バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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3rd Mission/Depth-3 【本】

 

 

 作戦を開始してから、一時間と少しが経過する。

 シェードマンと対峙したオラン島エリア3よりも広いエリアながら、より迅速な侵攻が出来ているのは、シャドーマンの活躍が大きい。

 エリアを駆け巡り、私たちにとって有利な状況を維持できるように立ち回る。

 意識外からやってくるウイルスたちを、光少年のオペレートを介さず可能な限りデリートする。

 そして、エリア防衛の核であるバリアキーを先行して奪取する。

 ウラに名高い暗殺者としての矜持。それからチームに仕事を見せる機会ということで、売り込みの意味もあるのだろうが、怒涛の仕事量である。

 ウラ掲示板で頻繁に語られる、敵に回したくない者上位に常にいる請負人は今日も絶好調だった。ちなみに私も度々名前が出ていたりする。

 

「よし! 最後の闇の穴、リベレート完了だ!」

 

 四つ目の闇の穴が消滅し、最早エリアは軽く黒い霧が掛かっている程度で、殆ど問題なく周囲が見渡せる状況になっている。

 残るはダークロイドただ一人。

 最奥部に築かれた砦に赴けば、そこには一際目立った闇に満ちるナビが鎮座していた。

 

『モックモクモク……来たか、正義のナビ共』

『お前がクラウドマンか!』

『ほう、オレの名を知るか。中々の偵察能力を持っている……』

 

 黒い雷雲から上半身の突き出た、一目で今の科学省エリアの主と分かる姿。

 彼がクラウドマン。なるほど、シャドーマンの齎した情報はここまで正しかったということか。

 

『ヤツを倒せば科学省エリアを奪還できる。油断するな、光熱斗』

「勿論、ここまで来たんだ。確実にアイツを追っ払うぞ!」

『そう上手くは行くかな。オレの雷は天罰の如く、お前たちを痺れさせる――喰らうがいい!』

 

 周囲に立ち上る雲が突如、私たちとクラウドマンを隔てるように集約する。

 そして、その内から放たれる雷は、まともに受ければひとたまりもない威力だった。

 だが、こちらには防御のスペシャリストがいる。

 

『ぬん……!』

 

 真正面からその雷を受け止めたナイトマン。

 体が痺れるようなこともない。これならば、このまま戦闘に入ることが可能だ。

 

『まずはあの高みから引きずり下ろさねばなりませんな……!』

「よし……そのまま行けるか、ナイトマン!」

『無論! 先陣を切らせてもらいましょうぞ!』

 

 今回の先陣はナイトマンか。悪くない判断だ。

 彼は速度に難のあるナビ。空に浮く相手に迫り、引きずり下ろすのは得意ではない。

 だが、他のナビでそれをしようにも、周囲に立ち込める雷雲が邪魔だ。

 

『むぉぉ――!』

 

 振り回される鉄球は雷雲を吹き飛ばして余りある威力を有している。

 クラウドマンが雷雲を操るナビであるならば、その武器を減らすのが攻略の鍵。

 残った雲から雷の弾が発射されるが、その程度ならばナイトマンの足を止めるには至らない。

 そして、早くも光少年は、クラウドマンが周囲に雷雲を呼ぶリスクに気付いたらしい。

 

『ぐぅ……っ!?』

 

 雲から突き出てきた竹の槍――『バンブーランス』。

 敵の死角から飛び出してくる、不意打ちに向いたこのチップは、雲によって自らの視野を狭めているクラウドマンには最適な攻撃だ。

 

「よし、今だ!」

『御意!』

 

 そして怯んだ隙に、『エリアスチール』で接近。

 背後に回ったナイトマンが鉄球でクラウドマンを殴りつけ、砦から叩き落とした。

 更に高く跳躍し、落下することで追撃を仕掛けるが――これは残念ながら、咄嗟に這って移動したクラウドマンに躱される。

 それでも、遠距離チップでさらに一撃と試みるも、纏った雲に防がれ、そこから伸びる十字の雷で反撃を受けた直後、戦闘が強制終了した。

 

『ふむぅ……惜しかったか』

『モクモクモク……流石にやる……だがこの程度で勝てると思っているならば、オレを甘く見過ぎだ』

 

 それなりに焦らせることは出来ただろうが、そこからの立ち直りは早かった。

 追撃を防ぎ切り、反撃する判断まで出来るとは。シェードマンよりも守りが強固なエリアに陣取っているだけのことはあるかもしれない。

 

