はいいな?』
「わ、分かった! いつでもいいぜ、シャドーマン!」
『承知……!』
死角から飛び出し、ウイルスたちの群れの中心に着地したシャドーマン。
着地と同時にバトルオペレーションシステムが起動し、送信された『エンゲツクナイ』が周囲を切り払う。
あのように、ウイルスに囲まれた状況は、普通であればかなり危機的状況だと言って良い。
よほど逃げるのに失敗するか、ウイルスの膨大な場所に踏み込むか。そんな失策の末路でさえ、この闇に覆われたエリアでは往々にして発生し得る。
そんな中で、まだオペレートになれていないであろうシャドーマンを操ることは当然至難の業だろう。
だが、光少年は恐れない。
ウイルスの攻撃を待ち構え、ピタリと合わせたタイミングでシャドーマンに指示を出す。
『なるほど、通じぬ訳だ』
納得のいったような、シャドーマンの呟き。
光少年は、彼の代表的な特技である
というのも、光少年がこれを使うのは初めてではない。
かつてロックマンが有していたスタイルチェンジの能力には、こうした高等技術を武器とするものもあったのだから。
あのスタイルの使用で培ったトリッキーなナビの戦い方。それはそのままシャドーマンのオペレートにも応用できるものだ。
危なげなくウイルスの群れをデリートし切り、周囲の闇を晴らして安全を確保した後、シャドーマンは配置された鍵を手に取った。
『これがバリアキーか。薬師、そちらに転送する』
『了解だよ』
転送されてきたバリアキーのコピーを取り、PETに送りつつ、バリアパネルへの適用を行う。
……軽く見た限りだが、複製することによって別のバリアパネルに適用させる鍵をこちらで作るのは無理そうだな。
それを可能にするほどの技術を確立させている暇があったら、その時間で次のエリアに乗り込んでバリアキーを探した方が建設的だ。
一応、戦闘に巻き込んでも構わないほどの頑丈さがありそうだと確認できただけ良しとしよう。
『開いたな。この先にも、あと一つバリアがあるんだろう?』
『然り……そちらも拙者が奪りに行くか? 概ね場所の予想はつく』
『いや、この先の闇の穴をリベレートすることを優先するぞ。闇の濃度が下がれば、バリアキーを探しやすくなる』
あと一つ、二つも闇の穴を消せば、十分な視界を確保できるように――エリア中に解析の手を伸ばせるようになるだろう。
であれば、シャドーマンにリスクを負わせるよりは、より戦力を集中させた上で闇の穴に取り掛かった方が良い。
カーネルはそう判断したのだろう。
実際のところシャドーマンの言う通り、このエリアの形状であれば、残るバリアキーの場所は幾らか当たりを付けられる。
今回は、今後のミッションのための立ち回りの確立といったところか。
「……ふむ」
奥へと侵攻するロックマンたちに続きつつ、リソースの状況を確認。
前回の結果をもとに、ある程度余裕をもって用意していたが、この調子でいけば半分使うかどうかというところでミッションを完了できそうだ。
やはり、シャドーマンが加入したのは大きい。
作戦の効率が段違いだ。先のミッションの時にいなかったのが悔やまれるな。
彼がいれば、シェードマンの闇の向こうからの猛攻にも、もっと危なげなく対応出来ていただろうし。
このチームのバランスは、中々に取れているといえる。
冷静な状況把握でチームを纏められるリーダー、如何なる状況にも対応できる遊撃役。
強力な敵の攻撃からチームを守る防御役に、危機を未然に防ぎ作戦を成功に導くための偵察役。
私もまあ、チームの支援役という枠組みに当てはめて良いならば――そんなバランスよく纏まったチームに、更に加わるメンバーはどんな人材が良いか。
私がそうしたメンバーの決定を担っている訳ではないが、少なくとも一人欲しいのは切り込み役。
圧倒的な攻撃力で前方を切り拓く攻撃隊長のような……そんなメンバーがいれば、より高いレベルに纏まるだろうと――
『エールさん!?』
『む……?』
マップ全域の解析、バリアキーの解析、リソースの運用。
それから、そんな“これから”の構想。
そこまで得意ではない分割思考は、思いのほか油断を招いていたらしい。
気付けば、目の前にまで迫っていた、巨大な鳥型ウイルス――
『ピ、ギィ……!?』
その爪が喉元に掠るか否かというところで、勢いは急速に失われ、ウイルスは体を真っ二つにしながら地に落ちる。
まあ……確かに油断していたが。それはこのように、ある程度の信頼があったからである。そういうことにしてほしい。
『随分と上の空な様子だったな、薬師』
『いやなに、少し考え事をね。助かったよ、シャドーマン』
疾風の如き一太刀。
たとえナイトマンの防御が間に合わなくとも、彼の速度から振るわれる正確無比な刃であれば、不意打ちには十分対応できる。
『話を聞くに、お主に大事があればこの形式での侵攻自体出来なくなるのであろう。他責で成果を引っ繰り返されては堪らん。集中してもらいたいものだがな』
『確かに……それは私も避けたいところだ。普段の仕事の要領でやっていてはいけないな、どうも』
ウラ流の軽口に軽口を返しつつ、先行していた面々に追いつく。
普段の仕事で、こういう隙を突かれないためにも、護衛の質には気を付けるようにしているのだ。
しかし、ここはウラとも勝手の違うネビュラの庭。
流石にこのような場所で、作業を並行させ過ぎるのはやめた方が良いだろう。
明らかに厳しくなった視線を向けてきている、“隣”を全力で見ないようにしつつ、私はひとまず目の前に集中するのだった。
ウラ流を下手に出すと怒る姫様がいる環境。