バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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それぞれの信念-3 【本】

 

 

「……プライド様。理解が追いついていないのですが、つまり、かれらが?」

「そういうことなのでしょう。わたくしも、かれらだと分かっていた訳ではありません。――どうしてこのシステムにプラグインをしているのですか?」

「……」

 

 彼がブースターシステムについて何も関与していなかったとしても、この状況で操舵室のシステムにナビを送り込んでいるというのはおかしい。

 たとえば、余興のためのゲストという立場が仮初のもので、操舵そのものをかれらが担っていた、などという真実でもなければ、紛うことなき不審者である。

 

「……ここにプラグインしていたことを隠していた理由はあるよ。ただ、ブースターシステムってのは知らないぜ。そいつはパーティ会場にあったプログラムなんだろ? 盗りようがねえって」

 

 仕方ないとばかりに、ディンゴ少年は打ち明ける。

 彼が何をしようとしていたかはともかく、今重要なのはブースターシステムの在り処。

 それに関しては何も知らないと言う彼だが、プライド様は彼への疑いをより強めているようだった。

 私もまた疑問だった。会場の警備を行っていた者が言うには、犯行前に会場に近付いていた者はいない。ディンゴ少年も例外ではないだろう。

 ブースターシステムのあった展示台は船内のネットワークに繋がっていないだろうから、外部からアクセスすることは不可能だ。

 

「そうでしょうか。今や無線形式のプラグインは十分普及しています。あなたのPETもそうですね?」

「いや、そうだけどよ……甲板からパーティ会場までは繋げられねえよな? よく知らねえけど、プラグインの時の赤外線ってのは、こう、PETから真っ直ぐ飛んでいくんだろ?」

「赤外線――そうか」

 

 そこまで聞いて、頭の中でピースとピースがぴたりと合わせられる。

 PETと各種機器とを繋ぐ方法は、大きく分けて有線形式か無線形式かの二つ。

 ほんの少し前までは、無線形式でのプラグインなど、専用のプラグを利用することが一般的だった。いつぞやのワイヤレスプラグである。

 とはいえ、無線形式が技術的に不可能だった訳ではない。私のPETもそうだし、IPCのPETも既に無線プラグインが当たり前だ。

 

 無線形式におけるプラグインは、赤外線で転送先とのパスを形成してから実行する。

 当然ながら、PETから飛ばせる赤外線は直線状だ。細かく軌道を制御できる技術は現状存在しない。

 ただし――だからといって必ずしも、直線状に存在しない機器へのプラグインが叶わないのかと言われれば、それは否だ。

 

「――鏡」

「正解です、エール。クイーン・チェーコ号……特徴は豪奢な装飾と、各所に設置された鏡が織り成す幻想的な内装。通路は機関室方面に向けて、大きな鏡が点在しています」

 

 思い返せばパーティ会場にも、四方どころか後方やらステージの上やらあちこちに鏡があった。

 通路も同様だ。正直、あまりにも落ち着かず、趣味の悪い空間だとしか思っていなかったのだが、厄介なことにあの鏡を使われていたということか。

 赤外線を鏡に反射させて軌道を変え、さらにその先でも反射させ……綿密に角度を調整すれば、それを繰り返すことで、或いは会場の展示台にも届くかもしれない。

 当然、念を入れた事前調査が必要だ。

 だから不可能ではないという程度。実際に実行しようとは思えない、大道芸の域だ。

 ――それを、ディンゴ少年が?