「まだまだ! 次はカーネル、行くぜ!」

『了解した!』

 

 この一時築いた有利を無駄にする訳にはいかない。

 クラウドマンが砦へと戻る前に、カーネルが戦闘を仕掛け、一気に攻め込む。

 

『おのれ……! ならばコレはどうだ!』

 

 初撃をどうにか防いだクラウドマンは、膨大な雲を吹き出すことでカーネルの視界を覆う。

 雷雲に囲まれ、思うように動けなくなったカーネルの前に現れたのは、遥か上方にまで立ち上る黒い積乱雲。

 渦のように走る雷を携えた嵐を、カーネルは光少年が咄嗟に送った『ストーンキューブ』や『インビジブル』で対処していく。

 咄嗟にチップを送るための『フルカスタム』は、強く制限の掛かったこの戦闘に持ち込むのにはあまり向いていない。

 だが、痛烈なダメージを受けるよりは、的確に防いだ方が賢明なのは当然だ。

 

『――そこか!』

 

 暫く防御チップで凌ぎつつもその嵐を見切ったカーネルが、遠隔の斬撃で黒雲を散らす。

 その奥に隠れていたクラウドマンに向け、巨大な砲塔へと変えた右腕から砲撃を放つ。

 有効なダメージにはなっただろうが、まだ余力は残っている。どころか、攻撃を受けたクラウドマンはそれを意にも介さず、カーネルに突っ込んでいく。

 

『隙が出来たなっ!』

『グ、ゥ……!』

 

 右腕の重量で咄嗟に動けなくなっていたカーネルを襲った、尋常ならざる威力の闇の電撃。

 間違いない――ダークチップだ。

 マントで防いだことで直撃だけは避けているが、その雷は敵に執拗なまでの苦痛を与え、長時間に及び束縛する。

 ダークチップの中では、秀でた威力は持っていない。ゆえに重傷とまではいかないが、クラウドマンが得意とする雷の攻撃と合わされば、その痺れは致命的なことになりかねない。

 その体に雷を溜めていくクラウドマン――だが、それが放出される前に、時間制限は訪れた。

 

『……命拾いしたな。苦痛の中でデリートされるお前を見るのはもう少し、お預けということか』

『……どうだかな』

『何……?』

 

 体の痺れを振り払いつつ、カーネルはクラウドマンにその強い視線を向ける。

 余裕を見せていたクラウドマンだったが、カーネルの不敵な態度を怪訝に思ったのだろう。

 次の相手は誰なのかと、周囲に注意を向けていれば、直後の形勢逆転はあり得なかった。

 

 ――彼の背後に閃く、影の刃。

 

『ガァ、ァ……ッ!?』

『――油断大敵。ウラでは生きていけぬな、それでは』

 

 その影が敵対していると確信出来ているならば、決して油断をしてはいけない。

 僅かな注意の空白だろうと、それはシャドーマンの一撃を許すということなのだから。

 作戦の開始時点で、ダークロイドとの戦いにおいて彼の役割はこういうものだと決定はされていた。

 相手の強さを把握し、そして決着をつける前の最後の一手。

 油断に付け込んで一撃与え、可能な限り消耗させること。

 偵察役として雇われたのが彼でなければ、このような一手は打てなかっただろう。

 彼にしか出来ない、彼がいることによって成立する最も有効な王手だ。

 

『さて。拙者の役目は済んだ。後は任せるぞ、ロックマン』

『うん――やろう、熱斗くん!』

「ああ!」

 

 追い詰められたクラウドマンの前に、ロックマンが立ちはだかる。

 クラウドマンの攻撃手段は、ナイトマンとカーネルが大体引き出した。

 こうなれば、最早光少年とロックマンのコンビに一分の敗北もありはしない。

 

『お……おのれ! このオレが……あり得ん!』

 

 周囲にばら撒かれた闇の雷。

 自棄になってのダークチップ連発――それを例えば、ナイトマンの時にやられていれば、こちらも対策に時間を掛けることになっていたかもしれない。

 だが、あの雷は強力な追尾性と引き換えに、大した速度を持っていない。

 カーネルに仕掛けた不意打ちも出来ないほどに手傷を負った今のクラウドマンが使っても、ロックマンへの有効打にはならないのだ。

 

『やあっ!』

『ぐ、ぅぅ――ごはっ!? ……だ、だがっ! オレも、ただではやられんぞ!』

 

