バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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エールらしさ、私らしさ 【本】

 

 

 ――防御能力は上々。闇への耐性は十分に有している。

 だが、浄化速度が足りない。

 単純な出力不足。ダークソウルの進行速度が浄化速度に勝っているのだ。

 これ以上出力を上げるすべは……実装するには、時間が掛かり過ぎる。やらなければならないのなら、やるしかないが。

 試しに限界以上の出力を出してみれば、たちまちソレは粉々に砕け散る。

 バックアップから修復。リソースの幾らかを耐久性に回し、再度実験。当たり前のように爆散する。

 

 限界を超えることの難しさは知っていたが……その上でやってみようと試行錯誤してみても、やはり上手くはいかないもの。

 決まった大きさの器に入る以上の水を注げばどうなるかなど、試すまでもなく分かる。

 そんなことを、僅かな限界越えだろうと成し遂げられるものの凄まじさを痛感するな、これは。

 しかし……それが出来るのであれば、より可能性は広がる。

 一度だけ。たった一度だけ、二百パーセントの出力を、一定時間維持できればいいのだ。

 そうすれば、後はソレが壊れようが中身にガタが来ようが問題ない。その機会を無駄にしなければいいだけの話なのだから。

 

 では、そのたった一度はどうやれば実現できるのか。

 ヒントを得たいがために、同じことを繰り返す。

 修復。実行。損壊。修復。実行。損壊。

 修復。実行。損壊。修復。実行。損壊。修復。実行。損壊。修復。実行。損壊。修復。実行。損壊。修復。実行。損壊。修復。実行。損壊。修復。実行。損壊。修復。実行。損壊。修復。実行。損壊……。

 

「いい加減になさい! エール・ヴァグリース!」

「……ぇ」

 

 いつまで経っても妙案が湧いてこないことを嘆いていると、突如背後から怒声が降り掛かった。

 振り返れば、ぼやけた視界にじんわりと浮かんでくる、プライド様の姿がある。

 ……随分とお怒りのようだ。どうしたのだろう、確か今日は頼まれごとはなかった筈だが。

 

「一体何度連絡したか……そもそもエール、気付いていたのですか?」

 

 PETを見てみれば、着信が溜まっていた。

 ミュート状態、かつジャンクマンもパソコンの方にいたため、伝えられなかったようだ。

 しまったな――急な用件だろうか。

 

「……気付いてませんでした。何か、仕事ですか……?」

「いいえ。そうだったとしても、今の貴女には頼めません。エール、寝ていませんね? 恐らくは、一昨日から」

「……一昨日」

 

 一昨日……そうか、まだ二日だ。このくらいの徹夜なら、さして珍しいものでもない。

 だというのに、妙に目もぼやければ、疲労もひどい。

 栄養の摂取も怠っていたからだと気付き、机の隅に置かれた、買い置きしているエナジードリンクに手を伸ばす――が、プライド様に腕を掴まれた。

 

「それ以上は認めません。今すぐ手を止めなさい」

「……手、止まってますけど」

「休めと言っているのです、エール・ヴァグリース!」

 

 それは、普段のような警告の意味を込めた怒りではなく。

 強制――命令に近かった。掴まれている腕で軽く抵抗を見せようとしても、動く気がしない。

 プライド様はもう片方の手で、ジャンクマンたちのいるパソコンをミュートにした。こちらの会話が聞こえることがないように。

 

「根を詰めればロックマンが戻ってくると思っているのですか? 熱斗を安心させられるのですか?」

「……っ」

 

 ロックマン――そう、ロックマンだ、彼がネビュラに連れ去られたのだ。

 今頃、どうなっているかは分からない。はっきり言って、無事かどうかさえ不明な状況。

 デリートされているとは……考えにくい。そうであれば、もっとシンプルな手段を取っている筈。

 まだ、私たちが奪還できる状況にある――そう信じなければ。

 

 科学省エリア3におけるリベレートミッションが終了したあの日、なし崩し的に解散となった後、私は強迫観念に圧されるように、第三の外装完成のための追い込みをかけていた。

 光少年とは、連絡を取っていない。……何を話せばいいのか、分からなかった。

 一心同体。常に一緒の、最強コンビ。半身ともいえる存在がいなくなった、この状況。

 ただでさえ父が攫われて、精神的負担が掛かっていた光少年に、ここにきて更なる追い打ち。

 ……私がフォローしてどうなるのか。ネビュラ誕生の片棒を担いだ、この私が。

 私があんなもの(ダークライセンス)を作らなければ、こんなことにはならなかった。光少年の日常が壊されることなどなかった。

 ――だからこそ。

 これの完成を急がないといけないのだ。ネビュラに対する侵攻を、これをきっかけに強める。

 そうして、一刻も早くロックマンを取り戻さないと。

 