 

「普通、機関室方面からこちらに来るのに、会場前を通る必要がありますが……この部屋のすぐ前にある通路は機関室と直通。機関室方面からプラグインを行い、会場前を通らずに甲板に戻ってくることが可能です。加えて――」

 

 プライド様はPETに目を向ける。

 トマホークマンが立ち塞がるその先の通路は、船内全域を管理するメインシステムが存在しているだろう。

 

コントロールパネル(そこ)を掌握しておけば、時間を合わせて会場の照明を落とせるでしょう。その後、再びナビをプラグインさせた理由は分かりかねますが。まさかとは思いますが、船を乗っ取るつもりでは?」

「……なあ。鏡の()()なんて、どうして気付けたんだ? 普通分からないだろ」

 

 暫く苦い顔をしていたディンゴ少年は、悔しげにプライド様に問いかけた。

 誤魔化せる材料がなくなったらしい。それでも、自分の行動のどこに瑕疵があったのか、気になるかのようだった。

 

「PETの無線通信技術を使い、どのような応用が出来るのか、一通りは頭に入っているつもりです。もちろん、鏡の反射についても」

 

 ――そういうことか。

 パルストランスミッションなどという常軌を逸した技術の安全を、可能な限り保障すること。

 それに関して、プライド様の働きかけがあったのは、知っていた。成功率九十九パーセント未満の状態における、エールオールの実行の際、プライド様に通知が飛ぶようになっているのも、その一端である。

 いつだったか。この専用PETの試験に、プライド様と共に立ち会った時、成功率の確認に鏡を用いた反射も行っていたような。

 ……そうなると、私がこの仕掛けに気付けなかったことが複雑だが。

 

「どうしてこのようなことを? 事件を起こしてでも、ブースターシステムを手に入れたかったのですか?」

「……そんな訳あるかよ」

 

 拳を握り込んだディンゴ少年が絞り出した声には、煮えるような怒りがあった。

 手の届かないプログラムが欲しかった……という訳ではないのか。

 確かに、フリーバトルの際、高級な製品に頼らない信条を大声で叫んでいたが、だったら何故……?

 

「ブースターシステムは……ビッグカンパニーはオレの敵だ! あいつらの下らない商売で、オレの村は潰されたんだ!」

「――あなたの、村が?」

「そうだ! プログラムだけ作って売ってりゃあいいのに、連中はリゾート開発に手を出した! 元から住んでいたオレたちの意見なんて聞く耳持たねえ! そんな横暴、許されてたまるか!」

 

 ――ビッグカンパニーがリゾート開発にも精を上げているという話はよく聞く。

 プログラムのみならず、幅広い分野に手を出すものだと感心していたが……問題はあった訳だ。

 リゾート開発には当然、土地が必要となる。その土地は既に誰かが住んでいた場所であり、立ち退きが発生したのだろう。

 立ち退きは両者合意とはならず強制的なもので、企業とかれらには確執が生まれた。

 ビッグカンパニーがそれを放置した結果がこれか。まさかここまで大胆な手段を講じるとは。

 

「金持ちは嫌いだ。弱いヤツ、貧しいヤツの気持ちなんて考えない。だけど、こうしてやれば耳を貸さずにはいられないだろ!」

 

 その時の、プライド様の僅かな感情の動きは、少し前の自分に重なるところがあったからか。

 だが――それはそれ。今相対している状況が止めなければならないものであるのは明白だ。

 

「……あなたの怒り、わたくしには分からないでもありません。虐げられた痛み、手段を選べない息苦しさは、相当なものだったでしょう」

「知ったような口を……! 言っておくが、止めたいってんならトマホークマンを倒すしかないぜ! この船をどうするかはオレ次第なんだからな!」

「いいでしょう。エール、手は出さなくて結構です」

「いえ、ですが……」

「構いません。場合によっては、貴女にはこの後任せたい仕事がありますので」

 

 任せたい仕事……? よく分からないが、プライド様には何やら考えがあるらしい。

 しかし、そうなるとディンゴ少年とトマホークマンを止める役割を、プライド様とナイトマンが引き受けるということ。

 ――いや、大丈夫だろう。プライド様の実力を誰より信じているのは他でもない、私である。

 