 雷を潜り抜けて放られた『サボテンボール』が周囲の雲に反射して跳ね回り、クラウドマンをさらに追い詰める。

 そして、捨て台詞のようにそんな言葉を残し、上空へと逃げようとするが、ロックマンは既に狙いを定めている。

 

『逃がさないッ!』

 

 シェードマンの時と同じ、決め技のプログラムアドバンス。その砲撃が唸りを上げる。

 

『グモオオオオォォォォォ――――――――!』

 

 『ギガキャノン』の一撃が、クラウドマンを呑み込む。

 周囲に雲を散らしつつ、その存在は消えていき――姿が見えなくなると同時に、エリアの闇が完全に晴れた。

 

『リベレート完了!』

 

 ロックマンの宣言。エリアを確認すれば、雲は少しずつ消滅していく。

 科学省エリア中にあるものも、これで統制を失っていずれ無くなるだろう。

 プライド様が向けてくる微笑みに、頷きを返す。

 

「――よくやってくれた。科学省エリアの奪還は、我らにとって大きなプラスだ。これを機に、オフィシャルの部隊が出来る抵抗もより確かなものになる筈だ」

 

 日本のインターネットの中枢たる科学省エリアは、オフィシャルの拠点としても大きな意味を持つ。

 これで、ダークロイドの根城となっていない占領エリアならば、オフィシャルもより大規模な作戦行動を起こせるだろう。

 ……勿論、科学省エリアを取り戻したということは、一般人への安心を齎すという意味でも、上々の成果だ。

 

『シャドーマン。これからも、一緒に戦ってくれるんだよね』

『ネビュラを相手取っている間は、だがな。暫くはお主たちと同じ方向を向いているだろうよ』

『うん、よろしく! キミの陽炎のような幻惑のソウル、ボクの心に共鳴したよ!』

 

 ――新たなるソウルユニゾンか。

 ナイトマンと同様、彼ともそれに足る信頼を築くことが出来たようだ。

 そろそろ、ロックマン用の新しいツールを本格的に調整しないといけないか。

 どんな状況にも対応できる彼の可能性を、さらに広げるような、そんな武器を。

 ソウルの共鳴をシャドーマンも受け入れ、一足先にプラグアウトしていく。

 

「よし、この調子でガンガン、エリアを解放していくぜ! バレルさん、次はどこのエリアなの?」

「フ……焦るな。今日はここまでだ。また後日、次の作戦については説明する。まずはゆっくりと体を休めろ」

『そうだよ、熱斗くん。あまり調子に乗っちゃ駄目だよ!』

「分かってるって! けど、この勢いで行けるところまでってのもあるじゃん!」

 

 まったく……元気なものだ。

 一時間以上、他のナビも含めてオペレートしているのだ。疲れない訳がないというのに。

 まあ……気に病んでしまったり、重責に押し潰されてしまうよりはマシだとも言えるが。

 ひとまず、ミッション完了だ。息をついて、パルスアウトの準備を整えて――

 

『――――ッ、避けろロックマン!』

『え――』

 

 ――カーネルの怒号から、一秒も経たない内の出来事だった。

 空から降り注いだ闇の雲がロックマンを呑み込み、再び消えていったのは。

 

「なっ……」

 

 エリア内の情報を確認するが、既にロックマンの反応はない。

 

「ろ……ロックマン? おい、ロックマン! ロックマン――!」

 

 光少年の呼びかけに応える筈の声は、どこからも聞こえてこない。

 まさか……と一拍遅れて、喉を締め付けられるような緊張が、沸々とわいてきた。

 ――ロックマンが、連れ去られた。

 その事実は、私たちの勝利の余韻を吹き飛ばし、代わりに絶望的なまでの寒気を運んできた。




・クラウドマン
5に登場するナビ。属性は電気。
ネビュラに所属するダークロイドで、科学省エリア3を占領している。
その名の通り雷雲を操り、こちらの攻撃を防ぎつつ攻撃を仕掛けてくる雲が厄介な中々の強敵。
また、ダークロイドフェイズでの攻撃ではナビが麻痺して行動不能になってしまうため、出来る限り相手にターンを渡さずに撃破することが求められる。
ナビの誘拐に定評があり、撃破される度に誰かを攫ってはその内復活する。
独特な口調が異様に多い。「モクモクモク……」は無理がないかな。


リベレートミッションは手堅く終了。
シャドーマンが仲間になった代わりにロックマンが連れ去られました。
ウラランク四位は強すぎるのでバランス調整みたいなものでしょう。
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