バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー 作:けっぺん
「トマホークマン――そいつ、相当やるぜ。分かってるよな?」
『ああ。向かい合ってるだけでここまで圧を感じるヤツは初めてだ。全力でいくぜ、ディンゴ!』
さて……ここから止める手段はない訳だが。
本当にどうしよう。ジャンクマンもアイリスもここにいる以上、伝言すら出来ない。
というか、目付がいないからこの好き勝手に至ったのかもしれない。レヴィアならば一人でも問題ないという判断からだったが、やはり向こうにアイリスを置いておいた方がよかった。
PETを見てみれば、ジャンクマンの隣でアイリスは微妙な表情を浮かべていた。
彼女も同じような気持ちを抱いているらしい。
「……エール。どうします?」
「とりあえず、パルスインの準備は整えておきます。あのネットバトルマシンから、介入は出来るでしょうから」
多分、レヴィアも加減は分かってはいると思う。そう願いたい。
ネットバトルマシンの
しかし、ナビの攻撃力や実力が飛び抜けて高ければ、そのプラグアウト前にデリートし切ることも不可能ではない。
それを、もしかすると可能なのではと思わせるのがレヴィアであった。
いざとなれば、介入を試みるくらいは出来るように。
もしそんな事態になれば、手遅れになる気しかしないが。レヴィアが自制出来る程度に、トマホークマンが善戦“しない”ことを祈るばかりである。
『さあ、来なさいよ』
槍を肩に掛けて、目に見えたリラックス状態で挑発するレヴィア。
無防備にしか見えない――実際無防備なその姿でさえ、無鉄砲に攻め入るのは愚策なのだと、レヴィアの実力を知る者なら理解している。
彼らはそれを知らずとも、レヴィアが只者ではないことを見抜いている。
そして、その上で慎重に動くかどうかといえば、否だった。
「いけ! トマホークマン!」
『ウララララ――――ッ!』
細かいことは抜きにして、まずは突っ込むタイプだとは思っていたが、トマホークマンは斧を構えて本当に突撃した。
『ふぅん……?』
第一撃。
振るわれた斧を、レヴィアは床を軽く蹴って後退することで回避する。
空振りはしたものの、それでトマホークマンは体勢を崩さなければ驚くこともない。
寧ろ、作戦通りと不敵に笑った。
直後、レヴィアの背後から伸びる竹槍の群れ。
『バンブーランス』は不意打ちに特化したチップだ。
水属性のレヴィアには有効打にはなり得ないが、上手く決まれば連撃に向いた木属性チップという性質から、更なる攻撃のチャンスとなる。
しかし、それはあくまで上手く決まればの話。このくらいの不意打ちを受けるようでは、ウラの歌姫はとうの昔にデリートされている。
『――――』
突き出てきた竹槍に足を乗せ、その勢いを利用しつつ跳ぶ。
回避から敵のチップを利用して瞬時に攻撃に転じて見せた。
『っ……!?』
たちまち接近し、レヴィアの槍が真っ直ぐ突き出される。
ギリギリのところで、トマホークマンは斧でそれを受け止めることに成功した。
――これは驚いたな。今の反撃を対処できる者も、そうはいないと思うが。
生半な防御であればそのままレヴィアの槍は押し切っていただろう。
斧の頑丈さもそうだが、咄嗟の防御を維持して、レヴィアの槍を止めるほどの膂力がトマホークマンにはある。
なるほど……これは、或いは一度驚くだけでは済まないかもしれない。
『おわぁっ!?』
そのままでは埒が明かないと踏んだのか、レヴィアは踏み込み、持ち直した槍を横に振るってトマホークマンを打ち上げた。
追うことはしない。打ち上がったトマホークマン目掛けて氷の弾丸を放つ。
「負けんな! やり返すぜトマホークマン!」
『ッ、よっしゃ――!』
あの状態で取れる回避手段はそう多くない。
『インビジブル』や『バリア』などの緊急回避チップがベターか。『エリアスチール』を用いて攻撃に移るのも良い。
そうしたチップでの対処を、トマホークマンは取らなかった。
斧を強く振り、その力を利用して猛回転し、氷を弾き飛ばしたのである。
その回転を維持したまま、トマホークマンはレヴィアに突撃。
対するレヴィアは焦ることはしない。つま先で床を叩くことで噴き出してきた水流をたちまち凍らせて、互いを隔てた氷壁を形成する。
無敵を誇るというほどではないが、並の威力では罅さえ入らない冷たい壁に、トマホークマンはやはり躱さず突っ込んだ。
派手な音を立てて氷壁は爆砕。回転の勢いは削がれたようだが、砕けた壁のど真ん中から飛び出してきた彼は力いっぱい斧を振り下ろす。
『喰らいやがれ! トマホーク――――スイングッ!』
床に叩きつけられた斧の衝撃は、僅かな間だがモニターの映像を乱した。
それだけではない。バトルステージとして定められていた領域に瞬時に広がった罅は止まることを知らず、その外――観衆たちの集まる場所にまで広がっていく。
数秒後を察してプラグアウトするナビ、逃げるナビ、その反応は様々だったが、いずれもこのまま突っ立っていたら危険だと悟ったことは変わりない。
レヴィアがどう対処したのか確かめることは出来なかった。
床は捲れ上がり、破片が浮いた傍から粉々になっていく。
よほど派手好きのナビが爆破系の攻撃でもぶっ放したのかと思わせる凄まじい衝撃は、とてもではないが少年ナビの片腕に装備された斧から叩き出された威力とは思えない。
ゆっくりと、煙が晴れていく。
バトルステージの倍は広がった罅の中心で、斧を振り下ろした体勢のトマホークマン。
そのすぐ傍で、トマホークマンの首元に槍を突きつけて立つレヴィアの姿。
まだどちらも戦闘続行は可能ながら、決着に足る状況が作られていた。
「……レヴィア、どうやって避けたのでしょうか」
「チップを使った様子はないですし、上手く見切ったんだろうなあ、としか……百点満点とは言い切れないようですが」
