バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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オリキャラというべきなのかどうなのか非常に微妙なやつ。


対ゴスペル戦線-2 【本】

 

 

 光少年から承諾を得て、通話を切る。

 まったく予想外の再会となるが、そういうこともあるか。

 さて、約束を取り付けて自分がのろのろと用意する訳にもいくまい。

 という訳ですぐにヤツにメールを出し、準備を整える。

 

『エール、さっきの子は?』

「どうやら今回の事件を解決すべく奔走しているようでね。それなら私にも都合がいい」

『そうじゃなくて。さっきの子と何処で知り合ったの? オフィシャルとやらの人間には見えなかったけど』

 

 ……面倒臭い。

 

「……この前の出先だよ。子供ながら優秀なネットバトラーだ」

『ふぅん。大事な用事、貴女の国や王女様の未来を左右するほどの用事、ね。そんな用事でどうしてあんな子供と知り合えるのかしら』

「彼もオフィシャルの会議に呼ばれていたのさ。それで、何か気に入らないことが?」

『別に』

 

 何なんだ一体。今の説明で納得したという訳ではなさそうだが。

 追及しても間違いなく厄介なことになるため、何も言わないでおく。

 レヴィアと話している間に、ヤツからメールが返ってきていた。

 うん、相変わらずメールから死ぬほど面倒だという感情が滲んでいるな。

 とはいえこれで護衛は取り付けた。正規の依頼ならまだしも、ウラの用事にオフィシャルやらクリームランドの護衛を用意する訳にもいかない。

 

「キミも行くか? 最後まで付き合ってもらうことになるが、これだけの厄介ごとだ。面白い出来事が無いとも言い切れないが」

『いいわよ』

 

 ――む?

 

『貴女が暇にならないと満足に(うた)えないでしょう? たまには貴女のために働いてあげてもいいんじゃない?』

「…………」

『何よ』

「キミが素直に応じるというのが意外だ」

『刺されたい?』

 

 まさか、と軽く手を挙げて降参を示す。

 こんなんと戦ったら結果など目に見えている。というかそんなことしている暇などないし。

 これから一仕事あるのだ。余計なことで死にかける訳にもいかない。

 

『まったく。とっとと支度をしなさい』

「了解だよ」

 

 ヤツのことだ。もうホームページのリンクの前にやってきているだろう。

 あれを待たせることになんら負い目はないが、光少年とロックマンを待たせる訳にもいくまい。

 手早く準備を整え、PETのプログラムを実行する。

 パルストランスミッション――さあ、インターネット中に蔓延したウイルス(バグ)共を切除する時間だ。

 

 

 ウラインターネット。

 とある目的のために外から隔離されたインターネットだが、そんな発端を知る者など殆どいない。

 今はオモテ側のインターネットで扱えないアングラなネタに満ち、犯罪者が大手を振って歩くエリアとなっている。

 そんな訳で、まともな常識のある人間ならこんな場所を好き好んで歩こうとしない。

 ここにいる者は一人ひとりが何処かしら外れた者なのだ。

 

 目の前を目つきの悪いナビが、チラチラとこっちを見ながら通り過ぎていく。

 少しでも私たちの目に入らないように頭を低くして早足で去っていくナビもいれば、自分を強く見せようと精一杯の凄みを出そうとする可愛らしいナビもいる。

 ウラのルールは力こそ全て。力の無い者は追放すらされずただデリートを待つのみ。

 そのルールに素直に従うならば、私も狩られる側だ。

 だが、ウラで通用する“力”というのも多々ある訳で。

 

『些か注目を浴びすぎだと思うのだが』

『そりゃあそうなるだろうよ。普通の連中が見たら何事かと思うわ、こんなの』

 

 力がモノを言うウラの中で、唯一ある程度の安全が保障される場所。

 それがここ、ウラスクエアである。

 その一角でロックマンを待つ私、プラス二名。

 一人は今回珍しく同行してきたレヴィア。集まる視線に鬱陶しそうな表情を浮かべつつ得物を弄っている。

 そしてもう一人。此方は私がウラを歩く際の護衛役――いわば用心棒である。

 紫色の、襤褸切れのようなマントで体を隠した、浮遊するナビ。

 