「ヘッ! いい度胸だ! あんたはこの船に乗ってる他の金持ち連中とは違うんだろうな!」

「戦えば自ずと知れることでしょう。いきますよ、ナイトマン」

『御意のままに。トマホークマンといったな。加減はせぬ、覚悟いたせ』

『こっちの台詞だぜ! オレのトマホークの錆びにしてやるっ!』

 

 ……見守るしかないか。

 ナイトマンとトマホークマン、どちらも別の戦法に特化したナビである。

 防御と攻撃の二極。果たしてどちらが上回るか。

 

「やるぜトマホークマン! バトルオペレーション、セット!」

『イン!』

 

 ナイトマンは鈍重なナビであると、外見から悟ったのだろう。

 右腕の斧を振り上げたトマホークマンは、先制攻撃のために駆けだす。

 無論、その動きは正しい。ナイトマンはコンセプトからして、相手の先を行くことが難しいナビだ。

 寧ろ警戒して攻めることを躊躇えば、プライド様は淡々と陣地を構築していくのみ。

 よほど強力なナビか、特殊な戦法を有したナビでもない限りは、これが唯一と言っても良い勝ち筋となるのだ。

 

「――――」

 

 当然それはプライド様も知っている。ナイトマンと戦うナビが取る戦法は、八割がたがこうした先制攻撃からの速攻だ。

 ゆえに、ナイトマンの戦いは初撃を切り抜けるところから始まる。

 

『うおっ!?』

 

 プライド様が選んだチップは『インビジブル』。珍しいな――ナイトマンに回避を行わせるとは。

 横に薙がれた斧は思い切り空振りする。

 斧に引っ張られてたたらを踏むトマホークマン。その隙を逃さず、鉄球は振るわれた。

 

「危ねえっ!」

 

 間一髪、『パネルスチール』による短距離移動が間に合い、後退したトマホークマンの眼前を鉄球は通り過ぎていく。

 しかしそれだけでは終わらない。

 ナイトマンは空振りになった鉄球に重心を持っていかれることのない、重量級のナビ。

 加えて、そもそも回避されることを予想していたのならば、僅かとも体勢を崩すことなどない。

 振るわれた鉄球は鎖によってナイトマンの背後を通って一周し、再度トマホークマンに襲い掛かる。

 

「迎え撃て、トマホークマン!」

『上等ォ!』

 

 今度は回避をしない。迫る鉄球に対し、怖気づくことなくトマホークマンは斧を振るう。

 ガァンッ、と重い音が響いた。

 ロイヤルレッキングボールはナイトマンの基本武装にして必殺技だ。生半可な守りは通用せず、盾もろとも相手を粉砕する威力を持っている。

 

『……なんと。真っ向から弾かれるとは』

『硬ェ……軽く腕が痺れたぜ。これで罅一つ入らないとか、とんでもない頑丈さだな』

 

 対して、攻撃特化のトマホークマンの力も先程のフリーバトルで垣間見ていたが――それでも少なからず驚いた。

 まさかナイトマンの鉄球を真っ向から迎え撃ち、弾くことが出来るとは。

 

「なるほど、口だけの甘っちょろいカスタマイズじゃあない訳だ」

「そちらこそ、大したパワーですね。ナイトマンといえど、油断は出来ないようです」

 

 構え直したトマホークマン。

 今のぶつかり合いでは、大したダメージにはならなかったらしい。

 攻撃力だけではなく、スタミナもそれなりのものを持っているようだ。

 

「だけどまあ、デカブツ相手なら有利なのは身軽なこっちだ。押し切るぜ、トマホークマン!」

『おう!』

 

 ナイトマンほどの巨体の相手と戦うのは、かれらも初めてかもしれない。

 しかし、それに怖じることなく、トマホークマンは再び斧を振り上げて突っ込んでいく。

 さて――その恐れ知らずな戦闘スタイルが、プライド様にどこまで通用するだろうか。




ナイトマンVSトマホークマン。
ジャンクマンまで参戦すると対ネビュラでもないのにリンチになりそうなのでプライド様にお任せします。
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