……やろうと思えば被害を受ける前に範囲外に逃げることも出来ただろうに。
ほんの一分にも満たない程度の短いぶつかり合いだったが、多少なり楽しめたらしい。
短期決戦で済んだのは安心だ。長引けば長引くほどレヴィアを宥めるのは面倒になるし。
「……やるな。どうやらオレたちの負けらしい」
『チッ、今の一撃は決まったと思ったんだけどな』
『戦場の壊し方一つにも美学があるわ。力の使い方と速度さえ身につければ、もう少しマシになるわね』
珍しい。夏だというのに雪でも降るのだろうか。レヴィアが戦った相手に助言をするなんて。
それだけオモテの住民でありながら、自分を楽しませた彼らを評価したということか。
槍を引き戻し、罅だらけになった戦場の表面に水のカーペットを敷いて、その場から去っていくレヴィア。
あれを元に戻すのは手間だろうな。当事者じゃなくて良かった。
たった一分で次の戦いもままならないほど、ステージをグシャグシャにした張本人には、その場を直す意思も力もない。
言うなれば性質の悪い天災である。電脳世界じゃなかったら今頃この船は海の藻屑となっていたところだ。
「やっぱりいるんじゃねえか、とんでもねえ戦士が。――他には? 同じくらい強いヤツ、乗ってないのか!?」
乗っていて堪るか。今ので彼は心が折れないどころか、余計闘争心に火がついたらしい。
……力押しなところはあるが、戦略眼がない訳ではなかった。
攻撃を利用した反撃をされれば、即座にそれをやり返す。勝負勘も優れているのだろう。
光少年同様、天才肌なタイプなのかもしれない。
「……レヴィアの自由はともかく。あてもなく探し回っていても仕方ありません。パーティまで部屋で待機です、エール」
「分かりました」
とにかく、手がかりらしい手がかりはなし。
例の不審人物もあれ以降見つからず、この後も適当に探し回ったところで何か得られるとも思えない。
プライド様の判断により、調査は一度お開きとなった。
あてがわれた客室に戻り、椅子に腰かける。
パーティまではまだまだ時間がある。空いたこの時間は、外装の調整にでも使おうか。
そう思いつつ、パソコンに向かえば、先程好き放題していた居候の姿があった。
『あら、戻ってきたのね』
「そっちこそ。随分楽しそうだったじゃないか」
『見てたの? ま、いいわ。これ、直してちょうだい』
目が合って早々、レヴィアはこちらに向けて両手を突き出してきた。
……なんとまあ。その細い腕には薄らと罅が走っている。
先程の戦闘の影響だろう。
トマホークマンの攻撃をあの至近距離で対処したのだ。流石に無傷とはいかなかったようだ。
「そこまでの相手だったのか?」
『
「信頼があるようで何よりだよ」
仕方ない。このくらいの傷なら、大した手間でもない。
どうせ時間も余っていたんだし。これも居候の世話の内だ。
『ああいう馬鹿力に特化しているタイプ、意外とウラでは見ないわね』
「それだけで生き残れるような世界でもないからね――とはいえ、私ももしかすると、初めて見たかもしれないな。キミの膂力を超えていると確信できるナビは」
レヴィアはその細身に見合わず、ウラでも屈指の力押しを可能とするナビである。
単純な殴り合いはさほどレヴィアの好みではないとはいえ、それをさせれば右に出る者は殆どいない。
少なくとも、オモテのナビでは見たことがなかった。
トマホークマンは膂力という一点において、レヴィアを凌駕している。
私の中での攻撃力に対するイメージがこの日、多少なり塗り替わったのは間違いなかった。
「さて、終わったよ」
『そう。――うん、問題ないわ』
フルエネルギーの使用に併せた簡単なメンテナンスで十分に修復は終わる。
しかし……いつも単独で行動しているのにサブチップの一つも持たないのは如何なものか。
フォルダにリカバリーチップを多めに詰め込もうとすれば文句を言うし。
レヴィアのスタイルは彼女以外だったら確実にウラでは通用するとは思えないもの。
戦闘時の立ち回りに影響するから、リカバリーチップについては仕方ないとしても、普段からフルエネルギーの一つや二つ、持っていてほしいものなのだが。
勝手に私のパソコンを占領していただけの頃とは違って、今は何かあればジャンクマンやアイリスも心配するし。
『ああ、エール。これ渡しておくわ』
修復された腕の具合を少しの間確かめてから、レヴィアは唐突に何かを放り投げた。
――クレジットである。それも、時々持ってくるゲリラライブに勝るとも劣らない金額の。
「……どうしたんだ、それ」
『ここ、カジノがあったのよ。ああいうのも偶には良いわね』
「……別に構わないが、負けて帰ってくるのはやめてくれ。あと、二人を連れていくのは禁止だ」
『分かってるわよ。それに、負けるわけないじゃないの。まともに遊べる相手なんて乗ってないわ、ここ』
……一応、ネビュラが乗り込んでいるという船である筈なのだが。
どうやらレヴィアは一人だけ、普段とは違う環境を満喫しているようだった。
エールに協力を頼まれたので船に同乗
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暇だったので船内のエリアを歩き回る
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カジノを見つけて持ち前の勝負勘と観察眼で無双する
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飽きたので徘徊を再開、フリーバトルを見つけたので乱入
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自分を超える攻撃力持ちを前にちょっと面白くなって接近戦で応じる
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ちょっとダメージ受けたので戻って家主に回復要請←今ここ