『オレとアンタだけならまだしも、レヴィアが一緒となるとな』

『何よ。この不快な視線は私のせいだってこと?』

『ウラでの自分の人気を自覚した方が良いぜ。姿くらいは隠した方が良いと思うが』

『やましいことがないのにこそこそする意味が分からないわよ。ああ、いっそ全員の首を飛ばしてしまおうかしら。そうすれば視線だけはなくなるでしょう』

『やめとけ。それこそゲリラライブとでも思われる』

 

 一応はウラの人気アイドルであるレヴィアに対しても気にせず軽口を飛ばすコイツもまた、色々な意味でウラでは知れた存在ではある。

 レヴィア、コイツ、私。一人いればウラの大抵の場所の通行手形になる。

 ライブの時も集まる面々ではあるが、そうでない時に三人寄れば馬鹿でも相当の緊急事態と分かるだろう。

 要するに、『大事な用事があるから近付くな』という威圧感を辺りに出しているのである。

 

 まあ、緊急事態というのは間違っていない。

 氷型ウイルスの影響はウラにまで広がっていたのだ。

 光少年が近場のインターネットエリアからここまで来ることが出来るか不明だが、無理だった時はまた連絡が来るだろう。そうしたら適当に迎えに行ってやればいい。

 

『ところでバグ医者。あの氷、どうにか出来るアテはあるのか?』

『さて。これから合流する者が依頼者(クライアント)となるか協力者(パトロン)となるかによる。既に動き始めているというなら、多少期待できるのだが』

 

 何せ、光氏のご子息だ。彼がまだ対処に動いていないとは思えないし、何か有効な情報なりを持っていてもおかしくない。

 そうでなければ、一依頼者として扱うまでだ。

 

『噂をすればだ。やってきたぞ』

 

 外からのリンクから駆け込んでくる青い少年ナビ。

 彼は辺りを見渡しながら歩き回り、此方と目が合うと――委縮したように一歩下がった。

 

『怯えられてるぞ、お前』

『間違いなく私のせいではない』

 

 仕方ないのでこちらから歩み寄る。

 周囲のナビ共のざわつきが鬱陶しい。

 やはりレヴィアを連れてきたのは間違いだったか。もしくは、もっと注目を浴びにくい場所にするべきだったかもしれない。

 

『やあ、ロックマン。光少年は相変わらずだったが、キミも元気だったかい?』

『う、うん。エールさんは?』

『最高以上だ。長くは持たないから出来るだけ迅速に片付けようじゃないか』

 

 人がこの状態になる方法は簡単である。

 単に睡眠を削り、やるべきことに集中すればいい。

 暫くの間は作業効率が大いに上がる。自分が何でも出来るのではと錯覚するような自信と高揚感は如何ともしがたい。

 ちなみに良い子にも悪い子にもおすすめはしない。というかするな。

 

『……おい。協力者ってコイツか? ガキじゃねえか』

『そうとも。侮らない方がいいぞ。オモテのナビにしては図抜けていると思っている』

 

 ブルースと協力したとはいえ、私とナイトマンを破ったその実力は確か。

 しかも、ブルースに頼り切りではないというのは大きな評価点だ。WWWの野望を打ち砕いたというのも十分頷ける。

 

『エールさん、この二人は?』

『私の護衛だ。こっちはレヴィア。そしてこっちが――キミ、今なんて名乗ってるんだ?』

 

 そういえば、コイツの今の名前聞いていなかった。

 コイツは名乗る名前を度々変化させる。共通する一つの名前は持っているのだが、それを名乗ろうとはしないし、あまり呼ばれることも好まない。

 いつもキミと呼んでいるから今の名前とかまったく気にしていなかった。

 こういう紹介する時に悪影響が出るな。

 

