バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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絶海の歌姫(プライベート・アイドル)-1 【本】

 

 

 科学省裏手の港。

 普段は貨物船ばかりが行き来し、大量のコンテナが特徴となっているそこに停泊しているその船は、周囲の景色に溶け込むことに見事失敗していた。

 豪華客船、クイーン・チェーコ号。

 世界一周をはじめとした、“貴族の嗜み”に度々使われている、世界有数の船である。

 はっきり言って、私には縁のあるものではなかった。

 私自身が海路より空路派であること以前に、こんなものに乗るのは、住む世界が二つも三つも違うようなVIPのみ。

 今回という機会が過ぎれば、もう二度と乗ることはないだろう。

 とはいえさしたる感動もなく、私はその船に乗り込んでいた。

 

 これがカジュアルなパーティであったのはありがたいところである。

 いざ参加が決定してから「ドレスが必要です」なんて事態になったらプライド様に押し切られてもおかしくなかった。

 決死の攻防の結果、私とプライド様両方ともスーツで参加することになった。

 

「揺れないものですね」

「安全が行き届いている証拠です。……エール、落ちないでくださいね?」

「私は子供ですか」

 

 離れていく港を眺めながら、プライド様に謎の心配をされた。

 なんだ、落ちるなって。私はそこまで問題児だろうか。

 ……ほんの僅かに、否定できない自分がいた。最近はプライド様にとって想定外となるようなことを繰り返している訳だし。

 

「にしても、船上パーティなんて久しぶり。お仕事付きというのが残念ですが。エールは初めて?」

「ええ。これだけの船に乗るのも、パーティの機会も初めてですね」

 

 個人的には、船もパーティも副次的についてきたものであって、本題ではない以上さほど興味がないというのが本心だが。

 本日の主目的はあくまで、ブースターシステムを奪おうとしているネビュラの阻止。

 次点で、そのブースターシステムの入手である。

 もし、これを奪われてダークロイドの性能向上にでも使われたら、ただでさえ一筋縄ではいかない彼らの打倒がさらに絶望的になる。

 ビッグカンパニーがこのタイミングで製品を発表するのも、対ネビュラへのセキュリティ強化という商機を見出したからだろう。

 それが逆にネビュラに利用されでもしたら笑い話では済まない事態だ。

 

「それで、まずはどうしますか?」

「あてられた客室に向かいつつ船を軽く一周して、怪しい人物がいないか探しましょう。とはいえ、簡単には逃走の出来ないこの状況で、あまり露骨な行動を起こす賊もいないとは思いますが……」

 

 そんな風に方針を話しながら、エントランスを歩く。

 ネビュラが行動を起こすならば、恐らく夜のパーティが始まってから。

 そこまでは調査したところで大した結果は得られないだろうと、プライド様も推測しているらしい。

 船上パーティである以上、盗んだところで簡単に逃げることは出来ない。下手に逃げようとすれば海の藻屑である。

 それはネビュラも承知の上だろう。よほど隠密に長けた団員を寄越している筈だ。

 未然にどこまで連中の動きを予測し、対策を立てられるかが重要で――

 

「――はい、そうデース。パーティが始まるまでに済ませてしまいまショー。失敗は許されないデース――」

 

 気を引き締めたところで、私たちの横を大柄な男性がPET片手に呟きながら通り抜けていった。

 つられるように、プライド様と共に振り返る。

 通路の向こうは機関室。言うまでもなく、一般の乗船客には用のない部屋である。

 

「お客様、如何されました? この先は機関室で、お客様の立ち入りは禁止となっておりまして……」

「……そりゃソーリー。甲板に出たいんデースが……」

「甲板でしたら、この通路を逆方向に真っ直ぐお進みください。突き当たりの扉の先となっております」

「オゥ、サンキュー! 分かったデース」

 

 当然ながら立ち入りが許可されることはなく、男性は踵を返して再度私たちの横を通り、教えられた方向へと歩いていく。

 ……ふむ。

 

