バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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ダークサイドの隅っこで-1 【本】

 

 

 プライド様のおかげで、“自分らしさ”を意識した翌日。

 リフレッシュした思考で、再度私は外装の調整に打ち込んでいた。

 進展がないと分かり切っている無意味な作業の繰り返しこそしないものの、だからと言って何かしらの妙案が浮かんでくる訳ではない。

 結局のところ、出力不足という課題を解決するのに、最も有効なのは、明日のパーティでどうにかしてブースターシステムを手に入れることだった。

 ビッグカンパニーの技術ならば、その性能に疑うところはない。最後の仕上げとしては相応しい代物だ。

 手に入るかどうかは、明日の商談会次第。

 それが無理であれば……というネガティブな思考は、今はしない方が良いだろう。

 

「……ん?」

 

 調整を始めて三時間ほど。

 昼下がりに掛かってきたオート電話は、バレル氏からだった。

 ジャンクマンたちのいるパソコンをミュートにし、電話に出る。――ここ最近、こうしてジャンクマンたちに秘密のやり取りする機会が増えたからか、彼ら……特にレヴィアに疑いを向けられているところがある。

 また妙なことに巻き込まれている、というのは彼女の中で確信しているらしい。大正解ではあるのだが。

 とはいえ、詮索は無用だと伝えている。レヴィアとは互いに、必要以上の干渉はしない仲。

 ジャンクマンとアイリスに秘密にし続けるのは、心苦しいところがあるが……。

 

『今構わないか、エール・ヴァグリース』

「構わないよ。次のミッションの話かい?」

『そうだ。……気を落としている訳ではなさそうだな』

 

 ……バレル氏にもお見通しだったか。

 そう思うと、本人が目の前にいる訳でもないというのに、どうにも居心地が悪くなる。

 

「プライド様に少しばかり強く言われてね。今後の作戦に支障はないから、安心してくれ」

『ならばいい。お前のシステムが利用できなければ、エリアの解放も困難になる。次も頼むぞ』

「もちろん――バレル氏も、光少年を立ち直らせてくれたと聞いた。礼を言うよ」

『光熱斗は作戦の主軸だ。気落ちしたままでは戦力ダウンどころではないからな』

「彼に、ロックマンに代わるナビを貸与したと聞いたが?」

『ロックマンを取り戻すまで、最大限のバックアップはする。チームの代表としてな』

 

 最大限のバックアップ、か。

 なるほど……彼がロックマンに貸与したナビには、予想がついた。

 それは、光少年のオペレート能力を引き続き活かす選択でもあり、バレル氏なりの激励でもあるのだろう。

 

『さて……そういう訳だ。今から光熱斗を含めて、チームのメンバーには合同で当たってもらいたい任務がある』

「今から……? プライド様は公務に出ている。今からリベレートミッションを行えというのは難しいぞ」

 

 随分急な話だな。

 プライド様は今は時間が取れないし、明日のパーティについてはバレル氏も承知している。

 外装の件を置いておくとしても、リベレートミッションは明後日までは行えない。

 

『いや、そうではない。次のリベレートミッションを行うエンドエリア2に進攻するための情報取得だ』

「シャドーマンは?」

『既にミヤビとシャドーマンには動いてもらっている。彼によれば、エンドエリア2へのリンクを塞ぐセキュリティは相当特殊なものらしい。それをお前の手で突破できるか、調査を行ってくれ』

 

 特殊なセキュリティ……これまでと同じように、ネビュラが砦を築くエリアには簡単に辿り着けないということか。

 そして、シャドーマンが既に偵察を行い、解決していないとなると、科学省エリア3を守っていた闇の雲のように核を破壊すれば解除できる、というシンプルなものでもないのだろう。

 いや、シンプル極まりない解決方法も、あるにはあると思うが。

 

「了解した。護衛は光少年とその貸与ナビに任せればいいんだね?」

『ああ。そちらに科学省のホームページまでのリンクを送る。光熱斗たちとの合流後、オラン島エリアを経由して、エンドエリア1に向かってくれ』

 

 迂遠だな。エンドエリアはまだネビュラの支配下だから仕方ないとして、オラン島エリアへの直通リンクくらい送ってくれればいいのに。

 そんな要求をする前に、伝えたいことだけを伝えてバレル氏はオート電話を切った。

 

『――なんの話だったワケ?』

「あまり口外できない話であることは間違いないね」

 

 パソコンのミュートを解除すれば、開口一番にレヴィアが問うてきた。

 干渉する気はないとはいえ、気になるものは気になるらしい。

 