「……離して、ください。これを完成させないと。そうすれば、ネビュラにより、有効的な――」

「まともに動いていない頭で、その何をしているか分からない作業に進展があるとでも?」

「……」

 

 ……進展があるとは、思えなかった。

 ディスプレイに映っているのは、直前の実行によって粉々になった、元が何だったかさえ分からないもの。

 最早見慣れた、繰り返しの光景。あと何百回やり直そうと、天恵が降りてくることなどないと断言できる残骸だった。

 

「――聞きなさい、エール。次のミッションの話です」

「ッ」

「先程、バレル氏から連絡がありました。次に解放するのは、エンドエリア2。広大なエンドエリア全域を占領しているネビュラの前線基地を叩き、その奥にある中核への道を拓きます」

 

 次のミッション――そうか。ロックマンがいなくとも、私たちの侵攻を止める訳にはいかない。

 寧ろ、これで解散ともなれば私も困る。作戦を続行するのは、私も望むところだ。

 だが、一体誰が、ミッションにおけるオペレートを担当するのか。

 バレル氏のオペレート能力は不明だが……光少年に任せていたということは、彼が適任だという判断からだろう。

 光少年以上のオペレート能力を持つ者はチームにいない。そんな状態で、エンドエリアの解放など叶うのだろうか。

 

「ミッションは引き続き、熱斗に担当してもらいます」

「なっ……」

 

 耳を疑った。冗談にしてはあまりにも趣味が悪い。

 いや……冗談を言っている様子は、プライド様にはなかった。

 

「い……今の光少年に、オペレートを任せるというのですか? 彼に、これ以上の負担は……」

「既に熱斗の同意は得ているようです。バレル氏が、彼を立ち直らせたと。バレル氏が熱斗に代理のナビを貸与したと聞きました」

「――――」

 

 そんなこと、出来る訳が……と、プライド様の言葉を否定しようとする。

 光少年が、もう立ち直った? 前向きに、次のミッションのために動いている?

 嘘ではないと、プライド様が首を横に振った。何よりも、私が信じざるを得ない人が、私の疑念を切り捨てた。

 

「それでも熱斗が無理をしているのは百も承知――そんな状況だからこそ……貴女には、足並みを揃えてもらわないと困るのです。ネビュラと戦う、熱斗を支える大人として」

「……」

「思い出しなさい、エール・ヴァグリース。ゴスペルの事件、WWWの事件、小惑星の接近、そして今のネビュラとの戦い……この一年を通して、光熱斗を大人として誰よりも支えていたのが誰なのか。謙遜は不要です。絶対評価として、彼を事件の中で最も多く支援したのは他でもない――エール、貴女です」

 

 ――始まりは、敵として。

 プライド様を、そしてクリームランドを助けるために飛び込んだ厄介ごとの中で、彼と出会った。

 その後、ゴスペルの仕掛けたインターネット凍結事件を共に解決し、本拠地でバグ融合体を倒すのにも共闘して。

 

 WWWとの戦いにおいての関わりは、N-1グランプリから。

 砂山氏の一世一代のショーを共に潰し、そして浦川少年の手術に際しては、私は彼の勇気に大きく救われた。

 父の忘れ形見と別れた、科学省の火災事件は今も苦い思い出だ。

 ウラランキングを通してウラの王を探ろうとした彼と伊集院少年を、シークレットエリアの王の間に通したこともある。ビーストマンと出会ったのも、あの時だったか。

 それから、プロトを巡ってドリルマンだの、フォルテだのと戦って。

 挙句の果てには絶海の孤島に築かれたWWWの本拠地にまで乗り込み、プロトを撃破した時も、彼らと共闘していた。

 

 ソウルユニゾンの能力を扱うためのプログラムを作成したのは、私がクリームランドに帰ってからだったな。

 ネビュラとの戦いで関わり始めたのは、そう――シェロ・カスティロのぬいぐるみロボ暴走事件からだ。

 あれも、まあ……光少年にあまり知られたくない秘密を知られたという意味で、思い出したくないことだが。

 あの事件の際に、桜井嬢から頼まれ、大会に向けて彼女を鍛えることになったのは貴重な経験だった。

 大会の当日にも二件ほど事件があった。ヒノケン氏と火村少年が起こした炎上事件と、大会後のレーザーマンの襲撃だ。

 さらに数日後に、ジャンクマンと出会って、彼とレッドサントーナメントに挑むことになった。

 光少年が参加したのはブルームーントーナメントだったが、大会の前に一つあったな。

 ミュートになっているパソコンのディスプレイに映るレヴィアを見る。怪訝な表情をしている彼女が、稀に見る暴走をしかけた、ブルース奪還作戦。

 それから、大会を終えてから私たちに告げられた星の危機。地球最後の日を迎えさせないための一大作戦。

 