「……プライド様」

「……なんでしょう、エール」

「露骨すぎるほど怪しい人物を見掛けた場合は、どのように対処すれば?」

「中々の難問ですね……」

 

 さあ、怪しい人物を探そうとなったタイミングで私たちの前に現れた不審な動きを見せる人物。

 なんなら、私たちの目を欺くために用意された囮であると言われても納得できるほどの不審者は、果たして白か黒か、逆に判断に迷うところだった。

 頼むから“その手の架空の事件でありがちな、計画を企てる犯人ごっこ”とかそういう類であってほしい。それならまだ、私も引くだけで済む。

 あれがこの後本当にブースターシステムを盗んだなんてことになれば、ネビュラの人材を不安視せざるを得ない。

 

「……尻尾を出すまではこちらも手出しは出来ません。機関室に目的があったと断定し、泳がせましょう。ブースターシステムが狙いなら、機関室は作戦の第一段階に過ぎない筈です」

「分かりました。――機関室のシステムを、こちらが先に掌握しておくというのは?」

「オフィシャルとして受けた、正規のお仕事であればわたくしも許可を出していたかもしれませんね……」

 

 残念。機関室に何らかの用事があると分かっているならば、そこに仕掛けを施しておきたいところだったのだが。

 こういうところで無茶が利くオフィシャル権限というものは便利である。

 まあ、流石にネビュラ襲撃の危険があるからといって、機関室への立ち入りは容易には許可されないか。

 

「ひとまずは、先程の方針通りに動きます。先の人物はあまり意識しすぎないように。その……いざ無関係だったときに、精神的なダメージが大きくなるので」

「はぁ……」

 

 プライド様としても、今の人物を本命とは見たくないらしい。

 あまりにあまりな第一容注意人物の登場に微妙な空気となりつつも、私たちは船内を巡るのだった。

 

 

 

 甲板にやってきたのは、ある程度船を見て回り、客室で荷物の整理を行ったあと。

 結局のところ、例の人物以外には、特段目立った怪しさを醸す人物もいない。

 これ以上、今の段階で何か情報を掴むのは難しいところだった。

 

「やはり、パーティが始まるまではネビュラも大人しくするつもりですかね」

「……実行犯がその段階までに動く理由はありませんからね」

 

 ネビュラが単独犯なのか、複数人で潜入しているのかは気になるところだ。

 これだけの規模の船に一人で忍び込むというのは考え難い――場合によっては船のクルーに成り代わっている可能性さえ考慮しないと。

 

『エール――ヤ、ヤッパリ、オデガ機関室デ、張リ込ンデイタ方ガ、良インジャナイカ?』

「……出来ることなら、そうしたいが」

 

 ――今回、私は自分のパソコンを船に持ち込んでいた。

 数日間のクルージングとなる予定であり、その間ホテルに放置しておく訳にもいかないという理由。

 その上で、一応「プライド様経由の依頼」という名目で、今回の任務についてはジャンクマンたちに話している。

 基本的には、ナビを必要とする出来事が起きたら、エールハーフとナイトマンで対応する。しかし、必要に駆られたら彼やアイリスにも助力を要請するかもしれない。

 何せ、外部からの増援を期待できない、隔絶された空間だ。出来る限り、戦力は整えておいた方がいい。

 二人は快く引き受けてくれたが……ネビュラと直接戦い合うようなことはさせたくない。

 それを必要とする事態にならないことを願うばかりだ。

 

「ジャンクマン、貴方の役目は、ナイトマンに大事があった時、エールを守ることです。そうならないための努力は、わたくしたちにさせてくださいな」

『然り。それがしにも騎士としての矜持がある。この使命、簡単にお譲りするわけにはいきませんな』

『ムゥ……ソ、ソウナノカ』

 