『エ、エール、オデタチハ、手伝エナイノカ……?』

「――ああ。この件は、私単独の方が都合がいい。もちろん、キミたちに頼るべきことが出来たらお願いするから、そのつもりではいてほしいが」

 

 力になりたいという思いがありありと出ているジャンクマンへの申し訳なさから、そんな言葉が出た。

 とはいえ、やはり彼らを関わらせる気はない。

 これは普通の仕事とは違う。光少年のように、どうしようもない事情がある訳でもない。ネビュラとの戦いになど巻き込ませないのが私の義務だ。

 

 

 

 エールハーフを実行し、バレル氏が送信してきたリンクで科学省ホームページに飛ぶ。

 科学省エリアの解放により、運営の再開されたここは、まだ事件前ほどの賑わいはない。

 とはいえ、幾らかの制限付きながらもアクセスは許可されており、日本のインターネットでも屈指の情報量が集まるという掲示板も新しい書き込みが散見されていた。

 

『来たか』

『こんにちは、カーネル。キミが今日の護衛ってことでいいんだね?』

 

 軽く掲示板を眺めた後、指定された場所に向かえば、穏やかなホームページに似つかわしくない軍服を模した姿格好のナビが待ち構えていた。

 オモテを歩くのに、彼であれば不足はあるまい。

 護衛としては少々、仰々し過ぎるような気もするが。

 

『ああ。臨時ではあるが、今は光熱斗のナビを請け負っている』

『キミならばまあ、信頼はできるか。――光少年、大丈夫かい?』

『うん――ロックマンを取り戻すのに、いつまでもくよくよしてられないもんな。心配かけてごめん、エールさん』

 

 PET越しに聞こえてくる光少年の声には、気疲れしたり弱っていたりといった様子は見られない。

 バレル氏のカウンセリングの効果は大きかったのだろう。

 これは私も――うだうだと悩んではいられまい。いたずらに彼を不安がらせても困る。

 

『ロックマンについては、私も全力を尽くそう。まずは今回の作戦からだ。エンドエリア2へのセキュリティの調査だったね』

『そうだね。シャドーマンでも難しいって、どんなセキュリティなんだろう』

『会話は歩きながらでもいいだろう。あまり人目に付くのも好ましくない。行くぞ』

 

 確かに、注目するなという方が難しいか、これは。

 私はさほど、オモテを歩くのに目立つような姿(アバター)を用いている訳ではないが、カーネルと並ぶと軍医の如き印象が生まれかねない。

 特に意識した飾り気もない、無味乾燥な姿もそれを助長させるだろう。

 ストレートながら可愛げのある、そう、たとえば――ジャスミン嬢のメディのような、あんな容姿なら、逆に印象が薄れるかもしれない。

 ……いや、ないな。あれはジャスミン嬢とメディだから可愛げがあって許されるのだ。

 生まれてこのかた少女趣味に縁がなかった私にそういうの(コスプレ)は無理である。

 

 ロックマンが無事であるという確信からか、すっかり普段通りな光少年と他愛のない話をしつつ、科学省エリアからオラン島エリアへと渡る。

 往来の多いエリアだと聞くが、その大きな理由となっているだろうエンドエリアがまだネビュラの支配下にあるからか、無人島らしく閑散としている。

 特に目立ったナビとのすれ違うもすることなく、私たちはエンドエリアへと踏み入った。

 

『随分とまあ、入り組んでいるね』

『日本屈指の大都市だ。エリアも広く複雑で、当然人通りの多いエリアだが……』

 

 まあ、まともなナビが見つかる筈もない。

 大都市のエリアゆえの広さと、数の多いウイルスがひたすら障害となる、悪い意味で賑やかな迷宮だ。

 

『ん……? なっ、お前ら、ネビュラじゃねえな!?』

『片付けるぞ、光熱斗』

『了解!』

 

 歩いているのはこうした、巡回を行っているのだろうネビュラのナビくらいのものである。

 シャドーマンならば見つからずに奥まで進んでいるだろうが、カーネルはもっとシンプルに、真正面から始末することを選んだ。

 ダークチップさえ躊躇いなく使ってくる連中――とはいえ、光少年もカーネルのオペレートに不足がないほどには慣れている。

 手早く選択したチップで相手を撃破し、さらに奥へと進んでいく。

 やがて、エリアの大通りを塞ぐ巨大なセキュリティドアが見えてきた。

 

『この先にエンドエリア2がある。シャドーマンの報告では、外部に核のようなものは存在しないとのことだ』

『……ネビュラもまた、小賢しい手段を取ってくるね』

 