『そういうところだぞオマエ……。オレはバラッドだ。そう呼んでくれ』

『う、うん。よろしく、バラッド』

『まあ、ウラを出歩くようなヤツじゃねえだろうし、あまりよろしくする機会もねえだろうけどよ。一応オレは――』

『ウラで使い走りをするなら右に出る者はいない。何でも頼みたまえ』

『オレを使い走りにするようなヤツ、オマエしかいねえよ』

 

 なんだ、そうなのか。ウラの親近感とかに繋がると思うのに。

 ウラで誰かに親近感が沸いたところで気色悪い以外の何物でもないが、たまにはそういう空気があっても面白いと思う。

 そんなことを考えていると、レヴィアがロックマンに歩み寄る。

 

『エール。この子が、さっき話してた子?』

『ああ、そうだ。ロックマンという。ひとまず喧嘩は無しで頼むよ』

『しないわよ。後々、面白いことがあるんでしょう?』

『それは保証しないが』

 

 ……妙な興味を持たれなければいいが。

 如何にロックマンとはいえ、レヴィアと戦えるかといえば……少々、疑問が残る。

 決して勝機が無い訳ではないだろう。だが、レヴィアは手加減など出来ない。いざということがあれば困る。

 

『紹介はこのくらいで良いだろう。互いに趣味を言い合ってる余裕はない。さて、ロックマン、氷型ウイルスを溶かすためのワクチンだが、一から作るにはアレの組成上時間が掛かる。何かしら足掛かりが欲しいのだが、何か持っていないか?』

『それなら、これはどうかな。赤い氷を溶かすためのワクチンだけは、もう持ってるんだ』

 

 ――なんと。先を越されていたか。

 材料になるようなものの一つでもあればと思っていたが、それ以上だ。

 ロックマンに渡されたワクチンプログラムを解析する。各色の氷型ウイルスは共通のワクチンでは溶かすことが出来ない。

 だが、既に一つに対応したものを先行で作ってあったのであれば、少々反則が出来る。

 ふむ。破片のデータから氷型ウイルスのセキュリティを相殺し、内部に解凍コマンドを打ち込む――速度を重視した構築だ。

 確実性がある代わりに、素材を手に入れる難易度が度外視されている。

 恐らくこれを作るのに使った、赤い氷の欠片は偶然手に入ったのだろう。だが、良い考えだ。これならば作るのにそう時間は掛からない。

 

『見事。これで行こう』

『何か分かったの?』

『ああ、これを基に全ての氷を溶かすワクチンを作ろう。キミ、これ増やして』

 

 道は開けた。確信する、氷の問題自体を解決するだけならばそう時間は掛からない。

 バラッドにワクチンプログラムを手渡す。おい、なんだその微妙な表情。

 

『コピーくらい、オマエでも出来るだろ』

『時短だ時短。状況を考えたまえよ、キミ』

 

 役割というものがある。この場でこの作業が一番向いているのがコイツなのだ。

 まずはワクチンのコピー。これ一つを持って各国のインターネットを走り回るのはあまりにも馬鹿馬鹿しい。

 そしてコピーと並行して、他の氷を対処する。

 

『では出発だ。残る三色もその辺にあるだろう。構築データを採取してしまおう』

 

 世界を崩壊させるには、些か遠回りかつ行動が悪過ぎたな、ゴスペル。

 次があるならもっとシンプルに行くがいい。ウラの連中がオモテで本気を出したくらいでどうにかなってしまうなら、その作戦は欠陥というヤツだ。




■レヴィアさんがログインしました。
■バラッドさんがログインしました。
■エールさんほか三人が対ゴスペル戦線に参加しました。


・バラッド
エール御用達のウラ専門用心棒兼使い走り。二話の日記でウラ経由の依頼の際に言及していた『ヤツ』はこの人。
名前の元ネタが同じ『バラード』がロックマンシリーズに登場するがあちらとは無関係。
外見は3の終盤で何人か見ることになるマントを纏ったあいつら。
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