 いざという時、戦わなければならないとして、ジャンクマンには私のオペレート能力という根本的なハンデが課せられる。

 私なりの有事への備えはある程度揃えているものの、ダークチップを扱うネビュラ相手に完封できるかと言われれば怪しい。

 小惑星の電脳における長時間のオペレートにより、ウイルスバスティングくらいであれば私も問題ないと言える程度の力はついたと自負しているが……。

 

「うわあっ、し、しまった!?」

「……ん?」

 

 ともかく、こちらもパーティまでは動けない。

 暫く時間を潰すべきかと考えた時、甲板にあるステージの方からそんな叫びが聞こえてきた。

 

「フリーのネットバトルですね。余興として、ゲストを呼んだと聞いています」

「ああ……この船のメインエリアの構造は、そういうことですか」

 

 ステージ上のネットバトルマシンを挟んで向き合っている、二人のネットバトラー。

 彼らの戦いの様子は、潮風をものともしない巨大モニターに映し出されている。

 客室から繋げるこの船のメインエリアは、ナビたちが楽しめる娯楽施設が各所に設置された広いエリア。

 モニターが映しているのは、その中央のバトルステージであるようだ。

 

「そ、そんな!? こっちの攻撃がまるで通じない!?」

「へっ、そんなしょっぱい攻撃が効くかってんだ!」

 

 どうやら、今行われている戦いは随分と一方的であるらしい。

 劣勢側の……随分と豪奢な、目立つカスタマイズが施されているナビが繰り出す攻撃を、もう片方のナビは躱すことなく片っ端から迎撃している。

 羽飾りの連なった装飾を背中に流す少年ナビだ。

 彼は比較的小柄なその体躯に見合わないパワフルさでもって、片腕に装備された斧を振り回し、障害全てを粉砕して相手に迫る。

 そして必死の抵抗から振るわれた『バリアブルソード』を粉砕し、痛打を与えた。……緊急とはいえ、引数(コマンド)も送らずにあのチップを使うのはどうかと思うぞ。

 

「くそっ……リカバリーを……!」

「それで足りるか試してやるよ――ぶちかませ、トマホークマン!」

『ウララララララ――――ッ!』

 

 距離を離すこともなく、相手の目の前でリカバリーを使ったのは……並外れた度胸と勝負勘の持ち主、なのではなく焦っただけか。

 本来ならば、回復が完了する前にトドメの攻撃を受けるのが当然の結末。

 しかし、トマホークマンと呼ばれた少年ナビは、あえてその回復が終わるのを待ってから、力いっぱい斧を振り下ろす。

 お見事――堪らずピカピカカスタマイズのナビはデリートされた。

 

「っしゃあ! 十四連勝目!」

「馬鹿な……! 最高級のリカバリーチップだぞ!? それに、私のナビは一千万ゼニー掛けてカスタマイズしたというのに!」

「はん! 金にモノ言わせているだけじゃ、一生掛かってもオレには勝てないぜ。信念を鍛えて出直してきな!」

 

 ナビ同様、オペレーターの年齢も、見たところ光少年と大差ない。

 勝気、あるいは挑発的な笑みで対戦相手のカスタマイズを一蹴し、ステージから観客となっていた人々を見下ろす。

 

「さあ次だ! 誰かいないのか! オレたちを倒せるほど強い信念に満ちたヤツは!」

 

 なるほど、余興としてゲストに呼ばれるだけのことはある、かなりの実力の持ち主のようだ。

 今の対戦相手であった男性はともかく……こうした場で持ちナビが目立った活躍をすれば商機にもなり得る。

 挑戦する者は腕に確かな自信を持つオペレーターで、中には会社の技術の粋を凝らしたナビだっている筈だ。

 そうした者たちを相手に、怒涛の十四連勝ときた。

 新たに名乗り出る者のプレッシャーは強くなる一方。というか、今の蹂躙劇を見て名乗り出る無謀な者はいないらしい。

 

「なんだよ、腰抜けばっかりじゃねえか。これだから金持ちは大ッ嫌いなんだ」

 