 なるほど、これはシャドーマンの手に負えないのも道理である。

 正確には入ることは出来る。だが、リベレートミッションに移せない解決法だ。

 それを知っていたがゆえに私に回してきたということだろう。そうだとしても、私にも難しい問題ではあるのだが。

 

『エールさん、何か分かるの?』

『ああ。私やシャドーマンはこれを開けるが、他の者を連れていくことが出来ない。ウラにはよくある、“定員一名”の扉だよ』

 

 広大なウラの世界には、誰が仕込んだのかも分からない小賢しいセキュリティが無数にある。

 これはその中でも、オーソドックスな部類に入るものだ。

 ウラから直接持ってきたのだろう。固有の鍵がなくともこの形式ならば、ウラランクの提示で開くことが可能だ。

 だが、それで入れるのは一名のみ。私とシャドーマンでも二人。到底リベレートミッションに入れる人数とはならない。

 

『解析、鍵の複製、どちらも困難。手っ取り早い方法がないでもないが……』

『――強度は相当、ということか』

 

 そう、どんなセキュリティだろうと、解除できる共通手段(マスターキー)というものは存在する。

 ウラにおける己の価値、即ち力による強行突破。

 破壊してしまえばそのセキュリティがどんな錠前を持っていようと関係がないのである。

 

『恐らくは、我々の火力では難しい。こいつを突破できるのはウラでもそこまで多くない。地道なハッキングによる解除……遠回りだがそれが一番確実な方法になるかな』

『……なるほど。圧倒的な攻撃力、か。確かに今の我々には不足しているものだ』

 

 レヴィアがいれば、この程度簡単に粉砕していただろう。

 だが、彼女の力が借りられないとなると、別の伝手を探さないといけなくなる。

 呼べば確実にやってくる程度の信頼があり、オモテの事情に介入することを厭わない者となると、流石に候補は見つからない。

 ただでさえ、科学省を拠点にしているチームだ。オフィシャルに目を付けられる可能性を考えると、余計に頷く者は減るだろう。

 

『解除もすぐに出来るものでもないだろう。仕方ない……一度戻って方針を決め直すぞ』

『くそ……エンドエリア2は目の前だってのに』

 

 なにも、攻撃力に特化したナビのみが、ここを手早く突破できる訳ではない。

 情報処理に秀でた、尋常ならざる解析速度を持つナビでも、或いはどうにかなる筈だ。

 ……適役はアイリスか。どうも、巻き込めない身内が頭に浮かぶな。

 とりあえず、今はどうにもならない。解除を試みるのであれば、その後にミッションが待つことを前提としなければならない。

 一度ここは諦め、方針を再検討するほかないだろう――そう思って、パルスアウトの準備を始めた時だった。

 

『――なんだ、もう撤退するのかよ? どれだけイカレた手段でぶち破ってくるのか、楽しみにしてたってのに』

『ッ! ネビュラか!』

 

 上方から降り掛かる声に、扉から距離を置いて目を向ける。

 存在は感知できていなかったが、少なくとも数分前にはそこにはいなかった。

 今しがた現れたのだろうそのナビは、扉の上で腰を下ろしこちらを見下ろしていた。

 

『よォ、カーネル――それから“エールサン”。元気そうで何よりだぜ?』

『お前は……!』

『う……嘘だろ……? ロックマン……!?』

 

 そこにあったのは、すっかり見慣れたナビの、見慣れない姿。

 これまで、幾度となく共闘を繰り返した、決して闇に落ちる筈のない者の、黒に染まった姿。

 ――目を背けたいほどに悍ましい、それと同時に、唯一の希望ともなり得る状態。

 

『クク……ロックマン、は正確じゃねえな。オレはリーガル様にこのエリアの守りを任されたネビュラのナビ――ダークロックマンだ!』

 

 ダークチップを埋め込まれたのだろう。

 相容れない闇に呑まれ、変質したロックマンだった。




・ダークロックマン
5に登場する、ロックマンの闇堕ち状態。
科学省エリア3のリベレートミッション直後、クラウドマンの不意打ちによって攫われたロックマンがダークチップを埋め込まれたことで変質し誕生した。
リーガルに忠誠を誓ったネビュラのナビとして登場し、エンドエリア2を守護している。
4に登場したロックマンDSとは別物だが、戦闘ではDSと同じようにプレイヤーがよく利用するチップを中心に使ってくる。
プレイ傾向によってはナビチップなども遠慮なく使用する。また、ダークロイドフェイズに発生する攻撃は合計150ダメージとリベレートミッションでも最大のダメージを誇る。
ユーモアセンスでもちょこちょこ出てくる。インターネットをブイブイ言わせたりしているらしい。
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