 そして、今私たちが参加している、ネビュラのインターネット占領に立ち向かう討伐部隊。

 まったく――本当に関わり通しじゃないか。どちらが疫病神なのか知れたものでもないが、事件の頻度がハイペース過ぎる。

 あまりにふざけた話だ。ここまで来たら、もうオフィシャルが光少年を保護した方がいい。

 これから先も彼が積極的に事件に関わり、戦い続けるというのなら、それを支えるのに慣れている者がこんな、何をしているのかも分からない状態を続けていてはいけないだろう。

 

 徹夜にも、するべき時とするべきではない時がある。

 少なくとも、行き詰まっている時は後者である。おかしなテンションになって、ドツボにハマっていくだけなのだから。

 そういう時は悩み続けるのではなく、一度頭をリフレッシュさせるべきなのだ。

 そんな私の思考の変化を見て取ったのか、プライド様が笑みを――苦笑を零した。

 

「……ようやく目が覚めた……というのは語弊があるかしら。たちまち眠そうな顔になってますわよ、エール」

「……そう、ですね。馬鹿なことをしていたと、自覚したみたいです」

 

 これではパフォーマンスが落ちる一方だ。

 そんな状態で、まともなものが作れるか。そんな状態の私を見て、光少年が安心できるか。

 自分にそう言い聞かせれば、疲労は溜まりに溜まった眠気を自覚させてきた。

 

「明後日、クイーン・チェーコ号でのパーティがあります。そこまで疲労を持ち込まないように――分かっていますね?」

「――はい。心配かけて、すみません。プライド様」

「このくらい、慣れているというものです」

 

 ……やはりこの人には、勝てる気がしなかった。

 私が間違いを犯した時、道を正すのに最も有効な言葉を、この人は必ず導き出せる。

 

「貴女が気負うのも、分からないでもありません。ですが、気負うのであればこそ、自分を苦しめず、健全な手段での進展を図る。それがクリームランドの誇る貴女という存在。そして、無茶で、突飛で、わたくしをいつも悩ませる――けれど、わたくしの誰より頼れるお友だち、それがわたくしの誇るエール・ヴァグリースという存在です」

「……はい」

「貴女らしく立ち直り、貴女らしく事を進めなさい。せっかく、共にお仕事をしているのです。わたくしをもっと、支えとしてください」

 

 ネビュラとの戦いに巻き込んでしまったことは、ずっと申し訳なく思っている。

 その上でさらに、プライド様を支えにするなどと、恐れ多い――とは言えなかった。

 今のプライド様は、私の友人としてそう言ってくれているのだ。

 気を遣ってくれているのは分かる。だが、同時に本心からの言葉であるとも分かっているから、嬉しかった。

 

 そう言われて止まるのは、それはそれで私らしくないと思う自分がいる。

 だが――今の私らしさとは、プライド様との関わりによって培われたものだ。

 プライド様をこそ至上とする私の価値観は、本来の私に望まれたものとは異なるもの。

 それでも――

 

 

 ――後は君らしく生きてほしい。エール、私の全て。君が望むままに。見届けられなくて、すまない。

 

 

 私らしさを探す傍らに出会ったプライド様という存在との関係を、私は手放したくない。

 果たすべき責任と、どちらを優先すべきかなど、言うまでもない。だが、それを両立できるのならば。

 

「……一旦、作業は止めます。少し無理していたので、寝ようと思います」

「しっかり休むように――ところで、一体何をしていたんです?」

「ネビュラとの戦いを、有利に運ぶためのプログラムです。あと一歩なんですが」

 

 私らしくあるように努めよう。

 そのためにも、まずはリフレッシュだと。作業の進捗を保存し、私はひとまず寝不足状態を解消することにした。




なんか総集編じみた空気のエール再起回。
裏ではバレル氏が光少年を「海でも見ないか」から「甘ったれるんじゃない」のコンボによって立ち直らせています。
エールはあのポジションには立てません。自責の念でそれどころじゃないし、多分潮風も嫌いです。
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