 針の筵にされることも厭わないとばかりの、この場ではあり得ざる暴言。

 しかし、彼はそれを言うことを許されるほどの実力を示している。

 反論できる自信家は出てこない。

 プライド様にちらと目を向ければ、ほんの僅か思考した後、首を横に振られた。同感だ。私も無暗に目立つのはごめんである。

 

『――おい、ディンゴ!』

「ん? どうした、トマホークマン」

『来たぜ来たぜ! とびっきりのヤツのお出ましだ!』

 

 挑戦者はいなくなり、彼の連勝記録もここでストップ。

 そう思ったが、どうやらこれでも引かない自信家はまだいたらしい。

 相当の度胸の持ち主である。それも、察するにここまで退屈な戦いを繰り返していたらしいトマホークマンが歓迎するほどの挑戦者が。

 一体何者かと目を向けて――

 

「…………」

「……あら」

 

 ……思わず頭を抱える。ああ――確かにいた。

 相当の度胸の持ち主で、この程度のプレッシャーに引かない自信家で、はっきり強者だと言い切れる者が。

 先に言っておくべきだった。動くというのならこちらに一言くれと。

 彼女に関しては退屈を紛らすためという理由で、何を仕出かしてもおかしくないというのに。

 

「へぇ……? 名前は? それから、オペレーターはどこにいるんだ?」

『口を割らせればいいじゃない。自信あるんでしょ? 楽しめれば私の口も緩むかもしれないわ』

 

 先日の、彼女の天敵と似たようなことを言いつつ、観客ナビたちの間に出来た道を、わざとらしく足音を立てて歩きステージに入っていく、槍を持った蒼い歌姫。

 持ち込んだパソコンに同乗してきた我が家の居候は、私たちの想定とは裏腹に、大いに悪目立ちすることを選んだようだ。




・ディンゴ
5チームオブカーネル、6ファルザーに登場する人物。持ちナビはトマホークマン。
アメロッパ出身で、羽根飾りや顔にペイントなどを施した少年。
5ではクイーン・チェーコ号での事件で初登場。余興のネットバトルのために呼ばれていたが、主催していたビッグカンパニーに故郷の村を潰された復讐としてプログラムを強奪する。花火とはえらい違いの重さである。
その後、熱斗の説得でトマホークマンともども改心し、チームに参加。
6ファルザーでは木の力を扱う授業を行いトマホークマンをリンクナビとしてくれる。トーテム様をひたすらぶった切る狂気の授業である。
アニメでも熱斗と年齢が近いからか、メインキャラとして活躍した。

・トマホークマン
5チームオブカーネル、6ファルザーに登場するナビ。属性は木。オペレーターはディンゴ。
ネイティブアメリカンの戦士を彷彿とさせる頭の羽根飾りと右手のトマホークが特徴の少年ナビ。
そのトマホークの一振りはカーネルも目を見張る火力を持っており、ネビュラのナビを複数同時にデリートするほど。
5では攻撃ナビとしてチームに参加。
溜め撃ちのトマホークスイングにより、挟み撃ちの陣形に強い。また、スーパーアーマーを持っているためごり押しも可能だが5は火属性のウイルスがやたら強いので注意。
専用コマンドは目の前の縦3、横2マスをリベレートするトマホークスイング。一気に広範囲をリベレート出来るがバリアキー以外のアイテムが壊れてしまう。罠も壊して。
ブルース版の攻撃ナビであるナパームマンに比べ、奥のパネルに切り込むことは出来ないが以後のリベレートを安定させることが可能。
また、ボス周辺のダークパネルを消すことで有利状態を作りやすいのはブルース版にはない強みと言える。



クイーン・チェーコ号突入。ディンゴ&トマホークマンの登場です。
更に暇だったらしいのでレヴィアも参戦しました。ウラの事情を知っている乗客がもしいたら「まーたバグ医者か」ってなってる。
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